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昔の写真から抜け出してきたような和装の女性と、小学校の校庭で遊びまわる姿がありありと浮かぶやんちゃそうな男児。凸凹なコンビにより、怪物は倒された。
怪物と同じく、どのような原理で倒されたのかは不明である。
分からないことに変わらないが、超常現象に対抗できる力の存在が証明されたと考えることができる。力を非科学的なものであると仮定すると、彼らは霊能力者や超能力者といった者だったのだろうか。
協力を得ることができなかったのは残念であるが、怪物に対抗できる者の存在を知れたのは幸運だったと捉えることが可能だ。
「できる事は試したし、降ってくる破片が気にかかる。ひとまずこの場から離れないか」
「そうだね。ねぇ他に出入り口はある? あるなら、そこを目指すのはどうかな」
「あぁ、そうしよう」
助けてくれそうな人物を探したいのは山々だがあいにく当てはない。
「確か体育館のそばにもあったはずだ」
これまた普段使わないので曖昧だが記憶がある。
「次はそこだ。……じゃあ競争ね」
「んな。危ないし、場所を知らないだろ」
「えっへへ」
駆け出したかと思えば数歩でUターンをして戻ってきた。それだけのことが心臓に悪い。
「見ての通りボクは準備万端だよ。カイト君はどう?」
顔を覗き込むようにして尋ねてきた。
手の震えに気づかれていた。俺は発表の時など、緊張は手に出るタイプなのだ。
まひるは不安のすべてを隠して微笑む。
そうだ、俺も格好をつけなければ。意識をして口角を上げる。
「今ので俺も準備ができた。行こう」
成功には緊張感が必要だが、その量はほどほどで良い。
液体をかき分けて歩く。
足を踏み出すたびに新たな水紋が生じる。
自分の居場所を知らせているようなものなので止めたい所だが、そんなスイッチがあるはずもなく。水紋が生まれるたびに見つかる可能性が高まっているのだろう。けれど、良い面もあるもので。
「止まってくれ、いる」
声をかけ、校舎の角で立ち止まる。
前方に水紋が広がっている。建物によりできた死角に動く存在がいるのだ。
足を止め、口元を押さえ息を殺す。この行為が無駄になること、つまり自分達と同じ学校関係者か協力者になり得る人物であることを願ったが、やはり希望的観測に過ぎないものであった。水紋が足に届く頃にはビタビタという足音が聞こえてきたのだ。
一度倒されたヘドロの怪物は、小さく散り散りとなりながらも活動を続けた。大きさが変わっても生態に変化がないようで、液体を啜りながら校内を歩き回っている。
怪物の基本は変わらないように見える。が、一つ明確に異なる点がある。むやみやたらに襲い掛かってこないのだ。
なので特別な力を持たない者の怪物への対処法は一つ。刺激を与えることなく、通り過ぎるのをただ待つ。そうすれば爪先の数センチ先を移動していても、怪物がこちらに向けて行動を起こすことはない。
「もう大丈夫かな」
怪物から十数メートルの距離を取れたことを確認して、ようやく会話を再開した。前と比べ、自然と潜めた声量になる。まだ気を抜くことはできないのだ。
「あぁ。流石に姿が完全に見えなくなるまでは待てない。そろそろ進むか」
散り散りになったことで生まれた小さな怪物は一体ではない。細切れ一つ一つに命が芽生え、活動し校内を巡回している。
正確な数など、カウンターでちまちま数えても把握しきれない。木の幹にぶつかるだけで増えていく存在なのだ。アレは。
そのような怪物一体、一体を丁寧に対応していたら、棒立ちになってしまう。だからある程度割り切るしかないのだ。
「あの怪物たち、本当に何なんだろう」
「さあね。ただ二人組は名前で呼んでいたような⋯⋯」
「ええと、何だっけ。モ、モ。モド⋯⋯?モドキだっけ」
モドキ。
単語から連想するのは劣化版の複製品といったところだが、この怪物にオリジナルがいるとは考えたくもない事態だ。
「呼称を知っても怪物は細かくなっても動く、プラナリアみたいなものだ、としか分からないな」
「そして元の大きさ? に戻ってきているよね」
小さな怪物、恐らくモドキ、とは何度も遭遇することになった。
端で大人しくしていたり、活発に動き回ったり。それぞれに個性があるとは言え、前に見たものと同じ個体か区別がつかない。しかし共通して、遭うたびにサイズが大きくなっていることが言える。
「元に戻れば凶暴性も戻るのだろうか」
何体もの怪物が暴れまわる。——あながち杞憂と捨て置けない想像だ。
「そうなる前にどうにかしよう、だね」
「あぁ。そうだな」
校内にいる者、全員が無事に帰宅するまでのタイムリミットだと考えればいい。そして視覚化され、期限が分かりやすくてやりやすい、と。
いつまでも一人、後ろを向いているわけにはいかない。それは格好良くないのだから。




