第4章-第41話 こうほうし
お読み頂きましてありがとうございます。
たくさんの方にお待ち頂いていたみたいで恐縮です。
「ありゃ。まあいいか。」
俺が向き直ると幸子さんも気絶していた。それは、そうか。途中で捕まえたとはいえ1メートル以上も突然、空中に吹っ飛ばされたのだ。
俺は幸子さんを起こさないようにその身体を抱きしめる。うん、役得役得。これくらいは、いいだろう。そして、身体が暖まってきたら、流石に疲れていたからか、すぐに寝てしまったようだ。
・・・・・・・
「あれぇ?トム。したよね。私たち。」
朝、起きるといつのまに戻ってきたのか、ソファにさつきが座って寝ていた。ベッドでは、幸子さんが、頭にクエスチョンマークを幾つも浮かべている様子がありありと見えた。昨夜、気絶してしまったことがわかっていないようだ。
「し・て・な・い。」
「えーーーーーー。なんで!」
「寝ている女を襲う趣味は、無い。それに疲れて居たからな。もう1泊するんだからいいだろ。」
幸子さんの叫び声にさつきも起き出してくる。
「そうなの?」
「そうなんだ。と言っても報酬を渡さないわけじゃない。今日1日は、幸子と恋愛モードだ。まあ、覚悟しておいてくれ。」
昨夜、無理矢理、ヤられそうになった仕返しに今日は、空気のごとく扱ってやるという悪戯心なのだ。普段は、どんな場合でもさつきの優先順位は、幸子さんより上だ。
始めは同行することを遠慮するふうだったさつきだが、それでは、意味が全くない。強引に同行させた上で、わざと幸子さんといちゃいちゃしてみせたのだが・・・・。
「やっぱり、ダメ!私、頭を冷やしてくる。」
「おう。明日の朝には、ホテルに戻ってこいよ!」
たった半日で音を上げたらしい。一応、嫌だという感情があることに安心した。
・・・・・・・
翌日、日本に戻ってくると幸子の様子がおかしい。ニヤニヤしっぱなしなのだ。これは、ヤバイんじゃないか。戻ってくる前にしっかりと口止めをしたのだが、これでは、まるわかりでは、ないだろうか。
そこで、俺は、ちょうど出来上がってきていた広報誌のサンプルを幸子に突きつける。
「こ・これは・・・。」
相馬さん・・・やってくれるよ。本当に。一応、幸子の顔には、モザイクが掛けられていたがあの瞬間がバッチリと広報誌のトップに載せられていたのだ。
一瞬にして、幸子のニヤニヤしていた顔が曇る。いや、引き攣っているようだ。しかも、相馬さんは、既に産休に入っているので、怒りの矛先をどこに持っていっていいかわからないみたいなのだ。
「その説は、ご面倒をお掛けして・・・。」
しかも、俺の前から消えたそうにもじもじしている。これで当分は、持つだろう。そのうちにあのニヤニヤ笑いが消えてくれるのを祈るばかりだ。
・・・・・・・
CEOに呼び出されドキッとする。流石にもう幸子のことがバレたわけでは、ないだろうが・・・。
「本当に要らぬのか?」
実は、CEOが牛丼のすきすきの株式の譲渡を申し出てきたのだ。これを了承してしまうとFC本部が子会社になるという逆転現象が発生する。
賃金体系の違いを利用して派遣というビジネスモデルを構築しているのに、FC本部の親会社ということで賃金体系の変更を余儀なくされ、ビジネスモデルが成立しなくなることが問題になるのだ。
一応、株式は俺個人の持ち物だから山田ホールデングスの子会社にしないこともできるが、従業員からの圧力という点では、変わりそうにない。
決して山田ホールディングスという会社を大きくしないつもりは、無い。幸いにしてバーチャルリアリティ事業や宇宙エレベーター事業という大きな柱も育ちつつあるのだ。
これらは、全くの別分野だからこそ、子会社の賃金単価が親会社のそれを超えても、それほど問題にはならないのだが、同業種の場合はそうはいかないに違いはない。
「やはり、今期の決算が赤字なのが不味いですか?ファンドなどに売られるよりは、俺が引き取るほうがいいのですけど。」
営業利益は、辛うじて黒字を確保できているのだが、設備投資や従業員の早期退職等で決算は赤字に転落しているのだ。それも、今期かぎりなのだが・・・。
「いや、そうではないがの。決算の株式総会では、お主を取締役に据えたいと思うておるのじゃよ。利害関係として少しスッキリしておこうと思ってな。では、予定通りTOBを行うとするか。」
「そうですね。そのほうがいいと思います。手元現金があるほうがいいですしね。」
いつも評価して頂きましてありがとうございます。
再開直後にこんなふうになって大変嬉しいです。
多くの方に読んで頂ける幸せに打ち震えています。
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