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第二話 「きの子、降臨」

校舎のチャイムが最後の鐘を打ち鳴らすと、

無数の生徒たちが教室という牢獄から一斉に解き放たれていく。

──とか言ってみたけど、別に俺らは囚人じゃないし、授業もわりと楽しい。

つまらないのは、“この世界そのもの”じゃなくて、俺の感性の方かもしれない。


昇降口で靴を履き替えて、

どっと流れる帰宅ラッシュの流れに身を任せる。


グラウンドでは野球部が掛け声とともにボールを投げていた……ような気がする。

隣の校庭には吹奏楽部の音が鳴っていた……ような気もする。

なんとなく、そういう“青春”が、ここには存在している──気がする。


いや、音は聞こえてるんだけどね?

でも、“それを聞いた記憶”が、なんかうまく定着してない。

ほら、昨日の晩メシを思い出そうとして、味がグレーになってる感じ、あるでしょ?

……って言っても、わかる人がいるかどうかは知らないけど。


ともかく、俺たちは帰る。俺と──この隣にいる厨二病。


「“今日の空は霧に閉ざされ、光なき封印領域が再び目覚めようとしている……”」


「ちょっと黙って、ね?」


そんな彼女──通称“きの子ちゃん”と俺は、正門を抜ける。


他の生徒たちは、まっすぐな道を大通りに沿って進んでいく。

まるで都市計画が敷かれたような、美しい導線。

それが、彼らの“日常”だ。


でも俺たちは違う。

正門を出て、ぬるりと右へ。

足元に這い寄る霧が、まるで生き物のように足首に絡みつく。


いやこれ、普通に朝露の名残だから。


「“観測者よ、既に汝も“境界”を跨いだのだ。もはや退けぬぞ”」


「誰が観測者だよ。俺はただの帰宅部だよ」


そんなじゃれあいをしつつも、俺たちは霧という名の朝露を抜け、鬱蒼とした森──っぽい街路樹の並木道を進み、そして一歩ごとに、次元の綻びが足元に響いた──気がした。


霧が揺らめき、木々の影が何かのシルエットに見えてくる。

一歩踏み出すたびに、世界の構造が少しずつズレていくみたいで。

まるで“歪界層”──

って、これ完全にきの子ちゃんの語りじゃん。

……ダメだ。このままじゃ夜に枕元で詠唱始めるタイプになる。


そんな俺の妄想と、わりと普通なアスファルトの道が、いい感じに3分ほど続いたころ──


我らが寮、観月寮かんげつりょうだ。

古風で、どこか閉ざされた雰囲気のある、木造の建物。

でも、妙に空気が澄んでる。なんというか、“整ってる”って感じ。


ここに暮らしているのは、俺ときの子を含めて5人。少なすぎるって? うん、俺もそう思ってる。でも不思議と、それを変だと感じる奴はいない。俺も、今こうして言葉にしてはじめて、「あれ?」ってなってるくらいだ。


それがこの世界のルールなのか、

はたまた俺たちが既に“なにか”に適応してしまっているのか──


って、いやまだそういうのはやめとこう。

日常は日常らしく、今日の夕飯はなんだろうなーとか、そんな話題で終わらせるのが正解だ。


……じゃあ、寮の玄関、開けまーす。

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