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るり色の夏  作者: 水羽香
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初夏

今はどこだろうか…

不意に思い、萩野京香はぎのきょうかは読んでいたカタログ雑誌を閉じ、配布されたジュースに手を延ばしながら前のテレビ画面に映り出されている日本地図を見た。飛行機はまだ四国あたりを飛んでいた。

京香はため息を漏らす。そして今度はもう雑誌には手を伸ばさずにそのまま目を閉じた。


この一週間は本当に様々なことが起こった。とは言え、両親の言い争いがいつもより大きくなっただけの話だ。

もともと京香の父・萩野宗介はぎのそうすけは大手商品会社の社員であったが、課長が定年退職で会社を辞め、三ヶ月程前からその座に就いている。

日頃からかなりの仕事人間であり、その仕事に対する熱心さが買われたらしい。

しかし、家庭内では宗介のそのあまりの仕事人間ぶりを、当たり前ではあるが快く思っていなかった。宗介は自営業でもないのに夜は11時以降に帰ってくる。その上、お付き合いで飲んで来るため家に帰ると機嫌が悪く、妻・萩野稜子はぎのりょうこに暴力を振るう。少し前まではそこで兄・萩野和博はぎのかずひろが二人をとめに入っていたのだが、彼はこの春から近畿にある大学へ進学しているため今は京香のほかに家庭平和を保てるひとはいなかった。

しかし、高校二年生の京香に宗介を止めるのは到底無理な話であり、結局とめられないまま部屋に引きこもるのが常だった。そこで宗介の非道な暴力に耐えかねた綾子が、いままでにも何度か最後の切り札として視野にいれてきた『離婚』を宗介に切り出したのであった。

宗介は勿論認めず、そこで綾子は京香をつれて山口県萩市にある実家に帰ることにしたのである。宗介と和博はそのことを知らない。綾子が居場所を特定させないためにわざわざ言わなかったのである。


私たちなんていなくても、仕事はいくらでも出来るでしょ。寧ろいないほうが仕事がしやすいんじゃないの?


離婚話を持ち出した夜、綾子が確かにこういったのを京香は覚えている。いつもはどんな時でも冷静さを持ち続け、自分の感情をコントロールしながら話をする綾子が、珍しくあの夜は感情的になっていた。

京香は閉じていた眼を再び開けて右隣を見た。綾子は眠っていた。毎日朝は早く起き、夜は宗介が帰ってくるまで起きていたのだから、疲れているのだろう。帰ってくる前に寝てしまえばいいのに、と思うが、綾子がそういった人間でないことを京香は誰よりも知っていた。

綾子はかなり献身的な妻であり、人であった。少し古臭い考え方の持ち主であり、酒癖の悪い宗介にどんなことをされても一応は男の人を立てるのが筋である、と思っていた。却ってそれが、酔って帰ってきた宗介がとりあえず文句をつける都合のいい空間となってしまったのかもしれない。

どちらにせよ、宗介の生活ライフスタイルはどうしても綾子には合わなかったのである。

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