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 ワルターは暗い場所に居た。

 一人きりだ。

 何故か?

 それは、自分が裁きの間で攻撃を受けたからだ。

 何故この場所に留まるのか?

 それは、非常に不本意だが、出ることができないからだ。

「っくそ」

 何度悪態をついただろうか。

 手の先から黒の波動を生み出し、周囲に放出してみる。これも、何度も試した手段だ。

 しかし、ワルターの力は闇の中に吸収されてしまうばかりだった。

 放出する力の波動が少しずつ弱まっているのは、きっと気のせいではない。

 では、おとなしくここにいればいいのだろうか?

 しかし、この状況が変化する保証はどこにもない。誰かが助けに来てくれるか、それとも……、自分の命が尽きるのか。

「……、くそ」

 思わず、弱々しい声が出る。

 はっとして、ワルターは上を向いた。

 見上げた上も、勿論闇だけれど……。

 嫌なことばかりを考えてはいけない。

 弱気になってはいけない。

 ワルターは首を横に振り、別のことを考える。

(ヘレーナ……)

 ヘレーナは、今どうしているのだろうか?

 少しは自分のことを心配してくれているのか。

 それとも、これ幸いと白の国に帰ってしまったか。

(いや、それはない)

 ヘレーナは黒の国の王妃として、しっかりと自分に寄り添ってくれたと思う。

「……ヘレーナ」

 名前を呼ぶ時には、いつも威圧的になってしまったけれど、本当は親しみを込めて、呼びたかった。

「はい……」

 ありえない声が聞こえる。

 ワルターは、思考を中断し身構えた。

 突然目の前が白く光る。

 眩しいわけではなくただ白い光が、闇の中に生まれた。

 やがて小さな白い光が膨れ上がり、人の形を作る。

「は、……、ワルター、様」

 静かな、美しい声。

 ワルターの目の前に、ヘレーナが現れたのだ。

「馬鹿な……。惑わす幻覚か?」

 二人の距離は近い。

 だが、ワルターは警戒したまま相手を睨みつけた。

「……ワルター様、……お手を」

 ヘレーナはワルターの様子に構うことなく、片手を差し出してきた。

 その仕草が、見知っているヘレーナのものと確信が持てない。ワルターの目の前に現れたヘレーナは、いつになく強引で表情が険しい。

 警戒しつつ、ワルターは手を伸ばした。

 例え罠だとしても、ヘレーナをはねのけることなど、もう自分には出来ないのだと思う。

 手と手が触れ、何らかのイメージが伝わってきた。

「探すのに、時間が……かかってしまって……。どうか、この、術を……」

 苦しそうなヘレーナの声を聞き、はっと顔を上げる。

「どうした?! お前、透けて……っ」

 思わず、ヘレーナの腕をきつく掴んだ。しかし、ヘレーナの身体は頼りなげに揺らぎ、どんどん透けていってしまう。

「ワルター様、どうか、戻ってきて……」

 ヘレーナの言葉が、頭に入ってこない。

 ワルターは、混乱しながら必死にヘレーナを呼んだ。

「ま、待て! ヘレーナ、ヘレーナっ」

 しかし、どんなに名前を叫んでも、ヘレーナの身体は透けるのを止めない。それどころか、ついにはヘレーナの表情を見ることも困難になってきた。

「ヘレーナっ」

 ワルターの叫び声が、暗い場所にこだまする。

「行くな、ヘレーナ」

 何とかして、この状況を打破しなければ。

 こんな所で、こんな暗い場所で、留まっている場合ではない。不意にヘレーナから受け渡されたイメージが頭の中で弾けた。

「お、おぉぉぉ、あ、あああ」

 内側から、ありったけの力を開放する。

 状況確認、術式確認、現状打破、攻撃。

「消え去れ、下賎な呪いがっ。俺を誰だと思っているのか」

 確信を持って、術を消し去る。

「ヘレーナっ」

 辺りから、自分を束縛する術が消えていくのを感じた。

 急いで振り返り、ヘレーナの姿を探す。

 だが、真っ先に抱きしめたい、妻の姿はすでにここにはなく。

「行くな、ヘレーナ。お前のことを愛しているんだっ」

 ワルターの絶叫は、崩壊する術式に飲み込まれていった。

更新が大変遅れてしまい申し訳ありません。

物語が終わるまで、少しずつでも更新していくよう頑張ります。

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