第1章-第11話 ほわいとはうす
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「やはり、怒ってらっしゃるのですね。」
さつきがこう言うのには、訳がある。スティーブンの自宅を辞去してから、ニューヨークのホテルの部屋に到着するまで、さつきに対して喋らなかったからだ。
今回の件に関しては、異世界の秘密をさつきが独断で漏出しており、本当ならばさつきとの護衛契約を解除すべきなのだが、そんなことはしない。だが、なにがしらの割り切れない感情があるのもたしかだ。
これ以上の漏出はしないと確約してくれたし、日本で俺のパートナーとなる彼女は、いろいろと世話にもなっているのだと理性でわかっているが、うまく感情が制御できない。俺は、さつきをベッドに押し倒すとその日は、無言で抱いた。
さつきは、拒否するでもなく、黙って受け入れてくれた。身体がつながり、心も繋がったような感じになった。
・・・・・・・
翌朝も朝早くに起される。ヨシュアだ。まさか、彼がCEOの会うと言った人物では無いのだろう。彼は、持ってきた洋服を一式渡すとさっさと帰っていった。
今日は、ワシントンに向かうという。おそらくCEOの言う人物とは、ホワイトハウスの住人なのだろう。国務長官なのか、主席補佐官なのか・・・。どちらにしても、今すすめようとしている宇宙エレベータープロジェクトのために、恩を売っておけるならば好都合だ。
宇宙エレベータープロジェクトには、今は運用されていない国際宇宙ステーションの一部を購入する必要がある。この国際宇宙ステーションは、グアム島近くの衛星軌道上に存在し、現在の所有者もアメリカ合衆国政府だからだ。
既に筑波大機械工学科とスミス金属の共同研究を開始している地上と国際宇宙ステーションを繋ぐロープは、オリハルコン鋼とミスリル鋼を寄り合わせたものであり、エレベーターの箱は、オリハルコン鋼を使う予定だ。
動力源は、電気と風魔法だ。魔法具のオークションで見つけた大家さんの話によると、異世界の創世記の勇者が作成したものだという。異世界にエレベーターを普及させようとしたらしく術式は公開されていた。
ただ、必要なMPを勇者を基準においていたため、エネルギー効率の悪さとそれほど高い建物が必要とされていなかったため、ある王国の倉庫に埋もれていたらしいのだ。
その王国が隣の友好国に仕掛けた戦により、クーデター騒ぎがあり、それにより交代した王が戦後費用を捻出するために国の倉庫にある不用なものをすべて放出したそうである。
それが回りまわって、俺の手元にある。エネルギー効率は、大家さんの手で俺の3割のMPで、衛星軌道上の国際宇宙ステーションと地上とを60トンの荷物が余裕で往復できるものになっている。電気は予備動力及び安全装置のためのモーターに接続する予定だ。
偶々、筑波大機械工学科の院生のアルバイトが居たため、即座にプロジェクトのリーダーにしようとしたが大学に所属することに固執したため、彼の伝手だけ使い担当准教授を子会社社長に引き抜こうと画策しているところだ。
きっと、Ziphoneの資本でも十分だと思うがアメリカの協力とスティーブンの協力が得られれば即決するに違いない。どの道、風魔法周りは、情報を開示しないので彼らにとって論文にできないのが、院生の彼には、わからなかったらしい。
・・・・・・・
ニューヨークからアムトラックに乗り、3時間掛けてワシントンのホテルに到着し、着替えを始める。そのときに初めて、会う相手がアメリカ大統領のジョン・バンカーであることを告げられた。
ゴンCEOやスティーブンなどの多くの後援者がジョン・バンカー氏が大統領になるために、経済面で支えてきたという。その夢が叶い、大統領となった。しかし、その大統領が『がん』に犯されているというのだ。彼の『がん』はその臓器を全摘出するほど進行しており、全摘出すると大統領の業務に支障が出るらしい。
彼が大統領を続けるには、臓器の損傷をなしに腫瘍を取り除く必要があるというのだ。
それには、大統領の周囲が納得できる成功例が必要であり、被験者に選ばれたのが彼の後援者の1人でもあったスティーブンだという。
俺が大統領に会うと大統領に一言だけ言葉を頂けた。
「よろしく頼む。」
すべてが秘密理に進める必要があるため、公の場であるホワイトハウスでさえも詳しい内容を言えないであろう。おそらく今回の施術方法も世間には、広まらないだろうと自分に納得させることができた。
その後にあったジョン・バンカー氏の後援者のパーティーで後援者たちから、宇宙エレベーター研究とバーチャルリアリティー研究への協力を取り付けることができた。これは、絶対にスティーブンと大統領の手術を成功させる必要があるということだ。
・・・・・・・
「例のモノは、用意できたか?」
俺は、さつきに向かって確認を取る。
「ええ、事前にこちらに設立した会社の担当者に届けさせました。」
さつきに依頼したのは、先の内戦で消費した機関銃の弾丸とライフルの銃弾だ。もし、異世界で戦争が始まった場合、俺にとっての頼みの綱のひとつであるからだ。
「今日は、何処へ連れて行ってくれるんだい。」
「ブロードウェイやタイムズ・スクエアをまわってみようかと。」
「へぇー、それは、是非見たいね。チケットは、取れたのかい?」
「もちろん。他に行きたいところは、あります?」
「グランドゼロに行きたいね。」
「お祈りされるんですか?」
「もちろんだとも。別に中を見学したいわけじゃない。外からお祈りしたいだけさ。」
あの悲しい出来事で俺は昔の会社の同僚を亡くしている。
時折、あの時の映像が流れることがあるがそれを見る度、胸を捕まれているような、なんともいえない感情を産む。ここに来れたことで心の中で1つの区切りがつけたように思うのだ。
とうとうアメリカ大統領と面会・・・。




