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魔法のハンガー

作者: WAIai
掲載日:2026/10/31

大学の更衣室に2人の女性がいた。

1人は金田あかねといい、黒のリュックを持っている。

もう1人は花山麗といい、バッグをさげていた。

「お腹、空いたー!! 先に麗の魔法のパン、ちょうだい」

「しょうがないな。あたしも食べようかな」

2人は更衣室の床に座り込むと、冷たかった。

まるで氷のようで、ひんやりとする。

ー女は身体を冷やしちゃいけないんだけど。

あかねは尻を気にしていると、麗がバッグからクロワッサンを出してくる。

「はい、1個」

「ありがとう。ーあむ」

大きくかぶりつくと、バターの甘味とサクッとした食感に、止まらなくなる。

あっという間に食べてしまうと、お腹がいっぱいだった。

「速いよ、食べるのが」

「だってお腹が空いていたから」

あかねは恥ずかしそうに、頬を染める。

あかねの家は6人家族で、急がないとなくなるという環境のせいもあった。

麗はゆっくり食べるタイプで、小さな花びらを思わせる唇を開ける。

「うん、美味しい」

「何点ですか?」

「100点満点」

ふふと2人は笑うと、麗が食事を終えるのを待つ。

彼女とは大学で知り合ったのだが、初めは魔法のパンとは知らず、もらったのだった。

1個、食べれば満腹。

そんなものがあるのかと、驚いたのを覚えている。

あかねは冷えた脚を擦ると、パンを食べている麗に聞く。

「明人とはどうなっているの?」

「え? 明人とは順調だよ」

「そうなの? それならいいけれど」

あかねは麗を凝視する。

今日は水色とピンクのワンピースで、可愛い娘だった。

髪も綺麗にまとめており、もてるのだが、中村明人という恋人がいるのだった。

「どこがいいの?」

興味津々で聞くと、麗はパンの残りを口に全部を入れ、恥ずかしそうに答える。

「明るいところ。あと、あたしがいないと駄目なところ」

「えー。それって、親みたいじゃん!! 他にもあるでしょ?」

あかねは麗を肘でつつくと、彼女は真っ赤な顔となる。

「手を繋いだり、スキンシップが多いのが嬉しい」

「そうなんだ。羨ましい」

麗はあかねの本音を引き出せて満足すると、リュックを前に出す。

「次はあたしの番。えっと…」

リュックをあさると、折りたたみ式のハンガーを取り出す。

あかねはそれを広げ、形を整えると、軽く1回振る。

すると「わあ」と麗が驚きの声を上げる。

ハンガーに可愛い黄色のワンピースが現れたのである。

「これ、パンのお礼。あげる」

「い、いいの? 魔法のハンガー、滅多に使わないのに」

「いいの。飽きたら返してくれればいいから。そうすれば、あたしが消すし」

ハンガーをもう1度、振ると、黄色のワンピースが消える。

ハンガーは虹色をしており、あかねだけが使えるのだった。

「どうする? まだ他にも見てみる?」

「うん!! 見たい!!」

床に手をついて身を乗り出した麗に、あかねはくすりと笑う。

ー女子は恋愛とファッションが好きだからな。話し始めたら止まらないもの。

あかねは今のところ恋人がおらず、フリーなのだが、魔法のハンガーのお陰で、いつもオシャレだった。

「どこで服を買っているの?」

とよく聞かれるのだが、絶対に秘密だった。

知っているのは、麗と明人くらいのものである。

「次は青色。…ほら、レースが綺麗でしょ?」

青空を意識した作りに、麗が手を伸ばしてくる。

「触ってもいい?」

「いいよ。麗だから」

麗が恐る恐る触ると、ワンピースを上から下まで、撫でていく。

「すごい。いつ見てもすごいね、魔法のハンガー」

「でしょ? あたしの唯一の自慢だもの」

あかねは自信満々に言い、胸を張る。

学業は麗のほうが上なのだが、オシャレだけは負ける気がしなかった。

ー人間、得意な技を持っていたほうが、いざという時に役に立つ。

大学を卒業したら、アパレル会社に就職しようか、それとも自分で会社をおこそうか迷っているほどだった。

ーだって、他人に盗まれたら嫌だから。

世界に1つしかないワンピースやドレス。

もちろん男性用も作ることができ、明人の服を作ったこともあった。

「もっと見せて、あかね」

「はいはい。もちろんですとも」

麗に頼られるのが嬉しくて、ハンガーを振っていく。

花柄、水玉など、色んなワンピースやスカートが出てくる。

「どれがいい? 気に入ったのを教えて」

自分のためにも、麗の意見を聞いておきたかった。

麗は顔の前で両手を合わせると、

「うーん、今、冬だから暖色系で。オレンジとか、赤色とか」

「オレンジ、いいかもしれない。何、ワンピース? それとも、別のものにする?」

「ワンピースがいい。その、明人に喜んで欲しいから」

顔を赤くして俯く麗は、可愛くてしょうがなかった。

ーもう、あたしじゃないと、この娘、言うことを聞かないんだから。

わがままを言わずに育ったのか、麗は控えめだった。

そこが気に入っており、色々と世話を焼きたくなるのだった。

「じゃあオレンジのワンピースね。ーはい」

あかねがハンガーを振るうと、オレンジの華やかなワンピースが現れる。

それは冬の寒さを吹き飛ばす太陽の光で作られた1点のようで、場が明るくなる。

「ほら、着てみて」

「う、うん。似合うかな?」

「似合うわよ。さあ、早く」

麗を急かすと、あかねはハンガーからワンピースを取り、彼女に渡す。

最初はもじもじ脱いでいた麗だが、あかねがじっと見ているせいか、急に慌ただしく着替え出す。

「ーどう? 似合う?」

「わあ、素敵!! ほら、鏡で見てみて」

手鏡を渡すと、麗が細かく見ていく。

みるみるうちに、顔が綻んでいき、嬉しそうな声を出す。

「ありがとう、あかね!!」

「うん!! じゃあ、早速、明人に見せに行こうか」

「え。あの、その、ちょっと恥ずかしい」

「恥ずかしがらないの。男性を喜ばすのは、女性の役割なんだから」

指を立てて麗の鼻を押すと、彼女が手鏡を返してきて、うなずく。

「うん。何て言うかな、明人?」

「さあ? 褒めてくれるのは間違いないけどね」

リュックにハンガーをしまうと、あかねは麗の手を取る。

「じゃあ、行きましょうか、お嬢様」

「も、もう!! 言い過ぎ!!」

あかねと麗は見合うと、あははと声を立てて笑う。

冷たかった床がいつの間にか、暖かく感じられ、春のような陽気を感じる。

2人は仲良く手を繋ぐと、更衣室から出たのだった。


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