第3章-第31話 かいたくみん
お読み頂きましてありがとうございます。
田んぼの連作障害について指摘がありましたので、補足情報を盛り込みました。トムは経営者なので常に長期的スパンで物事をみる癖が付いています。
「アヤ、どうだ。開拓民の募集の具合は?」
「そうですね。第1次募集30000町のうち、直轄地割当分の半分を除いた、15000町なのですが、当初予定していた1戸10町を1戸5町にしてほしいと要望がきております。」
「バカな。田んぼは連作障害が起きやすいから半分を田んぼにもう半分を畑にした場合、1戸あたりの収入が激減してしまうぞ。やつらは、開拓民を飢え死にさせたいのか?」
本来、ニホンで行われている稲作は連作障害がおきにくい。それは、十分に耕せる環境であることが前提なのだ。
だがこの地方は冬の間は雪に閉ざされるため、基本的に耕すことができない。しかもアルメリア神の祝福の職業が農民の彼らは、ニホンの農民に比べ耕す能力は格段に上なのだが、春になってから耕していたのでは、種まきに間に合わない。
ニホンの場合、ハウスなどで事前に種まきを行い、田植え機を使うのが前提だ。異世界では、種を直まきにして、ある程度育ってから水を入れる必要があるのだ。
ろくに耕さないうちに連作を続けていけば必ず連作障害がおきる。
ニホンからトラクターなどを持ち込めばよいかもしれないが、メンテナンスもできないし動力源の石油も無い異世界では、俺が居なくなっても維持管理できるようにしておかなければいけないのだ。
「単純に送り込める農民の数を増やして、斡旋手数料を多く取りたいだけだと思われます。」
「わかった。では、1戸8町にして、直轄地割当とは別の地区に纏めてしまおう。アヤは、すまんがその線で話を進めてくれ、但し、斡旋先の開拓民からの陳情は、斡旋元が纏めて、陛下に報告することを条件にしてくれ。」
直轄地から来る開拓民と斡旋先から来る開拓民では、収入格差が生まれるのは、しかたがないだろう。その矛先が、こちらに向かわなければいいだけだ。とりあえず、8町あれば、1戸の収入として不足するというようなことには、ならないだろう。
但し、長雨などで収量不足になった場合に喰うためにギリギリ収入になると思われるのだが、そこは、我慢してもらうしか無いだろう。
「わかりました。直轄地の割当分は、既に収量不足になりつつあったチチブ村に対する割当を多くとりましたが、他の村人たちが騒ぐようなこともなく、淡々と決まりつつあり、およそ500戸ほどが決っております。」
「そうか、収量不足に陥った場合の免税も3年までと決っているからな。できれば、初年度の免税が適用されず、税金が入れば、2次募集の10000町も着手できるのだがな。今回は、国の収入が上がるから、アルミを持ち込んでも、インフレにならずに済みそうだが、その手段ばかりというわけにもいかないだろうし。」
「せめて、セメントの製造ができれば、トムの負担が減るでしょうに・・・。」
さつきが横から案を出してくれる。たしかにセメントの購入は、ニホンの個人資産を使っているのだが・・・。
「1400度以上の熱が必要な焼入れ工程があるからな。まさか、あのプライドの高い、ドワーフにこんな単純作業をお願いするわけにも行かないだろうしな。」
「・・・そうですわ。人狼の鍛冶職を活用すれば、どうでしょう?」
「うーん・・・・。無理だな。」
「どうしてですか?」
「今、セメントを施工している職人は、高品質なセメントを使っているんだ。いくら安くても低品質なものを使おうとはしないだろう?」
「それもそうですね。」
「それに最終工程の粉砕することができなさそうだ。」
ニホンから粉砕機を購入しても動力源がないのだから、無理だろう。
それにすべてオートメーション化されているニホンのセメントの価格より安いセメントが作れるとは、思えないのだ。
「それよりも、用水路の規格が決ったコンクリートブロックを作らせたほうが、職人の人件費が減るし、工期も短縮できそうだ。」
人狼を開拓の日雇い労働者として受け入れているが、なかなか、使い勝手が悪いのだ。通訳の絶対的な不足が原因だ。その点、工場で単純労働を行わせるのならば、1度教え込めば十分だろう。
「それが、いいですね。」
「そうだな。鍛冶職に型を作らせるのは、結構試行錯誤が必要だろうが。流し込んで、取り出すだけならば、なんとかなるかもしれないな。」
まずは、ニホンで情報収集だな。倒産した事業者から型枠を買い付けるのも手かな。
・・・・・・・
商業都市は、ニホンでいうさくら市に設置した。ここにしたのは、近くを鬼怒川水系の枝川が通っていたことと、温泉が出る場所だということだ。ニホンの場合だと3箇所も源泉の種類が違う温泉が出ており、その中でもニホン3大美肌の湯で有名な温泉がある。
その美肌の湯の源泉が小学校の中庭あたりの地下1300Mにあるという話なので、配管とポンプを用意してきたのだ。しかも、通常の配管では、すぐにボロボロになってしまう塩化物温泉なので、オリハルコンで作成した特別製だ。
まずは、空間魔法を使い、100Mごとに掘り進めていくと調査した通り、1300Mのところで湯気が上がってきた。オリハルコン製の配管を慎重に下に降ろしていき、ポンプにつなぎ汲み上げると無色透明だがぬめっとした感触のお湯が出てきた。
「よし、前評判どおりだ。冬の時期は、使えないだろうがそれ以外の季節なら、露天風呂でもちょうどいい温度だ。」
小学校の中には既に配管を設置しており、専用の内湯もヒノキ製の大きなお風呂を設置してあるのだ。もちろん、温泉が出なかったときを考慮した電気温水器も設置も設置してあるが、これは上がり湯に使えばいいだろう。
露天風呂は、とりあえず、簡単なヒノキ製の風呂を用意したので、それを置いておくだけにする。周囲には、誰もいないのだ。見られる心配もない。
あとで周囲に囲いを設置すればいいだろう。業者に依頼して、あんなふうに、こんなふうにと、夢が広がるなぁ。
「さあ、これで今日は、ゆっくりと温泉に浸かれるぞ。」
小学校の中の一部は、すぐに生活可能なように改造してある。といっても、3LDKを2つと執務室を大きめにとっても、教室3つ分くらいにしかなっていないのだが。
「そうね。たのしみだわ。」
いつも評価をして頂きましてありがとうございます。
温泉を簡単に掘れる能力は、うらやましいですね。




