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ケモミミ少女が救われる話  作者: 霜降り
その後の話
27/29

帰省する話(12)


 気がつけば実家に帰省して五日目だった。


 昨日は父さんに身を任せて眠り、そのまま朝まで陽菜と共にぐっすりだったらしい。

 夕がその時の写真を撮っていやがったらしく朝スマホを確認したらその写真が送りつけられていた。

 陽菜が飛び起きるくらいベッドで悶えたものだ。

 なにせ、完全に遊び疲れて親の背で眠る子供だったのだから。

 甘えることを始めても、恥ずかしいものは恥ずかしいのである。


 そして、五日目となれば最終日だ。

 昼ご飯を食べてから帰ることにしたので、この家からは後数時間経てば離れることになる。


「陽菜ちゃぁ〜〜ん!」

「夕ちゃぁ〜〜ん!」


 この五日間で随分と仲良くなったようで、二人はまるで一生のお別れのように抱き合っていた。

 そんな二人をなにやってんだか、と呆れた目でリビングの椅子に座り眺めていると母さんが紙袋を持って現れる。


「成月、はいこれ」

「……なにこれ?」

「服、あなたたちの」


 言われて中身を見てみればそこに入ってるのは沢山の服だった。

 なんか、この服達見覚えがあるような……


「昔夕が来てた服なのだけど、処理に困ってるの。今のあなたなら着れるでしょう?」

「……嫌なんだけど」


 母さんの言葉に俺は頭を抱える。

 そりゃ、見覚えがあるわけだ。

 その善意は嬉しいのだが、兄が妹のお下がりを着るという謎の状況は兄としてのプライド的に正直嫌である。

 そんな俺を見ていつもの席に座っていた父さんは笑う。


「はは、貰えるものは貰っとけよ」

「体よく押し付けようとしてない?」

「そんなことないわ。ちゃんとあなた達のために尻尾用の穴も開けといたから」

「それ外堀り埋めるためにやったでしょ……」


 そこまでされると流石に受け取らないわけにもいかず、俺は母さんからの紙袋を受け取った。

 結構重いし、これやっぱ押し付けたかったんだろ、という心は飲み込んだ、まあありがたいっちゃありがたくはあるのだが……

 はあ、と俺が溜め息をつくと母さんもいつもの席に着き、俺達三人が向かい合う。


「ねえ、成月」

「なに、母さん」


 母さんから名前を呼ばれて母さんの顔を見る。


「私は何が会ってもあなた達のお母さんよ、それは忘れないように」

「そうだぞ、俺もお前のパパだ」


 二人はいい笑顔でそう言った。

 あいも変わらず、子供への愛情が深いことで。

 少し呆れのような感情すら抱く。


「知ってるよ、そんなこと」


 だってそんなこと二人が俺の両親であることくらい産まれたときから知っている。

 二人のおかげで今の俺があって、そして二人の子供だからこそ俺と陽菜は家族になれたのだから。

 それを聞いて二人は満足そうに笑った。


「五日間楽しかったわ、また来なさいよ?」

「分かってるよ……」


 ちゃんと、家族と向き合うように決めたんだ。

 それは陽菜だけじゃない、母さんも父さんも夕だってそうだ。


「これからはちゃんと連絡もする、それでいいでしょ?」

「ふふ、期待してるわ」

「……期待はしないでほしいんだけど」


 ぶっちゃけ、俺の日常そんな連絡すること起きないし……

 ニート生活というのはどうしても刺激が足りないものだ。

 何か始めればいいのかもしれないが、異世界症候群が邪魔になる。

 しかし、また忘れてしまうと本格的に母さんがブチギレそうなので最低限ちゃんと連絡はしていくつもりだ。


「それと、成月」

「何?ご飯ちゃんと食べろとでも言うつもり?」


 お小言でも言われるのかと眉をひそめる。

 昔、大学のために一人暮らしを始める際に一番言われたのはそこだった。

 ご飯を抜くように見えたのだろうか。

 まあ、否定はできないが。


「違うわよ、今のあなたなら絶対しないでしょ?」

「……まあ、しないけどさ」


 今は、料理が趣味だし。

 陽菜もいるし、ご飯を抜くなんてするつもり一切ないが。

 じゃあ、何だというのか。


「頭、撫でていいかしら?」

「…………」


 ……俺の頭って魔性の頭だったりするのだろうか?

 小柳さんも、陽菜も撫でたがるのだけど、なにかフェロモン的なものを放ってたりするのか?


「なんでさ」

「ふふ、昨日のあなた達を見て昔のことを思い出したの、駄目かしら?」


 笑う母さんに耳がピクピクと動く。

 昨日って言うと多分おんぶされてたことか……

 撫でられること自体は好きだけど、だからと言って恥ずかしさがないわけじゃないのだが。

 はあ……


「いいよ」

「ありがとうね」


 それでも、まあ母さんならいいかと俺は許可を出した。

 母さんには迷惑かけっぱなしだし、少しくらいは返してあげたかったのだ。

 母さんの手が伸びてきて、俺の頭に触れる。

 その手は小柳さんとも陽菜とも違う手で


 ただ、優しく、懐かしい手だった。


 ああ


 やはりこの母からしたらいつまで経っても俺は子供なのだろう、そう思った。


「あ、なつきちゃん撫でられてる!私も撫でたい!」


 なんて思ってたら陽菜が俺のことに気がついたらしい。

 こちらもこちらで頭を撫でたがっているようだ。

 やはり、フェロモンでも出ているのだろうか?


「ふふ、陽菜。こっちきて?」

「うん!」


 母さんが陽菜を呼ぶ。

 陽菜はトテトテと俺の隣に来た。

 そして、母さんはもう片方の手で陽菜の頭を撫でた。


「ママ?」

「ふふ」


 母さんは嬉しそうに笑う。

 それを見て陽菜も、それを静かに受け入れることに決めたらしい。

 母さんはただ俺達の頭を優しく撫でた。


「……ママの手、温かいね」

「そう?」

「暖かいよ」

「ああ……母さんの手は、温かい」


 陽菜は母さんの手をそう形容した。

 陽菜の言う通りだ、母さんの手には優しい温もりがあった。

 これが、母性……いや、親の愛というやつだろうか。


「……本当に可愛い娘達ね」

「ん……」


 母さんは少しだけ力強くこちらを撫でる。

 それで、珍しく母さんが俺達の言葉に照れていることに気がついた。

 母さんが照れてるとこ初めて見たかも。

 少し珍しく思いながら母さんの手を受け入れる。

 静かながらとても幸せな時間だった。


「夕、そんな嫉妬しなくても俺が撫でてやろう」

「セクハラで訴えるよ?」


 残り二人は、そんな会話をしていた。






 五日間があっという間だったのだ。

 数時間なんて本当に一瞬のことだった。


「ちゃんと帰ってくるのよ?」

「しつこいって」


 今はもう家を出て、駅前だ。

 母さんが念押しするように言ってくるのを軽くあしらう。

 たたの帰省程度わざわざ駅までお見送りに来る必要ないと思うのだが。

 まあ、異世界症候群やらなんやら色々心配をかけたのだ。

 それに、陽菜もいるしまあいいだろう。


「陽菜ちゃん、また会おうね!」

「うん!」


 さっきも別れの挨拶をしていた二人だがまたやっている。

 本当に仲良くなったな、まあ陽菜と俺の方が仲いいけどね!

 なんて馬鹿なことを思っていたら夕がこちらに視線を向けた。


「兄貴〜、時間がある時家に行っていい?」

「えー……」


 こちらを向いた夕は俺の家に遊びに来ていいかと頼み込む。

 俺はそれを聞いて実に渋った。

 正直に言えば来て欲しくない。


「お前それ泊まりになるだろ?」

「まー、だから連休とかにさぁ……いいでしょ?」


 なにせ、夕は普段は寮暮らし、俺の家からはかなり離れているわけで、俺の家に遊びに来るならそれはもう泊まりが確定だ。

 だから、呼びたくないのだが。


「なつきちゃん、私からもお願い!」

「ほら、陽菜ちゃんも言ってるしさ!」


 そりゃ、陽菜は会いたいよな。

 数少ない陽菜と同年代の相手だ、そりゃ話していて楽しいだろうし、それに家族なんだ。

 まあ、夕のわがままなら絶対断わるところだが、陽菜の頼みだ。


「来るときはちゃんと連絡しろよ」

「やった!」

「わーい!」


 許可してやるとしよう、夕は陽菜に感謝するんだな。

 そしたら、二人は手を取り合って喜んだ。

 全く、手のかかる妹達である。


「んで、父さんは何か言うことないわけ?」

「あ?言ってほしいのか?」

「別に」


 先程からずっと珍しく大人しくしていた父さんに話しかける。

 ぶっちゃけここまで大人しいのが逆に不気味だったから話しかけただけである。

 そんな俺に父さんはいつもと変わらぬ顔で言った。


「今のお前に掛ける言葉はねぇよ。あとは自分で何とかしろ」

「あっそ」


 つまり、俺に過保護をしてやるつもりはないということだろう。

 それに文句を言うつもりはない。

 それが愛情の一つの形であることくらいもう分かってる。

 さて、もうお別れのお話は十分だろう。


「じゃあ、もう行くね。陽菜」

「あ、うん……」


 俺に名前を呼ばれた陽菜が少し悲しそうにする。

 俺はそれが少し嬉しかった。

 だって、陽菜が別れを惜しんでくれているということはそれだけ陽菜にとって朝比奈家は心地良い居場所になれたと言うとなのだから。


「陽菜、そんな悲しむんじゃねぇよ」

「うん……」

「そうよ、一生のお別れってわけじゃないでしょう?最後くらい笑顔で見送りたいわ」

「!そうだね!」


 父さんと母さんに励まされて、陽菜は笑顔を浮かべる。

 それを見て全員の顔に笑顔が浮かんだ。

 うん、やっぱり陽菜は笑顔が似合う。


「じゃあ母さん、父さん……あとついでに夕、多分次帰ってくるのは年末とかかな」

「何時でも帰ってきなさい」

「ついでってなに!?それまでに私一回は兄貴の家に行くからね!」


 俺の言葉に母さんと夕から突っ込まれる。

 そんな二人に少し笑いつつ、俺は三人に別れの挨拶を告げる。


「じゃあ、()()()

「ええ、またね」

「おう、またな」

「陽菜ちゃんまたねっ!」


 反応は三者三様、しかしまた必ず会えることを確信した別れの言葉だった。

 だって、この別れは一生の別れなんかじゃない。

 何時でも会えるし、家族とはずっと一緒なんだ。

 だから、さようならよりも、またねと伝えるのが相応しい。

 そして俺は陽菜の背を叩く。


「ほら、陽菜も」

「うん!みんな、またねっ!!」


 陽菜はここ五日間で一番の声で笑顔で別れの挨拶をみんなに告げた。

 その笑顔に俺含め全員引っ張られて笑う。

 別れであれど、とても温かい別れだった


 そして、俺と陽菜は彼らに背を向け駅の中へ足を踏みしめた。

 俺達から見えなくなるまで、三人はこちらを見送ってくれていた。






 階段を下り、きっぷを買って改札を抜ける。

 駅のホームは無人で静かだった。

 二人並んで駅のホームで電車を待つ。


「…………」

「…………」


 無言の時間だった。

 陽菜はどうやら、感傷に浸っているらしい。

 そんな彼女に俺は笑う。


「そんなに楽しかったか?」

「うん、とっても」


 こちらを向いた陽菜は優しく笑ってそれを認めた。

 本心からそう思ってくれていることがわかり俺は嬉しかった。


「また会いたいなぁ……」

「夕はともかく、母さんと父さんは年末かなぁ」

「むう……遠い」


 半年もないが、それでも数カ月はある。

 陽菜にとっては十分すぎるくらい長いようで、少し不満げだった。


 と、その時駅のホームに電車が訪れる。

 俺達はその電車に乗車する。

 この駅は終点よりなため、電車は伽藍洞だ。

 まあ恐らくこれから混んでくるのだろうが。

 俺達は端の方の席に座る。

 陽菜はやっぱり少し意気消沈といった感じだ。

 そんな彼女に俺は少し笑う。

 だって現代には会えなくても話す方法なんていくらでもあるのだから。


「そんなに悲しまなくても、いつでも連絡取れるだろ?」

「……あ!そうだった!」


 陽菜はあっ、と思い出したかのようにスマホを取り出す。

 そう、陽菜は初日に母さんと父さんの連絡先を、それに夕との連絡先も交換しているのだ。

 だから、いつだって連絡を取れる。

 この五日間はそんなことするまでもなく話せたから忘れていたのだろう。


「だったらいっぱいお話しちゃお」

「しろしろ、二人もその方が喜ぶぞ」

「……じー」


 陽菜の言葉を肯定したら、何故か陽菜からジト目を向けられた。

 なんだ急に、そんな可愛い顔。


「なつきちゃんも、ちゃんとお話しなよ」

「うっ、わ、分かってるよ」


 お前までそれを言うのか……

 流石にこれからはちゃんとやるつもりだ。

 陽菜との日常を話せばいいんだろう、分かってるさ。


「ほんとかなー?」

「やる、やるって」

「ふぅん?じゃあちゃんとやれてたらナデナデしてあげる」

「………………んん」


 もう、なんか完全に妹扱いというか。

 昨日甘えに甘えたのが尚更それを加速させた気がする。

 まあ、いいけど。これから毎日甘えるつもりだし。

 ……そうなると、撫で撫でって別にご褒美になってなくないか?

 いや、いいけどさ。


「ただ、何を送ったものか。わざわざ話せばものがないんだよな」


 しかし、連絡を取ろうにも何を話せばいいのか。

 変わらぬ日常を過ごす身のため、話題があまりにも乏しい。

 もうちょっと外食の機会を増やすとかしたほうがいいだろうが?

 しかし、その動機が親に話すネタを作るためというのはどうなのだろう。


「そんなことないよー」


 そんな俺と違ってコミュ強な陽菜はそうでもないらしい。

 参考に何を送るのか教えて欲しいところだ。


「えっとね、なつきちゃんのことでしょ?あとは……なつきちゃんのことと、なつきちゃんのこと?」

「俺ばっかじゃねぇか」

「えへへ」


 突っ込まれてニヤケ顔を浮かべる可愛らしい陽菜に呆れ気味に笑う。

 どうやら、陽菜も実際あまりないらしい。


「あとは小柳さんとか?」

「それでも二人だけか……どうにかこうにか交友関係を増やすか?」

「えっ」


 陽菜がこちらをありえないものを見たかのように見てくる。

 なんだ?


「なつきちゃんが友達作るって言った……?」

「…………悪いか」


 陽菜の言葉に一瞬怒りそうになるものの、あまりにもその発言はその通りなので怒ることも出来ず、ただそんな言葉が漏れる。


「ううん!いいと思う!けど、どうやって作るの?」

「そこだよなぁ……異世界症候群が邪魔すぎる」


 友好関係を増やそうにも異世界症候群というのは大きな壁となる。

 世の中のこと上手くいかないものだ。


「公園の子供達とか?」

「本格的に小学生になるつもりか?」


 そう言えば、あの道路で遊んでいたガキどもはどうしたのだろうか。

 最近は俺の注意を受けて見なくなったが、それはそれで少し寂しさもあるものである。

 近くの公園に行けばいるのかもしれないが。

 なんて、考えにふけっていると陽菜が話しかけてくる。


「ところでさ、なつきちゃん」

「ん?」


 思考を止めて、陽菜の方を向く。


「なつきちゃんは楽しかった?」


 陽菜は俺の答えを確信してるようで笑顔で問いかけてくる。

 ふっ、そんなの決まってる。


「楽しかったよ。五日間色々あってな」


 陽菜と電車に乗って、商店街を巡って、家族と話して、ゲームして、ファッションショーをして、二人で話し合って、陽菜に甘えて、そして花火を見た。

 どれをとっても強く記憶に残るような、とても楽しい時間だった。


「それに、いい五日間だった」

「いい?」


 母さんに料理を教えてもらったり、夕とファッションショーをしたり、父さんに大人としての生き方を教えてもらったり。

 陽菜のおかげで家族と昔よりも近くなれた気がした。

 そしてそれはもう一人の家族とも。


「お前に甘えられるようになったのは……正直嬉しい」

「なつきちゃん……!撫でて良い?」

「むしろ撫でろ……一日四回って言ったはずだ」


 誰もいないので帽子を外して、頭を撫でられる。

 うむ……とても落ち着く、くるしゅうない。

 陽菜にこうやって大々的に甘えられるようになったのはとてもいいことなのだろう。

 ふと、あの時の会話を思い出す。


「あのさ……陽菜」

「なぁに?」

「お前、あの日一人でも生きていけるって言ってただろ?」


 俺の言葉に上機嫌だった陽菜の手が止まる。


「……うん、言ったね」


 陽菜はこくりと頷いてそれを認める。

 陽菜は十六歳、確かに不安は残れど一人で生きていくのも十分可能な年齢だった。

 その上で俺は言う。


「正直に言うとさ」

「うん」

「俺は多分一人だと無理」

「えっ?」


 ちょっと考えてみたんだ。

 今の俺が陽菜なしで一人で生きていけるかということを。

 率直に言おう。

 無理だ。

 無理である。

 本当に無理である。


「ぶっちゃけ俺一人じゃ生きてけない」

「ええっ!?」


 大人として本当に頼りないことなのだが。

 どうも俺は自分の想像を超えて陽菜に依存しているらしく。

 正直陽菜なしで生きていける気がしない。


「でもでもでも、なつきちゃん私と会うまで一人だったんでしょ!?」

「そうだけど……」


 確かに俺は陽菜と出会うまでは一人だったさ。

 けど、俺は正直あの状態……生きているだけのような生活をあまり生きているとは言いたくない。

 それに俺はもう、陽菜という家族を知ってしまったのだ。

 知ってしまえば、もう忘れることなんてできない。

 俺はもう昔の生活はできない。


「だから、その陽菜なしじゃ俺は一人で生きていけない」

「ん?あれ?」


 それを言ったら陽菜は不思議な反応をした。


「陽菜?」

「あ、分かった。なつきちゃん、私の言ったこと誤解してる」

「え?」


 誤解?一体どういうことだろうか。

 陽菜に疑問に目を向けて続きを促す。


「あのね、私ね、あれは一人で生きていけるって言っただけでなつきちゃん抜きってことじゃないんだよ?」

「えっ?」


 そう言えば、そうだったような?

 一人で生きていけるとは言っていたが、俺抜きとは言ってなかった。

 しかしである。


「でも、一人って」

「あれは、その、一人でも生活はできるって意味でいったの」


 誤解を招いてしまったからか少し申し訳なさそうに語る陽菜。

 つまり、あれか。

 陽菜の一人で生きていけるってのはあくまで能力を指していたのであって、一人で生きていけるかどうかという話ではないってことか。

 分かりやすく言うならできるとやれるは違うというわけだ。


「私ね、確かに一人で生きていけるよ……でも、なつきちゃんいなかったら、無理だと思う」

「陽菜……」

「一人で生きていくにしても、んー……かなり譲歩してなつきちゃんが友達にいないと無理だと思う」

「……そっか」


 なるほど。

 つまり、最初から同じ気持ちだったわけか。

 全くコミュニケーションとは難しいものである。

 だからこそ、母さんも父さんも俺に言ったのだろう。

 言わないと伝わらないって。

 結局、あの二人はどこまで見えていたのだろうか。

 本当に、敵わない。


「なあ、陽菜」

「うん」


 陽菜の名前を呼んで目を合わせる。

 そう、だよな。

 言わないと、伝わらない……よな。


「俺は陽菜とずっと一緒にいたい」

「私も、なつきちゃんとずっと一緒にいたい」

「だから俺のこと支えて欲しい」

「私のことも支えて欲しいな」

「ふっ」

「あははっ」


 そこまで言って俺達は笑い合った。

 本当のことを言えば、こんなこと今更確認する必要なんてないのだ。

 でも、それを言葉にするから意味があるのだろう。

 と、その時だった。

 陽菜と俺のスマホが少し震えた。


「ん?」

「あ、夕ちゃんからだ」


 スマホを確認すれば、たしかに送り主は夕だった。

 何か忘れ物でもしたのかと思ったが、通知を見た感じ、どうやら写真を送ってきたらしい。

 一体なんだろうか。


「わっ!なつきちゃん見て!」


 先に見た陽菜がそう言う。

 俺も言われた通り、通知を押して開く。

 そしてそこに表示されたのは……


 母さんと父さんと夕が三人、全員いい笑顔を浮かべた写真だった。


 ……中心に夕がいるあたり夕の発案だなこれは


 服といい、本当に、いい仕事をするやつである。


「ね、ね、なつきちゃん私達も写真撮ろ!」

「ん……いや」


 送り返そうとしたのだろう、スマホを手に持つ陽菜を止める。

 今から撮るより、もっといい写真がある。


「なあ、陽菜あの写真送ってくれよ」

「あの?」

「昨日の、花火のやつ」

「あ、なるほど!」


 陽菜も俺が何を言っているのか分かったようだ。

 昨日の花火をバックに撮った写真。

 二人して、太陽のような笑み浮かべたあの写真。

 送るならあれしかないだろう。

 ああ……そう言えば忘れてたな。


「二人にさ、言われたんだよ」

「ママとパパに?」

「笑ってる顔を見せるのが一番の親孝行だって……だから約束したんだ」

「…………」

「最高の笑顔を見せてあげるって」

「……ふふ、ならぴったりだね」


 あの約束を果たすのにこれほどぴったりな写真はない。

 陽菜の手が素早く動く。


「はい、送ったよ」

「おう」


 陽菜がメッセージアプリを見せてくる。


 そこにはあの三人のとても良い笑顔の写真。

 そしてその下に、


 太陽のような笑みを浮かべる、猫耳と犬耳の少女が写っていた。







「んん……」


 陽の光に目が覚めた。

 二度寝しようと重い体を引きずり立ち上がろうとして、気づく。


「……あれ?」


 いつもなら、俺の横でスヤスヤ眠っている陽菜がいない。

 ……スマホを確認、時間は何時も通り。

 先に起きているのだろうか?そうだとしたらとても珍しい。

 俺は少し伸びをしたあとリビングへ向かう。

 その途中、少し焦げ臭い匂いがした。

 ……なるほど


「あ、なつきちゃんおはよ……」

「おはよ、早起きしたのか」

「う、うん」


 陽菜が少し落ち込んだ様子で俺を出迎えた。

 机を見れば、少しだけ焦げ付いた目玉焼きが置いてあった。


「あ、あのね……早起きできたから朝ごはん私が作ってみようと思ったんだ……それでね」

「失敗しちゃったか」

「うん……」


 陽菜は料理が出来ないわけじゃないが、まだまだ初心者。目玉焼きに失敗することもあるだろう。

 陽菜はこちらを見る、怒られないか心配してるようだ。


「陽菜」

「う、うん」

「明日からはさ、ご飯一緒に作るか」

「え?」


 というか、本当は今日はそうするつもりだった。

 今までは陽菜が起きる前に俺が料理をしていたけれど。

 それじゃあ陽菜が朝ご飯の作り方をを学ぶことができない。

 だから、そうしようと思ったのだ。


「じゃあ食べよう、陽菜」

「お、怒らないの?」


 少し怯えながら聞いてきた陽菜に俺は笑う。


「怒らないよ。俺のために作ってくれたんだろ?」

「う、うん!で、でも焦げちゃったし……」

「俺だって最初はそうだったよ。陽菜はまだ料理初心者なんだから」


 俺だって手探りで始めた自炊の最初の頃は沢山失敗していた。

 それと比べたらこの程度の焦げ具合むしろ上手いくらいだ。

 陽菜の頭を撫でる。


「よく頑張ったな、お前が俺のために作ってくれて、嬉しいよ」

「なつきちゃん……」

「でもな……」


 けど、一つお小言を言わせてもらうなら。


「ちゃんと俺を頼ってくれよ?」

「あ……」


 だって俺達は家族なんだから。


「そんで、代わりに俺が料理するときは手伝ってくれよ?」

「うんっ!!」


 支え合うものだろう。

 それを言えば陽菜は太陽のような笑みを浮かべて、俺も釣られて笑った。


 それから俺達は席について、陽菜の心のこもった目玉焼きを口にした。


 その目玉焼きは、少し苦かったけれど


 陽菜の味がした。



 とても長い番外編でしたが帰省する話はこれで終わりになります!


 今後は多分本当にちょっとした二人の日常などの小話を時たまあげるくらいになると思います。

 その時はまた、よろしくお願いします。


 最後に、ここまで読んでいただいた方ありがとうございました!


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