第2章-第17話 ざいばつ
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スミス金属はなんとかなったが、俺に係わり合いのある企業が引き剥がしの被害に遭いつづけている。その中でも痛手になりそうなのが、100円ショップのFC本部の企業だ。
このところの円安と中国製品の高騰のあおりを受けていたところへ、今回の引き剥がしにより、資金繰りに行き詰ったらしい。民事再生法の適用になればいいが、会社更生法の適用になるとやっかいだ。
すぐさま、影響があるのは、商品の仕入れが滞ることである。
まだ俺は、異世界に持っていく分の在庫を抱えおり、大半の商品が直ぐ在庫切れを起こす可能性がない。また、100円ショップの仕入れ先とも商社時代に懇意にしていただいていたこともあり、ある程度纏めて発注する必要はあるがなんとか継続して在庫を確保できる見込みも立った。
さらに空いてしまう空間は、独自の商品を仕入れするつもりだ。
・・・・・・・
「そうか、それはおめでとう。」
洋一さんと舟本さんが近々結婚すると報告を受けたのだ。前から怪しいとは、思っていたがそういう関係だったんだな。
「こいつが妊娠をしたもんでな。親戚が経営しているタバタ電器という家電量販店の社長を受けようと思っているんだ。」
タバタ電器と言えば家電量販店のトップを直走っている会社だ。
「ここを辞めるのか?」
「俺共々こいつも、そうなる。」
元々、俺の会社には、勿体無い人材なのだ。当然、今まででも多くの打診を蹴ってきたのだろう。子供ができるからというならば、納得できる。だが・・・。
「タバタ電器も蓉芙グループの一員だったな。おまえ、まさか・・・。」
「そうだ。次期当主争いに乗ってみるつもりだ!元々が俺が戦いから降りたのが原因なんだ。それに、うまく子供も出来たし、俺が1歩も2歩も有利だな。」
先日、当主の座が下らないと扱き下ろしたばかりだ。それを翻す・・・それは、今、俺の会社が攻撃されていることに他ならない。
「バカヤロー。お前は、お前の幸せを追求しろ!」
洋一さんは、俺に叱られながら、うっとりと俺のほうを見つめている。こう言われるのは、解かっていたのだろう。
「俺の幸せは、この会社の人間が幸せになることだ。それを教えてくれたのが、社長だろ。なら、俺も俺の好きなこの会社やタバタ電器の従業員を、幸せにするのだ。そして、それを邪魔する下らない権力があるなら、ぶっ潰してやる。」
「そうか・・・。決心は、固いのだな。もちろん、信子も・・・。」
「はい!いっしょに戦ってきます。」
「そうか、ならば、俺も撃って出なければならないな。」
俺は、そう言いながら指輪を『偽』に合わせ、信子さんの肩に触れる。
「ド、ドッペルゲンガー?!?」
信子さんは、引き攣った顔で口を押さえている。そう、この能力は、意図して触った人間の姿や声を写し取れるのだ。
「どうせ、富強銀行へも行くんだろ。信子が暴力の的になるかも知れない。この姿の俺を連れて行け。」
「ああ、本家への挨拶を金曜日、富強銀行へは火曜日に陣中見舞いに行く予定だ。」
蓉芙財閥の本家とは、創始者田安禅二郎の田安家のことである。初代及び二代目は田安家が当主といわれる存在だったが、金融中心の財閥であったこともあり、次第に番頭へと当主の権限が移っていったらしい。
戦後は、蓉芙グループのグループ企業のトップが当主の座に付くことが多いという。1期5年で最大2期まで持ち回りで選ばれるらしい。最終決定権は、田安家にあると言われているが実際には、勢力が真っ二つに割れないかぎり、推薦された人物が付くらしい。
「しかし、本当に富強銀行を叩いても大丈夫なのか?蓉芙グループのメインバンクなのだろう?」
「いや、メインバンクは、いなほ銀行だ。富強銀行は、いなほ銀行グループの蓉芙グループ担当の貸付窓口にすぎない。たとえ、富強銀行が潰れたとしても、いなほ銀行グループが受け皿会社を作るだけだ。大した影響は無い。」
バブル崩壊による不良債権により、都銀の経営悪化するなかで、多くの都銀が合併しメガバンク時代を迎えた。
蓉芙財閥の田安銀行は、バブル崩壊前都銀トップだった観光銀行と合併し、メガバンクの第3勢力となった。これが現在のいなほ銀行であり、田安銀行の蓉芙グループへの融資だけに特化した、いなほ銀行グループの完全子会社として富強銀行が発足したということだった。
・・・・・・・
「これが、田安家か。凄いな、凄すぎるだろうこれは・・・。」
田安家は、都内某所にあった。緑豊かな小高い丘にある大きな屋敷は、重厚と歴史を感じさせる建物だった。きっと、土地代だけでも、数百億円に達するに違いない。
「よく、戦後の財閥解体の難を逃れたな。」
「ああ、戦時中に日本の旗色が悪くなってきたときに、格安で財閥の各企業の資産に組み入れて、財閥解体の頃には、田安家の資産は、殆どなかったらしい。それを戦後、日本に主権が戻されたのを機に田安家に戻したらしい。」
「では、行くか。」
俺は、屋敷を見上げたまま言う。
「よし、行こう。」




