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ケモミミ少女が救われる話  作者: 霜降り
その後の話
21/29

帰省する話(6)


 実家に帰省して三日目。

 予定は四泊五日、三日目である今日で丁度折り返しだ。

 最初は陽菜と家族がどうなるか心配だったものだが、今ではかなり馴染んでいて誰が見ても陽菜は朝比奈家の一員になっている。

 特に夕とはかなり仲が良くなっている。

 やはり、陽菜も俺みたいなパチモンではなく、同年代の女友達がほしかったのかもしれない。


 そんな日の、昼ごはんを食べたあと。


 夕がなんだかとても悪い顔でこちらを見た。

 それに対して俺は視線を逸らしたくなる。

 この顔は見覚えしかない、そうあの日だ。夕がホラー映画に誘ってきた時もこんな顔をしていた。

 この顔を夕がしているとき、誰かが被害者になるのだ。

 そして、俺はよくその被害者になっていた。


「ねぇ、兄貴」

「やだ」

「お願いがあるんだけどさ」


 無視だ、向こうが無視してるんだからコッチだって無視すればいい。

 視線を逸らし断固拒否の姿勢を見せる俺に、夕は一歩も引き下がらない。

 そして、夕は俺のことを無視して本題に入る。


「ファッションショーしない?」


 ふぁっしょんしょー?





「ファッションショーってどういうこと?」


 意味のわからないことを言い出した夕を無視しようとしたら、陽菜が釣られてしまった。


「ファッションショーはファッションショーだよ?言葉通りの意味」

「どういうこと?」

「ファッションショーってこと」

「どういうこと?」

「まともな会話をしろ」


 それでも無視を続けようとしたが、自分の真横でこんな頭のおかしくなる会話をされたら流石に突っ込みを入れざるを得なかった。

 はあ、これは巻き込まれるやつだな。

 しかし、今更無視をし直す事も出来ず、せめて何をしようとしているのかくらいは聞くことにした。


「で、なんでそうなったんだ?」

「えっと、前兄貴の写真見てね、ビビッと来たの」

「何が?」

「子供の服をデザインしてみたいなって」


 なるほど?つまり、今の俺の姿を見て子供服をデザインしてみたくなった、と。

 こいつは決めたことには一直線だ、それは特に服飾関連だと酷い。

 ということは多分決めてから今日までの合間にかなり色々やっている。

 なんかもうオチが見えた気がするが一応もう少し深く聞いておく。


「それで?」

「兄貴の耳と尻尾加工で消して、友達呼んで、みんなでこの子に着せる服を考えようってやったの」

「何してんだおめぇ!?」


 勝手に人をモデルにするな!

 権利関係だとか人権だとかを知らないらしい妹に俺は思わず怒鳴る。

 せめて許可を取れよ。


「だって断るでしょ?」

「断るでしょ?じゃねぇよ」


 断ってるに決まってるだろ。

 肖像権って知ってるか?


「まーまーいいじゃん」

「俺以外に絶対にやるなよそれ」


 普通に犯罪だからな、それ。

 いや、いいけどさ、いいけどさ。別に気にするほどのものでもないが、普通に嫌ではあるんだからな。

 こいつは兄のことを舐め過ぎじゃないか?


「そんでね、友達と作ったもの今日持ってきたの!だから兄貴、着ない?」

「着ない」

「ファッションショーしない?」

「しない」


 俺はこいつのことを信用していないが、こいつのセンスは信用している。

 ふざけた服ではなく、今の俺にちゃんと似合う服ではあるのだろう。

 そう、今の俺に似合うような服。

 ……小学生女児が似合うような服なのだろう。

 それが、嫌なのだ。


「兄貴〜お願い、みんな頑張ったしさ、服が着られてるとこみたいの!」

「なら他の誰かでもいいだろ!?」

「いるわけないでしょ兄貴の背丈の年齢で着せ替え人形になってくれるやつ」


 ……それは、まあ、そうだけど。

 てか今お前着せ替え人形つったか?

 正直に言うが、嫌だ、今着ているワンピースだって尻尾の都合仕方なしに着てるのにこれより可愛いであろう服とか着たくない!


「でさ、これ陽菜ちゃんにも関係あるんだよ」

「私?」

「うん、実はね……陽菜ちゃんのもあるんだよ」

「ほんと!?」


 あ、まずい。

 抵抗する俺を無視して陽菜の方に話しかけ始めた夕に俺はそう直感する。

 これ陽菜まで夕の方に着くやつだ。

 夕一人に勝てるか怪しいのに、陽菜まで加わったら終わる。

 妹二人の圧力に姉は勝てない。


「待て、待ってくれ陽菜」

「兄貴と『お揃い』の服、着てみたくない?」

「お揃い……!」


 あ、駄目だ。

 目めっちゃ輝いてる、キラキラしてるし尻尾めっちゃぶんぶんしてる。もう手遅れだ。

 こうなってしまえば陽菜は夕以上に頑固だ、俺の力で連れ戻すのはもはや不可能。


「でぇ、兄貴、どうする?」

「うっ……い、嫌だ!」


 夕も陽菜を味方につければ俺が断りにくくなることを理解しているようで夕がニヤケ顔で勝ち誇る。

 それでも俺は抵抗する。

 俺のまだ少しだけ残ってる男のプライドが抵抗しているのだ。


「なつきちゃん、着よう!」


 そして、ついに陽菜が加勢してきた。

 ばっと俺の目の前に飛び込んでくる陽菜。

 彼女の目はとても燐爛に輝いていてまるで夜空に光る星のようで俺は圧倒されて少し頭を後ろに下げる。


「なつきちゃんいつも似たようなワンピースばっか着回してるじゃん、たまにはおしゃれしようよ!」

「そういうのには興味ないんだよ!」


 陽菜の言う通り俺は普段から似たようなワンピースを着ている。

 おしゃれに興味がないというよりラクだからなのだが、陽菜はあまりそれを好いてはいないらしい。


「嫌だからな俺は!ひ、陽菜が一人でやればいいだろ!?」

「ねえ、なつきちゃん」


 陽菜が俺の名前を呼ぶ。


「私ね、なつきちゃんとお揃いの服着たいな」

「………………」


 そんなんいったら俺だって陽菜とお揃いの服着たいですけどぉ!?という本音の叫びを俺は飲み込む。

 ぶっちゃけ、本音で言うと俺だって陽菜とお揃いという言葉には引かれているのだ。

 でも、俺にもプライドが、そう、プライドがあるのだ。

 だが……


「なつきちゃん、駄目?」

「………………着ればいいんだろ!」

「やった!」


 その綺麗な瞳で上目遣いで頼まれたらもう無理だ。

 それを断ることなんて俺にはできない。

 だって俺はそんな陽菜の瞳が大好きなのだから。

 それを曇らすことなんてできるわけがない。


 どうやら俺は、陽菜には勝てないらしい。







「…………んん」

「なつきちゃん可愛い!」


 夕が持ってきた服に袖を通し、少し唸る。

 陽菜が俺を見て率直に褒めてきて、ちょっと恥ずかしい。


 ファッションショーはリビングで行われることになった。

 父さんがそれをみてめちゃくちゃいじってきたのだが、母さんの手によって自分の部屋へと連行された。

 そんなわけでリビングにて観客のいない三人だけのファッションショーが行われた。


 夕が手渡してきた服はやはり可愛らしいものだった。

 恥ずかしさに何となく今着ている服を掴むと生地もしっかりしているし、作りも良い。

 まあ当たり前か、あの夕が服に対して手を抜くわけがない。

 趣味で使ったものらしいが、実用にも堪えるだろう。


 今の服装は、青を基調とした水玉のワンピースに、名称がわからないのだが薄めのピンクにところどころ小さなリボンのついた可愛らしいものを羽織ってるものだ。

 他にも普段俺が吐くわけのないハート柄の靴下もある。

 ……うん、恥ずかしい


「いーじゃん!似合ってるよ兄貴!」

「だろうな……」


 お前の仕事は信頼はしてるからそこの心配はしていない。

 むしろ似合うことが嫌なのだ……!

 助かったのは、ザ・女児服みたいなやつではなかったことか。

 確かに服装自体は大人が着ればきついものがあるだろうが、夕のセンスのおかげで落ち着いた可愛さに収まっている。

 まだ、ギリギリ許せる範囲ではあった。


「お揃いだね!」

「……おう」


 ニッコリ笑う陽菜に俺は小さく答える。

 今陽菜が着ている服は俺と同じものだ。

 歳の近い俺達が同じ服を着ているのを見れば姉妹だとみなが思うことだろう。

 陽菜はそれが嬉しいのか、俺の服をずっと見つめていた。


「兄貴と陽菜ちゃん、コッチ見て」

「ん?」


 パシャッ


 そんな中夕が俺と陽菜を呼び、二人でそちらを振り向けば、カメラのシャッター音が鳴る。


「お前それ……」

「大丈夫大丈夫、友達に見せるやつは耳と尻尾隠すから」

「そういうことじゃねぇよ」


 人の写真勝手に撮るなって言ってんの。

 スマホを片手に持った夕に俺は呆れるが夕はどこ吹く風だ。


「いいでしょ別に」

「……はあ、陽菜はいいのか?」

「え?うん、全然いいよ!」


 陽菜に聞いてみれば全然気にして無さそうだった。

 陽菜には警戒心というのを少し学ばせたほうがいいのかもしれない。


「これまだデザイン詰めたいの、そのために写真撮っておきたいんだもん」


 夕はスマホを弄りながら言う。

 まあ、しっかり理由があるならそんなに否定する気になれない。

 別に撮られたくないわけじゃない、せめて許可を取れという話だし。


「後で俺に送れよ」

「はいはい、兄貴ほんと変わったよねぇ」


 少し呆れたように夕は言う。

 確かに、昔の俺は写真に何かを残すのをあまり好いていなかった。

 それは単純に思い出というものに対して価値を感じていなかったからだ。

 けれど、今はこの瞬間の恥ずかしい思いすら残すのも悪くない、そう思うようになっていた。


「んー、似合ってるけど……やっぱ兄貴はブルベ冬だから羽織るのも寒色系のほうにして統一したほうが良いかも……いや、むしろ差し色として……」


 夕が俺のことを見ながらボソボソ呟く、何を言ってるかよくわからんが、多分服の改善点だろう。

 本当に服に対してだけはこいつは真摯なのだ。


「ん、じゃあちょっと後ろ取らせて」


 くるんと後ろを二人して向くとパシャッと再度音がする。

 ふと横を見ると、陽菜は上機嫌そうだった。

 そこでまた夕からコールがかかる。


「じゃあ次もう一度こっち向いて……はい、チーズ!」

「チーズ!」

「えっちょっ!?」


 そんな突然な!?

 パシャッ、シャッター音が響く、俺は反応が遅れ手を変なとこで突き出した状態で固まった。

 そんな俺に対して、陽菜の方はしっかりと反応していて完璧なポーズをしている。

 そして、写真を撮った夕はといえば


「ぶっ……くく、ウケる」

「お前、お前なぁ!?」


 口を押さえて笑っていた。

 こいつ……ほんと……こいつ!


「ほら、見て見て!よく撮れてる!」

「……くすっ、なつきちゃん表情が」

「うう……」


 スマホを見せられればそこに映ってるのは完璧にポーズを決める陽菜と目をかっぴらいて驚いた顔で変なポーズをする俺がいた。

 陽菜があまりにも完璧なせいで、上手くポーズを取れていない俺が尚更滑稽に映っている。

 は、恥ずかしい……


「そ、そういうことするなら事前言えよ!」

「ごめんって、ぷっ、くくくく……」


 怒る俺に夕は笑いながら謝る、誠意というものが一切感じられない。


「笑うなよ!怒ってんだからな!?」

「だ、だって今の兄貴怒ってても全然迫力ないし、子猫が威嚇してるみたいで可愛いだけだよ?」


 くそ、俺も母さんのような迫力が欲しい。

 落ち込む俺に夕が声を掛ける。


「次はちゃんと撮ろっか。それでいいでしょ?」

「……なんか、お前まで俺を子供扱いするようになってないか?」

「バレた?」


 ニヒルな笑みを浮かべる夕にため息を吐く。

 昨日は大人っぽくなったって言ってたんだけどおかしいな?

 もはや、俺も子供扱いされすぎて若干慣れてきたぞ。

 しかし、やはり受け入れがたいものはある。

 俺は夕に文句を言おうとするも、夕がカメラを構えたせいで言えなかった。


「じゃあいくよ?……はい」


「「「チーズ!」」」


 今度は三人の声がしっかりと重なる。

 パシャッと鳴った、シャッター音が心地よかった。

 ……ま、陽菜とのこういう思い出を残せるならファッションショーも悪くないか。



 そんな考えが甘かったのを知るのはすぐであった。







「これ何?」

「服だよ?」

「そうじゃなくてな?」


 夕から渡された服。

 白と黒を基調として、部分部分にフリルがついたロングスカートのとある使用人が着る服。


「メイド服だー!」


 それは、所謂メイド服というやつだった。


「なんでこんなもん持ってるんだよ!?」

「みんなで話し合ってメイド服にしようって決めたから?」


 なんでそうなる?

 絶対ふざけて決めたであろう一枚に俺はワナワナと震える。

 こんなん着れるか!!


「なつきちゃん!メイド服だよ凄い!」


 そんな俺に対して陽菜は一切動じず、むしろ生のメイド服に大喜びしていた。

 羞恥心が少ない陽菜にとってメイド服は恥ずかしい服でもなく可愛い服装に該当するらしい。


「私、一度着てみたかったんだぁ〜」

「俺は着たくない」

「え〜」


 さっきのはまだ落ち着いた服装で実用的なものだったが、これはもうコスプレだ。

 可愛いを全面に押し出したコスプレだ。

 それは、流石に着たくない。

 そんな俺を陽菜は上目遣いで言った。


「私、なつきちゃんと一緒にメイドさんしたいな〜?」


 ……さては、こいつ分かってきたな?





「ほら、お帰りなさいませご主人様って言ってみて?」

「お帰りなさいませご主人様!!」

「おー可愛いね!こんな子に尽くされるご主人様はとっても幸せ者に違いない」


 パシャッパシャッパシャッ、シャッター音がテンポ良く響き少し煩い。

 二人してメイド服を着たわけだが、陽菜と夕はノリノリだった。

 今のようにテンプレみたいなセリフを言ったり、色んなポーズをして写真を撮ったり、それはもうノリノリである。

 夕に関しては親バカな父親かと言いたくなる。

 そんな犬耳メイドと変態カメラマンを猫耳メイドである俺は横から眺めていた。


「はあ……」


 メイド服の布地は拘っているようで、しっかりとしておりこれがただのコスプレ服ではなく、本当に仕えるものとして実用性があるのがわかる。

 なんでこんなものにここまで本気になってんだか……


「なつきちゃん!なつきちゃんもやろ!」


 なんて呆れていると陽菜に呼び出された。

 くそ、あの調子で俺のことも忘れてればよかったのに……


「兄貴ー、ほらお帰りなさいませご主人様って言ってよ」

「嫌に決まってるだろ!?」


 ニヤニヤと笑みを浮かべる夕に俺は怒る。

 この可愛らしいメイド服を着ただけでも結構譲歩してるのだ。

 ぶっちゃけ、今凄く恥ずかしい。

 それでさらにそんなメイドっぽいセリフ?俺は恥ずかしさで死んでしまう。

 そんな俺に陽菜は残念そうな顔をする。


「えー、なつきちゃんもやろうよ」

「いや、だって……」


 恥ずかしいものは恥ずかしい。

 むしろ何故陽菜はそんな一切羞恥心なくそんなことをできるのだ。


「兄貴ー、陽菜ちゃんのお願い断るの?お姉ちゃんなのにぃ?」

「っお前その言い方!」

「私が陽菜ちゃんのお姉ちゃんもらっちゃおうかなー、ねー?」

「や、やめろ!分かったよ!言えばいいんだろ!?」


 そんな俺に夕が意地悪い笑みを浮かべ酷いことを言う。

 渡さない、陽菜のお姉ちゃんは絶対渡さないからな!


 すぅーと息を吸い込む、心臓が痛むほど酷く緊張していた。小学校の頃演劇で自分が喋るときのことを思い出す。

 陽菜と夕が期待したような目つきで見てくる。やめてくれ、緊張が悪化する。


 それでも、俺はお姉ちゃんとして、口を開いた、


「お、お帰りなさい……ませ、ご、ご主人……さま……」


 その声は緊張と恥ずかしさにやられ、呂律はろくに回らず、舌足らずな言い方になってしまっていた。

 途中までは二人をしっかり見ていたのに、耐えきれなくて視線を逸らす。

 ただ、いい切ったあとに、顔の熱だけを感じていた。


 死ぬ、恥ずかしすぎて死ぬ!


「私の兄貴が可愛すぎてやばいって感じ」

「なつきちゃんはやっぱり可愛いね!」

「もう黙っててよお前ら……」


 お姉ちゃんとして頑張ったのにむしろ妹扱いが加速してる気がする……


「なあ、これもう脱いでも良いか!?」

「え〜、可愛いのに」


 もはや限界近い俺に二人は残念そうにするが、流石にもう譲歩する気にはなれなかった。

 流石の二人もここまで嫌がってる相手に無理矢理というほど鬼畜ではなかったらしく仕方ないかと諦めた。


「じゃあさ、最後に二人でやってよ」

「そうだね、なつきちゃんやろ!」

「ええ……」


 まあ、一回やった以上今更だし、陽菜と一緒なら恥ずかしさもマシか……終われば脱げるし。

 陽菜と顔を動かさず目を合わせ、タイミングを合わせる。


 小さくせーのっと掛け声があって


「「お帰りなさいませご主人様!」」


 今度はしっかりと言うことができた。


 パシャッと写真が撮られて


 そこには、とってもいい笑顔のメイド達が映っていた。






 この調子でファッションショーは進んでいく、恥ずかしさもなんというかここまでくればどうでもよくなってくるもので、最後の方になると結構俺もノリノリ気味になってたと思う。


「じゃあ、これ最後!」


 そして、ついに最後の服になった。


「もう終わりかぁ」

「……最後だからって変なのじゃないよな?」

「大丈夫大丈夫」


 陽菜が少し残念そうにする中、俺は警戒する。

 ノリノリで楽しんではいたが、メイド服のような結構変な服も沢山あった。そのオオトリとなれば流石に冷静になって警戒するもの、それに夕は自信満々に答えた。


「これは兄貴、絶対気にいるから」

「…………」


 ……ふーん

 まあ、こいつのセンス、そして服に対する向き合い方は信用している。

 そのうえで断言するが、こいつが服に対して嘘を付くことはない。

 そんなやつがここまで自信満々に宣言してみせたのだ、ならば信用してもいいだろう。


「あ、それとさ。最後のは二人で別れて着替えてくれない?」

「ん?なんでだ?」


 途中までは二人で一緒に着替えていたのだが、夕はわざわざ俺達に別れろと言う。

 別にいいっちゃいいのだが、わざわざ言うってことは何かあるのだろうか?


「最後のはね、お揃いじゃないの」

「え!?お揃いじゃないの!?」


 夕の言葉に陽菜がとても残念そうにする。

 ……そんなお揃いが良かったのか?なら今度陽菜と同じ服買おうかな……俺も着たいし。

 残念がる陽菜だが、夕はそんな彼女に得意げにちっちっちっと指を口の前で振る。


「甘いよ陽菜ちゃん、お揃いだけが服の全てじゃないんだよ」

「えっそれって?」

「それは、着てからのお楽しみかな?その方がいい反応見れそうだしね」


 夕の言葉に陽菜は頷く。

 陽菜が納得したところで、俺達は一旦別れる。

 夕は本気で隠したいらしく、わざわざ別れてから一人一人に服を渡してきた。

 そして、渡してきた服だが……


「なるほど……」


 夕のセンスはやはり本物だった。

 俺はそう認めた。


「……着たぞ」

「おっ、いいじゃん」


 着替え終わり部屋を出て、夕の前に来れば早速と写真を撮られる。


「どうよ?気に入った?」

「………………悪くは、ない」

「にひひ」


 得意げに聞いてくる夕に俺は小さく頷いた。

 夕が最後にした服、それの名称は俺でも知っていた。


 所謂ゴシックロリータと言うやつだ。

 黒を基調として、ところどころに白を差し色にしたもの。

 ゴスロリと言えば、フリルが沢山付いていて、可愛らしいものを思い浮かべるだろう、事実俺が今着てる服もリボンやらフリルやら装飾がたくさん付いている……しかし、これでは俺は気に入らない。


 だから、夕はしっかりと俺が気にいるようなものに仕上げてみせた。

 チェーンや、ベルトを使い全体的に引き締まった雰囲気を持たせ、可愛さを強く残しながらも軍服のようなかっこよさを共存させてみせたのだ。

 どこかミステリアスな雰囲気を醸し出す……令嬢のような、そんな服。


 これなら、まあ、その、嫌いではない。

 確かに服自体はしっかりとゴスロリなので、受け入れがたくはあるのだが……こうカッコいい部分もあると男の部分が反応してしまう。

 それを分かっているからこそ夕はこんな服を作り上げたのだ。


「似合うねー!写真見たときからこれしかないって思ったんだけど、さっすが私!」

「ん、まあ……そうだな」


 この衣装は、本当に今の俺に似合っていた。

 長い髪や、俺の目つきも合わさって、冷徹な雰囲気を醸し出している。

 アニメならミステリアスな悪役になりそうだ

 と、俺はそう思ったのだが夕の意見は違った


「ちょろいツンデレって感じ」

「おい!」


 馬鹿にしてるだろその言い方は!

 まあ、その、ちょろいのは、否定できない、かもしれないが……

 と、その時足跡がした。

 陽菜の足音だ。陽菜も着替え終わったのだろう。

 こんないい服を仕立ててみせた夕の仕事だ、そりゃあ期待値も上がる。

 果たしてどんな服なのだろうか?陽菜ならやはり可愛い系?案外ギャップを突いてボーイッシュとかもあり得そうだ。

 そして、陽菜が姿を現す。


「わっ!?なつきちゃんかっこいい!」


 陽菜が着ていたのは、俺とは真逆の白のロリィタ服だった、

 俺とは違い全面的に可愛さを押し出したもので、フリルやリボンが沢山付いており、犬耳も合わさって、まるでファンタジー世界の貴族令嬢のような姿だった。


 しかし、夕のセンスなのかそれとも陽菜の元気いっぱいな雰囲気がそうさせているのか、物静かなお嬢様というよりもハイテンションで騒ぎ回るような雰囲気を感じさせてくれるようになっている。

 総じて、お転婆犬耳お嬢様といった感じか。

 端的に言えばその服は、陽菜に凄い似合っていた。


 ……なるほど、夕はお揃いではなく対照という形でデザインしたわけか。

 傍目から見れば黒の猫耳お嬢様と、白の犬耳お嬢様といったところか、本当にいいセンスである。


「かっこいいし、可愛い!」

「お、おう」


 尻尾を振りながら一気にこちらに詰めて、顔を近づける陽菜に俺は目をそらす。

 それは、褒められて恥ずかしいからではなく……


「なつきちゃん?コッチ見てよ?どう」

「いや……その、えっとだな……」


 言葉を濁す。


 端的に言えば、ちょっと圧倒されていた。


 夕のセンスを存分に活かしたその服は陽菜の従来の可愛さを改めて再認識させるには充分すぎたのだ。

 その可愛さに圧倒されて、俺は何も言えなかった。


「兄貴〜、感想求められてるよ?」


 そんな俺を夕がつつく。

 明らかに分かっていてやっている。

 そんな夕を無視して、俺は改めて陽菜をしっかりと見た。


「どう?なつきちゃん?」


 陽菜がいい笑顔を浮かべる。

 元気いっぱいなその子供らしい姿は、とても可愛らしかった。


「……凄い、可愛い」


 その言葉は思わず口から出てしまった言葉だった。

 ただ、陽菜の可愛さに圧倒されて、何も隠せていない本心が口からこぼれ落ちてしまったのだ。

 それを聞いた陽菜は意外そうな顔をして、照れくさそうに笑う。


「えへへ……」


 その笑いに引っ張られて俺も恥ずかしさが湧いてきて、また視線を逸らした。

 ……ああ

 へたれめ


「なつきちゃんも可愛いよっ!」

「そう、か……って抱きつくな!」


 なんていいつつ、素直に陽菜の抱きつきを受け入れる。

 白と黒の服が混じり合う。


「んー……甘いね、激甘だね」


 そんな俺達にスマホを向けながら、夕は呟いていた。








「疲れた……」


 ようやっと数時間に渡ったファッションショーが終わり、俺は元の服に着替えるとソファに倒れ込んだ。

 なんだかすごく疲れた。今日はもう動きたくない。


「どうだった?ファッションショーは」

「楽しかった!」

「まあ……楽しかったよ」


 本当に疲れたが楽しくはあった。

 しかし、陽菜も同じことをしたのに何故あんな元気なのだろうか。

 年の差か?若いって羨ましいな……

 そんな俺達の返答を聞いて夕は満足げに頷く。


「あ、そうそう。最後の服はプレゼントしてあげる」

「えっ!?いいの!」

「うん、あれはもう手直しするとこもないし」


 なんと夕は最後の服をプレゼントしてくれるらしい。

 それを聞いて陽菜は嬉しそうだ。ソファに倒れる俺もなんやかんや、少し喜んでいる。

 そんな中ガチャッとリビングの扉が開いた。


「ふふ、ファッションショーは終わった?」

「あ、ママ!」


 現れたのは母さんだった。

 俺達のことを見てクスクスと笑っている。


「お母さんも見ればよかったのに」

「それじゃ成月が恥ずかしがって楽しめないでしょう?」

「んん……」


 実際、母さんがいたら恥ずかしがってメイドの真似事とか出来なかっただろうから否定できない。

 気を使ってくれるのはありがたいのだが、そこまで読まれていると恥ずかしさもあった。


「でも、見たいから後で写真送ってね?」

「そりゃ当然よ」


 母さんを止める気力は残っていなかった。

 まあ、止めたところで、止めれるとは思わないけど。

 あの若干テンションのおかしくなってた写真たちを見られると思うと……やめよ、考えないほうがいいやつだ。

 はあ、調子に乗りすぎた。

 そうソファの上で愚痴ってると、母さんが口を開く。


「今から買い出しに行くんだけど、陽菜、ちょっと付き合ってくれないかしら?」

「え、私?」


 母さんは陽菜を買い物に誘う。

 まさか誘われると思っていなかったのか陽菜は少し驚いてるようだ。


「えっと、いいけど……なつきちゃんは」

「無理」

「みたいだから、陽菜にお願いしたいの」


 ちょっと不安そうにこちらを見た陽菜だが、俺は無理だ。買い物に行けるほど体力が残ってない。

 肉体的ではなく精神的に限界である。


 もうこのソファの上で寝ようかな……

 ソファの上で俺がウトウトし始める中、夕が不思議そうに口を開く。


「あれ?私は?」

「いかないでしょ?」

「いかないけど」


 なんだこいつ


「じゃあ、行ってくるねなつきちゃん!」

「いってらー」

「……行ってらっしゃい」


 そうして母さんと陽菜は買い出しへと出かけた。

 部屋にはソファで寝転がる俺と、写真の整理でもしているのかスマホをいじる夕だけが残った。

 ……そういや、父さんどうしてるんだろ。

 どうでもいっか。


「お疲れ兄貴。写真送っとくよ」

「おー」


 夕がそういった瞬間、けたましく通知が鳴り響く。

 寝転んだまま確認すれば、今日のファッションショーの写真が沢山映っていて、俺が恥ずかしがってるとこも、俺が笑ってるとこもしっかりと映っていた。

 そんな写真たちに俺は小さく笑みを浮かべる。


「改めて兄貴、本当に可愛くなったよねー」

「うっさい」


 写真を見て自分でもそう思うが、他人から指摘されるのはムカつくものがある。


「いやー、こんな可愛い妹が二人もできるとは」

「誰が妹だ」


 せめて姉と呼べ姉と。

 そう俺が睨むが、やはり迫力が足りないのか夕には全く効かず、それどころか耳を触ろうと手を伸ばしてきた。

 俺はそんな夕の手を避ける。


「あ、触らせてよー!」

「絶対に嫌だ」


 確信がある、お前絶対撫でるの下手だ。

 服を自作するぐらい手は異様なはずなのだが、こいつの撫でが気持ちいいところが想像できなかった。

 はあ、と俺は寝転んだままため息を吐く。



「で、お前、()()()()()()()どうしたんだ?」



「……なんのこと?」

「バレバレだよ」


 嘘

 そう、こいつは今日ずっと嘘をついていた。

 そして、そのことに気づかないほど俺は鈍感じゃない。


「俺のために服作ったっての、嘘だろ。半年であんな拘ったもん沢山作れるか」


 今日夕が持ってきた服はどれもこれもしっかり作り込まれていた。あんな量誰かと協力しても半年で作り切るのは難しいことくらい俺でも分かる。

 それに、だ。


「それに、お前のセンスならもっといいもん作れる」


 夕のセンスは知っている。

 今日の服のデザインは良く、センスも良かった。

 けど、俺は夕のセンスがどれほどのものか良く知っているのだ。

 もしあの服が俺のために作られたものだとするなら、正直に言って、()()()()()

 こいつのセンスであればあのメイド服すら俺が気に入ってしまうようなものに仕上げてみせる。

 ただ、例外が二つ


「最後のあの二つは俺と陽菜のために作ったんだろうけど」


 あの二つだけは俺達のために作ったのだろう。

 だから、あれだけお揃いではなかったのだ。他の服は俺達のためとして作ってないが、あれだけは俺と陽菜のために作ったから。


 それを聞いて、夕ははぁ〜〜〜と、特大のため息を吐いた。

 とても嫌そうな目つきで夕はこちらを見る。

 その目がとても懐かしく感じた。


「なーんで、分かるのかな」

「俺はお前の兄ってことだよ」

「こんな可愛いのに?」

「可愛くても兄は兄だ、耳触んな」


 寝転んだまま手を避けて、夕をにやりと笑う。

 夕はとても微妙な顔をした。


「で、決めたのか?将来」

「そこまで読まれると気持ち悪いんだけど……そう、子供向けのブランド立ち上げるつもり」

「子ども向けにしてはコスプレ多くないか?」

「だからこそ、なんだよ?」


 ふぅん、と他人事に答える。

 理由は……聞かなくて良いか、多分大した理由じゃないだろうし。

 きっかけがどうこう語る人間じゃない。

 やりたいから、やる、それ以上の深みを持てる人間ではないのだこいつは。


「じゃ、なんでわざわざ俺のためなんて嘘をついたんだ?まさか俺の好感度を稼ぎたかったわけじゃないだろ」

「……はあ」


 夕は小さくため息を吐く。

 その溜め息はとても大人びていて、少し懐かしさも感じた。


「……世界を知っただけ」

「はっ、お前も大人っぽくなったじゃん」

「うっさいなぁ、もう」


 つまり、他人の才能を見て自信なくしていたと。

 随分大人らしくて子供らしい悩みである。

 まあ、こいつの場合ようやく慎みを持ったと言うべきか。

 それはいい傾向とも言えるだろう。


「じゃあ、俺は疲れたから寝る」

「ちょっと!?そこはなんか声かけるとこでしょ!?」


 なんだか横になっていたら眠気が襲ってきたので瞳を閉じようとしたら、夕に止められた。

 はあ、と俺はため息を吐く。


「必要ないだろ」

「えっ」

「お前には、必要ないだろ」


 俺は陽菜の姉であり、夕の兄である。

 陽菜のことを良く理解しているように、夕のことだってよく理解している。

 こいつの才能がどんなものなのかも、こいつがどんな人間なのかも、よく知っている。


「俺が何か言った程度でお前が変わるならお前はもっと前から変わってるだろ」

「…………」

「才能がないから()()で服を作るのをやめられるわけないだろお前は……ふわぁ」


 襲ってくる眠気に欠伸が漏れた。


 学校をサボって服を作っていたようなやつだ。

 まさか、多少自尊心に傷がついたからって、止まるわけがない。

 否、こいつは自分でブレーキをかけることすらできない。

 その道がどれだけ棘にまみれていようと、こいつは暴走列車のように止まることは出来ないのだ。

 現に、ファッションショー中も服の改善点を常に探していた。

 そういやつだ。服バカなのだこいつは。

 そしてそんなことくらいこいつも自覚してるのだ。

 だから、何言っても意味はない。


 ……なんでそんな当たり前のこと説明しなきゃいけないのか

 本格的に、眠くなってきた。


「お前なら()()()できるだろ」

「!」


 子供向けのブランドを作る?そんなもんこいつなら出来るに決まってる。

 棘なんて全部踏み越えていくに決まってる。

 アクセル全開のやつにさらにアクセルを踏めなんて言うやつがどこにいる?

 そんな狂った服バカを元気づける意味なんてない。


 ふわぁ……もういいだろうか?眠気が限界だ。


「…………」


 夕は何も言わない。

 俺は会話はもう終わりだと、ソファの上で猫のように体をたたんで丸くなった。。

 普段はこの寝方、猫すぎてあまりやらないのだけど、疲れたからまあいいや。


 ああ、でも……

 寝る前に服バカに向けて一言くらいは言ってやるか。


「あの服気に入った……ありがと」


 そう、服のお礼を。


 それを聞いた夕は少し黙り込んだあと────


「……ふん、どういたしまして」

「…………すぅー……」


「寝てるし……どんだけ可愛くなってもさあ」






「兄貴は……やっぱ兄貴だね」




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