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滲む境界  作者: キシ
第三章

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4

――ポチャン。

 体育館が視界に入った頃、背後で水に物が落ちる音がした。それは小さな物、それこそ小石が跳ねる程度のものだった。

「なぁ。今、音がしなかったか?」

 振り返り、後ろを歩くまひるに尋ねる。

「聞こえたよ。それに、この辺りで波ができた」

 俺とまひるの間を指差す。今も弱々しい波が生まれ、消えた。俺の勘違いではなさそうだ。


「うーん。とくに不審なものは見当たらない」

 アタリをつけた場所にしゃがみ込み、地面を凝視する。液体による太陽光の反射で視認性が悪いが、石ころ以外は見つからない。

「手で探ってみるのはどうかな」

 袖をまくり、準備ができている様子。探し物をしているなら、順当な手順だ。けれど今は普通の状態ではない。

「いや、止めておこう。何が落ちているのか分からない。危険だ」

 落ちているのが針のような尖ったものや、そもそも触れたらアウトな物の可能性を捨てきれない。何が起きてもおかしくない状況なのだ。用心するだけ得だろう。


そもそもの話、目が覚めてから常に接しているので感覚が麻痺してきているかもしれないが、校内に広がる液体自体が正体の分からぬ危険なものなのだ。

「それも、そっか」


「何が起きたのかさっぱりだが、これ以上⋯⋯」

 立ち上がったことで揺れた視界に、小さな影が通過した。気がする。

「これ以上、この場に留まっても意味がないんじゃないか?」

「そうだね。そろそろ行こっか」

 まひるは影に気がついていない様子だった。一瞬のことであったし、緊張から来る考えすぎかもしれない。

 気のせいを口にすることなく、目的のために足を動かすことにした。





「着いたけど⋯⋯」

「⋯⋯どうしょうもないな」


 体育館と理科棟の間を通る小道の先に目的の出入り口がある。

 結局、ここへ辿り着くまでの過程で、誰かに会うことは無かった。


 目的地が見えただけの現時点では喜びと悲嘆。どちらの反応であってもまだ早い。言ってしまえば試験会場に着いたに過ぎない。着席すらしていないのだから。

 試験はこれからだ。

 けれど扉を守る番犬のように出入り口の戸の前を黒い怪物が居座る現状では、着席自体の難易度が跳ね上がっている。

 結果発表よりも前から悲嘆に暮れてしまいそうだ。


 番犬は、怪物の個性のうち大人しい部類のものだ。ほとんど動かず、動いたとしてもノロイ。移動中ではその大人しさから距離を取りやすく、ありがたかった。

 今はその性質がこの上ない難所と化している。


「一旦引いて考えよう」

「うん⋯⋯えっ?!」

 悲鳴を上がるが、瞬時に手で押さえとめる。振り返ったまひるの視線の先には新たな黒い怪物がいた。


 怪物は縦に細長く、見上げるほど、2m以上の高さがある。横幅は俺達と変わらない程であるが、人間には無い圧倒的な威圧感を放っている。

 だというのに1m圏内にいるそれを、振り返るまで気が付かなかった。

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