第4章-第46話 くせもの
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今回のテロ事件は、ある宗教の過激派組織に繋がる人間の犯行だった。首相の話では、ここ数日に渡ってイギリス国内で組織の犯行と思われる事件が多発していたそうだ。
そのどれもが未解決で俺が捕まえた犯人の1人を自白させたことでその組織の犯行であることが解かり、さらにこれから起すはずのテロ事件も未然に防げたようだ。
元々、その組織は、イギリス国内の若者を勧誘するのを目的に作られたイギリス国内の組織だったが、9・11事件の際にその勧誘行為が国賊行為として罪に問われたという。
イギリスも法治国家であるため、そういった人間を死刑にするわけにもいかず、数年の刑務所生活に対する逆恨みにより、本来、テロを起すはずの無い末端組織の人間が起した犯行だったため、調べが遅れたらしい。
バンチ・ル・シャルリルというのは、イギリスの有名な風刺動画をネット配信している新聞社で、犯人グループの信じる宗教指導者を題材にした風刺動画を配信しては、過激派組織から度々脅迫を受けていたそうだ。
その新聞社の編集長を含む動画配信の担当者があのカフェで毎週、あの時間に打ち合わせを行うことは、定例だったようだ。
「僕の頼みを聞いてくれないか?」
身元保証人がアメリカ大統領だということでわざわざ、英国首相が出向いて説明してくださったようなのだが、隣に居るケント王子が居る意味が解からなかったがなにかしてほしいことがあって、ここに現れたようだ。
ケント・オブ・ウェールズ王子は、皇太子と亡くなった皇太子妃の三男だ。英国王室で適齢期の独身男性であり、経済通で英国王室内では、個人資産が女王に継ぐ第2位ということで若い女性から絶大な人気があるにも関わらず、女性関係の噂は一切流れてこないという女性スキャンダルの多い英国王室では珍しい人物だ。
「私にできることであれば。」
「僕の持っているラインズ・テレコムの株式を買い取ってくれないか?」
ケント王子が所有している株式は、全株式の10%近くになるという。今回の事件でラインズ・テレコムの懐刀のアフメド・アレンが拘束されて居り、今は報道されていないがアフメドがあの宗教の信者ということもあり、関与を疑われているらしい。
報道されるのも時間の問題でそうなれば、ラインズ・テレコムに大打撃を与えるのが必死らしい。これが発表される前に全ての株式を手放したいということのようだ。
俺は、その場で断りを入れ、賢次さんに連絡を入れ、賢次さんが居る場所に車を回してもらう。賢次さんは、事件を受け、滞在しているホテルに戻っているという。
・・・・・・・
結局、株式は個人取引でZiphoneグループが買い取った。また、アフメドが拘束されたことの報道が始まると株価の下げが始まった。当分は、株式の市場買付を行い、纏まった量を確保した上で、TOB提案する流れが方針となった。
同時に積極的にロシア・日本間の海底ケーブルによるラインズ・テレコムとの協業を進めることになった。
Ziphoneグループ所有株式が20%を越えたところで、アフメドの拘束が解除された。俺が市警で証言したことが有効となり、疑惑が晴れたらしい。ゴンCEOは、事前に俺にもたらされたそのタイミングの直前でZiphoneグループがラインズ・テレコムを買収、傘下に収めることを発表した。
ラインズ・テレコムへの救済に見られたことで、イギリス国内は元よりEU全域でも好意的に取られているようだ。
そして、アフメドの疑惑が晴れた。
「やはり、君が来たか。」
どうやら、アフメドの方も疑惑を晴らしてくれた俺のことを調べていたようだ。俺と賢次さんが正式にアポイントメントを取り、ラインズ・テレコム本社に乗り込むとアフメド・アレンが出迎えてくれた。
「先日は、どうもすみませんでした。」
「いやいや、命を救って頂いたのだ。盗み聞きくらいなんてことないさ。それに海底ケーブルの件は、わざと流した情報だしね。ラインズ・テレコムは何も損していないだろう?」
確かに、Ziphoneグループが伝手を得るために逆に損を被っただけで、ラインズ・テレコム側は得をしている。まあ、テロ事件があったせいで総合的にみるとZiphoneグループ側が得をしているのだが・・・。
どうも、ランチミーティングでは、ああいったラインズ・テレコムが得をするような情報を意図的に流していたようだ。かなり情報収集能力が高い会社でなくては、得られない情報をわざと流すことで、自社の利益にする。なかなかの曲者のようだ。
俺もイギリス政府に伝手を得たうえ、例の防弾チョッキがイギリス特殊部隊SASに試験採用されるなど利益を得ているし。賢次さんなど、ケント王子と直接交流しているようで、ホテルに横付けされた王室専用車を良く見かけるのだ。
「バンチ・ル・シャルリルをどう思う?」
彼に試されているのだろうが。俺が思うままに答えるしかないだろう。
「文化の押し付けだね。文化の違う世界の人間に自文化のユーモアを解かれというのが間違っている。殺されるのは行きすぎでも、悪感情を持たれることを理解できていない。そもそも、言論の自由自体が自国の文化なのだから、それを押し付けるのは、どうかと思う。」
俺は、異世界との文化の圧倒的な違いに晒されているせいもあり、そう答えた。マイヤーがしてくれた某組織を壊滅した行為もこちらの世界の文化から考えると暴挙であるが、異世界からするとあたりまえのことだったりするのだ。
「俺は、君たちの全面的な味方だ。」
どうやら、俺は、正解を引いたようだ。
いつも評価して頂きましてありがとうございます。
ネタがなくなったのでつい時事を使ってしまいました。
もちろんアレンジしていますが・・・。
解かるとは思いますがケント王子は架空の人物です。




