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BL短編作品

ぬくもりが冷めない距離

作者: ゆうきぼし
掲載日:2026/05/04

ルクイユのおいしいごはんBL 参加作品です。

 大学時代からの親友である鮫島律と海道凪は、「気の置けない友達」として十年近く付き合っている。

 元々は同じ学生寮だったのがきっかけ。就職が決まり、寮から出る時に不動産屋でばったり顔を合わせてから、同じマンションへの引っ越しが決まった。たまたま駅近の安めの物件が二部屋空いていたのが理由で、深い意味はない。


 律は真面目で几帳面なサラリーマン、凪はフリーランスのイラストレーターで生活リズムが真逆だ。


 仕事が終わりスーパーで買いもの中の律に『腹減った』と書かれたメールが届く。

「またか。ったく、あいつまた朝から何も食ってないんじゃねえのか」

 律の予想はだいたい当たる。


 エレベーターに乗り、5階を押す。部屋の鍵をあけ、普段着に着替えると食材をもってまたエレベーターに乗る。今度は凪が住んでいる10階を押す。移動の合間に『今から行く』とメールを送れば『鍵はあけてある』の返信がすぐ届いた。


「不用心じゃないか。鍵は閉めとけよ」

「だって来てくれると思ってたからさ」

「ばーか。俺だって残業するときあるんだぜ」

「ん~?ごめん。気を付ける~」


 律はぶつぶつと文句を言いながらもキッチンに向かう。律が具材を切る横で、凪はカウンターに肘をついてぼんやりと見つめていた。

「そんなに見るなよ、好き嫌いは許さねえぞ」

「いやあ、いつもながら手際がいいなあって」

「料理が趣味でわるいかよ」

「ううん。めっちゃ嬉しいし、食費が助かる!」

「本音がでたな!家政婦雇え!」

「無理!金がない!」

 軽快な会話が弾む。そのうち美味そうな匂いと共に腹の虫が鳴るのもいつもどおりだ。  


「おお!美味そうなチキン南蛮!」

「冷めないうちに食え」

「うん!うめえ!外はカリッとしているのに、この噛んだ時の肉汁がじわっとにじみ出るのと南蛮の酸味が最高にあっている」

 凪の称賛にまんざらでもない顔をしながら律がみそ汁をよそう。湯気が立ち上る中、律がぽつりと「お前、飯作ってくれる彼女とかいねえのかよ?」と聞く。


 凪は箸を止めて「いると思うか?」と苦笑する。

「いや。わからねえ。お前は俺に隠すのが上手いから」

 実際に律と凪は、活動時間が合う事はない。その間、お互いが何をしているのかは干渉しない。もう子供じゃなく、いい歳をした大人でもある。プライバシーを尊重して当然だろう。

 

 すると凪は笑わず、熱い味噌汁を一口すすってからじっと律を見つめてきた。

「俺、律の作る味噌汁が一番好きだ。美味すぎるから、お前意外の飯が食えないんだ」

 その瞬間、律の胸の奥がきゅっとなる。これだから凪は厄介なんだ。人の心のやわらかい部分をつかんで離さない。今も昔も。律はずっと凪に囚われている。


「……嘘つけ。そういえば俺が喜んで飯作るって思ってるんだろ?」

 律がそう呟いた声は、自分でも驚くほど掠れていた。

「いや、これは本当」

 いつもの悪ふざけではなく、凪の目が真剣で、湯気の向こうの顔が妙に大人びて見えた。

「お前……変なこと言うなよ」

「ふふふ。まぬけな顔もかっこいいぞ~」

「なんだ冗談かよ!ほら、野菜も食え!」

「へいへい~。俺の作ったタルタルも食べてくれ~」

「何言ってるんだ。お前卵の皮向いただけだろうが!」


 食後、凪はソファでうとうとと眠りに落ち、律は毛布をかけてやりながら、食器を片付けにいく。

 

 学生時代から凪は目が離せない存在だった。飄々としているくせに、甘え上手で自然体。常に沈着冷静な律にとってはイレギュラーな存在だった。目を離せば何をするかわからない相手。だからこそ気になって仕方がない。何事にも囚われず、見栄を張らず、人と比較しない。そんな生き方や思考は律の中にはなかった。衝撃でありそんな人間が居るんだと感動したものだ。


 床に脱ぎ散らかしたシャツを洗濯機に放り投げる。リビングに散らかった資料をある程度まとめておく。あまり触りすぎると後から凪が困るだろう。本当は徹底的に掃除をしてやりたい。律の部屋は塵ひとつない。そういうところにも彼の性分が出ている。だがここは凪の部屋だ。彼の空間を壊したくはない。


 つかず離れずのこの距離が心地いいのに、もっと近づきたいと凪の寝顔をじっと見つめた。

 

◇◆◇◇◆◇


 律が自分の顔をじっと見つめている。まだ執着してくれているのかと思うと嬉しい。本当は料理も作ろうと思えばできる。5分も歩けばコンビニもあるし、駅前には飯屋もある。だが凪は律を呼ぶのだ。


 頭が固い律がそれがどういう意味かまでは理解していないのだろう。「品行方正」という熟語は律という男にぴったりな言葉だった。落ち着いているように見えてその間、頭の回転がはやく計算高い。常に成績も上位でライバルに囲まれている。良く息が出来ているなと凪は感心していた。


 そんな律が自分の前だけは本音をさらしだす姿が凪にはたまらない。男のくせに料理が好きだなんてと自分を卑下していた律に、何も食べてなくて死にそうだと告げた時の慌てっぷり。日頃の何事にも動じない様子など微塵もなく、小言を言いながらも自分のために料理する姿に凪の琴線が揺れた。

 素直に凪が美味いと言えば照れたような律の笑顔が可愛かった。こんな顔するんだと。他の奴には見せたくねえなと思ったことは内緒だ。


 独自の世界観をもつ凪には人にはわからないこだわりがある。空が見える窓と律がつくる料理だ。10階に住んでいるのも窓から空が見えるからだ。ただそれだけ。それと律が傍にいてくれれば何もいらない。


 凪が目を開けると律と視線がからまった。ほんのりと染まっていく律の頬をみながら思わず凪が告げる。


「このまま帰らず、ここに居ればいいのに」

「……生活時間が合わねえだろ。お前の睡眠時間を削りたくねえよ」

「俺、なんか律の顔見るとホッとするんだ」

「なんだよそれ」

「触れたいなって思ってさ」


 凪の手が律を捕らえた。


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凪と律が丁度いい
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