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ケモミミ少女が救われる話  作者: 霜降り
ケモミミ少女は救われる
8/27

八話


 やらかした


 やらかしたやらかしたやらかした


 やらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかした


 やらかした


 狭いベッドの中俺は自分がやってしまったことを後悔する。


 『陽菜と、親友になりたくない』


 酷いことを、陽菜に言ってしまった。

 折角楽しかった、お泊まり会を俺が、俺が全て壊してしまった。

 さっきまで俺達は顔を合わせて寝ていたのに、今は背中合わせ。

 それは陽菜との距離が遠のいてしまったことを表していた。

 『親友』

 世間一般において友達より仲の良い関係。

 彼女は俺とそんな関係になろうとしてくれていた。

 嬉しいことだ。陽菜が俺とそんなに仲良くしようとしてくれていることが嬉しかった。

 けど、俺はそれを受け入れられなかった。


 昔、とあることがあった。

 そのせいで俺は『友達』『親友』、この言葉に嫌な思い出が、トラウマともいえる物を持っていた。

 ずっと見ないようにしてきた。それは忘れたほうがいいことだと思ってたから。

 しかし、過去は消えないのだ。

 そんな過去が今、牙を剥いてきた。


 折角、陽菜とここまで仲良くなれたのに。

 この二ヶ月、陽菜と一杯遊び、心を通わせてきた。

 今までそんなことを全くしてこなかった俺が、陽菜とここまで仲良くなれた。

 それなのに、それなのにこんなとこで終わるのか?


 ……きっと、そうはならないだろう。

 仲良くなったからこそわかる。陽菜はその明るい雰囲気から勘違いしそうになるが頭は悪くないし察しはいい。察してくれているなんて酷い言い方だけど、陽菜なら何か事情があることは察せるだろう。

 だから、陽菜との仲は続く。

 けど、これ以上はもう何もないだろう。

 陽菜との距離はこれ以上近づくことはない。

 それは……


 ……嫌だ


 まだ、陽菜と遊び足りない。

 まだ、陽菜と話足りない。

 もっと、陽菜と仲良くなりたい。


 二人でいて、心地よかった。

 二人でいて、楽しかった。

 この関係をずっと続けたい、そう思っていた。

 もっと、陽菜と距離を近づけたいってそう思っていた。


 初めてだった。

 こんな感情を抱いたのは

 ずっと、ひとりで大丈夫だと思っていた。

 それなのに、今は凄く心が寂しい。

 一人が、とても嫌に感じる。

 そう感じたのは、そう感じれるようになったのは陽菜のおかげだった


 嫌なんだ。

 陽菜とこんなところで止まってしまうのは。

 陽菜ともっと色んなことを、沢山のことを経験したいんだ。


 陽菜とこんなところで止まりたくないんだ!

 そんな衝動。

 湧いてきたその衝動に俺は身を任せ陽菜の名前を呼んだ。


「陽菜!」

「なつきちゃん!」


 陽菜と仲良くしたい。

 こんなところで、陽菜との関係を止まらせたくない。

 そんな想いを陽菜に伝えないといけない。


「陽菜とこのまま止まりたくない、だから!」

「なつきちゃんとのこのまま終わりたくない、だから」


 だから、だから

 今までしたことがないほど心の底から、喉の奥から声をだす。


「俺の話を聞いてくれ!」

「なつきちゃんの話を聞かせて!」


 そして、そこまでやって


「え?」

「あれ?」


 二人して似たようなことを言ってることに気がついて


 俺達は顔を見合わせた。





 月明かりが差し込むベッドの横に俺達は並んで座り込む。

 陽菜はこちらのことをしっかりと見ているが、俺は気まずくて顔を下に向けた。


「高校生の頃の話だ」

「高校生……」


 陽菜が俺の言葉に少し思うとこがあるように呟く。

 そう言えば、陽菜も十六歳だからちょうど高校生だったか。

 彼女は異世界症候群の影響で学校には通えていない。

 異世界症候群の特性上、学校なんて通えるわけがないのだ。

 それは、素直に可哀想だった。

 彼女の性格なら高校に沢山友人がいただろうに。

 ……そう、友人だ。


「……まあ、俺友達いないんだよ。昔から」

「そうなの?」

「陽菜と違って自分から話しかけるような奴じゃなかったからな」


 世界から一歩引く。

 そんな生き方を小学生のころからやっていた俺は小中は友人らしい友人がまともにできなかった。

 ずっと一人で静かに過ごす、そんな奴だった。


 別にコミュニケーションが取れなかったわけじゃない、ちゃんと喋っていたし、クラスの輪には入れていたと思う。

 だが、一歩引いた生き方をしている俺は何処までいってもクラスメイト以上の関係にはなれず、友人という一歩詰め合わなければならないものができるわけがなかった。

 そんな俺に友人ができるとしたら、まさに陽菜のような二歩詰めれるようなやつだけだろう。

 だから、友人なんていなかった。

 そしてそれが当然だと思っていた俺はそのことを特別不幸とは感じてなかった。

 そして、高校。


「高校の時、初めて友達ができた」


 初めて友達ができた時だった。

 陽菜のように……あいつのことを陽菜のようになんて言いたくないが、一歩引く俺に対して二歩詰めれる奴がいたということだ。

 俺はそれを受け入れていた。

 友人がいないということがイコールで友人がいらないというわけじゃない。

 俺は友人がいようがいまいがどっちでもいい、そう思っていたから、友人がいるならそれはそれでいいと思っていた。


「まあ、それなりに仲良くしてたんだよ」


 個人間で遊ぶなんてことは全くなかったが、話しかけられたら雑談はするし、ペアを組めとかいう学校特有の地獄をされたとき頼りにする程度には仲良くしていた。

 距離感が上手いやつで、俺が不快に感じない程度に距離を維持していたのも、俺みたいなやつが友人関係を続けられた理由だろう。


「ただ、ある日金を貸してくれって言ってきた」

「……ん」


 陽菜は俺が言ったことに眉をひそめる。

 彼女も高校生だ、金の貸し借りが人の関係を壊すのに十分なのはよく理解しているのだろう。


「……貸したの?」

「最初は断ってた。碌なことにならなさそうだし」


 金の貸し借りは碌でもないことが起きる、それも未成年ならなおさら、なんてのは常識の話だ。

 当然俺もそれを理解していて金を貸すことにはかなり渋った。

 けれど、そいつはそれでも頼み込んできた。


「連日頼み込んできたんだよそいつ、流石に鬱陶してくて、貸した」


 流石に何度も何度も頼み込まれると、鬱陶しさが湧いてくる。

 だから俺は金を貸して黙らせることにした。

 貸した金は一万円、俺は無趣味な人間でお金を普段から使わない生活をしていた、それ故あまりお金に価値を感じておらずそのくらいは普通に貸すことができた。

 それに、返って来なければ借りにでもしてこき使ってやればいい、そう思っていた。


 貸したときそいつは笑顔で


『ありがとな!お前は親友だ!』


 なんてとても"薄っぺらい"ことを言っていたのをよく覚えている。

 そして、それから


「それで、やっぱり……返ってこなかったの?」

「まあな」


 陽菜の言葉に頷く。

 まあ、これを話した時点で察せられるだろうが、その一万円は当然のように返ってこなかった。


「酷いね……」

「……まあ、もともと返ってくるとは思ってなかったよ」


 貸したときからその一万円が返ってくると俺は思っていなかった。

 だから、正直に言えばそこに関しては言うほど気にしていない。

 先ほども言ったが当時の俺はお金にそこまで価値を感じていなかったし、あとは借りを作るというのも一つの目的だったから。


 だから、俺が親友だとか友達だとかいう言葉を嫌うに至ったのは別の理由がある。


「放課後に、忘れ物を取りに戻った時があったんだよ」


 よく、覚えている。


 季節は今みたいな夏で、汗で張り付くワイシャツと忘れ物をした自身にムカつきながら学校の廊下を歩いていた。


 たどり着いた教室にはあいつと数人の奴らがいた。


 そして、あいつが軽く、雑談のように言った。


『俺来週引っ越すんだよ。だからもう転校』

『……は?』


 その時の衝撃は、今も胸の中を巣食っている。


 引っ越す?転校?来週?その言葉を理解していながら飲み込むのには時間がかかり、それを飲み込んで出てきたのはたった一つの呆然とした言葉だった。


「引っ越して、踏み倒すつもりだったってこと……?」

「ああ」


 陽菜が眉間にしわを寄せ明確に怒りを顕にする。陽菜が怒りの感情をここまで表に出すのは初めて見た。

 そう、あいつは引っ越すから踏み倒すのを前提に俺の金を借りていたのだ。


 それを理解して、俺は、忘れ物のことすら忘れその場から逃げ出した。


「なんていうかのかな、それを理解して、ただただ来るものがあった」


 胸が苦しいような、重いような、言語化が上手くできないが、ただその事実は俺に強くのしかかった。

 その時自分が思っていたよりもあいつに対して気を許していたことを知ったものだ。


「金を返してくれないのは別にいいんだ。それでも、『親友』なんだから義理は感じてくれるだろうって思ってた」


 しかし、そいつは最初から義理すらも感じていなかった。


 そして俺には友達と言える人間がそいつしかいなかった。

 だからこそ、俺にとって"友達"という存在がそいつに固定化されてしまう。


 故に、俺は思った。

 思ってしまった。

 もしこれが友達だとか、親友だとかいうのなら


 そんなもの、()()()()()()()()()()()()()()()


「それから、友達とか親友とかいう言葉がなんか、駄目になったんだ……凄く薄っぺらく感じて……」


 これで他に友達と言えるやつがいればそうはならなかったのだと思う。

 もし、他に友達がいるのなら、あいつは友達じゃなかった、それだけで終わり話だった。

 けれど俺はあいつ以外の友達がいなかったから、それが、そんな義理すらもない関係が友達という関係なんじゃないか、ふと、そう思ってしまった。


 あいつはよく俺のことを友達だとか親友だとか言っていた。


 その言葉のせいで友達だとか親友だとか、そんな言葉が俺にはとても薄っぺらいものに感じるようになってしまった。


 だから、俺にとって親友という言葉は世間一般でいう親友なんて意味を持たない。


 陽菜と親友になりたくないのはそれが理由だった。


 陽菜とそんな、"薄っぺらい"関係になりたくなかったんだ。


「それで……親友って言葉が無理になったんだ」

「…………」


 俺の語りを聞いて、陽菜のやつは何も言わなかった。


「だから、陽菜との親友にはなれない……ごめん、お前がそういう奴じゃないのはよく分かってる……でも、駄目なんだ」


 申し訳なかった。

 彼女の善意を、彼女の行為を俺の事情だけで拒絶してしまうのが申し訳なくて謝った。

 もっと、俺の心が強ければ、こんなことにならなかった。

 全部、俺が悪い。

 けど、けど


「それでも、お前と仲良くしたのは本当なんだ……」


 陽菜と仲良くしたい、そう心の底から思っているのだ。

 陽菜が口を開くのを待つ。

 断罪されるのを待つ、囚人のような気分だった。


「ねぇ、なつきちゃん」


 そして、陽菜が口を開く。

 彼女が何を言うのか一語一句聞き逃さないように俺は耳に全神経を集中する。

 そして、陽菜は言った。


「私のこと、嫌い?」

「え……」


 唐突なとんでもない質問に俺は驚いて、少し硬直した。

 そして、復帰して大声で否定した。


「そんなことない!」


 陽菜のやつが嫌い?そんなことあるわけがない!


「お前は、俺と仲良くしてくれて、俺を変えてくれ、俺の毎日を楽しくしてくれた!お前と会えてよかったって心の底から思ってる!嫌いなんて絶対ならない、むしろ……その、お前のことは」


 まくし立てるように言って、段々恥ずかしさが襲ってきて最後、自分が言おうとしたことに気がついて途切れ途切れになる。

 けど、この正直な気持ちはしっかり伝えたかった。


「……()()()


 顔が熱い。

 初めてこんな直球な想いを口にした。

 恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい

 今までの比じゃないくらい恥ずかしく、見なくても自分の顔がやかんのように湯気を立てて燃え上がってるのが分かった。


 それを聞いて陽菜は嬉しそうに笑う。


「私もね、なつきちゃんのこと大好き!」

「ほ、本当に?」

「本当!」


 眩しい笑みを浮かべて言う陽菜のその言葉に俺は安心して思わず破顔した。

 よかった、嫌われてなかったんだ。

 酷いことを言ってしまったのに、彼女は俺を嫌うどころか好いていてくれた。


 しかし、だからこそ


「その、ごめん……」


 だからこそ、彼女と親友に成れないのがあまりにも申し訳なかった。

 陽菜がここまで言ってくれてるのに、それを受け取れない。

 我ながらあまりにも不甲斐なくダサいにも程があった。

 俺の言葉に陽菜は呆れた顔をする。


「もう、なんで謝るのさ」

「だって、陽菜と、親友になれない」

「んー、でもさ」


 陽菜は笑って言う。


「私と親友に慣れないのはそんな薄っぺらい価値のない関係が嫌だから、なんだよね?」

「……ああ」


 その通りだ。

 俺が、あのとき陽菜の言葉を拒絶してしまったのは陽菜と親友という俺にとって価値のないものなんて関係になりたくないからだった。

 俺が肯定すると陽菜は安心したように息をつき、微笑んだ。


「じゃあさ、親友じゃなければいいんでしょ?」

「う、うん」


 陽菜は確認するように問いかけた。

 どういうことだろうか?その質問の意図が分からず俺は不思議に思いながらもコクリと頷いた。

 俺が駄目なのは親友という関係だ。

 逆に言えばそうじゃなければ問題ないといえば、間違いではない。

 それを聞いて陽菜は軽く当然のように言う。


「だったら、親友なんて超えればいいんだよ」

「え」


 親友を超える……?

 それって、どういうことなのか、それを俺が問いかけるよりも早く陽菜は口を開く。


「私ね、なつきちゃんともっと仲良くなりたい」

「……俺も、陽菜とはもっと仲良くなりたい」


 陽菜が何をいいたいのかは分からない。

 けど、陽菜と親友を超えたいのは同じ気持ちだった。

 俺の言葉に陽菜は太陽のような笑みを浮かべた。

 その笑みが俺の瞳を照らす。


「だからさ、()()になろう!」

「なっ」


 そして、彼女はその笑みのままそう言った。

 俺はそれに絶句することしかできなかった。


 『家族』


「友達とか親友を超えて、家族!それなら大丈夫でしょ?」


 それは、親友なんかよりよっぽど近く。

 そして、とても分厚い関係。

 固まる俺に、にひひといたずらが成功した子どものような笑い方で陽菜が笑う。


「なつきちゃんとの関係は、親友なんかじゃ物足りないもん!」

「……っ!」

「《《家族ってのはねずっと一緒なんだよ》》!私なつきちゃんとずっと一緒にいたいもん!」


 ずっと、一緒

 家族はずっと一緒

 陽菜はそこまで言って俺に手を伸ばした。


「だからさ、家族になろう!」

「あ、あはは」


 彼女の言葉に、彼女の顔につられて俺は笑ってしまう。

 だって、あまりにも奇想天外だったんだから。


「家族って」

「む、笑わないでよ。真面目に考えたんだから」


 家族、確かに親友を超える関係ならそれしかないのかもしれない。

 家族は薄っぺらくない。これなら、俺も受け入れられる。

 けど、まさかそんな言葉が出てくるなんて

 陽菜みたいなやつじゃなきゃ無理だ。

 だってそれは奇想天外な考えなのだから、奇想天外なやつじゃなきゃ思いつけない。

 そう思っていると、俺の目から涙が垂れてきた。


「な、なつきちゃん?」

「ちがっ、その、うれしいんだ」


 驚いて心配するように名前を呼ぶ陽菜に俺は理由を説明する。


「陽菜が、俺と家族になってもいいって、ずっと一緒にいたいって思ってくれてたのが、嬉しいんだ」


 流れ出る涙を指で受け止める。

 嬉しかった。陽菜とそんなに信頼関係を築けていたことが、彼女とここまで仲良くなれていたことが。

 だから、今陽菜がそこまで言ってくれたのが涙がこぼれるほど嬉しかった。


 俺はまだ、陽菜と一緒に歩けるんだ。

 それが、なによりも嬉しかったんだ。


 陽菜の手を握る。


「陽菜、俺達は家族だ」

「うん」

「ずっと……一緒だ」

「うん!」


 二人で抱き合う。

 喜びを二人で共有する。


 俺達は友人でも親友でもない。

 それを超えた関係

 家族、そう俺達は家族なんだ。


 陽菜と俺は家族なんだ。

 陽菜と俺の仲がまた一歩近づいた。






 それから、二人で満足するまで抱き合った。

 ようやく離れたとき陽菜は言った。


「じゃあ、私が姉ね!お姉ちゃんって呼んで!」


 む、と思った。

 お風呂場でも似たような会話をしたけど、それは違うんじゃないだろうか。


「俺のほうが年上なんだから俺のほうが姉だ。お前がお姉ちゃんって呼ぶべきだ」

「いーや、なつきちゃんみたいな可愛い子は姉じゃなくて妹だね!」

「はあ!?それを言うならお前のほうが可愛いんだから妹だろ!」


 抱き合ってたのが、打って変わって睨み合いに変わる。

 視線が絡み合って、まるでにらめっこのようだった。

 そして、負けるのは同時。


「「はははっ」」


 二人で笑い合う。

 本当に、馬鹿みたいな睨み合いだった。

 だって、どっちだろうと家族なのは変わらないんだから。


「どっちも姉でどっちも妹ってことにする?」

「……いいだろう」


 姉であり、妹であり、妹であり、姉

 別にどっちだって家族なんだからどっちでもよかった。

 ただ、陽菜と一緒なんだからそれでいい。

 そうやって二人で笑いあってると、眠気がやってきた。


「ふわぁ……流石に眠いね」

「もう、深夜だからな。一緒に寝るか」


 家族らしく二人でベッドの中に入り込む。

 今度は向き合って、顔をつき合わせてだ。

 陽菜は優しい笑みを浮かべていて、俺も涙は止まって笑っていた。


「おやすみ、なつきちゃん」

「おやすみ、陽菜」


 二人で寝る前の挨拶をし合って、電気を落とす。

 そうすれば、部屋は暗い闇に包まれて陽菜の顔も捉えにくくなった。

 …………陽菜

 俺は少し、体を陽菜の方へ寄せる。

 目には見えなくても、陽菜の気配はしっかりと感じた。


 ……本当は絶対駄目だけど


 今日くらいは許してほしい。


 俺は陽菜の体に抱きついた。


「……なつき、ちゃん?」


 陽菜は怒りもせず不思議そうに小声で話しかけてくる。

 拒絶されない、そのことが嬉しかった。


「……今日だけ、甘えさせて。()()()()()

「!……ふふ、なつきちゃんは仕方ないなぁ」


 今日は、今日だけは陽菜(家族)の体温を近くで感じていたかった。

 それを聞いて陽菜は優しく笑って、彼女も俺を抱擁した。


 目を閉じる。

 陽菜は手の中にいる。

 俺は陽菜の中にいる。

 俺達は一緒にいる。


 おやすみなさい。


 その日はとても良く眠ることができた。





 「……ん」


 カーテンの隙間から漏れる光で、朝であることに気がついた。

 布団から抜け出して、スマホを手に取る。

 スマホを見るとギリギリ朝と言えるくらいの時間だった。


「すー……すー……」


 目の前では陽菜のやつが静かに寝息を立てていた。

 幸せそうな寝顔である。パシャリ、折角なので写真を撮っておいた。今度待ち受けにでもしてやろう。


「……陽菜」


 軽く、彼女の髪を撫でる。

 本当に、幸せそうな顔だ。一体なんの夢を見てるんだか。

 昨日は色々あったけど、最終的にいい方向に進んで良かった。

 陽菜と家族、か


「……ふふ」


 改めて思い出して、笑う。

 喜びを噛み締めて俺は伸びをして、小さく呟く。


「……ずっと一緒だぞ」


 家族なんだからな。


「さて……」


 俺は陽菜に救ってもらった。

 俺のつまらない人生を、彼女が変えてくれた。

 陽菜は俺を救ってくれたのだ。


 ……なら、次は俺の番だ。


 俺は拳を握り決意する。


 なんて思っていたら突然、陽菜の体が持ち上がった。


「……おはよ、なつきちゃん」

「にゃっ!?お、お前いつから!?」


 ドクンっ!と心臓が跳ねた。

 果たしていつの間に起きていのか、陽菜はニマニマとした笑みをこちらに向けながら布団から抜け出す。


「そんなこと言われなくても、ずっと一緒だよ?」

「っ〜〜〜〜〜!!!!」


 ボンッ、俺の頭からそんな音がした気がした。

 聞かれてた聞かれてた聞かれてた聞かれてた!

 恥ずかしさに熱を感じる。


「ね、なつきちゃん」

「…………言質、とったからな」


 くそ、なんでいつもこうなるんだ!






 帰るまでが遠足ですなんて言うように。

 帰るまでがお泊まり会である。


「なつきちゃん荷物多くない?」

「ちょっとな」


 陽菜のことを任されたのだからそれは家の中だけではなく外でもそうだ。

 陽菜が病院に送るまでが俺の仕事である。

 思ったよりも遅くなってしまったので小柳さんに連絡を入れ二人であのパスタ屋により昼ごはんを食べ、病院についた頃は昼を少し過ぎたくらいの時間だった。

 病院のいつもの部屋に着くと既に小柳さんは待機していた。


「おかえりなさい」

「ただいま!」


 陽菜は小柳さんに元気いっぱいに返事をする。

 それを聞いて小柳さんは満足そうに笑った。


 俺はそんな彼女に視線を向ける、そしてわざとまばたきをする。


「……楽しめたようですね」

「うん!」

「……ああ」


 俺の目線に気づいたあと彼女は間を置いてそう言った。

 本心で気になることなのだろう、俺は素直に答えた。

 楽しめたし、いいこともあった。陽菜と家族になれた。

 このお泊まり会はとてもいい思い出になるだろう。


「陽菜さん、部屋に戻って荷物の整理をしておいてください」

「あ、はーい!……じゃあ、なつきちゃん、また今度!」


 小柳さんの言葉に頷いた陽菜は部屋から出ていった。

 また今度、か。その今度が今から楽しみだ。

 さて……


 俺は小柳さんと向かい合う。

 そこには先程までのほのぼのとした平和な空気はなく、真剣な空気だけが漂っていた。

 それはそうだ。


 ここからは、()()の話なのだから。


「……朝比奈さん」

「今更だけど、名前でいい」

「では、成月(なつき)さん。()()()()()()()()()()?」


 小柳さんはこちらが何か聞きたがっているのを前提の質問をしてきた。

 多分、俺が何を質問したいのかも分かっているのだろう。

 だからこれは、彼女は俺を試しているのだ。


 お前に踏み込む覚悟はあるのか、と


 そんなの、当然だ


 とても大切なこと。

 気づいていたけど、踏み込んでいなかったこと。


 ……けど、彼女は俺に踏み込んでくれた。

 俺の生き方を変えて、俺を救ってくれたんだ。

 だから、今度は俺の番。


 今まで、一度もそんなことやってこなかった。

 一歩引いた生き方をしていた俺は、ずっと足を後ろに下げていた。

 もはやそれを当たり前のようにやっていた。


 でも、もう辞めだ。


 陽菜のためなら、俺は踏み込める。


 今度は、俺が踏み込む番だ。


 俺は一息ついて、目の前の彼女にそれを質問する。


()()()()()について、教えてください」


 そして、俺が()()()()()番だ。




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