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DistancE-KANA  作者: 蒼原悠
第二章 distress――春怨――
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episode12 「真相は闇の中って事ですか!?」

「えっ!?捜査本部、解散するんですか!?」

[湘南中学高等学校爆破事件捜査本部]と書かれた扉の脇で、驚きのあまり磯子は甲高い声で叫んだ。正直ビビった。まだ俺、こんな声出るのか。

「ああ、決定だそうだ」

青葉が缶コーヒーを持ってない方の手を、がなる部下の肩に乗せる。「あんまり証拠も何も少なくて、捜査が全く進展しないからな。だいたい、あのPWWSのデータで迷宮入りは確実になっちまったしな」

「本当にあれからは何も分からないんですか?」

なおも食い下がる磯子。この上司に食い下がったところで別にどうこうなる訳ではないけれど、このまま大人しく引き下がるのも癪に思えた。

だが、青葉は首をすくめる。「全くな。こと犯人の逃走経路に限って言っても、犯行現場付近の監視カメラには誰も映ってない、テレポートして逃げたという線も無さそうとあっちゃ……」

「どうしてそう言えるんです?」

「簡単だ」青葉は一枚の地図を広げる。それは、あの日送られてきたPWWSのデータだった。

瞬間移動(テレポート)には、出発点と到着点の二ヶ所で同時にψ線が観測されるっていう法則があるそうだ。よく見てみろ。図の中でψ線の発生場所は赤い丸、その下の数列は観測された時刻。校舎にかぶっている丸は大きいのが二つだ。だがどっちも他の観測ポイントと時間が違うだろ」

……言われてみれば、納得するしかなかった。疎らに散らばる他のどのポイントとも、その二つは時間帯そのものが違う。テレポートして逃げたというのは、確かにあり得ない。それは認めざるを得ないだろう。

「あるいは外部からの攻撃も考えられたが、鉄筋コンクリートの建物をあんなに破壊するとなるとかなりの電磁波が観測される。こんな小さな丸じゃ、まず有り得ない。だから、外部からの狙撃も考えられない」

確実に知りたい所を突いてくる青葉。返事に困ったあまり磯子は、

「……じゃあ、真相は闇の中って事ですか!?」

逆ギレしていた。

「いや、完全犯罪じゃあるまいし、別にそういうわけじゃないだろうけどな」地図を丸めつつ、青葉はため息を吐いた。

「今の科学は、超能力に対して完全に立ち後れている。俺たち警察じゃ、解決できない事件だってもちろんあるさ。現に、前回俺が超能力犯罪の調査──確か窃盗未遂だったと思うが──をした時は、結局お蔵入りになった。そんなもんなんだよ、超能力犯罪ってのは。確かにお前の言う通り、闇の中なのかもしれん」


その声には、悲哀さえ混じっていたように思える。反論出来なくなって、磯子は後ろを向いて少し上を見上げる青葉の皺の寄った背広を睨むしかなかった。

きっと、青葉にも色々と葛藤があったのだろうと思う。彼は、もう何度もこういう事件に立ち向かっては、挫折を味わってきたのだろう。だからこそ、超能力犯罪の調査の困難さを知っているし、それを後輩に伝えようとしてくれているのだろう。

草臥れた背広を前に何と声をかけたらよいのか、磯子には分からなかった。冷たいため息を、感じるしかなかった。


或いは、このまま超能力なんてない世界に行けたら。

一瞬、本気でそう思った。


だが───

「俺は嫌です」

磯子は、すっくと立ち上がる。このままなし崩しなんて事が、あってたまるか。それは、警察が犯罪者に敗北を認めるのと同じだ。それに、────いや、今はそれはいい。

青葉がこちらを振り返る。背の高さ的に、磯子が見下ろす形だ。

「俺は捜査をやめません。先輩方が捜査しないのなら、それでもいいです。俺だけでもこの事件を解決してみせます」

呆気に取られている青葉に一言一言叩きつけるようにそう言い残すと、磯子は大股でそこを後にした。

──アテはない。けれど、とにかく動くしかない。俺だけでも出来ることはきっとあるはずだ。

「──っておい、勝手な真似はするな!」

慌てて投げかけられた先輩の言葉を完全に無視し、磯子は曲がり角の向こうへ消えていった。



……後に残された青葉はしばらく唖然としていたが、やがて目を細めて磯子の去った先を眺めた。

まだほんのりと温かい缶コーヒーを片手に、思う。

(──まだあいつは、若い。本当にヤバい捜査は、もっともっと泥沼化する事の方が多いんだ。特に、超能力犯罪はな)

目をつぶって、嘆息する。

(だけど昔は俺も、あれくらい正義感に溢れて行動出来たもんだがな。上司の言うことを聞かずにしょっちゅう暴走してたっけ)

磯子の背中は、かつての自分にそっくりだった。だからこそ、心配になるのだ。だからこそ。


自分みたいに、なってほしくなかったから。


(……いつから、俺はこんな風になっちまったんだろう)

缶コーヒーの残りを一気に飲み干すと、青葉もそこを立ち去った。

舌先に残った後味が、苦かった。



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