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第1章-第5話 かちかん

お読み頂きましてありがとうございます。

 セイヤから召喚後、嬉しいニュースと悲しいニュースが待っていた。


 嬉しいニュースは、伯爵に就任できることになったというのだ。その裏には、とんでもない話が隠されていた。先日立ち寄った領主の館で、俺を愚弄した件で彼らを処罰したというのである。反逆罪が適用されすでに処刑済みだという。


 さらに、再びこのようなことがあれば無礼打ちする権限が王族にあることを説明された。使うつもりはさらさらなかったが・・・。


 なんでそんなスピードで処罰できたかというと、俺を愚弄した物言いをした映像をさつきが撮影していて、それをセイヤのタブレットにコピーしたらしい。


 セイヤは、その映像を元に王宮議会にかけて処罰した上、その隙を縫って俺の伯爵位就任を押し通したらしい。


「この世界は日本とは全く違う世界観なんだ。だから黙っていたのに、さつき、なぜ喋ったんだ!」


 つい、さつきに怒鳴ってしまった。


「・・・いや、俺が口止めすべきだな。悪い、つい八つ当たりしてしまった。許してくれ。」


「私もまさかこんなことになるとは・・・。」


「そこのところを俺がちゃんと説明できていれば良かったんだろうが、俺に取っても初めてのケースだからな。セイヤにしてみれば、当然の反応だろう。あいつらが悪かったんだし、俺たちの価値観を当てはめること自体が間違っているんだろうな。」


「でも、陛下に愛されてますね。陛下に反逆した貴族は、世代交代だけで済ましたのに、今回は処刑ですよ。よほど怒り心頭だったんですね。」


 愛ねえ。セイヤもよく解らないよな。何でそんなにまでしてくれるのか。まあきっと、この空間魔法でこき使われるんだろうな。俺って肉体労働派じゃ無かった筈なんだが・・・。


「あの件は、ヤン団長の例にもある通り、どこまでジャン公爵に『幻惑』で操られていたのか、自らの意志によるものか、不明だったからあのような処罰になったんだろう。もちろん、戦争が始まるかもしれないこんなときに、これ以上兵力を削減したくなかったというのもあるだろうしな。」


「それにしても、厳しいなこの結果は・・・。」


「そうですね。」


「今度、こういうことがあれば、俺個人の判断で軽い処罰を与えるとかしたほうが、処刑までいかないかもしれないな。」


「でも、それだとトム自身が恨まれることになりませんか?」


「なぜかほとんどの貴族達に嫌われているようだから、同じなんじゃないかな。」


・・・・・・・


 不可解な貴族達からの悪意の正体は、商品を置きに100Gショップに立ち寄ったときに判明した。100Gショップでは、おそらく15歳の成人を迎えたばかりであろう少年が、木の棒を振り回して商品を叩き壊しているところに遭遇したのだ。


「やめなさい!」


 おそらく、王族である俺の店であることを知らないのだろう。まさか、こんな急に無礼打ちをしなければいけないシーンにぶつかり、しかもこんな少年相手とは。とにかくこれ以上店を壊されては、堪らない。俺は、警護役である近衛師団団長に復帰したジロエ伯爵に止めるようにお願いする。


 ジロエ団長の声が響き渡る。


 少年は、ビクッとこちらに振り向き、木の棒を放り出し逃げようとするが、ジロエ団長に当て身を喰らいあっさりと気絶した。


 俺達が気絶した少年を引き摺り、2階に上がっていくと案の定、店番をさせていた教会の子供が隠れていた。


「大丈夫だったか?」


「申し訳ありません。大事な商品を守れませんでした。」


「そんなことより、怪我は無かったか?」


「申し訳ありません。」


 彼は、ケガよりもなによりも、商品を守れなかったことが悔しいようだ。俺は、強引に彼を引き寄せ、腕や膝に木の棒を受けたらしき跡を見つけ、指輪の『癒』で治療していく。


「ほかに怪我はないか?」


「はい!ありがとうございます。」


「なんでそんな奴を助けるんだ?」


 気絶した少年は、起きたようだ。


「なぜって、俺の大切な従業員だからだが。お前は、なぜこんなことをした?返答によっては、重罰に処すぞ!」


「お・おまえが、この商店主か。お前・・お前のせいで!」


 暴れようとする少年をジロエ団長が無理矢理床に跪かせる。


「この方をどなたと心得る。王族のトム伯爵様ぞ。」


「こ・の・店は・・・王族の店・・・なの・・・か。」


 ジロエ団長の言葉を聞き少年は、暴れる気をなくしたようだ。


「なぜ、こんなことをした!理由によっては、一族全員処刑されても文句は言えぬぞ。」


 ジロエ団長の言葉が、そんな彼に追い討ちをかける。


「あの・・その・・・。」


「なんだ。トム殿は、優しい方だ。正当な理由があるなら申し述べてみよ。きっと、寛大な沙汰をしてくださるぞ。」


「俺達一家がこの店のせいで職を追われたのです。」


「ほう。」


 少年の家族は、代々『計算』職持ちで、ある貴族に仕えていたそうだ。それが、王宮に電卓が行き渡り、貴族に対する税額を厳しく計算したところ、多くの貴族が『計算』職持ちの使用人を持ち、税金の誤魔化しを行っていたことが発覚したらしい。


「ジロエ伯爵?本当か?」


「ああ、恥ずかしながら兄も親父もずっと2割ほど誤魔化していたそうだ。」


 今まで、各貴族の税金は、税金計算自体の人件費の関係から貴族からの申告を鵜呑みにしていたそうだ。それが、『計算』職を持ち合わせていない新人役人でさえ、1日もあれば貴族の帳簿から検算することが可能になったらしい。


「陛下は、去年の分と合わせて今年度からでも正しい申告をするならば、罪には問わないと仰られてな。慌てて修正申告をした貴族が多いそうだ。」


 さらに電卓が、貴族に貸し出されたことで、税金の誤魔化しのための『計算』職の人材を手放す貴族が多かったそうだ。


「しかし、『計算』職の人材に電卓を使わせればいろんなことに応用が利くと思うが・・・。」


「ああ、たしかにそういう貴族も居るが、目の前の人件費を削ることしかできない貴族が大半なんだ。おかげで、職にあぶれた『計算』職の人材が街に溢れ返っているそうだ。」


「ジロエ伯爵どうすればよい?できれば、処刑にはしたくないが。うちの従業員を傷つけたことの処罰は与えたいんだが・・・。」


「では、俺がトム殿の店とは言わず、商店で暴れたという咎で処罰されるように引き受けよう。おそらく100叩きくらいで済むだろう。あとはそうだな。この店で只働きさせて、商品を弁償させるのが順当では、ないかな?どうする少年?処刑されたいか?」


 少年は首を振る。100回も叩いたら死んでしまうと思ったがこの世界の100叩きは短い棒で叩くため大したことは無いらしい。万が一、大怪我をさせてしまうと執行者が罰を与えられるらしい。


「わかった。少年は只働きで少年の両親を王宮の下働きにでも、押し込めばその内、弁償されるだろう。ありがとう、参考になった。」


 しかし当たり前のことだが、俺が今までしてきたことの影響がこんなふうにあらわれるなんて・・・俺は施政者には向いてないのかもしれんな。


・・・・・・・


 俺はセイヤに、少年を引き取りに来た両親のことを頼んだ。


「ああ、俺も『計算』職を王宮の新戦力として雇うつもりだった。そうか、そんなことでトムが嫌われているとは、思いもしなかった。了解した。」


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