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滲む境界  作者: キシ
第三章

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17/22

6

 借りたスマホで初めて自分の顔を見た。

 雪のような白い肌にパッチリした目。とっても可愛い。こんな顔をしているなら、前のボクはナルシストだったかも。なんてね。

 そして、自分の顔だというのにピンと来てないボクもいる。ボクに合わせて動いて、触れられる。確かにそこにある。けど、違う。例えば短い髪形はボクの好みじゃない。


「感想は。何かある?」

 スマホの持ち主、カイト君が尋ねてきた。

「うーん、そうだなぁ。アイドルとかを目指す勇気が湧いてくるかな。カイト君の客観的意見はどう?」

「⋯⋯最近の流行りに詳しくないから評価し難いので口を噤ませてもらう」

 平静を装い、冗談を交えて答えたけれど、耳が赤くなっている。ボクのアイドル姿を真面目に想像してたのかも、なんて考えてちょっぴり嬉しくなる。

 だってカイト君もボクのことを可愛いと思って検討してくれたってことだもの。



 黒くてベトベトした怪物が高校中を徘徊している。ボク達は怪物からコソコソ隠れながら高校の外へ出る、もしくは良い協力者に会いたくて歩き回っていた。

 そんな中、体育館に逃げ込むと、学校に広がる不思議な水はなく怪物もまた入ってこれない安全な場所だった。

 一体、高校では何が起きているのか。体育館で手がかりは見つからなかったけれど、せっかく安全そうな場所にいるのでゆっくりと休んでいた。



「ねぇ、写真を撮ってもいい?」

「どうぞ」

 許可をもらって画面に映るボクの姿を留める。

 これまでと違って動かなくなったボクを見ると、もっと自分から遠い存在に見える。けど、これがボクなんだ。とっても変な感じ。



 カイト君は記憶について深く聞いてこない。

 どうしたらいいのか分からないというのもあるだろう。ボクだってボク以外の記憶喪失の人がいたらどう挨拶したものか悩む。

 けれど、多分ボクを急かしたくない優しさがあるのだと思う。カイト君にはそれ以外にも優しさがいっぱいあって、そういうところがカッコよくて好き。

 そしてボクのそんな所が記憶を取り戻したくない気持ちにさせる。


 心配されていたいわけじゃない。こんな状況で、深くも知らない相手に恋愛のことを考える自分のことが嫌いになるのだ。

 記憶を取り戻したら、もっと嫌な自分になる。なにも覚えてないのに、そんな自信だけはある。


 なのに、どんな写真を撮っているのだろう、どのような人と連絡を取り合っているのだろう、何を検索しているのだろう、アプリは何を使っているのだろう、とスマホが持つカイト君の情報が欲しくてたまらない。

 これは元からの性格なのだろうか。誰にも知られたくない、気持ち悪いボクの思い。



 パシャリ


 スマホで写真を一枚撮った。

「お、今俺のことを撮った? 見せて。⋯⋯写りが悪いや」

 不意に撮ったものだから、半目になってしまっている。

「こんなんじゃ俺の魅力が伝わりきらない。もっと格好良く撮ってよ」

「ふふふ、ごめんゴメン」

 ここだけは平穏な日常で、壁一枚外のことを忘れてしまうほど楽しい時間だった。


 カイト君が笑顔だと嬉しい。一緒に笑い合えるともっと嬉しい。



 撮ったばかりの写真を眺めていると、突然ハンカチを渡された。

「ほら、これ。持っていないんだろ。今日はまだ使っていないから清潔なはずだ」

「⋯⋯ありがとう?」

 確かに持っていないけれど、一体どうしてだろう。


 人差し指で頬をつつく。

 真似をして頬に触れると手に冷たいものがつたった。涙だ。ボクは知らず知らずのうちに泣いていた。

 理由はさっぱり分からない。ただ涙が溢れて止まらない。



「えーと、さっきは取り乱してしまってごめんなさい」

「気にしなくていい。もう大丈夫なのか」

「うん、平気だよ」

 しばらくすると涙は止まった。けど泣いたせいで目の辺りが赤くなっていそうで心配、なんて情報は余計だ。

 でも、もう自分の顔は見ないでおこう。知っているのと知らないのでは顔を見られているときのダメージが違う。



 トントントン


 突然、もたれかかっていた扉が揺れる。外から誰かにノックされた。

「誰、ですか」

 ボクをかばうようにして立つカイト君が問いかける。

 扉の向こうで

「こんにちは、突然失礼いたします。ここの高校の生徒の方でいらっしゃいますか。わたくしは霊術師の使いでございます。皆様を保護するために参りました」

と男の人の声が答えた。

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