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DistancE-KANA  作者: 蒼原悠
第六章 distance
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episode54 「墜落してたまるか!」



「……よし、これで少しは止血出来たな」

肩に巻かれた白い布を引っ張って固く縛ると、雄介は訊ねる。「痛くない?」

「うん。これならなんとか、耐えられる」

頷くと、雄介はまた布の切れ端を手に取った。破れたカーテンの残骸が部屋の中に残っていたので包帯代わりに使ってみたら、意外としっかりした素材で出来ている事が分かったのだ。

「……あとは、その脇腹の傷だけだな」

呟くと雄介は力を込めてカーテンを引き裂き、手頃な長さにする。それを、床に座り込んだ佳奈の腹に巻いた。

「苦しかったら言って。俺、こういうのあんまり経験ないから手加減が出来なくてさ」

「ううん、大丈夫。痛くも苦しくもないよ」

ギュッと縛ると、雄介は佳奈に手を差し伸べた。「どう、立てるか?」

小さく、首は縦に振られた。幽かながらも光を取り戻したその目に、僅かに安堵を覚える。

「次は、あの高さをどうにかする事だな。瓦礫を積み上げたらどうにかなるかもしれない」

言いつつ、本棚に近寄る雄介。崩れた木材の塊を手に取って穴に放り込むと、割とすぐに落下音が聞こえてきた。しめた、そんなに落差はなさそうだ。

「俺が先に行ってみる」

うん、という佳奈の返事を聞くと、雄介は穴の中へ飛び込んだ。穴から下まで二メートルと少しか、

「痛ぇっ!」

しこたま腰をぶつけ、激痛が染み渡る。「大丈夫!?」と佳奈が叫ぶのが聞こえた。

「だ、大丈夫だ問題ない……。カナ、こっち来て。俺の肩に足を乗せて」

よろよろと立ち上がり穴の上を見ると、心配そうな佳奈の顔が覗き込んでいた。

「痛そうだったよ……。無理しないで」

「いいから」そう返し、雄介はしゃんと背を伸ばす。穴の縁を掴んだ佳奈の足が、その肩に乗る。あ、意外に軽い。

それでも人間である。重いことは重い。「……下ろすぞ」と震える声を掛けながら、雄介はゆっくりとしゃがんだ。一メートルほどに近づいた地面に、佳奈が飛び降りる。

「~~~~っ!」

「だっ……大丈夫か!?どっか痛めた!?」

肩を押さえる、佳奈。ついさっき巻いたばかりのカーテンにはもう、少し血が滲んでいた。

「……だい……丈夫。歩けるよ」

長い溜めが気になったが、雄介は頷いた。「この階のダメージはあんまり凄くなさそうだ。どっかに階段があるかもしれない。そっから一階に下りよう」

「あれ、階段だった跡じゃないかな……」

佳奈の指差す先に、階段の手摺のような金属部品が横たわっていた。

「かもしれない。行ってみよう」

そう言うと、雄介は佳奈の肩をしっかりと掴んだ。そして、二人三脚のようにして足を踏み出す。歩みこそ遅いけれど、これなら二人一緒だ。

力をこめた拳を左手に握り、雄介は一歩また一歩と進んでいった。



風が、強くなってきた。燃え上がる炎に煽られるように、ヘリは左右に揺れる。

「参ったな……こう視界が悪いと着陸が難しいぞ……」

機長のぼやきに、泉は反応する。「出来るだけ、建物に近づけてくれませんか。倒壊が始まっているみたいです、急がないと助かる命も助からない」

「それは分かってます」

イライラ声で応えたのは、隣の副操縦士だ。「我々も、長くドクターヘリの操縦に携わっているんですから。ですが、」

「言うな、中原」

横で機長が唸る。「オプションの放水銃を持ってきてただろう。あれの準備をしろ。いざという時、すぐに使えるように」

しぶしぶ、副操縦士は頷いた。それを見て基調は一瞬、泉たち救急隊員を振り返った。

「精一杯近づけてみよう。ただ、安全に離陸できる保証はない」

「我々は、大丈夫です」

泉の言葉に一様に頷く救急隊の面々。「よしっ!」と機長が前を向いた、

瞬間だった。


ガッ!バリバリッ!

不吉な音が頭上から降ってきたのだ。「何だあの音!」と怒鳴る機長の横で、警報が鳴り始める。それは、ヘリのローターの出力低下を示す警告(ハザード)……。

「何か巻き込んだみたいです!」

副操縦士の声を掻き消すように再び悲鳴のような破断音が響き渡り、ヘリの高度がゆっくりと下がり始めた。「姿勢制御ローター(テール)は正常か!?」という機長の渾身の絶叫さえ、飲み込むほどの騒音を立てながら。

「テールは無事です!ですが不時着には建物が近すぎます!」

「着陸を強行する!墜落してたまるか!」

有無を言わさぬ機長。副操縦士も堅い顔で、操縦捍を握る。

「安心しろ!」後ろを振り返り、機長は豪快に笑った。「中原(こいつ)は扱いは難しいが、操縦の腕は俺より(・・・・)だ!しっかり手摺に掴まってろ、不時着するぞ!」

固い表情で、隊員たちは首を縦に振った。


刹那。

ドンガシャァ――――ンッ!!

凄まじい音とともに、衝撃がヘリ内を暴れまわった。

すぐそばの壁に後頭部をぶつけた泉の視界に、身の毛もよだつような光景が入る。

ヘリの長いローターが図書館の壁にめり込み、動きが止まっていた。十メートル上空で宙ぶらりんのまま、機体は少しずつ折れ曲がろうとしているではないか。

「…………ヤバい」

呟いたのは、機長か。


万事休す、だった。





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