プロローグ
お手にとって頂きましてありがとうございます。
本作品は異世界・日本間を行き来する商人モノです。
異世界の描写ばかりでなく、日本での描写も多いのが特徴です。
日本で成り上がり異世界では内乱に巻き込まれてしまう「王族編」
異世界では貴族として内政に尽力し英国で宗教戦争に巻き込まれてしまう「貴族編」
「従業員を幸せにする」という難題に突き進む主人公の姿を是非とも見守って下さい。
なお毎週の更新は平行して実施しております。
本編は完全一人称で描いており、セリフとセリフの間の文章は地の文と呼ばれる状況を作者が描写したものではなく、主人公が心の中で思っていることとなります。
また、句読点は主人公の思いの間合いとして使用しております。
従いまして、誤字報告では誤字脱字のみ指摘して頂くと助かります。
(主人公の思いなのに・・・誰に説明しているのだろうとか・・・文章を組み立ててから心の中で思うのかとか(笑))
3年前までは順調な人生だった。いったいどこで、こうなってしまったのか。高校生の時に亡くなった父親が保険金を残してくれたお陰で、無事大学を卒業することができ、卒業真近までかかったが、そこそこ名の通った商社に就職できた。
それから10年後、出世こそ出来なかったが、営業で培ったコネと保険金の残りで100円ショップのFCに特別な条件で潜り込み、3店舗を経営するにまで成長した。
7年前に知り合った妻とは、お見合いだったが、良好な関係を構築できていると・・・ついさっきまで思っていた。
それがどうだ。100円ショップの経営は赤字こそ出していないものの、自分の給料は1日14時間働いているにもかかわらず、最低賃金のアルバイトと同じ時給しか稼げない。
この危機に妻に平身低頭お願いし、子供連れでレジをしてもらう・・・そんな有様だった。
それが災いしたのか。妻は子供を連れ、離婚届けを叩きつけるようにして、出て行ってしまった。
理由はわかっている。男だ。まだ裕福な男ならわかるが、よりにもよって、俺の経営する100円ショップで働いていたアルバイトに寝取られるとは思わなかった。
実は、他のアルバイトから幾度となく妻が奴と手を繋いで歩いていたというような話は聞いていたのだ・・・。
まさか!という思いばかりで本気にしていなかった。ついさっき、離婚届を叩きつけられて初めてそれが真実だとわかった。
間抜けなことに、つい1時間前まで会社の経費を使い、そのアルバイトの就職祝いの宴会を開催していたのだ。
道理で、えらく小さく縮こまっていると思ったんだ。そういうわけだったんだ。
・・・・・・・
離婚協議で財産分与こそ要求されなかったが、娘の養育費を毎月4万づつ払うことになった。それもこれも、元妻の相手の経済力の無さが原因だ。
弁護士の話によると相手が経済力のある男性だったら、逆に慰謝料も取れる案件だそうである。
娘の将来も考えてやらなくてはいけない。相手の経済力では大学に入れることもできそうにない。将来娘が頼ってきたならば、それなりの用意をしてやるために貯金が必要だ。
そんなことばかり、考えていてもしかたがない。
今日も開店前に出勤だ。一応、ベテランのパートに開店準備と閉店処理は任せられるのだが、なにせアルバイトは、突然休んだりすることが多い。
俺がバックヤードに待機しており週の半分は、人員の足らなくなった3店舗のどこかに勤めることになるのだ。
原付バイクに跨り出掛ける。いつものように従業員駐車場にバイクを停め、店の裏口から入り、商品を持って品出しに向かうところでそれは起こった。
・・・・・・・・
突然、目の前の景色がゆらゆらと揺らめいたと思ったら、急に四角い部屋の中に出た。俺は思わず、目をパチパチと瞬きをしてみたが目の前の光景は変わらない。
部屋の中をゆっくり見渡すとそこには、2人の人間が立っていた。
「ようこそ、ヤーマダ・ミロ・クーのご子息で間違いはないかのう。」
赤い髪と褐色の肌をした男がそう伺ってきた。
「ええ。」
俺はゆっくりと頷く。確かに山田弥勒とは父の名前だ。
「成功のようだのう。」
「ええ、そうですわね。」
その男の隣には、銀の髪と透き通るような白い肌をした女性がいる。女性は出るところは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。言うなれば、ボン・キュ・ボンていう感じの美女である。
しかし、それにも増して、男の精悍な身体と精悍なマスクが際立っており、女性の存在が少々霞むほどだ。
俺は、妻を寝取られるというあまりにもショッキングなことがあった反動で正気が保てなくなったのではないかと疑い、自分が持っていた商品と伝票を手に取った。
それは確かに今日品出しするものであり、間違いはなかった。
シゲシゲと2人を観察していると美女のほうから声がかかる。
「陛下、『召喚』に成功した以上、説明を始めた方がよろしいかと思います。」
「分かっている。さて、ご子息。」
「あ、取無とお呼びください。」
今がどういう状況か解からないが、陛下などと呼ばれる人物には、頭を低くしておいたほうがよいだろう。
「では、トム殿は、なぜ今自分がここにいるのか、なにも解からないであろう?俺に説明の機会を与えては貰えぬだろうか?」
「は、はい。」
陛下と呼ばれる人物にしては低姿勢だ。だが、それにも増して圧倒的な存在感のあるものいいに対して、俺は首を縦に振る。
「よいよい。では、トム殿。薄暗い場所で立ち話もなんであろう。場所を変えたいので、ついてきてくれないかのう。」
陛下はそう言うと正面にあった扉を開け歩き出した。俺は手に持った商品をその場に置いていくのも躊躇われ、そのまま持って、その後と付いていく。
・・・・・・・
壁も床も石作りの階段を下り、俺が案内されたのは、明かりが煌々と灯された広い部屋だった。
大きな布張りのソファーが4つ、巨木をまるまるくり貫いて作ったと思われるテーブルをはさむ形で、向かい合わせに設置されている。
俺は、その場に商品を置き、相手に勧められるまま、そのソファーに腰かける。
「まずは、自己紹介しようかのう。俺はセイヤ・チバラギという。この国の国民ではない貴方には陛下という敬称はいらぬ。単にセイヤと呼んでくれればいいのう。」
「あ、はい、セイヤさんですか。俺は、先程申し上げましたが、山田トムといいます。よろしくお願いします。」
状況が全く掴めない俺は、とりあえず愛想よく答える。とんでもない状況というのは解かるのだが、とにかくこれ以上、状況は悪くなるのは困るのだ。
・・・・・・・・
陛下が言うには、ここはチバラギ王国という国の王宮で、横にいる女性は王妃だそうだ。結婚して3年が経つにもかかわらず、子供ができる様子もないそうだ。
そんな状況で彼女を愛しているにも関わらず、この国の王族の血縁にだけ現れる召喚魔法の担い手は陛下ただ一人という状況であるため、現在では臣下から側室を後宮に入れる申し込みが殺到しているそうだ。
一年以内に彼女に子供が出来なければ、側室を迎えると約束させられたそうだ。陛下は子作りできない体質なのではと一計を案じ、彼女に自分以外の王族との子供を密かに作ってもらいたいという。その白羽の矢が立ったのが俺ということらしい。
「と、いうわけだ。わかって頂けたかのう。」
「いやいや、それは無い。無いですよ。俺が王族ですか?そんなこと聞いたことが無い・・・。」
そう口では言ってみたものの、外の風景やセイヤの顔になにかしらの懐かしさ、いや、昔見た夢の風景に酷似していることに気付き愕然とした。
俺は、ここを知っている・・・。
ここまで読んで頂きましてありがとうございます。
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