双子の姉の「史上最低最悪な婚約者」と私の「王国一素敵な旦那様」とを交換させられた結果……
「かわって」
ある日、双子の姉のベリンダが何の前触れもなく屋敷を訪れてきた。
重厚な玄関扉を開けるなり、彼女は開口一番そう言った。
唐突すぎるというよりか、そのあまりの不作法さに反応できなかった。
「あんたは、すぐにあの馬車に乗って王宮に行くのよ」
彼女は、顎をしゃくって向こうに停まっている馬車を示した。
「どういうこと?」
「あいかわらず察しの悪い娘ね。わかってるでしょう? 第五王子よ。仕方なく婚約者になったけれど、どう考えても何の得にもならない。醜悪な顔にごつい体。筋肉バカなだけで、目さえ合わそうとしない。それでも将来、国王になれるのだったらガマンするわ。あるいは、贅沢三昧できるほど金貨を持っているのならね。だけど、どちらもない。ないない尽くしよ。つまり、史上最低最悪の男なのよ。そんな男のために、わたしの人生すべてを捧げるつもりはない。それなのに、宮殿での王子妃教育だけは受けなきゃならない。宮殿に縛られ、男友達と遊ぶことさえ出来ない。だから、かわってってことよ」
「ちょちょちょちょっと、そんなに簡単にかわってだなんて……」
当惑しかない。
「わからないわよ。わたしとあんたって、見た目は同じですもの」
双子の姉は、サラリと言った。
「いや、そういう問題じゃないでしょう? 見た目だって見る人が見たらすぐわかるし、性格や行動だって違うわ」
「だから、いいのよ。わかるもんですか。だって、あの筋肉バカは、わたしをまともに見ない。話そうともしない。それにくらべて、あなたの夫はこのマグラス王国でも一番の大金持ちで渋カッコいい紳士。社交界でも注目の的だもの。年齢がかなり上ってところも最高だわ。子どもなんていらないもの。さっさと死んでくれれば、すべてを相続できる。そうなれば、贅沢三昧できるし、遊びたい放題。こっちの方がいいにきまっているわ」
「お姉様、あなたが第五王子を選んだのよ」
「あのときは、たとえ第五でも王子の方が魅力的だったの」
溜息しかでない。
双子の姉のベリンダは、幼い頃からわたしのものを奪ってばかりだ。同じものを持っていても、わたしのものを奪うことに意義と意味を見出していた。
しかも、一度言いだしたら絶対に譲らない。
しかし、これだけは言っておかなければならない。
「お姉様、そこまで言うのならお姉様にかわって王宮に行くわ。だけど、ここもあなたが想像したり考えているところとは違うのよ」
「いいのよいいのよ。どうせ大公は、浮気のひとつやふたつしているんでしょう? あるいは、子種がないかよね? それも了解済みよ。かえってやりやすいわ。よくある『まだなのか?』とか『男児しか許さん』とか、そういうプレッシャーもないしね」
姉は、夫と私との間にいまだ子どもがいないことをそう解釈しているらしい。
そのとき、エントランスの階段上に夫が現れた。
「なにをしている? はやくこないか?」
重厚な扉の蔭に隠れ、彼には姉の姿は見えないらしい。
鋭く威圧的な声が降ってきた。
「まぁ、渋い声。それに、昼間っから愉しんでいるわけ? 子どもはごめんだけど、渋カッコいい大公と寝台上で愉しむのはやぶさかではないわ。さあ、あんたはさっさと行って。あとはわたしに任せてね」
姉は、わたしの袖をめくり上げている腕を乱暴にひっぱった。そして、外に放り出した。
「お姉様、すべて誤解よ」
振り返りながら言った。
が、重厚な扉は閉ざされてしまった。
「仕方がない。ちゃんと忠告はしたわ。聞き入れてくれなかっただけよね」
またしても溜息。
トボトボと馬車へと向かった。
姉は、わたしのボロボロの衣服、具体的にはかなり残念な状態のメイド服は目に入らなかった。それから、痩せ細った体も。さらには、痣だらけのむき出しの腕も。
「わたしは悪くない。姉のワガママなんですもの」
「あの……」
言い聞かせていると、馭者服姿のカッコいい馭者が当惑の表情で手を差し出してきた。
「すみません。どうやらチェンジするみたいです」
笑って言うと、彼はますます当惑したようだ。
「とりあえず、王宮に戻ってもらえますか? わたしから、第五王子殿下に謝罪いたします。それから、いかなる処分も受けたいと思います」
「かしこまりました」
さすがは王宮の馭者である。大なり小なりいろいろなトラブルを見ているのだろう。もっとも、こういうトラブルはそうはないだろうけど。
彼の手を取り馬車に乗りこんだ。
まずは王宮の姉の部屋でドレスに着替えないと。
王子妃教育は、婚儀を迎えるまで泊まり込みで行われる。教育だけでなく、王族としてすぐにでも振る舞えるよう慣れる意味もある。その為、姉も王宮内に部屋を与えられている。その間の衣食住は、すべて国の税金で賄われるわけだ。
馬車が走りだした。
「やったね」
おもわず、そのひと言が口から出ていた。
「やっと地獄から解放されたのよ」
入れ替わったことによる罰は、断頭台とまではいかないだろう。せいぜい王都から、あるいは国から追放される程度に違いない。
あの地獄に比べれば、そんなことはどうということはない。
しれず笑みが浮かんでいた。
地獄の日々をすごした屋敷を、二度と振り返ることはなかった。
案の定、王宮の姉の部屋のクローゼットには、姉好みの派手なドレスが何着かぶらさがっていた。
というか、客殿の客室を割り当てられているのだが、これまでの狭苦しい物置部屋とくらべれば格段に豪華だ。とくに寝台の頑丈さときれいなシーツ、ふかふかのブランケットが最高だ。
到着してすぐのことだ。教育係が呼んでいると侍女が言いに来た。
姉はクローゼットの中、隠すようにして母の形見のドレスをぶら下げていた。王妃教育でやって来た際に着て行ったものだ。派手好きの姉には地味すぎるドレス。王宮に来て以降、一度も着用しなかったに違いない。
じつは、わたしも大公家に嫁ぐ際に母の形見のドレスを着用して行った。だけど、その日のうちに燃やされてしまった。ドレスだけではない。持って行った他の母の形見も含め、すべて燃やされてしまった。そして、以前メイドが使い回していたであろうボロボロのメイド服を与えられてそれを着用することを強要された。
わたしが嫁いだ際、大公家であるにもかかわらずメイドや執事など使用人はひとりもいなかった。嫁いで以降、わたしがすべてをやっていた。家事はもちろんのこと、義父母の介護まで。姉がやって来るまで、いつ終わるとも知れぬ苦行が続いたのだ。
それはともかく、侍女の案内で本殿のある一室で教育係に会った。
まだ大公家に嫁ぐ前、好んで読んだ書物に出てくる意地悪な教育係そのまんまの銀縁メガネの淑女が待ち構えていた。
「あなた、だれ?」
彼女は、目が合うなり尋ねた。
(そうよね。すぐにわかるわよね)
姉とわたしは、顔かたちは似てはいてもまとう雰囲気やオーラはまったく違う。というか、姉のケバイ化粧にわたしのほぼスッピンでは、そこからして違う。
「あの、すみません。偽者です。というか、チェンジしたのです」
迷うことなく、正直に告げた。
彼女は、辛抱強くわたしの話を聞いてくれた。
「わかりました。よろしいでしょう」
「はい?」
彼女は、ニッコリ笑って続けた。
「正直なところ、あれはダメでした。そもそもまったくヤル気はなく、自覚など微塵もなかった。あれよりかは、あなたの方がよほど見込みがあるというもの。だから、これからがんばりましょう」
「……」
姉を「あれ」呼ばわりしたことにも驚いたけれど、チェンジしたことをなんの抵抗もなく受け入れたことにはもっと驚いた。
とはいえ、受け入れてくれたのなら、その期待に応えるべきだろう。
その日から王子妃教育に精を出した。
というか、それが愉しすぎて愉しみまくってしまった。
王子妃教育のことだけではない。
名ばかりの夫であるアルバーン大公やその両親以外の人と接することができ、その解放感で完全にはっちゃけてしまった。
とりあえず、いろいろな人とつながりたくて王宮内のあらゆることに積極的に参加した。
幸運なことに、だれもが好意的だ。国王や王妃や王子たちやその妃や子どもたち。それから、官僚や貴族も。さらには、侍女たちや執事たちのうしろを追いかけてはいろんなことを勉強させてもらった。
ただ、不思議なことにだれもがわたしのことを知っている。正確には、姉と入れ替わった双子の妹のリコであることを知っていた。
最初は、そのことが気になった。が、そのうちそれも気にならなくなった。そもそも教育係には告げていたので、隠す必要もないからだ。
姉と相手をチェンジして、半年は経過した。しかし、いまだかんじんの第五王子には会っていない。彼は、このマグラス王国にいないのだ。というのも、隣国でおおきな地震があり、その直後に津波がやって来た上に大雨に見舞われ、災害支援や復興支援のためにマグラス王国軍を率いて訪れているからである。
王宮内のさまざまな人から、彼の噂を聞いた。
彼のことは、だれもが褒め称える。姉から聞いている話しとはまったく違う。
人は、他人のことをけなすことはあっても褒め称えるということはそうおおくはない。それをだれもが褒め称えるのは、どういうことなのか?
そこのところも不可思議だ。
その日、政治経済学の講義が終わってから宮殿の厨房でクッキーを焼かせてもらった。
大公家で地獄の日々をすごしていた際、言葉は悪いが「クソッたれの義母」がクッキーしか食べず、毎日焼かされていた。そのため、自分でいうのもなんだけど美味しいのだ。美味しいだけではなく、バリエーションも豊富だ。それを料理人や侍女たちにおすそ分けすると大好評だった。その噂を聞いた王子妃たちも食べたがった。はては、国王や王妃や王弟や王妹たちもファンになった。いまや二日に一度は焼いている。
ちょうど焼き上がった頃のこと。厨房の入り口に将校服姿の大男が現れた。
焼き上がったばかりのクッキーを、料理人たちとつまみ食いしようとみんなして口に放り込もうとしたところだった。
「閣下っ!」
料理長が言うと、他の料理人たちも口々に「閣下」と言った。
「おかえりなさいませ。大変でしたね」
大股で歩いてくる将校に、料理長が言った。
「ただいま。いつもありがとう。ひさしぶりにあなたたちの料理を食えると思うと、三日前から眠れなかったよ」
「閣下らしい。では今宵、閣下には特別に大好物のアップルパイを焼きましょう」
「わおっ! それだけでこの半年間の疲れがふっ飛びそうだ」
ごつい顔ではあるけれど、笑うとえくぼができて可愛い。
視線が合うと、将校は手を差し出した。
「やっと会えた。待たせてすまなかったね。わたしは、アンソニー・ロングフェロー。きみの『真実の夫』にあたる男だ」
「はい?」
聞き間違えたかと思った。
それでも、差し出された手を握らねばならない。
なにせ彼こそが第五王子でありマグラス王国軍の将軍であり、なにより姉の婚約者だからだ。
「あの、リコ、リコ・アルバーンです」
一瞬、何と名乗ればいいのか迷った。いまさら姉の名前を名乗るのもバカバカしい。だから、本名を名乗った。もちろん、旧姓ではなくいまの姓をつかった。
握手した彼の手は、おおきいだけでなくごつかった。なにより、あたたかかった。
「知っているとも。すこし話そうか。おっと、そのクッキー、いただいていいかな? 国王と王妃より先になるだろうがね?」
「もちろんです」
なぜか緊張はしない。彼のやわらかい笑みは、まるで昔からの友達のような錯覚を抱かせるからだ。
料理人たちにクッキーのことは任せ、彼のふたり分とわたしのひとり分とをお茶と一緒にテラスへ運んだ。
「話しの前にいただいても?」
「もちろんです」
真鍮製の椅子に座るなり、彼はクッキーを食べ始めた。
そのうれしそうに食べる姿は、こちらまでほんわかさせてくれた。
義母は、文句ばかりだった。けなしてばかりだった。クッキーのことだけでなく、わたしの尊厳をも奪う言動しかしなかった。
「すまない。甘いものに目がなくてね」
彼は、ふたり分のクッキーをペロリとたいらげた。
「よろしければ、こちらもどうぞ」
三枚を自分用に残し、彼の皿に残りを移した。
「こんなに美味いクッキーははじめてだ。おっと、料理長には内緒だよ」
「わかっています」
彼は、さらなるクッキーをよく味わったようだ。
「きみのことは、ありとあらゆる人から聞いているよ。もはや立派な王子妃、とね。じつは、きみに申し込んだんだ」
「申し込んだ? あの、王子妃の話を、でしょうか?」
「ブルーノ・アルバーン大公がきみの生家であるラルストン公爵家に縁談の申し入れをしたと聞いたとき、それならばきみをわたしの婚約者に、と申しこんだのだ。きみのことは、きみの父上からよく聞かされていたからね。わたしは、きみの父上に鍛えられたんだ。きみの父上と母上のことは、ほんとうに残念だ」
父もまた、マグラス王国軍の将軍だった。が、両親はある日突然謎の死を遂げてしまった。その直後、父の弟一家が屋敷に乗り込んできた。書物に出てくる悲劇の物語のごとく、あっという間にすべてを乗っ取られた。そのタイミングで、ふたつの縁談が舞い込んだのだ。
「ブルーノには、不穏な噂しかない。もちろん、裏でだけどね。表立っては、王国でも屈指の資産家で最高の紳士だと噂されているがね。じつは、そんな彼のふたりいた妻はいずれも謎の死を遂げている。つまり、彼に殺されたわけだ。リコ、失礼するよ」
彼は丸太棒のような手を伸ばすと、真鍮製の丸テーブル越しにわたしの袖をすこしめくり上げた。
「くそっ!」
そこに現れた無数の痣を見た瞬間、彼は毒づいた。
「きみには謝罪してもしきれない。もっとはやくに対処すべきだった」
彼は、袖を戻すとわたしの手をやさしく撫でた。
「縁談を申し入れた後、こちらの意図することとは違うことが起った。王宮に現れたのは、きみの双子の姉だった。そしてきみが、ブルーノに嫁いでしまった。きみの姉のことでこんなことを言うのもなんだが、きみの姉にも悪い噂しかない。それでも、様子をみてみることにした。が、悪い噂は噂ではなかった。ある意味、期待どおりのひどさだった。だから、彼女がみずから王宮から逃げだすよう、全力でイヤな男を演じたわけだ。彼女はわたしには金貨も地位もなく、見てくれも悪く、史上まれにみる最低最悪の男だと、きみに言ったのではないかな?」
「ええ、そのとおりです」
微笑みながら答えた。
「彼女、ここで何をしていたと思う? 執事や官僚や貴族を誘い、ときにはこっそり抜けだして街の男性と寝たりしていた。そして、脅しては金を巻き上げていた。そんなこと、バレないわけはないよね? いっこくもはやくここから逃げだし、きみにコンタクトをとるようわたしはさらにイヤなやつを演じた。ついでに、彼女の耳にブルーノのいい噂ばかりが入るように仕向けた」
「なるほど。そしてついに、『かわって』ということになったのですね」
笑いが止まらない。
彼に姉が大公家に来たときのことを話した。
彼も笑いが止まらないようだ。
ひとしきり笑った後、「クソッたれ」の夫である大公がわたしにしたことを語った。
あらゆる虐待。過酷な労働。洗脳。奴隷扱いなどなど、枚挙にいとまがない。
わたしは、嫁いでからずっと屋敷の外に出ることができなかった。連絡手段も断たれた。助けを求めることがないまま、ずっとあの屋敷内で悲惨きわまりない日々を送ってきた。
「遅くなってしまったが、きみがブルーノに殺されるまでにきみの姉がかわりになってくれてほんとうによかった」
アンソニーは、心の底から安堵してくれている。
「大公、いえ、ブルーノは、前妻と前前妻以外にも殺しているのですよね?」
屋敷には、昔は使用人がいたという。それから、養子なども。その人たちは、無事に屋敷から出たのだろうか?
アンソニーは、無言で頷いた。
あそこにいた人たちは、大公やその両親によって殺されてしまったのだ。
ゾッとした。同時に、心の底からホッとした。
命が助かったことに。あの地獄から解放され、自由になれたことに。
「ブルーノは、爵位剥奪だけですませるわけにはいかない。いや。アルバーン大公家そのものを許す事は出来ない」
「閣下。わたし、証言でもなんでもします。さすがの姉も半年経ったいま、どうなっているのかわかりません。もっとも、あまりにも役立たずすぎてもう始末されているかもしれませんけど。まぁ、自業自得でしょうけど」
「リコ。きみが証言してくれるのなら大助かりだ。たしかに、きみの姉は自業自得だがね。だが、彼女が殺されたら、さすがに寝覚めが悪いだろう。それから、きみの生家の問題もある。ひとつずつ片付けていこう。ところで……」
彼は、居住まいを正した。
途端に緊張感が漂い始めた。
こちらまで緊張してしまう。
「リコ。どうかわたしの契約妻になってくれないだろうか?」
「契約妻?」
「わたしは、きみの父上からきみのことを聞いてきみのことはよく知っている。しかし、きみはわたしのことをよく知らないだろう? きみの姉の言うところの『脳筋うすらバカの貧乏王子』、といった感じかな? だから、まずはわたしのことを知ってほしい。そして、気に入ってくれるようなら契約を永遠に延長したい。つまり、正規の妻というわけだ」
ずいぶんと斬新なプロポーズだ。
しかし、それも面白いかもしれない。
アンソニーにしても、わたしについて父から聞いた話とは違うと思うかもしれないから。
彼ならば、契約だろうと正規だろうと大切にしてくれる。そこは、確信できる。
「その話、よろこんでお受けいたします」
ニッコリ笑って答えると、彼は子どもみたいにはしゃいだ。
「やったね」
そして、こちらへまわってくると、わたしを立たせてから全力で抱きしめてくれた。
「きみに苦しみや悲しみを味あわせたブルーノには、かならずや報いを受けさせる。それは、わたしも同様だ。ながらく手を差し伸べられなかった償いを、これから一生かかってでもする。ぜったいにしあわせにするよ」
彼のごつい胸の中で、安堵と期待としあわせを噛みしめた。
その後、元夫のブルーノは、爵位剥奪の上断頭台行きとなった。
姉のベリンダは、ボロボロの状態でアルバーン大公家の地下牢で発見された。地下牢のことは、まったく気がつかなかった。そこには、姉だけでなく複数の白骨死体が見つかったという。
さすがのブルーノも、姉の扱いには手を焼いたのだろう。もっとも、姉も彼女自身の残念さで命が助かったのだ。そこはよかったのだろう。
その姉は、国外追放となった。しかも、そのボロボロの状態のままで。ヒステリックに捨て台詞を残し、兵士たちによって国境までひきずられていった。
そしてわたしは、契約妻から正規妻になった。
その後、両親を毒殺した叔父一家を処断し、ラルストン公爵はわたしが継いだ。将来、わたしたちの次男が継ぐことになる。
そうそう。アンソニーが第五王子でありながら王太子となり、その後国王となった。上の四人の王子たちは、いずれもさまざまな理由で辞退したのだ。
奴隷扱いで悲惨な妻だった過去をもつわたしが、なんと一国の王妃となった。
夫を支え、国民ファーストを貫いている。
そして、家族でしあわせな毎日をすごしている。
(了)




