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幕間。ある侍女の日記

幕間小話、日記形式です。

某月某日

 戦争が終わった。

 白の国から王族の姫が嫁いでくるらしい。それが、終戦の条件なんだって。

 あの憎き白の国の人間を、城に入れるというのか。想像しただけで腸が煮えくり返る。姿を実際に見れば、思わず暴力に訴えてしまいそうだ。けれど、私は優秀な侍女。せめて冷ややかな視線を送るだけにしよう……。

 とか、思っている侍女はどれくらい居るんだろう。

 基本的に、私はそう思っていなんかいない。たぶん、仕事仲間も、あんまり思っていないと思う。

 だって、戦争が終わったんだよ?

 もう戦わなくていいんだよ?

 お父さんや許嫁が死ななくてもいいんだよ?

 戦いなんて、男が勝手に大きくして、私はあんまり戦うことが好きじゃないし。戦争になれば好きなお菓子を食べるのだってはばかられる。お国のために我慢しましょう、なんて、嫌だ。

 だから、終戦バンザイ。

 この際、白の国の姫様だって、受け入れちゃうよ!!

 ……でも、王様はそんな感じじゃない。

 姫様をいじめ倒して、最悪、兵士さん達に嬲りものにさせるって……ウワサ。

 だから、私も同僚も、決して姫様に近づかないようにしなければならないんだって!

 もし姫様と仲良くなって、その姫さまが王妃の座を追われたら? 新しい本当の正妃様に目をつけられるかもしれない。兵たちに嬲りものにされた姫と仲の良い侍女は……、同じように仲間とみなされ嬲りものにされるかもって、ウワサになってる。

 それは、怖い。


某月某日

 キタキタキタ!

 姫様が来たよ!!

 もうね、びっくり。大衆小説に書かれているような、見るからに上品でしとやかな姫様が来たんだよ。白の国の人は、色白で華奢だ。その頂点に立つ女性なんだから、繊細で当たり前なんだ。黒の一族は、浅黒い肌だしみんな大柄だし、正直、王族の姫様達は強くて怖いって印象。だからか、あの姫さまこそ姫さまって感じだ。

 でも、王様は姫さまのこと気に入らなかったみたい。また、ひどい仕打ちをしたって、ウワサが流れてる。

 それに、王様の従姉妹のカタリーナ様が荒れに荒れている。

 もしあと数年王様が結婚相手を探さなければ、きっと正妃になっていたカタリーナ様。

 だから、もう、侍女は大変。

 あんなはかなげな美少女の姫さまに石を投げろって、命令された侍女も居るみたい。

 カタリーナ様は、それでも満足せずに、ヘレーナ様に水をかけてた……。

 正直、引いたわ。

 典型的な悪役。

 戦争が終わって、大好きな大衆小説が読めるようになって、気づいた。ヘレーナ様は、大衆小説の中のヒロインみたいな立場なんだって。だって、敵国に嫁いできたんだよ? しかも、はかなげで美しいんだよ。

 一つ残念なのは、王様がヘレーナ様を愛していないことかな。

 小説の中なら、ヒロインは王様に愛されて守られて大切にされるのに。

 やっぱり、小説みたいなことって、ないんだと思う。


某月某日

 日記を書くのも辛い。

 ヘレーナ様がお怪我をして、そのことで嫌なウワサが流れてる。

 もう王様はヘレーナ様に飽きて、兵士さん達に王女様を陵辱させるって……。

 見たくないよ。

 そんなの、この城で見たくない。

 ウワサを知っているのか、ヘレーナ様は最近ますますやつれてきた。たぶん……だけど、ヘレーナ様にわざとウワサを流している侍女が居るんだわ。

 あーあ。

 なんかもう、辛い。

 せっかく戦争が終わったのに。やになっちゃうよ。


某月某日

 王様が新しいことをはじめた。

 ヘレーナ様に侍女の服を着せて見世物にしてる。

 なんかもう、戦争中は凛々しいお姿に見惚れた王様が、今は汚らわしい怪物に見えてきたよ。

 ヘレーナ様の普段着は、全て破かれて捨てられている。白の国から持ってきたものも、この城に来て支給されたものも全部だ! カタリーナ様を支持する侍女のシワザだ。だから、急にヘレーナ様の服を持って来いなんて言われても、ないの!! 遠まわしに、服がないから王様が何とかしてくれって、言ってみたけれど……。王様は、下着姿のヘレーナ様を想像して笑っただけだった。

 結局、ヘレーナ様には侍女の服を渡すしかなかった。王族の姫として、これはものすごーーーーく、屈辱だと思うの。でも、ヘレーナ様は文句を言えないお立場で……。

 しかも、王様が満足そうな表情を浮かべているから始末に悪い。

 王妃様のあんなお姿を見て、喜ぶ侍女なんてほとんどいないよ?

 王様のバカバカ!!

 でも、カタリーナ様は、かなり溜飲が下がったみたい。自分はお高いドレスで着飾って、ニヤニヤ王妃様を笑って見てた。

 あー!! もうもう、王様のバカバカ!!


某月某日

 よくわからないことになってきた。

 なんと、正妃様に取っておいた最上級の部屋にヘレーナ様が移動した。王様が、指示したんだって。

 どういうこと?

 あの部屋は、王様の部屋の次にお金がかかっている。大臣さん達でさえ、おいそれと中に入れる部屋じゃない。

 それを、ヘレーナ様のために使うって。

 王様は、ヘレーナ様をいじめ倒そうとしていたんじゃないの? それとも、もしかして王様はヘレーナ様のことを……好きに?!

 まさに、小説みたいだ!!

 私はそうだったらいいのにと思う。

 他の同僚たちだって、もうヘレーナ様に辛く当たるのにつかれているんだから。

 だって、あんな愛らしい微笑みを、向けてくれるんだよ?

 食事を運ぶだけで、ありがとうって、言ってくれるんだよ?

 そうそう。

 最近、ヘレーナ様の食事は王様とご一緒だ。今までヘレーナ様の食事は一日二食、粗末なパンと液体だけのスープだったのにね。

 とにかく、王様がヘレーナ様のことを好きになったのなら、もうヘレーナ様をお払い箱にしないよね? だったら、きちんとヘレーナ様にお仕えしてもいいんじゃないのかな?


 でも、カタリーナ様が……。

 正妃様の部屋の前で、般若の形相で、佇んでいらっしゃるのを見てしまったの。

 怖すぎるんですけど。

 だって、あの部屋はいずれ自分が住むことになるって公言されていたんですもの。

 いや、もう、本当に、怖すぎるよ……!

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