第3章-第26話 けんせい
お読み頂きましてありがとうございます。
「へえ、だから戻ってきたのね。はいはい、向こうの世界のことは、マイヤーさんさえ了承していれば、口は出さないわ。幸子もここで暮らすのよね。またよろしくね。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「じゃあ、紀子と千代子には、断っておくわね。」
「ええ、どういうことだ?」
突然出た二人の名前に俺は口を挟む。
「もちろん、添い寝と家政婦を頼もうかと、経緯を話したのだけど。あの2人がっかりするわね。」
げげ、幸子2号と3号が控えているのか。紀子には、それっぽいことを言われた気がするが、まさか千代子まで・・・。
「じょうだんだろう・・・?」
「紀子もそうだけど、千代子も乗り気だったわよ。」
「やっぱり、すぐに帰ってきて正解だったわ。もう少しで、居場所が無くなるところだった・・・。」
まあ、たしかにさつきのことだから、1週間後に帰ってくる場合でも、その手配をするかもしれない。そして、幸子が帰ってきたら、修羅場が・・・。
「ソウダネ。ヨカッタ。ヨカッタ。」
一応、そんなことを気取られぬように棒読みで返事をしておく。でも、明日出社したら、怖い気がする。もし、修羅場ったら逃げよう。
・・・・・・・
「「そんなぁ。」」
翌日、Ziphoneに出社し、さつきから幸子が戻って来たことを伝えられた2人は、予想した反応を返してくる。
「なら家政婦は、いいから、添い寝だけでも・・・。」
「いいわけないでしょ。さあ、仕事よ仕事。紀子は、後輩の指導だし、千代子はスケジュール管理。私は、私は、どうしたらいい?」
そういいながら、幸子がしな垂れかかってくる。
「「ずるいー。」」
俺は、幸子の身体を引き離し、手をパンパンと叩く。
「就業時間だ。さあ、戻った戻った。幸子は、牛丼の集計を急いでくれ。俺は、CEOに会いに行ってくる。」
・・・・・・・
「アポイントメントは、取ったのだが会えそうにない。どうやら、奴から敵だと認識されているみたいだな。」
「まあ、俺がCEOと繋がっていることは、調べれば解かることですから。」
「あとは、来月頭の経団連で接触するしかないのじゃが、それでも構わなかったか?」
「ええ、俺が言うよりは、CEOから仰って頂いたほうが、頭から否定は、されないと思いますので・・・。」
「そうか。あと、ワシが支援できることは、無いのか?」
「洋一さんが当主になった後のことなんですが・・・。」
「もちろん、洋一君も支援していくよ。安心していい。それに、富強銀行の融資先も調査を開始しておる。潰れたとしても、即座に対応できるよ。」
「ありがとうございます。」
そうなのだ。今後、画策していくことで万が一、富強銀行が潰れることになった場合に業績は悪くなく、関係の無い融資先が共倒れになる可能性がなきにしもあらず。
そのために、Ziphone傘下の銀行に融資先として問題がないことを事前調査してもらい。即座に代わりに融資をして頂けるように準備してもらっているのだ。
「君は、本当に普通の経営者とは、違うね。普通は、そこまで考えないものじゃよ。まあ、うちは、新たな優良な融資先が見つけられる絶好な機会だから、いいのじゃがな。」
・・・・・・・
翌日、同社に写真週刊誌を抱えるB出版社の担当者に接触した。
「先週は、情報と広告を頂きありがとうございました。」
「お願いした件だけど、なにかわかった?」
「ええ、頻繁に会っているようですし、旅行社で切符の手配をしていることを確認してあります。どうやら、今週末に旅行に出かけるようです。」
「では、スキャンダラスな写真が撮れることをお祈りしております。」
「はは、そうですな。プロ中のプロを雇っていますから、絶対に相手には、気づかれないと思います。」
実は、元妻と頭取のスクープ写真が取れないか、画策しているのである。もし、撮れれば万が一、アキエ抜きで裁判が開始されてしまったとしても、対抗手段となるだろう。少なくとも、副頭取への牽制にはなるに違いない。
「よろしくお願いします。」
・・・・・・・
牛丼のスキスキは、V字回復を達成した。主に貢献したのは、やはり、国産牛の牛丼だ。単価が高いにも関わらず得盛りが注文の半分以上を占めるという。
あと意外に貢献したのが中国産だった。始めは用意した数を裁ききれるか不安だった分、単価を高くした面もあったが、4種類の牛丼の内2位を占めたのだ。
店舗によっては、全く売れないところもあったので、売れない店から売れている店へ回したことにより、採算が改善され、より利益が出る商品になったのが大きい。
本来は、全国的に1位と2位の牛丼商品を売っていくつもりだったが、2位の中国産と3位のアメリカ産がほぼ同数だったこともあり、店舗によって国産とより売れスジの牛丼を売っていくことにした。
また、オーストラリア産は、牛丼にしづらい肉質のせいか、全く振るわなかったので、今後、半年毎に実施する予定の牛丼の人気競争では、国産、中国産、アメリカ産の3種類で行うことにした。
独自メニューを置く店も増えてきており、巷では、牛丼のスキスキめぐりなるグルメのブログが人気になるなど、週になんども、店舗は別だが牛丼のスキスキを利用してくださるお客さまが増えているようだ。




