第2章-第16話 かしはがし
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日本に送還された翌日、スミス金属の社長からホットラインが入った。緊急事態発生だ。スミス金属のメインバンクである富強銀行から長期借り入れ融資の貸し剥がしにあったというのだ。
現在、スミス金属では、さらに需要の増加が見込めるミスリル鋼の新工場建設とオリハルコン鋼の新工場建設のため、社債発行を計画しているため、新規の長期借り入れは行っていなかったが、社債による市場からの資金調達のため場つなぎ的な、短期借り入れが早急に必要となっている。
俺が先週、あの女の要求を拒否したツケがこんなところに回ってきたのか。社長が言うには、他の取引銀行に要請してもすべて断られたそうだ。
本来、銀行からの融資の引き上げに応じる必要は、ないのだが、スミス金属は、経営危機の際に1度、返済を滞らせたことがあるらしい。それを理由に無理矢理、貸し剥がしを行ってきたのだ。
しかたがないのでCEOに相談するとあっさりと傘下の銀行を紹介してくれた。
「申し訳ありません。助かります。」
「聞いたぞ。やっかいな人間を敵に回したのじゃないか。」
CEOは、嬉しそうだ。そんなに俺に貸しを作るのが楽しいのか。
「こんなことは、貸しでもなんでもないわ。銀行の担当者も喜んでおったぞ。あの優良企業のメインバンクになれるってな。」
俺の考えていることなど、モロにバレているらしい。
「蓉芙財閥を調べているそうだな、洋一君に聞くといい。あの男も過去に次期当主を請われていた時代があったからな。」
「そういえば、フィールド製薬も蓉芙グループの一員でしたね。わかりました。聞いてみることにします。」
・・・・・・・
「ええ、さつきから真っ先に聞かれましたよ。なあ。」
「報告が遅れてすみません。」
「ああ、こんなに早く手を打ってくるとは、思わなかったから仕方が無い。今、わかっていることだけでも教えてくれるか?」
「はい。前橋晃一。富強銀行の副頭取です。現在46歳。蓉芙グループのカノンの会長の孫娘と5年前に結婚するも、子供ができなかったらしく。調べてみると、3年前におこした交通事故で無精子症になったのが原因だそうです。」
「そうか。それで、アキエに白羽の矢が立ったというわけか?だが、無精子症なら体外受精が可能なのでは、なかったか?
「奥様が体外受精に非協力的だそうです。それをするぐらいなら、愛人の子供を引き取ったほうがマシだそうで・・・。」
女性にとって、体外受精は、屈辱的だというからな。経団連の会長の孫娘じゃ、そこまでしようという気には、ならないか。
「よく、この短期間でそこまで調べられたな。」
「ええ、蓉芙財閥の次期当主には、複数の候補者が居りまして、他の候補者から情報を得ました。次期当主の要件の中には、子供が居ることが必須条件なのだそうです。」
「それは、つらいことを調べさせた。申し訳ない。」
俺は、さつきに頭を下げた。洋一さんの奥さんだった、さつきも過去に同じような経験をしている可能性が高いからだ。
「そんなこと・・・。まあ、私達は、ろくに身体をあわせなかったから・・・。」
「おいおい、今、そんなこと、どうでもいいだろ。」
洋一さんが慌てたように口を挟む。
「それで、君たちに子供が居たら、洋一さんが当主になっていたわけ?」
「そんな下らないものになるつもりは、なかった。」
意外な答えが返って来た。
「それでも、それなりに権力は、ありそうだが・・・。」
そんな権力欲しいとは思わないが・・・。
「蓉芙財閥の当主として正月に挨拶を受けられるくらいで、対した意味はなかったよ。まあ、そういったことを意味があると捉えている根っからの人間ももちろんいるんだが・・・。」
「蓉芙財閥の主要企業である富強銀行なら意味があるのだろう?」
「無いな。戦前やバブル経済前ならまだしも、不良債権処理でグループ企業に無理矢理、資本参加をさせたから、グループ企業のほうが発言力を持っているぞ。」
「とりあえず、フィールド製薬には、影響はなさそうだな。」
「ああ、言わせないさ。グループ企業の中には、まだ、俺を当主にしたがっている連中も多いからな。」
「結局、その男ができることは、富強銀行の副頭取としての行動やつきあいのある銀行に対してお願いすることなのか?」
「そんなところだな。スミス金属には、貸し剥がしの証拠などは、残しておいてくれと伝えておいてくれ。さらになにかしてきたときに、週刊誌にでも情報を売ってしまえば、銀行にとって痛手になるからな。銀行にとって、貸し剥がしは銀行が潰れないための最終手段なんだ。」
「ということは、その手を使ってきたということは、銀行が潰れるかもと思うだろうということか?」
「簡単に言えばそうだ。Ziphone系列の経済誌に載せたほうが効果的かもな。さつき、いつでも対抗できるように手を打っておいてくれ。」
「はい。早急に。もしかすると、フィールド製薬にもなにか言ってきているかもしれませんね。そちらのほうもよろしくお願いします。」
「ああ、父に言っておくよ。」




