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滲む境界  作者: キシ
第一章

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2/4

  空から美少女が降ってくるというのは、なかなかにドラマティックで物語の始まりとして良いと思う。ただし俺は仮に主演という大役を得るにしても、受け止める役職に就きたくはなかった。


 それは正門から近いの第一校舎を通り過ぎた後だった。固定された視界の中で、何もない空間から突如として人が出現した。

 一瞬の出来事だというのにその姿は鮮明に脳に焼き付いた。


 高校の制服を身にまとった少女はショート丈の髪を、これは勘だが、金髪に染めていた。俺が言える立場でないが、中学生のような幼い顔つきだ。その顔は驚いた表情をして、すぐに覚悟を決めたように固く目を閉じる。身を守るために胸の前にやったと思われる手は何かを握りしめていた。


 その人物は重力に従い、落ちる。着地点となった俺は王子様の目覚めの口付けならぬ、お姫様の飛び蹴りを食らう。俺を運んでいた存在と液体のおかげで頭を地面にぶつけることはなかったが、痛みで転げまわる羽目になった。


 

 ブクブクと身体が沈む。

 液体はやはり水ではなかった。混乱し、しばらく溺れかけていたのだが途中で気が付いた。液体の中で呼吸ができるのだ。目の前にあり、触れているというのに無いという結果だけが出力される感覚。

 そして起き上がると液体に浸かっていた制服は濡れていない。裾を絞ってみても水滴は落ちてこない。濡れた制服を着ずに済むのは幸運だが、総じて気味が悪い。


 想像通り校内は水浸しになっていた。立ってみると、くるぶしより上ほどの水位だ。一体何トン分だろうか。忘れようとしていた不安がせりあがってくる。


 

 俺を運んでいた謎の存在は、六十センチほどの四角い被り物に着物を身に着けた全身真っ白な二人組だった。

 二人組とまとめることができるように、人と同じく腕と足が二つと、頭と思われるものが一つある。小さい、それこそ幼児ほどの大きさだが人間であると単純に思えない、無機質な白さでできていた。

 俺を運ぶのに二人がかりであっただけで、謎の存在は複数体活動している。同じように一人に対してペアを作り、生徒や教師を運ぶ。外にいた人達だけでなく、校舎から運び出されている場合もある。それらは皆大まかに列をなし、第二校舎へ向かっていく。

 蟻の行列のようだと思った。自由気ままに、されど明確なルールに従い動く。やはり運ばれている人達は彼らにとっての餌なのだろうか。――本当に悲観的になってしまう。


 落ちてきた少女とぶつかった影響で、俺を運ぶ二人組は気絶したのか動かなくなっていた。自由になると痛みのおかげか妙な眠気も消えている。

 謎の存在は決められた動きしかできないロボットのごとく、イレギュラーとかしたこちらを無視していた。そして謎の存在Xエックスズと同じく謎の、空から落ちてくる系不思議少女は液体に溺れている。


 少女は液体に沈みパニックになったようで、服装の乱れを気にすることなくができずに暴れまわる。

 本人からすると命がかかっており必死なのだが、ここは水深が浅く液体が口を覆えど呼吸に問題ないはずだ。必死になりすぎて気がついていないようだ。端から見ていると、陸に乗り込んできた金魚のようであった。


 自分より混乱している人を見ると、一周回って落ち着き冷静になる。


 ここまで騒がしいと、謎の存在Xが流石に介入してくるのではないか。何が起きているのか全く把握できていないが、ひとまずこの場から離れたほうがいい。そう考え、逃げることにした。

 数歩、歩みを進めて考え直す。そして暴れる腕を掴んだ。


 謎の存在Xから解放されるきっかけとなった恩はもちろんのこと、クッションにされた恨みはある。そして何より怪しい存在だ。空中には何もなかった。無から出現したのだ。この意味不明な状況に関わりがないとは言えない。

 怪しい、けれどそれよりもバカバカしいほどの人間らしさの塊だった。外見も、焦っている様子も。

 だから同じように沈んでいる謎の存在よりも手を差し伸べたいと思ったのだ。


 運ばれている生徒と何度もすれ違う。生きているのか確認しに駆け寄りたかった。友人が無事か、探し回りたかった。けれど俺はヒーローではない。一人の手を引いて歩くだけで、手一杯だった。

 通り過ぎていく人達の顔を見ることができなかった。

 手のひらに伝わる温かさがなければ燃料はとっくにつき、動けなくなるところだった。

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