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滲む境界  作者: キシ
第二章

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9/15

4

「マジでなんなのさ。超ビックリしたんだけど」

 呼吸で生きているわけじゃないけど、首を絞められるとさすがに苦しい。重ねが逃げた先の屋上に寝っ転がって大の字になったまま文句を言う。

「ごめんなさい。つい……。怖くて」

 石から戻ったかさねがあやまる。

「そっかぁ。そりゃ無理だ」

 恐怖に従うのは生きるのに大切だ。

 かさねにとって霊術師より普通の人間の方が怖い。壊してしまうんじゃないかと思うって、力をコントロールできない巨人みたいなことを言う。まぁ、ホントに力を制御しきれていないんだけど。


 そんなかさねが逃げるきっかけになった制服らは生きているのか、死んでいるのか分からない。けど、巻き込まれた一般人ってとこだ。あんまり警戒しなくていいだろう。


「それでここで何す、る」

 言葉の途中でオレの腹に穴が空いた。人の手が刺さっている。下に何かいるみたい。手が引き抜かれると、オレを中心に屋上がちょっと壊れた。

 下の階へ落ちる。そこは廊下だった。


 人間と違って血を失いすぎて死ぬことはない。けど血を流すとお腹が空く。お腹が空きすぎると死んでしまう。


 薄暗い廊下に赤いリンゴが転がる。かさねが妖力で作ったものだ。

「これ食べていい?」

「あ、はい。どうぞ。でも全部は食べないでくださいね」

 妖力もアヤカシの食べ物の一つだ。リンゴを食べてケガを治そう。


 

 転がるリンゴよりもっと先にズボン型の制服を着たのがいる。暗くて顔が見えないが、外にいたヤツとは違う。アヤカシだ。

 ソイツは廊下の真ん中に立っていた。制服をビシッと着て、手から血を流している。オレのだ。コイツがオレを刺したヤツだ。

 血がついている方に身体を傾けて立っている。

「おうおう、何見ているんじゃい。ジロジロ見ているとボコボコにするよ、かさね様がね」

「アズマ君やめてよ……」


 オレの血は妖力でできている。アヤカシが血に触れている所からケムリが出たけど、線香花火みたいなものだ。すぐに消えた。

「少し下がってください」

 治った腕を横に振るう。ツタみたいに伸びた腕が窓ガラスを割っていく。それがかさねに届く前に傘に触れ、切り落とされた。

「おー、さすがかさね様。ありがと」


 切られたとこから血は出ない。人間の姿をしているのは外側だけだ。行き場を失った妖力がボタボタ落ちる。

 ケガを気にすることなく、同じことを繰り返す。ヨコだけじゃなくて、タテにナナメ。腕一本から二本へ。バリエーションが増えていく。

 このくらいならオレはともかく、かさねがやられることはない。ここでのオレの仕事は流れ弾をくらわないことだ。


 リンゴの網を抜けて、ちぎれた腕が足元に転がってきた。

 動き出すんじゃないか。つついてみたけど何もない。つかんでみた。グニャンと曲がる。

「ヘビみたい。変なの」

「え、あっ。ケガはないですか、危ないですよ」

「ヘーキ、ヘイキ」

 手が一回溶けるぐらいは覚悟してたけど、霊気よりちょびっとイタイぐらいだ。これなら食べれる。


 弱いオレより、もっと抵抗が弱い。自我がうすい、生まれたばかりなのかな。

 霊気がたくさんある所で生まれたばかり。もしかして孔が空いているのか。

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