第2章-第19話 ごいっこうさま
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やはり、と言おうか当然と言おうか洋一さんが王室に挨拶に出向きたいと言い出した。そろそろ彼らにも全てを曝け出しても良い頃だ。
土曜日の朝、いつもの手順で異世界に召喚された。
「そちらが今回の客人かのう。」
「そうだセイヤ。俺の大切な友人夫婦だ。」
セイヤが間違っても、信子さんを俺の側室扱いしないように夫婦を強調して紹介する。
「彼がセイヤ・チバラギ、この国の王だ。俺の大切な従兄でもある。」
俺はセイヤを彼らに紹介する。俺が紹介すると何故かニヤけている何がそんなに嬉しいのだろうか。
「えっ・・えーー、じゃあ、社長は王族じゃないですかぁ。」
信子さんが突然素っ頓狂な声を上げる。コイツ本当に社会人か?
「信子、それより挨拶!」
俺は注意するよりも早く洋一さんが注意する。こんなことは日常茶飯事なのだろう。
「すみません。田畑信子と申します。こっちが夫の洋一です。ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします。」
素早いことに今日の朝、婚姻届を出しに行ったそうだ。
「田畑洋一です。妻がお世話になります。」
洋一さんが落ち着いた口調で挨拶をする。何故か2人とも召喚のことには触れない。さつきの奴、また喋ったな。信頼出来る仲間だからいいようなものの、護衛にしては口が軽すぎる気がするが手間が省けて良かったと思うしかないか。
「じゃあ、行こうか。」
・・・・・・・
まずは、後宮に連れて行く。彼らには、アキエが何も知らないことを伝えてある。
「いらっしゃいませ。山田アキエです。」
「わー可愛い。この子がトムの子供なの?」
「そうだ。」
「アキエちゃん、幾つ?」
「5さいです。」
「ちゃんと言えるの。えらいねぇ。」
信子さんは目を細めてみているが、洋一さんは複雑な顔だ。今回の事件の元凶の鼠の子供なのだからだろう。
・・・・・・・
洋一さんは、セイヤたちと昼食を摂りながら、いろいろと質問している。信子さんを預ける場所は、3箇所のうち何処かを考えている。
まずは、後宮の一室。安全面では1番だろうし、万が一戦争が始まっても、直ぐに迎えに来れる。
ミンツの居る王都の屋敷。ミンツと信子は、顔見知りなので一番安らげると思う。
ミト村の屋敷。元筆頭魔術師であるアヤが居ることで、ある程度の治療を受けられるし、緑が多いことだ。
それぞれ、一長一短があるため、すべての場所を回るつもりだ。
「無理だな。子供やお年寄りならいざ知らず、妙齢の女性を長期間、後宮に住まわせることはできないの。」
セイヤからダメだしが入った。
「そうすると王宮の寮か?」
「そうだ。ちょうど、モモエさんが出て行ったあとが空いているはずだ。」
「だそうだ。王宮の食堂もあるし、他の設備も充実度はNo1だ。魔法が習いたければ王宮に専属魔術師も駐在しているし、運動したければ近衛師団の室内訓練所がある。」
「魔法が習えるの?」
「ああ、日常魔法なら誰でも使えるから、信子でも使えるようになるさ。才能があれば紀子みたいなこともできるだろう。後で神の祝福を授けてもらえば、どんな才能を持っているかわかるらしいぞ。」
「うん、受けてみようかな。」
「まあ、魔法は、王都の屋敷から王宮に通っても対した距離じゃないから同じようなものかもしれないな。それに、ミト村に居るアヤも元筆頭魔術師だから教えてくれるぞ。」
「マイヤーさんは、何処に居るの?」
そういえば、信子はマイヤーに面識があるのだった。受け入れてくれるか解からないがマイヤーのところも候補に入れるべきかもしれない。エルフ族の中で気詰まりかもしれないが・・・。
「マイヤーの田舎に戻っているよ。」
「遠いの?」
「行けない距離では、無いな。逢いにいってみるか?」
「どうせなら、エルフの里も見てみたいわ。」
えっ・・・マイヤーのやつ。喋ったな。
「わかった。じゃあ、先に回ってみよう。」
出かける前に後宮専用の教会で祝福を授けてもらったところ、信子さんは、魔道具職人で洋一さんは、探索者だった。
・・・・・・・
エルフの里まで、『移動』を使った。
「テレポート?」
「ああ、そうだ。」
「エルフの里って遠いって聞いていたけど、そんな長距離を飛べるの?」
「距離は関係ないみたいだ。同時に連れて行く人数のほうが負担が高いと思うぞ。」
「ちなみにいままでで最大どれくらい?」
「日本からハワイまでかな。」
「いいな。ハワイ。」
「向こうのゴタゴタが片付けば、旦那に連れて行ってもらえ!」
そんな無駄話をしながら、エルフの里に入り、マイヤーの家に辿りついた。ちなみに洋一さんは、いっぱいいっぱいのようで信子さんほど頭が柔軟なわけでは、ないみたいだ。
「こんにちわ。マイヤー元気か?」
「トム、それに信子と洋一さんじゃないですか?」
随分みないうちに、お腹のほうも目立ってきたようだ。
「ああ、すこし向こうでゴタゴタがあってね。信子さんをここに置いてほしいのだけど・・・。」
「別にかまわないわよ。少しせまいけど、この家の部屋に案内するわ。」
「あっと、信子さんも妊娠しているから、気遣ってあげてくれ。」
「ええっ、信子を孕ましたの?手が早いと思っていたけどいつのまに。」
「違う。違う。洋一さんの子供だ。」
「なあんだ。びっくりした。」
「びっくりしたのは、こっちのほうだ。なんでなにも聞かないうちから、俺が孕ましたことになるんだよ!」
「えっ、だってぇ、天然のたらしだしぃ。その毒牙に掛かったのかと。」
「だれが、誑しだ。違うよな。信子さん。」
「・・・・・・・・・・。」
なんだろう。返事を返してくれないばかりか、ジトっと見られなきゃいけないんだろう。
「違うよな。な。洋一さん。」
「・・・・・・・・・・。」
「な。違うだろ。」
無理矢理、好意的に解釈して、マイヤーに向き直る。
「・・・・・・・・・・。」
今度は、マイヤーにジトっと見られた。




