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第三話 「それは埃か、魔力か」

寮に入りまーす。

って言っても、特別イベントとか歓迎の舞とかがあるわけじゃない。

玄関のドアを開けたら、そこはもう俺の新たな住処。木造二階建て、ちょっと年季の入った観月学苑学生寮である。


ギィ……と鳴ったのは扉じゃなくて、俺の心の中の何かかもしれない。

ほら、床板がきしんでる音と、心の軋みって、ちょっと似てるだろ?


「ここが、俺たちの新天地……とか言ってる場合か」


見渡す限り、静か。

無人。

俺以外に生き物の気配なし。これはもう、ホラーゲームの導入か、予算の都合でモブが削られたADVか。

 


日差しが斜めに差し込んで、廊下に筋が浮かぶ。

その光の中を、ひらひらと舞う埃。


「……マナ。間違いない、これは空間に漂うマナの粒子」


背後からそんな声がして、俺はもう驚かない。

いや、少しは驚けって話だけど、もう慣れた。


「きの子。おまえ、いつからそこに……」


「最初からいた。我は影より生まれし者。光があらば必ず影もまた在りて」


「はいはい。で、そのマナっぽいの、どう見ても埃だよね?」


「否、これは選ばれし者にしか見えぬ魔素の蠢き……」


「どう見てもただの埃だよね?」


「……マナだよ?」


「……マナ、です」


 


埃でテンション上がる女の子なんて、人生で初めて見た。

貴重な生物。もしかして天然記念物。いや、異世界記念物?


そのまま俺たちは並んで廊下を歩いた。

どこに誰が住んでるのか、名札なんてついてないから分からない。

ていうか、きの子の部屋、どこなんだっけ?


一緒の寮に住んでるはずなのに、知らない。

隣にいた日々も、なんかぼやけてる。


「……ま、若年性健忘症ってやつか。人の名前と部屋番号には弱くてね」


無理やりそう言って笑ってみる。

笑えるかって話だけど、笑ったもん勝ちなんだよ、こういうのは。


 


俺の部屋は階段を上がってすぐの一番奥。

ドアノブは冷たくて、なんかちょっと湿ってた。気のせいならいいけど。


部屋に入ると、とりあえずベッドにダイブ。

そして読書タイム。

ラブラブ恋愛小説でも読みながら、現実逃避でもしましょうかね。


「俺だって……恋、したい年頃なんです」


とか一人で言ってみる。

本当に思ってるかは、知らん。

 




夕刻。

階下から物音がした。


ガタン、という扉の開く音と、誰かの足音。


(おや? 誰か帰ってきた?)


小説の中のキラキラしたセリフに当てられて、心がちょっと寂しくなっていた俺は、まるでテレビの深夜討論番組よろしく、“ロマンスの定義”について誰かと語り合いたくなっていた。


「じゃ、行きますか。青春、議論タイムだぜ」


階段を降りる。ロビーに現れたその人物は——


 


「……なんだ、ジュン君か」


一瞬で覚める恋心。

正直言って恋愛小説よりよっぽど心にくるセリフを真顔で言うやつ。

そういうの、ずるいよな。こっちが冗談に逃げるしかなくなるからさ。


——この優しさの塊みたいな奴と、恋の話なんてできるわけがない。俺がどんだけ捻くれてると思ってんだ。



でも、准君がここにいるってことは、もう一人来たってことだ。


時計の針が、ゆっくりと回り始めた音がした。聞こえるのは俺だけかもしれないけど。

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