第3章-第37話 けっか
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「お館さま、もうしわけないが、燃えている木々は、切り倒させてもらう。よろしいな。」
このころになるとこの屋敷の中にも、何かが燃えている異臭が漂ってきている。
「はい。わかりました。よろしくお願いします。」
俺は、『移動』で表玄関まで戻る。
「なにがあったのですか?この異臭は?」
車のところで待機していたさつきに問われるが時間が勿体無い。
「火事だ。俺は様子をみてくるから、さつきは、避難誘導を!」
「トム!」
「大丈夫だ!火耐性の指輪もある。この程度の火事ならなんでもないさ。人命優先だ。状況は幸子と洋一に聞け!早く!」
それでも、まだ、躊躇しているさつきに軽くキスをすると耳元で「行ってくる。」と囁いた。
・・・・・・・
道伝いを左回りに走っていく。火事の現場に到着するが、幸い野次馬はいないようだ。これからすることを見られるのは困るからだ。
この臭いを吸わないように風魔法で制御しつつ、火事の現場に進んでいく。意外と熱くない・・・。火耐性の指輪の効果は絶大だ。
俺は空間魔法を使い、火事の現場から、どんどん、燃えている木々を地面ごと切り取っていく。そして、その現場にたどりついた。
「みんな、燃えてしまえ!そして、俺は、当主になるんだ!」
そこでは、嬉々として狂ったようにポリタンクから、灯油らしきものを撒き散らしている副頭取の姿があった。
「前橋晃一!やめろ!」
俺は彼に向かって叫んだ。
「なぜ、おまえが、おまえさえ居なかったら。」
彼が俺に、灯油をかけようと投げてくるが、俺の周囲の風により自分が被ってしまう。そのまま、よろよろとしていると、残り火が・・・。
俺は、思わず目を背ける。
死んだ彼とその場で燃えている木々を全て空間魔法で切り取り、ある海辺に『移動』し、空間魔法の中のものを海中に放り出した。彼の死体だけは、海辺に残した上で、屋敷に戻った。
俺は、念のため、屋敷の周囲から外に向かって『ウォーター』を唱え続けた。
「これでよし。」
「大丈夫か?トム。」
「大丈夫ですか?」
洋一さんとさつきがこちらに向かって走ってくる。
「さつき、他の人は?」
「避難は、完了しています。幸子も一緒です。」
「洋一、探索を!残り火は無いか?」
「・・・ありません!」
「そうか、ようやく、終ったか。さつき、幸子に知らせろ。もう一度、どこかで打ち合わせする。皆に集まってもらえ。」
緊急事態とはいえ、いろいろと能力を見せてしまった。その上、現実には、ありえない事象の数々、どこからか情報は、漏れるだろうが、少しは口裏を合わせて置くべきだろう。
「場所はどうしましょう?」
「近辺のホテルの会議室を確保しろ。」
さすがにこの異臭の残る屋敷は、使えないし。自社ビルも遠すぎる。
・・・・・・・
「お館さま。消防署へは、偶々、伐採した木々の周辺で起きたものだったので、小火で済んだと報告をお願いします。」
「解かりました。早速、連絡してみます。」
「皆様には、今日見たことに関して一切漏らさないようにして頂けますでしょうか?」
「うむ。解かっておる。命の恩人に対して、そんな振る舞いをする奴は、ここには、おらん。な、皆の衆。」
一応、黙っていてくれるようだ。
「それで、あやつはどうした?」
「はい、結局、自分のつけた火に巻かれて・・・。」
「そうか、死んだか。これは、財閥にとって、致命的なスキャンダルになるかもしれんの。」
「いえ、それは・・・。」
俺は、彼の死体を海辺の近辺に放り出してきたことを伝えた。下の土ごと、まるごと移動したから、現場検証をしても燃え尽きたポリタンクしか見つからないだろう。
流石に周辺の土地とその下の土の性質を調べれば、解かるだろうが、推理小説じゃないんだから、そんなことをする人間もいないだろうし、なぜ、そうなったかまでは、解からないに違いない。
なんせ、九州の鹿児島の海辺だったからな。あいつの出身地を調べておいてよかった。あいつは、父親が九州の鹿児島で支店長をしていたときに出来た愛人の子供だった。
結局、子供の出来なかった父親があいつが20歳の時、認知をしたらしい。大学卒業時には、既に頭取の地位にあった父親のコネで入行し、頭角を現したという。
「そうか。そんなところに・・・。それなら、焼身自殺で終るかもしれんの。」
あいつの引き起こしたことで、この財閥の従業員が非難されるのでは、堪ったもんじゃないからな。
・・・・・・・
「それで、あの能力について、聞いても良いか?」
「そうですね。簡単な説明でしたら。」
「あの緑色のシャワーは、なんだ?」
「あれは、周囲の木々に火に耐性をつけることができます。」
「それで、延焼を防げたわけか。」
次は、洋一さんの支援者からも質問が飛んできた。
「洋一くんの探索とは?」
「近辺に居る人、物の状況が解かります。」
全くの秘密と言うわけには、いかないから、聞かれたことだけ簡単に説明していく。
「お主たちは、何者なんじゃ?」
「人間であることは、変わりはないですね。敵対しない人間に対しては、何もしないのでご安心ください。」
まあ、敵対するなら、この能力を使うぞ。と脅しているようにも聞こえるかもしれないが・・・。
「もう、そんなところにしておきなさい。」
「ですが、お館さま・・・。」
「彼は、財閥の次期当主です。こんな心強いことは、ありませんよ。」
「まあ、経営には、ほとんど役に立たないですが・・・。なにか、緊急事態が、発生したときは、必ず、助けに行きますから。」
念のため、この能力を常時、財閥のために使うことを要求されないように、釘を刺しておくこともわすれない。
「そうですな。彼らも不老不死の超人じゃないんだから、なんでもかんでも頼るようなことをしては、いけないでしょうな。わかりました。答えづらい質問に答えて頂きありがとうございました。」
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また、当分は平和な日々が続きます。
しかし、うっかり発言した主人公にとっては・・・(笑)




