第1章-第6話 とんねる
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「そうだ。次々回の召喚時にお披露目のパーティーを開こう。トムの人となりを見てもらえば、少しは違うと思うぞ。構わないか?」
「ああ、よろしく頼む。」
・・・・・・・
「ユリアウス男爵の長女ミンツと申します。よろしくお願い申し上げます。」
その女性は、元ジャン公爵邸つまり俺の異世界での住まいに既に暮らしており、俺が来るのを首を長くしてまっていたらしい。
「この女が、トムの側室候補ですか?陛下も不思議なことをなさりますね。私よりも年上、いや幸子よりも上じゃないですかね。これでは、子供も産めないんじゃないですか。」
目の前に居る女性は、さつきが言う通りアラフォーでも通りそうな女性でとても出産ができる年齢には見えない。しかも、お団子ヘアにしており、地味な女性そのものと言った感じだ。しかし、彼女の顔や手などを見てみると・・・。
「さつき!失礼だぞ。」
「ですが・・・。」
「よく見てみろ!彼女は、おそらく10代だ。あの目尻や手の甲、そしてなんといっても、膝頭が違う。」
「・・・ほう・・ふむ・・・本当だわ。」
「な、幸子とは全く違うだろ!それにあの大きなお尻は、安産型だ。まさに子作り要員というわけだ。」
「トムって、そういうところで年齢を判断していたんですね。油断も隙もない。」
・・・・・・・
「俺が、トムだ。先日、伯爵を拝命したばかりだ。ミンツ嬢は、諸事情を了解して来られているのか?俺に必要なのは、側室と名ばかりの出産要員だぞ。年若い君には、早すぎるんじゃないかな?」
「・・・・。まあ、若いだなんて言われたのは、旦那様が始めてですよ。」
今まで緊張していたのだろう。すこし、笑顔が出てきた。年齢相当の可愛らしい笑顔だ。
「でも、君は10代だろ?」
「ええ、18歳になりました。でも、よくお判りになりましたわね。」
男爵令嬢としての礼儀作法は完璧だった。しかし、その完璧な礼儀作法と若々しいドレス姿が若い女性向けのものらしく、その地味顔とのギャップに思わずお腹が痛くなりそうだ。
「まあな。それに、ヤン元団長の婚約者だったと聞く。本当に俺の側室でよかったのだな。」
「ええ、あの男は親に押し付けられた婚約者でございました。もちろん仇だなんてことも考えてませんから・・・。むしろ、感謝しておりますのよ。あの男との結婚生活なんて怖気奮いますわ。」
「好きじゃなかったのか?」
「好きなもんですか!初顔合わせの時から、会う度に罵られる。そんな男は、好きになれるはずもありません。」
まあ、マイヤーのようなロリフェイスが好きなんだから。地味顔の婚約者じゃ、一言言いたくもなるかもしれないな。しかし、一番身近な人間を罵るなんて、狭量なやつだったんだな。
・・・・・・・
改めて、日本の婚約者であるさつきを紹介した。
「先ほどは失礼いたしました。婚約者のさつきと申します。」
「側室ではなく婚約者ですか?」
ミンツ嬢が聞いてくる。まあ、解かりづらいわな。
「そうだ!・・・ミンツ嬢は、俺のことをどのように聞いている?」
「はい、主な住まいは遠い国で、陛下が召喚されたとか?」
「そうだ。その遠い国でもうすぐ正妻となるのが、さつきだ。異世界では、側室でよかったのだな?」
ミンツ嬢に説明しつつ、さつきに確認を取る。本当にややこしい。
「そうね。異世界と日本をひっくるめて正妻は、マイヤーさんですから。」
この辺は、さつきに取ってしっかりと線が引かれているらしい。
「では、行くか。」
「旦那様、どちらへ?護衛のものを呼んでまいりましょうか?」
その正妻に挨拶させる必要があるだろう。ミンツ嬢が気を利かせてくれるがそんなものは必要ない。
「ああ、マイヤーのところへ・・・挨拶が必要だろう?」
「マイヤー様ですね。では、用意してまいりますので少々お待ちくださいませ。」
ここから、直接アヤのところに『移動』し、そこからエルフの里に『移動』すればいいのだ。この人数なら何とかなるだろう。
「先に俺の領地『ミト』に寄り、もう1人の側室であるマルタ伯爵令嬢アヤ殿を連れて、エルフの里に向かおうと思う。」
・・・・・・・
さつきとミンツ嬢を連れ、『ミト』領の屋敷に入ろうとすると、屋敷に大勢の領民が詰め掛けていた。
「どうした?なにがあった?」
顔見知りの村長に聞いてみた。
「おお、領主殿だ。例の通行料の件は、どうなりましたかいの?」
「ああ、各村ごとに援助を出そうということになったが?」
「それなら、なんとか食いつなぐことができます。」
「そんなに厳しい状況なのか?」
「ええ、3日程前にさらに値上げがありまして、途方にくれていたのでございます。」
執務室に行くとアヤさんが出迎えてくれた。
「忙しそうだな。」
「はい。またもや、通行料の値上げがあったようで。」
「ああ、聞いた。ある程度援助の額を増やさねばならないな。値上げ分を援助した場合、財政上問題ないか?」
「そうですね。少し厳しいですが・・・。しかし、他にも値上げを予定していると通告がありまして、さすがにそこまで援助しますと援助回数を制限しないと・・・。」
「そうか。いっそのこと、道を作るというのはどうだろうか。」
「どこにですか?」
「山裾の東側を掘り進めようと思っている。あの辺りは、うちの領民の村々ばかりだろう?」
「掘るのですか?それは、何年も掛かりますし莫大な資金が掛かりますので陛下に予算を組んでもらう必要があります。」
「いや、俺の手で掘り進める。空間魔法を使えば1日もあれば、できると思うぞ。」
「えっ、え・えーっ。そうなんですか・・・でも、道は戦略上の問題もあるので、陛下の許可が必要です。」
「わかった。聞いてくる。」
・・・・・・・
『移動』で王宮前に飛び、執務室のセイヤに許可を貰いに行くがあっさりと許可が下りる。
「そうか。かまわない。どんどん作ってくれ。資材は、なにが必要だ?」
「うなぎ工場と同様の岩石があれば・・・。」
「では、採掘場で好きなだけ取ればいい。但し、通行料を取ってくれ。経費ばかりで収入がないのは、まずい。他の道の半分くらいでいいだろう。」
「わかりました。そのようにします。」
山を挟み、領地『ミト』から山の東側に出るトンネルと山裾を南下後、王都に抜け出るトンネルを作る。
それぞれ、トンネルの距離は、1キロメートルもないが、トンネルを作る理由は、そのあたりまで山裾に湖が迫ってきていることと、戦略上敵国が軍を移動するのに利用しにくいからである。
トンネル内部は、岩石で囲い強度を上げる。採掘場から15メートル四方の岩石を取り出しの中心5メートルをくり貫き、必要数分だけ空間魔法で保管した。
基本は、山裾を南下する道も同様だが、採光のために湖側の一部をくり貫き配置するつもりだ。
まずは、マイヤーに習った『フライ』で山の東側にある山から湖にせり出した土地にある村を訪ねる。この村の移動手段は、船なのでこの村の移動手段も確保できる。途中の休憩場所にもぴったりだ。人が多く訪れるようになれば、この村の大事な収入源になるに違いない。
「なにか、必要なものはございますでしょうか?」
「いや、危険なので山には、近づかないで頂きたい。」
「わかりました。明日以降、許可があるまでは近づきません。」
再び、『フライ』でトンネルを掘る方向などを見定め。『移動』で領主の屋敷に向かった。
空間魔法で貴族社会に殴りこみをかけるトムにいったいどんな反応が返ってくるのか?




