表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ケモミミ少女が救われる話  作者: 霜降り
その後の話
20/29

帰省する話(5)


「ん……」


 光を感じてまぶたを開けば、目の前に陽菜の顔があった。

 小さく寝息を立てていて、まだ眠っているようだ。


「んあ……」


 寝ぼけた目であたりを見渡して、あれ?と一瞬困惑してから、自分が実家に帰ってきてたことを思い出す。

 今は何時だろうか?抱きついていた陽菜を優しく振り払い、スマホを確認すると八時半だった。

 ……いつもと比べると起きるのが遅い。

 どうやら、思っていたよりも疲れは貯まっていたようだ。

 陽菜を起こさないように部屋を出て、廊下を歩き階段を降りる。

 リビングは既に光が灯っていた。


「……おはよ」

「あら、起きたの。おはよう」


 キッチンには母さんがいて、朝ご飯の準備をしていたようだ。


「陽菜は?」

「あいつ、朝苦手なんだよ……ふわぁ」

「あなたもね、昔はよく起こされてたじゃない」

「昔の話でしょ……」


 一人暮らしをするにあたって、そこら辺は自然と改善されていって今は言うほど苦手じゃない。

 陽菜が家に来てからはさらに早く起きるようにしているというのもあった。


「手伝う……」

「ふふ、ならもっと早起きすることね」


 ……なんか、昨日聞いたというか発したようなことを。

 それを言われてしまうと何も言い返せない。


「それに、もうできるから。それより顔洗って、二人を起こしてきてくれる?」


 言われてみてみれば、確かにもうすぐできるとこで手伝う必要はなさそうだった。

 言われた通り顔を洗いに行き、パシャっと顔に水をかければ目が覚める。

 ふぅ……なんだか寝ぼけている時は普段より緩くなってる気がする。


 さて、じゃあ二人のねぼすけ共を起こしてこよう。


 まずは父さん。

 ベッドでぐーすか眠りこけている。

 はあ、とため息を吐いて肩を掴み、思いっきり揺さぶる。


「起きろ」

「……んんっ……成月ぃ?あともう少し……」

「ふんっ!」

「がはっ!?」


 愚かにも二度寝をしようとしたので、軽く、そう軽く力を込めて頭をチョップする。

 父さんが絶叫を上げる。これで目も覚めたことだろうだろう、俺は部屋を出ていく。

 次は陽菜だ。

 再度階段を登り、俺の部屋に入る。

 陽菜はまだ小さく寝息を立てていた。


「起きて、陽菜」


 優しく陽菜に声を掛けるが起きない。


「陽菜ー?起きてー」

「んん……」


 再度を声を掛けるとほんの少し反応が返ってきたが、まだ寝ているようだ。

 仕方ない。

 陽菜の肩に手を置いて優しくゆする。


「陽菜、朝だ。起きて」

「んん……あ……おはよ」

「おはよ」


 そこまでやって陽菜はついにその重たいまぶたを開いた。

 普段より眠りが深かったあたり、疲れていたのだろう。

 陽菜はその場で大きく欠伸をして、伸びをした。


「朝ご飯できてるよ」

「あ……ん、分かった」


 朝ご飯を一緒に作りたかったのか少し残念そうな陽菜。

 そのためにはもっと早起きしないとな。


 ふたりでリビングに降りると、既に朝ご飯がテーブルに並べられていて、母さんも頭を押さえる父さんも席についていた。

 待っていてくれたらしい。

 俺達を席に着く。


「「「「いただきます」」」」


 全員が一斉に、箸へと手を伸ばす。

 今日の朝ご飯は、目玉焼きとサラダとご飯だった。

 目玉焼きは綺麗な半熟だ。俺がやると成功率は半々なのだが……明日は早起きしてコツを教えてもらおう。


「…………」

「…………」


 昨日の夜と比べて朝ご飯は静かなものだ。

 単純に騒がしい二人組が寝ぼけて騒ぐ元気がないらしい。

 ま、無言であれど気まずくはない。

 これはこれで、良い朝だった。

 そんな中、母さんが口を開く。


「そうそう、夕は途中で昼ごはん食べてから来るみたいよ」

「あー……」

「夕立さん?」


 母さんに言われて思い出す。そうだ、今日は夕が帰って来る日だ。

 陽菜は夕の名前に反応する。

 やはり気になるのだろう。


「あいつ帰ってくるんだった……」

「なんで嫌そうなの?」


 夕の顔を思い浮かべて、顔をしかめる俺に陽菜が不思議そうに聞いてくる。


「絶対俺のこと笑うよあいつ」

「成月がこうなってから夕とあってないものねぇ」

「え、そうなの?」


 そうなのだ。

 俺がこうなってすぐ、母さんと父さんは俺を見にあの病院に来てくれた。

 しかし、夕は二人と違って寮に住んでいる。故にフットワークが重くなってしまい、未だ会えていないのだ。

 もちろん、写真等で今の俺の姿は知っているはずだが……


「会いたくねぇ……」


 ムカつくことに夕は俺の妹なので、あいつのことはよく分かってる。

 今の俺を見たら夕は大爆笑する、間違いなく大爆笑する。

 それが、嫌なのである。

 はあ、とどんよりしたため息を吐く、嫌と言っても逃げることはできない。諦めるしかないのだ。

 そんなことより大事なのは陽菜だろう。


「陽菜はどうだ?緊張してないか?」

「んー」


 母さんと父さんに会うときも緊張していた陽菜だ。

 今も緊張してるに違いない。

 そう思って聞いてみると、陽菜は唸る。


「緊張してるっちゃしてるけど……」

「けど?」

「今は、楽しみのほうが強いかも?」

「なるほど」


 それはつまり、朝比奈家を信用してるということなのだろう。

 その答えを聞いて、俺と母さんは笑った。


 父さんは、未だ寝ぼけていた。





 そろそろ夕が帰って来る時間になった。

 それまでは、皆で談笑したり、漫画を読んだり、昼ごはんを食べたりしていた。

 陽菜は少しソワソワしてるようだ。でもそれは緊張というよりも楽しみ故のソワソワのように見える。


「夕立さんってなんか凄いんだよね?」

「んん……まあ、うん」

「どんな性格なの?」


 そう言えば電車の中で家族について話した時も、妹の性格には触れなかったか。

 しかし、なんと答えようか迷う。間違いなく性格は悪いのだが、それを直接言うべきかどうか。

 そう迷っている俺に、父さんがこっちに来ていつものニヤケ顔で言った。


「あいつは面白いやつだぞ」

「この人から面白いって言われるような性格」

「なるほど」


 分かってくれたらしい。

 まあ、目の前で笑う男から面白いと評される人間が碌でもないことはわかるだろう。


 と、その時玄関の方からガチャッ、と音がした。

 二人して耳がぴーんと立つ。

 噂をすれば影がさす、ちょうど帰ってきたらしい。

 話に夢中になっていてぎりぎりまで気がつけなかった。

 二つ、何かが落ちたような音がする、多分靴をぶん投げたな。

 そして、ドンッドンッドンッと走るような足音がして……


「あっつ〜〜〜〜い!!」


 廊下から黒髪ボブの女子高生が汗を拭いながら姿を現した。

 小柄な体躯で、体格だけで見れば母さん似だが、その顔はどこか意地が悪そうで、父さんの血を感じる。

 そんな彼女は外の暑さにやられたのか全身に酷く汗をかいていて、薄い白のTシャツの裏の下着が透けていた。

 それに気づいて少し目をそらす。


 別に妹の体で興奮するわけないし、そもそも今の俺はどうも性的興奮をあまり覚えないみたいだが、それでも一応目は逸らしておいた。

 ……はぁ

 そんな(バカ)は俺達を本当に一瞥もせず冷蔵庫へ駆けた。


「アイス〜、アイス〜」

「夕、まず、手を洗いなさいって……あなた透けてるじゃないのっ!」

「あー……ほんとだ。それよりもアイスー」

「まず手を洗いなさい!汗も酷いし……シャワー浴びてきなさい!」

「えー……仕方ないなぁ」


 そして、母さんに叱られて一瞬抵抗しようとしたものの母さんの鋭い目つきに睨まれて直ぐ様洗面所にだるそうに駆けていった。

 この間、彼女がこちらを見ることは一度としてなかった。


「……え、何あれ?」

「夕」


 目の前で起きた嵐に圧倒されていた陽菜が、ようやく口を開いてでてきた言葉がそれだった。

 あれが何かと言われると、夕立である。

 父さんは腹を抱えて笑っていた。

 そう、夕はあんな奴なのである。百聞は一見にしかずというが、この場合説明するよりも早く見せてくれたのは助かったと言っていいのだろうか?

 行動は全くもって酷いものだが。


 陽菜は脳内で色々思考を巡らせたあと


「……面白い人だね」


 ポツリそう呟いた。

 奇しくも、父さんが言っていたことだった。





「うえー、この可愛い猫耳ロリっ娘が兄貴ぃ〜?あははははははっ、ウケるぅ〜」

「誰がロリだ、ウケるな」

「可愛いは否定しないんだ」

「なつきちゃんは可愛いよ?」


 手を洗って、やけに大きかった荷物を部屋において、冷蔵庫からアイスを取り出して、ようやく俺のことを見た夕の一言目がこれだった。

 彼女は顎に手を置き意地の悪そうな笑みを浮かべて俺を見下す。


 可愛いも猫耳も別にいいがロリだけは受け入れられん。

 あと、陽菜、言わなくていい。


「信じられなー。どっかの子供じゃないの?」

「誰が子供だ!」


 流石にその言い方は怒るぞ。

 怒りを込めて、睨みつけるが……


「睨みつけられても全然怖くないねぇ〜」


 全く聞いていない、この体には圧というものが全くなかった。

 はあ、と俺はため息を吐いた。


「そのため息、マジで兄貴なんだ。ウケる」

「どこで判断してるんだ、どこにウケる要素があるんだ」

「いや面白いでしょ、自分の兄と久々に会って猫耳ロリになってたら」


 ……それは、まあ、確かに。

 ぶっちゃけ目の前の女が今の俺みたいな姿になっていたら俺は笑う。

 他人事であるのならちょっと面白いかもしれない。


「ん〜……身長ちっちゃいねぇ〜?可愛いねぇ〜?」

「っ!」


 ニマニマとした笑みを浮かべてこちらを物理的に見下す夕。

 くそ、こいつ見上げる日が来るなんて。

 こうなるから会いたくなかったんだ!


「小学生にしか見えないなぁ、小学校は楽しい?」

「うるせぇよ!」


 分かりやすく子供扱いして煽る夕にイライラが貯まる。

 だーれが小学生だ!俺は成人済みの元大学生だぞ!

 子供扱いは辞めろっ!


「この身長なら問題ないかなぁ」

「?何の話だよ?」

「こっちの話ぃ」


 意味のわからないことを言う夕に怪訝な目を向ける。

 こいつの突拍子のない行動はいつものことだから気にするだけ無駄だが。


「あの兄貴がこれだもんな〜。うわほっぺ柔らかそう。つんつんしていい?」

「逆にいいと思ったのか?」


 陽菜にすら許可してないぞそんなこと。まあ、陽菜がやりたいならいいけど。

 お前には絶対にやらせないけどな。


「じゃあ猫耳もふっていい?」

「殺すぞ」


 伸びてきた手をひっかく、お前にだけは死んでも触らせん。

 もちろん、陽菜は好きに触ってくれていいけど。あと小柳さんも。


「ちぇっ、ケチめ……んで、あなたが陽菜ちゃんだよね?」

「は、はい!」


 夕の視線が陽菜に向かう。

 なんやかんや陽菜は緊張はしてるらしく、名前を呼ばれてビクッと反応した。

 もしくはあんなのを見せられたせいで怖がってるのかもしれない。


「そんな怯えなくていいよ〜、私は夕立、よろしくね!」

「あ、ひ、陽菜です!よろしくお願いします!」

「うんうん、よろしく。あと敬語は辞めてね」


 生活力はなくてもコミュ力はある夕なので陽菜にはガンガンと距離を詰める。

 陽菜が圧倒されているのは中々珍しい光景だった。


「ねえ、耳触って良い?」

「駄目」

「なんで兄貴が答えるのさ」

「陽菜が遠慮するかも知れないだろ」


 というのはもちろん建前で、お前に触らせたくないからだが?

 陽菜はそんな俺に勘づいてるらしく苦笑いを浮かべていた。


「えーと、夕立さん?」

「もー、さん付けもいらないって……お姉ちゃんって呼んでくれていいからね」

「絶対に駄目」


 おっと、それは耳以上に看過できないな。

 夕と陽菜の合間に俺は割り込む。

 お姉ちゃん?それは絶対に許せない。


「兄貴、私、陽菜ちゃんに聞いてるんだけど」

「知るか、お姉ちゃん呼びは許さないから」

「なんでさ」


 そんなの……決まってるだろ。


「俺が陽菜のお姉ちゃんだからだ」


 陽菜のお姉ちゃんは俺だけである。

 夕の入ってくる余地はないのだ、出ていけ。

 しかし、夕はそれに反抗する。


「はあ!?まさかこんな可愛い妹を独り占めするつもり!?」

「いや、お前がいやなだけ」


 お前が小柳さんみたいな人格者ならまだ許せるんだがなぁ。

 よりによってお前は夕なのだ。夕である限りお前が陽菜のお姉ちゃんになることを俺は許さん。


「はぁー?ねぇ陽菜ちゃん兄貴酷くない?こんなお姉ちゃん捨てて私がお姉ちゃんになってあげる」

「え、ええ……」

「陽菜聞かなくていいぞ、こいつは父さんと同類だ」

「ちょっとお父さんと同類とかやめてよ」

「ええ……」


 陽菜が夕に巻き込まれて困惑している。

 陽菜を困惑させるなんて酷いやつだ。これはお姉ちゃん失格だな。よって陽菜のお姉ちゃんは俺だけである。

 夕と俺が睨み合う。

 バチバチと火花が散った。

 そんな中、話題の中心の陽菜が叫ぶ。


「わ、私のために争わないでっ!」


 …………うん


「言いたかったんだな」

「陽菜ちゃん可愛いね〜」

「うう……なにこれぇ」


 アニメ好きな陽菜のことだ、そういう名台詞を言ってみたかったのだろう。

 陽菜は少し顔を赤くしてぷいっとどこかを向いた。


「それで陽菜、どっちがお姉ちゃんのほうがいい?」


 そんな陽菜に優しく問いかける。

 陽菜は、俺のことを頬を膨らませ睨んだあと。

 一歩、無言でこちらに踏み込んだ。


 ふっ……俺の勝ちだ。ぽっと出の女とは積み上げてきた仲が違うんだよ。


「兄貴が今その姿じゃなかったら私ぶん殴ってたかも」


 夕はぼそっとそうつぶやいた。





「へえ、陽菜ちゃんはゲームが好きなの?」

「うん!」


 陽菜と夕は結構すぐに仲良くなった。

 まあ、歳が近いしどちらもコミュ力が高い人間だ。すぐに仲良くなるのも納得である。


 そんな二人を俺は横から眺める。まあ流石に俺も陽菜と夕が仲良くなってほしいとは思ってる。


「夕ちゃんは何が好きなの?」

「私はねー、映画とか見るの好きだよー、インスピレーションがね、刺激されるのさ」


 陽菜は夕のことを夕ちゃんと呼ぶことにしたらしい。

 まあ、お姉ちゃんとくらべれば全然許せるのでいいだろう。


「そう言えば夕ちゃんって、なんか凄いんだよね?」

「んー?服のこと?」

「そう!なんか、賞取ったって」


 話題は移り、陽菜は前に俺が話していた夕の賞の話になった。


「ふふん、デザインの賞なんだけどね。それで金賞取ったの、凄いでしょ?」

「凄い!」


 ここで謙遜しないあたりが夕である。

 昔から自信だけは誰にも負けないやつだったからな。

 しかし、その自信を超えてしまうほどの才能を持つのが夕であった。


「賞金なんと百万円!百万円よ?私、もう兄貴より稼いでるからね〜」

「ひゃ、百万円!?」

「それ結構傷つくからやめてくれ……」


 俺は大学の途中で異世界症候群になったわけで、それはつまり就職をしていない、言い方悪く言えばニートである。

 じゃあどこからお金がでてきてるのかと言えば国だ。

 国が異世界症候群患者に対して補助金を出しているのだ。

 もちろん、それは異世界症候群として研究されることへの報酬でもあるのだが、検査自体あまり対してないことをしておらず、正直申し訳なさみたいなものは抱いていた。

 なのでそこを言われると結構痛い。


「凄い、凄いね……」

「だってこの私だからね、このくらいよゆのーよゆーよ」


 羨ましそうな陽菜に夕は胸を張る。その自信は俺も少し羨ましかった。

 夕はスマホを取り出して陽菜に見せる。

 

「ほら、これ可愛いっしょ?」

「すごいっ可愛いっ!」

「デザインのやつだったからデザイン送るだけでよかったんだけどね?調子乗って自分で作っちゃった、自信作ってやつ」


 二人の会話は盛り上がる。

 夕は本当に服飾関連に関しては天才的なやつで、デザインから制作まで自分で出来てしまう。

 これでまだ年齢は十七歳、数年後にはどこかのファッション誌に当たり前のように載るんだろうなと俺は思っている。


「わぁ〜〜、どれも可愛い!」

「んふふ、でしょ?陽菜ちゃんはどれが好き?」


 陽菜と夕はとても楽しそうに会話している。

 俺にはついていけない。ファッションのことなんてなんもわからん。

 男なんてそんなものである。

 ……俺もそういう知識ちょっとは身につけようかなぁ

 女性として生きる以上、そういった知識は役に立つ、流行だとかはどうでもいいが、ダサい服を着るのは嫌である。

 それにそういう話ができれば陽菜との話題になるかもしれない。

 と言ってもファッションの勉強の仕方なんて想像できないが。

 陽菜から教えてもらうか?陽菜と話すいい口実にかもしれない。


「兄貴〜、三人でゲームしよ」

「ん……はいはい」


 なんて考えていたら、いつの間にかゲームをすることになっていたようだ。。

 テレビの前のソファに三人並んで座る。ちょっと狭い

 並び順は俺、陽菜、夕だった。

 ゲーム機をセットしていくなか夕が呟く。


「にしても、兄貴変わったねぇ」

「まあ、こんな姿になればな」

「いや、見た目じゃなくてね?」


 見た目はだいぶ変わってると思えば夕が言っているのはそういうことじゃなかった。


「大人っぽくなったね、なんかむかつく」

「……そうか?」


 俺としては最近は体に引っ張られて子供っぽくなってる気がするのだが。

 しかし、自認なんて違うものだ。。

 あと人が大人っぽくなったことにムカつくなよ。


「陽菜ちゃんのおかげかなぁ?」

「ん……最近のなつきちゃん大人っぽい」


 陽菜はこくりと頷く。

 まさか、陽菜にも肯定されると思わなくて俺は少しびっくりする。


「やっぱあれじゃない?今陽菜ちゃんと一緒住んでるんでしょ?責任ってやつ?」

「ああ、それはあるかもな」


 俺は大人で、陽菜は子供だ。

 法律上の保護者は母さんと父さんだが、事実上の保護者は俺である。

 そうである以上俺には陽菜に良い暮らしをさせるための責任がある。

 その責任が俺を大人っぽくしてるのかもしれない。

 もし、そうだとしたらちょっと嬉しい、この姿になってからというものずっと子供扱いだったから。


「陽菜のためにも、頑張らないといけないしな」

「ふぅん、兄貴にしてはカッコいいじゃん?」


 最近は料理以外にも多少夜更かしして、陽菜に教えるための勉強もしてる。

 お金の管理や家事も子供の陽菜にやらせるわけにはいかない。

 大変ではある。しかし、陽菜のためだ。そのためなら俺は頑張れた。


「でもその姿で胸を張られると小学生が威張ってるようにしか見えないな〜」

「うるせっ」

「…………」


 誂ってくる夕を振り払っていればゲームが起動する。

 そして、その音に釣られて父さんが現れた。


「お、ゲームするのか父さんも……」

「帰れ」

「帰れ」

「えっと……帰れ?」

「はい……」


 父さんは悲しそうに母さんのところに戻っていった。

 陽菜も父さんの扱いに慣れてきて何よりだ。






 あれから時間が経って空に星が浮かぶ時間。


「朝比奈家全員が揃ったことだし、今日はご馳走にしましょう」


 母さんはそう言って夜ご飯をとても豪華にした。

 もちろん、俺も教わりながら手伝い、夜ご飯は大皿達でテーブルを埋め尽くさんばかりの豪華なものになった。

 全員が席に着き、食事の前の挨拶を済ませる。

 夕は新しく椅子を出して陽菜の隣に座りゲームの時と同じ並びになった。

 ……三人並ぶとやっぱり狭いな。


「これ兄貴が作ってんの?」

「ああ」

「……まじ?」


 ガチャガチャと音が響く中一つの料理を指してふざけたことを抜かす夕を睨む。

 お前みたいな料理オンチと比べないで欲しい。


「夕も料理勉強する?」

「やだっ!絶対にやだっ!」


 母さんからの提案を夕は首を振って拒否する。

 そんな夕に母さんはため息を吐く、母さんはなんやかんや諦めてはないみたいだけど、俺は夕にこういうことを教えるのはもう諦めたほうがいいと思ってる。


「私はそういうの全部彼氏に任せるから!」

「あら、彼氏できたの?」

「いない!できたことない!」

「はぁ……」


 母さんがついに頭を抱えてため息を吐いた。父さんはくすくす笑ってる。

 そんな三人を俺は放置して大皿から料理を取り分ける。

 ついでに陽菜の分もやっておくか。


「陽菜、何が欲しい?」

「あ、いいよ。自分でやるから……」

「いや、ついでだから」

「……じゃあ、そのサラダと餃子お願い」


 陽菜が言うサラダはカニカマとキュウリを使った母さんが作る料理だ。

 昔から好きだったんだよなこれ。

 陽菜も気に入るといいけど。


「はい」

「ありがとう」


 陽菜にサラダと餃子をよそったお皿を渡す。

 陽菜は受け取ると、早速とそのサラダに口をつけた。


「んっ、これ美味しい!」

「ふふ、そりゃよかった」


 どうやら気に入ってくれたようだ。目を輝かせる陽菜に思わず笑みが浮かぶ。


「レシピ教わったから、家でも作れるぞ」

「ほんと!?」


 母さんの料理を目指すのはやめたけど、それはそれとして母さんの料理の知識は膨大だ。

 その中には当然のようにオリジナルの料理が存在していて、この帰省している合間にそういう料理を沢山教えてもらうことにした。

 このサラダもその一つ、ちゃんとレシピはメモしてる。

 そのことを伝えれば陽菜はとても嬉しそうだ。

 自分の努力が、こうして実を結ぶことにはやはり、嬉しさがあった。

 これも、陽菜のためなのだから。


「私にも教えてよ?」

「おう、もちろん」


 このサラダは切るのと混ぜるくらいしか工程がないから陽菜でも簡単に作れる。

 ちなみに餃子の作り方は流石に一緒だった。


 んー、でも、今度餃子の皮を使って陽菜と一緒に作るのはいいかもしれない。

 楽しみながら料理できるだろうからな。


「ねー陽菜ちゃん私もよそってあげるよ、何食べたい?」

「だ、大丈夫……」


 なんてやってたら夕のやつが割り込んできた。

 こいつ先ほどからどうも陽菜に姉ムーブをしたいらしい。

 でも、陽菜は今食事をしてる最中なんだから、よそうもクソもない。

 そういうとこだぞお前。


「そういえばさ、陽菜ちゃんってどこで寝るの?」

「なつきちゃんと一緒にだよ?」

「え?」


 夕がカチンっと体を固まらせる。

 そして、バッと首だけをこちらに動かして見てきた。

 俺はそれに合わせて視線をそらす。


「マジ?兄貴、それはやばくない?」

「い、いいだろ、別に……今は女だし」


 確かに俺が元の姿なら犯罪スレスレだけど、今ならセーフだセーフ。


 ……寝る前くらい陽菜に甘えたいんだよ。


「兄貴だけずるいっ私も陽菜ちゃんと寝たい!ねぇ、陽菜ちゃん、今日私の部屋で寝ない?」

「ご、ごめんなさい」


 誘ってくる夕に陽菜は頭を下げる。

 そんな陽菜の後ろから俺は夕を睨んだ。

 絶対にお前には渡さん。


「むぅ、一応聞くけどなんでなの?」

「……なつきちゃんの近くだと安心するから」


 夕の質問に陽菜は少し恥ずかしそうにしながら答えた。

 その答えに俺は胸を締め付けられた気がした。


 これは家に陽菜が来てから聞いた話なのだけど、陽菜はちょっと前まであまり夢見が良くなかったらしい。

 でも、俺と寝たときだけは大丈夫らしく、家に来てからはよく眠れるようになったそうだ。

 陽菜が俺にそんな安心感を抱くれているのは嬉しかった、しかしこれは陽菜のトラウマは未だ消えきっていないということでもあり、それは少し悲しくもあった。


 夕だって、陽菜の家族だ。

 いつか陽菜が夕にも安心感を得れるようになり、一緒に寝れる時が来ればいいなと思った。


「そっかー、なら仕方ないね、あ、兄貴私も一緒に寝るってのはどう?」

「寝言は寝て言え」


 夕は言うが、陽菜と俺だけで結構狭いベッドに俺等より全然デカいお前が入ってきたら大変なことになる。

 あと、お前の寝相はかなり酷いから入れたくない。


「ちぇっ、いつか絶対一緒に寝てやるんだから」

「その前にあなたは部屋の掃除をしなさい?なんで帰ってきたばっかなのにあんな散らかってるのかしら?」

「うえっ」


 そういう母さんは、明らかに怒っていた。

 こいつやけに多かった荷物を置きにいったとき以外、ほとんどリビングにいたはずなのだが、あの短時間で部屋を散らかしきったのか……?


 やっぱ、こいつと一緒には寝ないほうがいいかもしれん。





 その後、陽菜と夕が一緒にお風呂に入った。

 夕が一緒に寝れないならせめてとお願いして、陽菜もそれくらいならと認めたようだ。

 俺はやめといたほうがいいと思ったのだが、止められなかった。

 結果、お風呂から出た陽菜は、お風呂に入ったのにお風呂に入る前より疲れたようだった。


「ふわぁ……疲れた」

「何があったんだ?」

「……秘密」


 何があったのか気になるので寝る直前、ベッドの横で聞いてみると、陽菜は少し恥ずかしそうにしたあと、そう言った。

 本当に何があったのだろうか。


 最悪俺は夕を殺すことになる。


「夕はどうだった?」

「なんか、凄い人だね」


 陽菜に夕の印象を聞いてみれば、陽菜は凄い人と夕を端的に表す。


「なつきちゃんに全然似てないや」

「よく言われるよ」


 昔、夕の友達と俺が会った時よく言われたことだ。

 目つきとか、よく見れば似ているらしいが性格があまりにも違いすぎて似てないと言われたことばっかである。


「本当に凄いなぁ……高校生で賞も取ってるって」

「…………」


 陽菜は少しだけ目を細めて、小さく口を開く。

 ……やっぱり


「なあ、陽菜」

「何?」


 俺はベッドに腰掛けて、陽菜に問う。


「お前、なんか悩んでるだろ」

「えっ」


 陽菜が驚いた顔でこちらを見る。


「そんなこと……ないよ?」

「はあ……前も言ったけどさ、お前嘘下手なんだよ」


 そんなふうに目を泳がせれば簡単に分かる。

 あの時だってそうだ、陽菜は嘘を付くのが下手くそなんだ。

 そもそも、それを抜きにしても俺は陽菜が悩んでる事に気づかないほど鈍感じゃないし……気づけるくらいには陽菜のことを思っているんだ。


「聞かせてくれよ。俺が聞くだけでも少しは楽になるかもしれないだろ?」

「…………うん」


 悩みも二人なら軽くなる。

 陽菜が何に悩んでるかまでは俺には分からない。

 それは解決できないようなものなのかもしれない。

 しかし、それを一緒に抱えることくらいならできる。

 それを言ってやれば陽菜は少し悩んだあと頷いた。


「あのね……なつきちゃんが……最近」

「俺が?」


 悩みの原因は俺だったようだ。。

 少しショックを受けながらも続きを促す。

 そして陽菜はゆっくりとその悩みを口にした。


「私のことお姉ちゃんって呼んでくれないから」

「えっ」


 俺はカチンと固まる。

 え、まさかそんなことで悩んでたのか?


「そんなことじゃないもん!大事なことだもん!」

「いや、その……すまん!もっと重いものかと思ってた!」


 ぷくーとフグのように頬を膨らませる陽菜に言い訳をする。

 いやだって、仕方ないだろうあんだけ悩んでたからそれは結構大きな悩みかと思ってたのに。


「で……呼んでくれるの?」

「……………………」


 いや、まあ別にいいっちゃいいんだけど、やっぱり甘えるのはともかくお姉ちゃんと年下の子供相手に呼ぶのは大人としてのプライドにちょっと来るものがあるというか。


「……呼んでくれないの?」

「よ、呼ばないとは言ってないだろ!」


 陽菜が頭を俯かせ残念そうに言う。

 ずるいだろそれは、断れないだろそれは。

 そんなに俺にお姉ちゃんって呼ばれたいのか!?

 最後にお姉ちゃんと呼んだのは"あの日"だったか、しかしあの時の俺は疲れからか正気を失っていたのでノーカンとして、あの夜以来となる。

 それまで定期的に呼んでほしいと言われていたのだが、全部断ってきた。


 それがまさかここまで思い悩むほどになるなんて……


 …………


 致し方ない、か


「…………お、お姉ちゃん」

「!!はーい!!お姉ちゃんだよっ!!」

「わあああああっ!?!?」


 若干顔を赤く染めながら仕方なしに呼ぶと陽菜は大喜びで飛び込んできた。

 そのまま抱きつかれ二人でベッドに倒れる。

 そんなにお姉ちゃんしたかったのか……

 もしかしたら、今日一日夕からも妹扱いされたから尚更姉になりたかったのかもしれない。

 ……仕方ないなぁ


 抱きつかれたまま、電気のリモコンで部屋を暗くする

 一瞬で視界が暗闇に落ちた。

 陽菜の顔は昨日よりも近い。

 そんな彼女に俺は抱きついた。

 柔らかい体の抱き心地は俺の心を落ち着かせてくれる。

 なんかやっぱ俺って妹側なんかな……


「……今日だけだからな」

「……うん」


 陽菜は小さく頷く。


「おやすみ、お姉ちゃん」

「おやすみ、なつきちゃん」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ