第4章-第45話 そうぐう
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「ほら、いまカフェに入っていった長身の男性がラインズ・テレコムの懐刀と言われるアフメド・アレンと金髪の男性がロシア支社長のウラジミールだ。」
翌日、シティ・オブ・ロンドンの一角に賢次さんの運転する車を止め、あるカフェを覗きこんでいるところだ。
「彼らは、いつもこの時間このカフェでランチミーティングを行っているのだが二人とも数カ国語を操る天才で秘密の議題になると何カ国語かをチャンポンで話すようだ。」
「それで僕たちが観光客のフリをして会話を聞いてくればいいのですね。」
「ああ頼んだよ。」
・・・・・・・
「さつき、俺は中国人のフリをして中国語を喋るから、適当に聞き流してくれ。」
そう言って、店内に入る。どうやら、彼らの座っている席の近くが空いているようだ。カウンターでサンドイッチとカフェオレを買って席に移動する。
このカフェは、無添加を売りにしており、ベジタリアンの多いイギリスらしく野菜だけのサンドイッチや野菜と豆のサンドイッチが多い
俺は、フィッシュフライのサンドイッチとオムレツのサンドイッチだが、さつきは、野菜と豆のサンドイッチにソイカフェを選択したようだ。
「ハオチー!ハオチー!」
俺がサンドイッチを一口齧り、中国語でおいしいと叫ぶ。目の前のさつきは、苦笑している。隣の席の彼らも若干眉を顰めたがそのまま、会話を継続するようだ。
彼らの会話内容は、指輪を『翻』にしてあるので何カ国語でチャンポンしようが関係なく耳に入ってくる。セイヤの召喚魔法に含まれる言語疎通能力だけでは彼らの母国語しかわからない。
それによると、ラインズ・テレコムのロシア支社が苦戦しているらしい。そこでアフメドは、ロシア支社長に対し、ロシア・日本間の海底ケーブルの使用料をなんとか削減できないかという話をしていた。
「ニーハオ。ウォーメンシチョンクォレンマ?」
いきなりである。いきなり、こっちに話しかけてきたのである。中国人かと聞かれているがどう答えようか。まさか中国語も使えるとは・・・。
「ニンハオ。ウォーシチョンクォレン。タシリーベンレン。」
俺は中国人であると答え、さつきは日本人であると答えたら、目を輝かして日本へ行った事があるのか?日本の携帯電話のこととかを矢継ぎ早に質問された。
俺は、中国人らしくドコデモLTEのMVMOを使用していることや長期で使うなら、Ziphoneを使用するだろうと答える。なんといっても、日本の携帯電話会社で唯一iPh○neを正式サポートしていることをあげた。
スティーブンの命が助かったことで水面下で日本の他の携帯電話会社との交渉を進めていたマップルの重役たちは辞めていったため、日本でiPh○neを扱っているのは、Ziphoneたた一社のみとなっているのだ。
それになんといっても婚約者であるさつきの父親がZiphoneで働いていることも告げる。嘘の中に本当をことを織り交ぜて喋ると信憑性があがるのだ。
・・・・・・・
彼らとの会話がひと段落ついたときだった。
『バンチ・ル・シャルリルの編集長は居るか?』
カフェの表のほうで大きな声の怒鳴り声と銃声が聞こえた。俺は、咄嗟に例のパンツにMPを投入すると袋から、オリハルコン製の防弾チョッキとヘルメットをさつきに渡す。
これは、アメリカでコネを作ったFBI関係者に売り込もうと思って持ち歩いているものだ。土台は、さつきの為に作ったフェンシング用の防具を防弾チョッキとヘルメットにアレンジしたものだ。
「動画!」
と前を向いたままでさつきに指示する。とにかく、一部始終を動画に撮っておいて貰うことにする。
銃声のしたほうに顔を向けると覆面をした男たちが乱入してきた。後ろを振り向くと既にアフメドたちは、床に伏せていた。
覆面をした男たちが何かを叫ぶと奥の喫煙ルームに向かって拳銃を乱射している。喫煙ルーム内はガラスで覆われており、次々と中に居る人々が銃弾に倒れていくが、どうしようもない。
さらに覆面の男がこちらに近づいてくる。
『ウインド』
俺は、咄嗟に掴んでいた机を風魔法でその覆面の男にぶつけた。と同時にその男が取り落とした拳銃を拾いあげ、そのまま、覆面の男の両足に打ち込む。
のたうちまわる男の覆面を剥ぎ取るとその男を盾にして、他の男たちに近づいていく。
「チッ。」
他の男たちは、舌打ちすると表に飛び出していく。俺は、盾にしていた男の頭を拳銃で殴りつけ気絶させ、男の胸ポケットから銃弾を回収する。他にも弄ってみたが、手榴弾等は無いらしい。
そのまま、ゆっくりと表に向かって歩いていくと店員が蹲っているのが見えたので、指輪を『癒』にして手をあてる。少し顔色が戻ったところで止める。この店員が脅威の回復力を見せたら、何を言われるかわからないだろう。
とりあえず、すぐ死ぬような状況じゃないことを確認すると、先に逃げ出した男たちの後を追った。
慎重に表に出ると丁度車が急発進するところだった。道路に飛び出すと指輪を『目』に替えて、車のタイヤに向かって拳銃を打ち込む。この距離なら外しはしない。
車のタイヤがバーストしてスピン、駐車中の車にぶつかるようにして停車したようだが、一斉に車の中の男たちが四方に出てきて逃げ始める。なんとか、1人の男の足に銃弾を打ち込めたが、他の男たちは、うまく車の影に隠れてしまったようだ。
俺は、諦めて店内に戻った。
店内では、何処から出したのかさつきがロープで気絶させた男を縛っていた。
俺は、アメリカ大統領のホットラインに一報を流しておき、身元保証もついでに頼んでおいた。後で知ったことだが、英国の首相が「テロ攻撃」であると声明を出した同時刻に非難の声明を発表し、アメリカの情報収集能力の高さが評価されたらしい。
しばらくするとロンドン市警と思われる警察官が現れ、店に居た俺たちを含め、怪我をしていない人間を一時拘束していく。日本でなら考えられないことだが、外国では普通のことだ。次いで救急車も到着し怪我人の搬送を行っているのが見える。
俺は、取調べ室で現場で起こったことをありのままに話した。しばらくすると、慌てたように一人の警察官が入ってきた。
「この方の身元は、確認した。至急拘束を解除しろ。」
「ですが・・・。」
どうも、俺が犯人に抵抗して、拳銃を街中で発射したのが問題になっていたようだ。おそらく、アメリカ政府が身元保証をしてくれたのだろう。程なく拘束が解除されたが、そのまま、別の場所に連れて行かれるようだ。
さつきと2人でロンドン市警の前に横付けされた車に乗り込むよう促される。
「容疑者は先ほど捕まったよ。」
車の中で待っていたのは、英国首相と英国王室のケント王子だった。
いつも評価して頂きましてありがとうございます。
申し訳ありません。海外を舞台にしたところ、思いがけず調査に手間取っておりますのでやはり週1回のペースになりそうです。




