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校内は水没。校外は人、車、犬、木々でさえ動きを止め、時間が停止しているのかのような状態。
実は全て夢なのではないか。目に入る光景に、またもやあ然としていると
「カイト君危ないっ」
まひるの声と共に腕を引っ張られた。
「ぐへぇ」
突然のことで変な声が出る。そして抗議をするより先に、俺がいた場所へ黒い塊が叩きつけられた。
カラスの羽のように真っ黒い、ヘドロ状の塊を無理やり人体に置き換えると、それは腕だった。プスプスと音をさせ、泡を吹き出しながら液体を吸収する。全体は自動車ほどの大きさだ。さっきは先生方の車と並んでいて気が付かなかったのかもしれない。――なんてバカなことを考えた。
「とりあえず逃げよう」
呆けて棒立ちになっていた俺をまひるが引っ張り現実に戻す。
正門と横並びになり、校内と校外を分けるフェンスに沿って走る。先導するまひるに付いて行く形になったという理由もあるが、木々やプールなど障害物が多いので撒けることに期待したのだ。
前だけを見てがむしゃらに走る。その間、ものが壊される音はしなかった。ビタビタと湿り気のある音が追いかけてくる。
プールの裏は落ち葉が溜まっており、どうしても移動スピードは落ちる。
焦れったさから安心を得るために後ろを振り返り、すぐに後悔した。フェンスとプールの壁の間を完全に塞ぐように黒い塊はそこにいた。壊れる音がしなかったのは当たり前だ。障害物に合わせ形を変えればいいのだから。
わざと俺達に追いつこうとせず、ビタビタと嘲笑う。そんな怪物に見えた。
プールを抜けると別の建物が現れた。部室棟の一つだっただろうか。まだ校内を把握しきれていない。ひとまず目の前の建物もプールと同じく通り抜けようとして、背後から音がした。硬いものが壊れたような、大きな音だった。それどころでないと分かっていながらも、足を止め振り返らずにはいられない。
追跡者はいなくなっていた。
怪物の代わりに人が二ついた。
紫の着物に真っ黒な傘を差した黒髪の女性。
彼女に付き従うように傍らに立つ小学校高学年ほどの男児。
尋ねずとも破壊を行った張本人だと理解できる。二人は壊れたプールと潰れた怪物の上に立ち、こちらを見つめている。




