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ケモミミ少女が救われる話  作者: 霜降り
その後の話
25/29

帰省する話(10)


 雑多な人混みの音にくじか何かだろうか?遠くから聞こえるカランカランカラン!と鳴るベルの音。

 沢山の人が集まるお祭り、その一隅。


「お前これ……」

「いやー、面白そうだったからさぁ」


 型抜きの屋台から場所を移動し、今は休憩用に沢山ベンチが置かれてる場所に俺たち三人は集まっていた。

 その中心にあるのは一つのたこ焼きだ。

 しかし、そのたこ焼きは不思議と異彩を放ってるように感じた。


 なにせこれはただのたこ焼きではない。


 "激辛たこ焼き"である。


 そして、ただの激辛たこ焼きではない。


 十分の一で"大当たり"に的中する激辛たこ焼きである。


 もう、分かっただろう。


 そうこれはバラエティの罰ゲームとかで使う、ロシアン激辛たこ焼きなのである。

 叱った直後にこれを買ってくる度胸は褒めてやろう。


「なんてもんを買ってるんだ」

「いいじゃん。面白そうだし、ね?陽菜ちゃん」

「面白そう!」


 ああ……陽菜はそっち側か。

 こうなると二対一、ファッションショーの時のようにかなり厳しい戦いになる。


「嫌だからな!俺が辛いの駄目なの知ってるだろ!?」

「だから面白いんじゃん」

「悪魔め」


 ヘラヘラ笑う夕に俺は拳を握りしめる。

 悪魔だ、こいつは妹ではない、悪魔だ。


「まあまあ、嫌ならなつきちゃんは食べなくていいと思うよ?」

「陽菜……」


 それに対して陽菜のなんと天使なことか。

 ファッションショーと違い俺を巻き込む必要はないと思ったのだろう。陽菜が俺のことを庇ってくれた。

 大好きだ陽菜、やっぱり俺の妹はお前しかいない。


「えー、兄貴逃げるの?」

「…………」


 そんな俺を煽る悪魔。

 そうだ、逃げるのだ。悪いか、食べ物を粗末にしちゃいけないんだぞ。


「ださくなーい?お姉ちゃんなんだから妹の頼みくらい答えてみなよ」

「いいじゃねぇか!やってやるよ!」

「ああ……なつきちゃん……」


 その言葉は姉のプライドが見逃さない。

 いいだろう、その勝負受けて立ってやる!

 そんな俺を陽菜は少し可哀想なものを見る目で見ていた。






 目の前に並ぶのは十個のたこ焼き。

 一つ一つどれも綺麗な形をしていて、作りたてなのだろう、お腹を刺激する匂いが漂ってくる。

 どれも美味しそうなのだが、この中の一つにド級の地雷が隠れているのが恐ろしかった。


「兄貴〜早く」

「待て」


 この5×2の中の一つに激辛が隠れているのだ。

 それをしっかりと見極めなければならない。

 しかし、どのたこ焼きも外っ面だけは真面目そのもので、全く違いがわからない。

 くそ、完全な運ゲーをするしかないのか……


「これにする」

「じゃあ私これー」

「これ!」


 俺は諦めて適当に爪楊枝を上の段の右から二番目のものに刺すと、二人も俺に続いてたこ焼きを選ぶ。


「せーのっで行こう、ひとくちね!様子見するのはなし!」

「待ってくれ、冷まさせて……」


 ふーふー、とたこ焼きに息を吹きかける。

 作りたてなのはいいけどこの熱さのものを口に放り込もうものなら火傷する。

 そうして少し時間が経ってある程度冷めたら、全員が口の前にたこ焼きを運ぶ。


「じゃあいくよ?」


 夕の言葉に頷く。

 緊張してきた……これで激辛だったら猫舌の俺は耐えきれず死ぬかもしれない。

 水は用意したが、怖いものは怖かった。

 そして、夕が息を吸い込み、始まりを宣言する。


「「「せーのっ!」」」


 パクっ

 ひとくちでたこ焼きを放りこむ、俺のちっちゃな口には大きくて仕方ない。

 そのまま俺はたこ焼きを噛んで……!


 あっ、ちょっ!これやばっ


「ん〜、美味し……あれ、兄貴当たった?」

「はふっ、いやこれはたぶん……」


 夕がこちらを見て聞いてくるが俺は反応する余裕がない。

 舌が熱くて仕方なく、逃げ出すように舌が跳ねる。

 目からは涙があふれ、嫌な汗とともにほおを伝う。

 喋る余裕もなく口をパクパクさせた。


 まるで辛いものを食べたような反応だが、これはその違う、違うんだ。


 激辛に当たってはいない。


 これは、また別のやつだ。


「はふっ!ふにゃっ!」

「なつきちゃん熱い?ほらお水」


 陽菜は分かってくれたようで、ペットボトル片手に話しかけてくる。

 にじむ視界の中、陽菜から手渡されたペットボトルを受け取り水を流し込む。


「はぁっはぁっ……酷い目にあった」


 ごくんっ、とたこ焼きごと水を流し込んで息を整える。

 外は冷えたと思ったのに、中はまだ全然熱かった……


 そう、今のは激辛故の反応ではない。

 たこ焼きの中は未だ熱く、その熱さにやられた故の反応だった。


「ええ……そんな熱くなかったけど」

「お前はそうなんだろうな!」

「なつきちゃん、本当に熱いもの駄目だもんね」


 驚いたように言う夕に俺は怒る。

 俺だってこの程度普通の人ならなんてことないものなのは分かってるさ。

 しかし、この体は本当に猫なのだ、猫舌なのだ。


「本当に猫舌じゃん」

「猫だもん……」


 べー、と舌を出して冷ましながらスカートの中で軽く尻尾を動かす。

 この体になってから一番苦労しているのはここかもしれない。


「俺だけひとくちじゃなくて良い?」

「えー……」


 これは無理だ。激辛とか以前に舌が大やけどする。

 そう思って夕に頼み込むと夕は少し残念そうに眉をひそめる。

 けど、無理だ。

 食べるだけで顔が赤くなって、涙が溢れ出るものをあと二回も食べられない。

 そんな俺は夕に頼み込む。

 頑固な夕がどうか頷いてくれることを俺は祈った。


「お願いっ!」

「あー、分かった分かった!今の兄貴が涙目になると破壊力やばいからやめてよ!」

「?」


 破壊力ってなんの話だ、と思いつつ珍しく話が通ったこと驚きながらもほっと一息つく。

 良かった、このままだと舌を大火傷するところだった。

 そう思った時だった。


「なつきちゃん、私は?」

「えっ」

「私の許可は?」

「えっ」


 陽菜は俺を真顔で見て、そう問いかけてきた。

 あれ、さっきは味方してくれてたのに今度は敵対するのか?嘘だよな?陽菜の顔が怖いんだが!?


「だ、駄目なのか?」

「駄目!」

「な、なんで?」

「駄目だから!嫌だったらさっき夕ちゃんにやったみたいに頼み込んで!」


 強情モードになった陽菜に俺は困惑する。

 えっと、さっきみたいにやればいいのか……?


「お願いっ!」

「いいよ!」


 まだちょっと視界が滲む中で、先程のように手を合わせて陽菜を見上げるように頼み込む。

 そしたら、陽菜はいい笑顔で許可を出した。

 ……何この時間


「んふふ……陽菜ちゃんは可愛いねぇ」


 夕はなんか笑っているし、陽菜は満足げ、なんだか俺だけ取り残されたような気分だった。


「ところでさ兄貴」

「なに?」

「一口じゃないと激辛引いたときさらにきつくなるけどいいの?」


 …………………………引かなければいいんだろ!








 二回目の選択。

 俺は真ん中の下、陽菜が左下、夕が俺の右隣のを選んだ。

 そして、二人は同時に口に放り込み、俺は半分だけを食べる。

 これは……


「うま〜」

「美味しい!」

「味はイイんだがなぁ……」


 どうやら、今回も激辛を引いたものはいなかったらしい。

 残りの半分を食べて、三人で顔を見合わせる。

 確率的に言えば、次が勝負だ。


「覚悟はいい?」

「とーぜん!」

「早く終わらせよう」


 三人が睨み合う、全員が負けず嫌いなタチなもんでここまでくれば誰もが自身の勝ちを確信していた。

 最後の一つ、何を選ぶか。

 大事な選択だ、俺は悩みに悩み、左から二番目の上のものを選ぶ。

 二人も選択し、爪楊枝を刺した。

 さあ、運命の時である。


「じゃあ、いくよ?」


 ごくり、俺は食欲とは違う理由で唾を飲み込んだ。

 目の前にあるこれを口に放り込めば、結果は決まる。

 確率にして、三分の一

 勝率のほうが高い勝負だ、負けるわけがない。

 たこ焼きも冷めてきた、ここは覚悟を決めて一口でいってやろう。


 誰が激辛の被害に会うのか。


 最低でもそれは俺じゃない。


 三人が同時に息を吸う。


 始まりの合図


 いざ、勝負!


「「「せーのっ」」」


 パクっ!

 口の中にたこ焼きを放りこむ。

 目を瞑って、舌にだけ意識を集中させる。

 さあ、このたこ焼きは──



 辛くない!


 勝ちを確信した俺は内心大歓喜するが、それを表に出すのはダサい。

 ただ、静かに喜び目を開く。

 さぁて、誰が激辛を食らったのだろうか。

 俺としては夕が食らって欲しいのだが……


「よし!私の勝ち!」

「んー、美味しい!」

「えっ」


 なんと、二人も美味しそうにたこ焼きを食べていた。

 目を開けば口を抑える誰かがいるものだと思っていた俺はそれに驚きを隠せない。


「あれ、兄貴も陽菜ちゃんも?」

「うん、あれ?」

「ああ……おいまて、ってことはまさか!」


 嫌なことに気がついてしまった。

 俺たちは三人で一個ずつ食べるのを三回繰り返した。

 つまり、3×3でたこ焼きを九個食べたことになる。

 そして、このたこ焼きは九個入りではない。


 《《十個入り》》である。


 それが表すことはつまり……


 俺達三人はゆっくりと、椅子に置かれたたこ焼きのパックを見た。


 ゴゴゴゴゴゴ……そんな効果音が聞こえた気がした。


 そのたこ焼きパックの中、そこには異質な雰囲気を放つ、一つのたこ焼きが残っていた。





「おいどうすんだよこれ」

「どうしよっか」


 見た目だけは何の変哲もないたこ焼きが一つはいったパックを見て三人で途方に暮れる。

 夕の発案で始まった激辛たこ焼きゲームはなんと、激辛たこ焼きが一つ余るというある種最悪な結果で終わることとなった。

 そして、この激辛たこ焼きをどうするかで俺たちは割れる。


「兄貴食べる?」

「嫌に決まってるだろ、発案者なんだからお前が食べろ」

「やだね!陽菜ちゃんは?」

「さ、流石に激辛と分かってて食べるのは……」


 なにせ、"ロシアン激辛たこ焼き"から"激辛たこ焼き"になってしまったのだ。

 さっきまで俺達が食べれていたのはそれが勝負事であり、そして普通のたこ焼きの可能性もあったからだ。

 しかし、こうなってしまえば目の前にあるのはただの激辛たこ焼きでしかない。

 それを食べるのはいわば敗北率百パーセントのギャンブル、当然挑むものなどいるわけがない。

 ちなみに俺は発案者の夕が食べろと思ってる。


「……捨てちゃう?」

「もしそれをしたら俺はお前を本気で叱るし母さんにチクる」

「じょ、冗談だって!?」


 母さんにチクると言われてほおを引きつらせる夕。

 食べ物を粗末にするのは許されない。

 このふざけたたこ焼きを買ってしまった以上、その責任はもう俺達にある。

 これが食べきれず残したとかならばまだ仕方ないが、激辛が一つ余ってしまったからという自分勝手な理由で捨てることなど許されない。

 だから責任持って買ってきたお前が食べろ。


「うーん、まさかこうなるとは、この私の目をしても予想できなかった」

「お前なぁ」


 冗談めかして言う夕に俺は呆れたため息を吐く。


「三人で食べる?」

「たこ焼きを三等分は難しいだろ、夕が食べろ」

「いーやーだー!兄貴が食べて!」


 嫌に決まってるだろ、辛いのが苦手なのに激辛とわかってて食べるわけない。

 しかしそれは夕とて同じ、あちらも一歩も引くつもりはなさそうだ。

 睨み合う俺たちに陽菜はあわあわとする。


「お前が買ったんだからお前が食べるのが筋だろ!」

「兄貴は可愛い妹の頼みが聞けないの!?ほら、兄貴食べてよ!」

「はっ、お前の頼みなんか聞いてやるか!」

「はぁ!?それどういう意味!?」

「ふ、二人とも……!」


 喧嘩する俺たちに陽菜が合間に入り仲裁する。


「わ、私が食べるよ」


 そして、俺達が喧嘩するのが嫌だったのか陽菜はそんなことを言い出した。

 しかしである。


「いや、陽菜ちゃんはいいよ」

「陽菜はいいんだ、食べるのなら俺かこいつだ」

「兄貴に同意するのは癪だけど、それは同意する」

「ええ……」


 そこは二人してお姉ちゃんのプライド持ち。

 可愛い末っ子に食べさせるのは無しというのは二人の共通認識だった。

 陽菜はそれに困った顔を浮かべる。


「う〜……でも、喧嘩はしないでよぉ」

「……それもそうだな。言い争っても平行線だ」

「……確かにね。こんな無意味な時間過ごす意味ないよ」


 陽菜の言葉に俺たちは抜き身のナイフをしまいあう。

 末っ子パワー恐るべし、多分俺たちは陽菜に逆らうことはできないだろう。

 だが、これではまた話がスタートラインに戻ってしまう。

 かと言って進めようにもこのままではまた夕との喧嘩が勃発するのは目に見えている。

 どうしたもんか、そう思っていた時に夕が手を上げた。


「……提案があるんだけどさ」

「聞くだけ聞いてやろう」


 こいつの提案にはあまり期待してないが、今はどんな奇想天外な方法であれ何かが欲しかった。

 そう思って夕の提案を聞いて


 その提案に俺は、にっこりと笑い同意した。






 三人で並んでお祭りの喧騒の中を歩く。

 目的地は既に決まっていた。


「お、いたいた」


 その目的地……もしくは対象を見つけたらしい夕に続いてそちらに向かう。

 場所はお祭り会場に何箇所か用意された休憩所。


「ん、お前ら戻ってきたのか?」


 そこは母さんと父さんと別れた場所である。

 いつの間に買ってたのか焼き鳥片手の父さんが俺達を見て話しかけてくる。


「お、成月手ぇ繋いでるのか?いいじゃねぇか」

「うるさいな、逸れないためだよ」


 陽菜との手を指摘されて少しむっとして離す。

 それにほんのちょっとだけ陽菜は眉を下げ父さんの方を見た。


「早いわね。あなたたち、お祭りは楽しめたの?」

「うん!」

「荷物置きに来た〜後でもっかい行く」


 母さんの言葉に陽菜は嬉しそうに答え、夕は適当な言い訳を放つ。

 そう、この場に来たのは荷物置くのが理由なんかじゃない。


「あ、ねえ……た、たこ焼き一つ余ってるんだけど」

「私は遠慮しておくわ」

「えっと、パパ食べる?」

「お、いいのか?」


 何かに感づいたらしい母さんが即答で拒否する。

 なんでわかるの?

 そう、先程の夕の提案、それは……


 娘三人で父さんに"ちょっとした"悪戯を仕掛けることだった。




 ──数刻前


「お父さんに食べさせよう」

「さんせー」

「ええっ!」


 夕の天才的な案に俺は笑みを浮かべながら同意する。

 流石だな夕、やっぱりお前は天才だ。


「え、いいの?」


 しかし、陽菜はそんなことしていいのかと不安な表情を浮かべていた。

 まあ、まだ父さんとは日が浅い陽菜だ。ある程度辛辣に対応するならともかくこういうのはやりづらいのかもしれない。

 だから俺らは家族としてそのハードルを下げないといけないだろう。


「父さん辛いものを平気だから大丈夫」

「そうそう、麻婆とか大好きな人だし」

「あ、そうなの?ならいいのかな」


 陽菜が俺達の話に納得する。

 そう父さんは辛いものが大丈夫な方なのだ。

 果たしてその辛さへの耐性が激辛たこ焼きにどこまで働くのかはしらない。


「問題は、どうやって食べさせるかだ」

「ちょっとまって」


 陽菜も納得したところで早速計画の話をと思ったところで陽菜からストップがかけられる。

 一体どうしたというのか。


「激辛ってこと伝えないの!?」

「そっちのほうが面白いし」

「それな」


 普通に食べさせるんじゃあ面白くない。

 ここはやっぱりドッキリとしてやってやろう。


「んで、計画だけど、たぶん普通に食べさせようとしたら警戒するよな」

「陽菜ちゃんならともかく私がいたら間違いなくされるね」

「あ、もう続行なんだ……」


 そう、問題はそこだ。

 俺は過去あまりしてこなかったが、夕の方は父さんに結構悪戯を仕掛けている。

 そんな夕がいる中でわざわざたこ焼きを食べないか、なんて言ったらまず間違いなく父さんは警戒する。

 となると、警戒されない手段が必要だ。


 ふむ、そうだな、警戒されない方法……

 ……ちょうどいい


「よし、陽菜、父さんにたこ焼き食べさせる役頼めるか」

「えっ、私!?」

「陽菜ちゃんなら絶対警戒しないしね」


 俺や夕と違って、父さんは陽菜には警戒していない。

 それは陽菜がとてもいい子だからだ。

 だから、それを利用する。

 ……それに、そういう事をすればまだ所々遠慮が見える陽菜と父さんの距離は更に縮まると思うのだ。

 だからこそ、実行役は陽菜が一番適任なのである。


「どうだ、陽菜?」

「パパ怒らない?」

「怒ると思う。まあ安心してよ、怒るって言ってもじゃれ合い的なのだから」


 不安そうな陽菜の言葉に夕はそう言い、俺も頷く。

 まあ、多分これをやったら父さんは怒る。

 とはいえ、この程度で"ガチ"な雷を落とす人ではない。

 怒るとしたらじゃれ合い的な怒り方になるだろう。

 そのくらいの甘えは父さんは許してくれるのだ。

 それに、だ。


「安心しろ。怒られるのは主犯格の俺たちだ」

「そーそー、陽菜ちゃんは私達が庇うから」


 怒られるなら陽菜ではなく俺達だ。

 陽菜が怒られるなら、俺達は父さんを倒してでも陽菜を守ることだろう。


「じゃあ……やってみる!」


 それを聞いた陽菜はそう決心した。

 その言葉に俺達は悪い笑みを浮かべ向かい合う。

 昔はこういう夕の悪戯には乗らなかったのだが、やってみると連帯感のようなものが湧いてきて中々面白いものだ。


「よし、やるか」

「おー!じゃあ早速父さんのとこに行こー!」

「あ、待って……でもね」


 歩を進めようとした俺達に陽菜がストップをかける。

 彼女は笑顔で言った。


「私も一緒に怒られたい!」

「ふふ、なら一緒に怒られに行くか」

「私達全員共犯者だー!」


 共犯者三人、俺たちは一体となってターゲットのもとに向かっていった。





 そうして、今父さんの眼の前で陽菜が爪楊枝に刺したたこ焼き片手に持っていた。


「おおっ、美味そうだな」


 父さんは開けられたたこ焼きのパックを見てよだれを垂らす。

 その中身がなんなのかも知らずに。

 計画通り父さんは陽菜の可愛さにやられて警戒すらしていない。


「俺がもらっていいのか?」

「残り一個誰が食べるか喧嘩になったからさー、お父さん食べてー」


 夕の言葉に少し笑う。

 たしかに、誰が食べるのかで喧嘩になったのは事実なのだ。それが、食べたくないの方向なだけで。

 と、ここで陽菜が動く。


「食べさせてあげる!」

「本当か!?娘のあーんなんて父親の夢じゃあないか!」


 陽菜の言葉に父さんは歓喜する、どうやら娘からのあーんが相当嬉しかったらしい。

 この天国にいるかのような笑顔が、この後地獄のような顔になるのだから楽しみだ。

 陽菜はほんの少し緊張した面持ちでたこ焼きに爪楊枝を刺す。

 俺と夕は既にニヤケを抑えきれなくなっていた。


「じゃあ、いくよ?」

「おう、あーー」

「えいっ」

「もごっ!?」

「ぷっ」


 ここで陽菜、まさかのあーんをガン無視して無理やり口に放り込んだ。

 そのことだけで夕は吹き出す。

 父さんは突如口に放り込まれたたこ焼きに少しむせながら咀嚼を始める。

 最初は落ち着いた様子だった。

 しかし……


「んぐっ!?」


 中身に舌が触れたのだろう。

 父さんは突如口を抑えた。

 父さんの顔が何かを我慢するかのように持ち上がり、父さんの頬に汗が伝う。

 父さんの顔はトマトのように真っ赤になっていた。


「パパ、辛い?」

「お父さーん?お味は?」

「んーーーっ……!!んーっ…!!!!」


 笑みを浮かべた二人が父さんにたこ焼きの感想を聞きに行くが、父さんは当然答える余裕などなく、口を抑えて声にならない声を上げてブンブン首を振る。


「あっはははははははっ」

「あらあらあなた」


 その動きが面白くて思わず声に出して笑ってしまう。

 父さんの横では母さんも面白そうに笑っていた。


「ごほっ!っ……み、水!」

「はい」


 ある程度飲み込んだのだろう、水を要求されたのであらかじめ用意しておいた水を手渡す。

 父さんはごくごくと溢れてシャツにかかるのも気にせず喉に水を流し込んだ。


「パパ大丈夫?」

「げほっげほっ……はぁっはあっ……お、おまぁらなぁ!?!?」


 数回咳き込んで、息を整えた父さんは笑う俺たちを睨みつける。

 怒りに任せて吠える父さんだが、どうやらあまり呂律はまわっていないらしい。


「なんてものを食べさせるんだ!?」

「激辛たこ焼き」

「残っちゃったから」

「俺をなんだと思ってるんだ!?」


 辛いもの好きな父さんも流石にこの激辛たこ焼きはきつかったらしくまた別の意味で顔を赤くして怒りを燃やす。


「お父さんの顔面白かったよ」

「美味しかった?父さん」

「パパ面白かった!」

「よし、そこに並べお前ら」


 父さんがゆっくりと椅子から立ち上がる。

 どうやら相当お怒りらしい。

 うん、ここらが潮時かな。


「逃げよ!二人とも!」

「おう、ほら陽菜手握って」

「うん!じゃあねパパ!」

「あ、待てお前ら!」


 陽菜の手を握り三人同時に人混みに駆ける。

 この中で圧倒的な高身長の夕ですら女性の中でも小柄な方だ。

 少し人混みに紛れ込めばもう追えないだろう。


「あー、面白かった」

「お父さんの反応まじでウケる。あっ、写真撮っとけば良かった!」

「楽しかった!」


 共犯者三人、顔を合わせ笑いあう。

 中々に愉快な時間だった。

 昔は夕のこういうのには乗らなかったのだが、童心に帰ってやってみるとなかなか面白い。

 そう思っていたら、夕が話しかけてきた。


「にしても兄貴が乗ってくるとはね」

「ん?」

「昔なら反対はしないけど賛成もしなかったでしょ」


 それはまあ、そのとおりだ。

 先ほども語った通り昔は夕のそういった悪戯には協力せず、かと言って邪魔もしない無干渉を貫いていた。

 それに乗っかろうと思ったのは、やはり陽菜のおかげだろう。

 陽菜と出会い、改めて家族というものを考えたのだ。

 そして、俺は二人から少し目を逸らして言う。


「まあ……なんだ、家族ともう少し仲良くしてもいいのかなって」

「可愛い」

「なつきちゃん可愛い」

「黙れっ!」







 その後は三人で色んな場所を回った。

 輪投げやら、いか焼きやらなんやらともかくお祭りを食い尽くすつもりで堪能させてもらった。


「うま」


 今は片手に綿あめを持って歩いてる。

 んー、パクっといくと溶けていく甘さがとても美味い。


「今の兄貴本当に小学生みたい」

「はむっ」

「聞いてないし……」


 体が小さくなったせいかなんだか綿あめがとても大きく見えて幸せである。

 思わず頬がゆるむ。


「陽菜も食べるか?」

「食べる!」


 ベビーカステラを片手に隣を歩いていた陽菜に綿あめを差し出す。

 陽菜は一口食べると口を抑えて頬を緩ませた、美味しかったらしい。


「はい、なつきちゃんも」

「おう」


 陽菜の言葉に口を開けて待機するとそこにベビーカステラが放り込まれる。

 これも甘くて美味い。

 祭りは美味い甘味が沢山あるのがとても良い。


「よくそんな甘いもの食べれるよね……」

「甘いものは別腹ってやつだ」


 こちらを見て若干引いている夕。

 甘味はいくらでも食べれるからな。

 お腹を撫でるが、胃の容量はまだまだ余裕。

 健康面もまあ、体は子供なのでセーフってことにしよう。

 後でりんご飴も買おうかな。


「てかそろそろ時間だね」

「もう花火の時間か」

「花火!」


 スマホを片手に時間を確認した夕がそう呟く。

 時間とは当然、祭りを締めるに相応しい花火のことである。

 有名な花火大会ほどの花火が打ち上がる訳ではないが、それでも見応えのある花火が打ち上がる。


「そろそろ二人のとこ戻らないと」

「そうだな……あ、でもその前に俺トイレ行きたい」


 少し感じる尿意に俺はそう呟く。

 まだ余裕はありそうだが、花火の途中に限界を迎えるのは流石に避けたかった。


「陽菜も行くか?」

「うん、行っとこうかな」


 陽菜も行くかと聞けば陽菜はコクリと頷く。

 後は夕なわけだが、まあこいつは多分来ない。

 こいつ混んでるトイレ大っ嫌いだからな。


「私はいいや、トイレ混んでるし。先戻ってるね、迷子にならないでよ」

「なるわけないだろ」


 予想通りの返答をし、母さんと父さんのとこに向かった夕に少し俺は安堵しつつ、陽菜の手を握る。


「急ごうか、花火は待ってくれないしな」

「うん!」





「なつきちゃん?トイレってあっちじゃないの?」


 俺に手をにぎられ後ろを歩く陽菜が不思議そうに聞いてくる。


 …………


「あそこのトイレは混むからな。こっちにある公園のトイレは人がいないから空いてるぞ」


 お祭り会場のトイレは人がごった煮しているせいでともかく混むのだ。それこそ下手すれば花火に間に合わないほど。

 それならば多少距離があろうと公園のトイレを利用したほうがいい。


 なんて、言い訳を俺は陽菜に吐いた。


 陽菜はそれに納得したのか、何も言わずについてくる。


 そのまま、少しの間無言で暗い夜道を歩き続けた。


「ねえ、なつきちゃん」


 ふと、陽菜が話しかけてくる。

 顔を向ければなんだか、得意げな顔をしていた。


「二人きりになりたいんでしょ?」

「………………」


 陽菜の言葉にすぐに俺は何も答えられなかった。

 暗く生温い夜風が俺達の髪を巻き上げる。

 それは、つまり図星ってことだ。


「……よく、わかったな」

「そりゃ分かるよ、なつきちゃんとは家族だもん」


 ふふっ、と笑う陽菜に俺も少し恥ずかしくなりながら釣られて笑う。


「ごめんな、三人と居たかったのかもしれないけど」

「ううん、いいよ。むしろ、なつきちゃんがそう言う事してくれて嬉しいな」

「……?」


 陽菜の言葉に、俺は首を傾げる。

 それは一体どういうことだろうか。

 それを聞き返す前に陽菜が口を開く。


「それに、私も二人きりになりたかったの」

「えっ」

「ねえ、なつきちゃん、()()、しない?」


 彼女はその綺麗な瞳で、真っ直ぐにこちらを見つめていた。


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