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ケモミミ少女が救われる話  作者: 霜降り
その後の話
19/29

帰省する話(4)


「いやー、しかし改めて見ても可愛くなったなお前」

「…………」


 リビングに場所を移し、着替えて麦茶を一気飲みした父さんが陽菜と並んでソファに座る俺を見てそう言う。

 うるせぇー……


「陽菜もそう思わないか?」

「え、あ、う、うん……?」

「陽菜を巻き込まないでよ」


 陽菜はやはり父さんの性格を未だ飲み込めてないのか微妙な反応だ。

 これに関してはもう慣れてもらうしかない。


「陽菜、気にしなくていいからな」

「なつきちゃんは可愛いよ?」

「そうじゃなくてな?」


 そこは気にしてない。


「父さんの言ってることの九割は無視していいから」

「待て待て成月、父さんのことをなんだと思ってる」

「ふざけた人」


 何度もいうが、この人はふざけた人である。

 特に家族の前だと酷い、常にふざけ続けている。

 逆に言えば、父さんが陽菜の前でふざけているのは、父さんが陽菜のことを家族だと思ってるからなのだが。

 ともかく、父さんのおふざけは呼吸のようなものなのだ。

 つまり、一々対応する価値がないのである。


「待ってくれ成月、陽菜にまで辛辣な対応されると俺が辛い」

「じゃあ行動を改めなよ」


 家族に陽菜が加わり、本格的に男女比が大変なことになってるから味方が欲しいのは分かるが陽菜を巻き込むんじゃない。

 味方が欲しいなら行動を改めろ。


「もっと父親らしくすればいいじゃん。やればできるのに」

「ふっ、そういうのはたまにやるからいいんだ」


 指を顎において無駄にカッコつける父さんにため息を吐く。本当に大人なのだろうか彼は。

 ヤンキー猫理論を理解した上で振りかざすな。

 これで本当にダメ人間ならともかく、父親らしくするときはちゃんと父親らしくするんだからムカつく。


「ま、なんやかんや言ったが陽菜」


 父さんが陽菜の名前を呼ぶ。

 さっきとトーンが違う、つまり今は"たまに"であるということなのだろう。


「陽菜が思うパパへの接し方をしてくれると、パパは嬉しいよ」

「私の……」

「すぐにとは言わないさ。まだ五日間もあるんだ。その合間に俺との距離感を掴めばいい」

「わ、分かった。パパ」


 陽菜に優しく笑いかけて、そういう父さん。

 陽菜はやっぱりまだ受け入れきれてはないようだが、頷いた。

 はあ、やればできるんだからさ。


「いつもこれならいいのに」

「あらあら成月、それはお父さんじゃないんじゃないかしら」

「お前らな!」


 俺がぼそっと呟けば母さんが乗っかってくる。

 まあ、確かにふざけない父さんは父さんではないかもしれない。

 そんな俺達に父さんは不満げに指さした。


「ぷっ、あははははははは」


 そんな俺達を見て堪えきれないとばかりに陽菜が笑う。


「パパって、面白い人だね」

「お、成月聞いたか!?娘から褒められたぞ俺!」

「馬鹿にされてるんだよ」

「えっ?」

「あはははははは!」


 はあ、とため息を吐く俺に、分かってるのか分かってないのか、ぽかんとした顔をする父さん。それがツボに入ってしまったのか陽菜の笑いのボルテージがもう一段階上がり、そんな三人を母さんは愛おしそうに見ていた。


 その光景は夫婦とその娘達が談笑してるようにしか見えなかった。





「ぐぅ〜」


 そうやって談笑していると、お腹の音がした。


 ……父さんから

 俺は思わず父さんをジト目で見る。


「いや仕方ないだろ生理反応なんだからなんだその目はお前」


 いや、陽菜だと可愛らしいものなのに何故父さんだとこうも微妙な気分になるのか考えていた。

 まあ、陽菜は可愛いからな。


「もういい時間だもの。そろそろご飯の準備をしましょう」


 言われてみれば、父さんが帰ってきたときでもう結構いい時間だったのだ。こうも談笑していれば仕事で疲れている父さんのお腹が空くのは当然なのだろう。


「陽菜は好きなものあるかしら?」

「んー……お肉?」

「じゃあ、唐揚げなんてどう?」

「唐揚げ!!」


 母さんの提案に陽菜が目を輝かせる。

 いや、お前昼も唐揚げ食べてだろという突っ込みは野暮か。

 好きなものならいくらでも食べれるのはよくわかるしな。

 それに、母さんの料理は……そこらのお店を軽く凌駕しているのだから。

 母さんがキッチンへ向かおうと席から立ち上がる。

 それを俺は呼び止めた。


「あ、母さん」

「ん?どうしたの、成月。リクエスト?」


 リクエストではない。

 実家に帰って来るにあたって、母さんに頼もうと思っていたことがあるのだ。


「その、料理、教えてくれない?」


 今の俺の料理は、独学だ。

 元々実家にいた頃は料理なんて全くしておらず、家庭科でほんの少し経験がある程度だった。

 今できる料理は一人暮らしのために学んだもので、調べたレシピを使っているだけだ。

 その味は母さんの作る料理と比べれば雲泥の差。

 それでも、一人暮らしなら満足できた。

 けれど、陽菜がいる今、俺はそれで満足したくなかった。

 そんな俺の提案に母さんは笑った。


「仕方ないわね、みっちり教えてあげる」 

「お、お手柔らかに……」


 ニヤリと笑みを浮かべる母さんに俺は顔を引き攣らせる。

 スパルタ教育は勘弁だ。

 と、その時陽菜が声を上げた。


「あ、わ、私も手伝いたい!」

「あ、陽菜……」


 陽菜からしても母さんの料理が気になるのだろう。

 手伝ってくれるのは陽菜の好意だ。


 しかし、俺は……それを止めたかった。

 

 けど、その理由はとても身勝手なもの、そのために陽菜の好意を断っていいわけがない。

 少し迷う俺よりも早く母さんが口を開いた。


「う〜ん、ごめんね陽菜。その、身長がね」


 えっ、と俺は母さんを見る。

 母さんは申し訳なさそうに言う。


「うちには台になるものが一つしかなくて、今度買ってくるからその時に手伝ってくれるかしら?」

「……んん、じゃあ、仕方ないかぁ」


 母さんの説明を聞いて陽菜は少し残念そうにしながらも引き下がった。

 俺の視線に母さんはくすっと笑った。


「よし、陽菜!パパとゲームしようぜ!」

「え、ゲーム?」


 いつの間に持ってきたのか、父さんがゲーム片手に陽菜を誘い、陽菜の意識をそらす。

 その合間に母さんと俺はキッチンへ移動した。

 キッチンは二人でいると、少し狭かった。


「まな板洗っておいてくれる?」

「うん」


 母さんに言われて、まな板を洗う。

 蛇口から水が流れまな板を濡らしていく。

 全体に水が行き渡ったら、蛇口を止めて、軽く振って水を振り落とす。


「わああああっ!?」

「ふふふ、俺を舐めるなよ!」


 リビングの方からは父さんと陽菜の盛り上がってる会話が聞こえた。

 父さんは性格通りゲームが上手い。多分昔の俺にやったみたいに大人気なく全力で遊んでいるのだろう。


「成月は本当に可愛いわねぇ」


 まな板を置いたとき母さんがそんな事を言った。

 …………んん


「何?」

「自分で教えたいんでしょう?」

「……なんでわかるのさ」


 図星を突かれて、俺は目をそらす。

 どうやら、俺の真意はバレていたらしい。

 全くそんな素振り見せたつもりがなかったのだが、一体何で気づかれたのか。

 本当に想像がつかない。


「お母さんだもの、そのくらい当然よ」

「なにそれ……」


 理屈を聞けばこれだ。お母さんってそんな超能力的な存在なのか?

 くすりと笑う母さんに俺はもはや呆れのような感情を抱いていた。

 昔からこの人はこうだった。

 当たり前のように俺達の心を見抜いていた。

 母さんから野菜を渡される、下処理をしろということらしい。


「あなたがそういう気持ちを持ってくれて嬉しいわ」

「そんないいものじゃないでしょ」


 野菜の下処理をしながら答える。

 今俺がやったことは、完全に俺の身勝手だ。

 独占欲のような物の上に、陽菜に対してマイナスの行為である。

 陽菜のことを想うなら、こんな思い覆い隠すべきだった。


「でも、その気持ちはあなたが陽菜のことが好きだからじゃないの」

「……好きだからこそ、よくないんでしょ」


 俺の言葉に母さんは笑う。


「そうかもね。でも、自分を抑えつけるのは疲れるでしょう?」

「……うん」

「そのくらいなら、あなたも陽菜も身勝手なくらいがいいと思うわ、私」


 それが母さんの考え方なのだろうか。

 ……身勝手、か。

 もっと陽菜に甘えて……ってそうじゃない。

 手から滑り落ちそうになる野菜に思わず尻尾を逆立てながらなんとか手で掴み取る。


「でもね成月」


 お肉の用意をしていた母さんが俺の名前を呼んだ。

 そういうときは、とても大切なことを言われる。

 よく、知っていた。


「その気持ちは、言わないと伝わらないわよ」

「……分かってるよ」


 母さんの言葉には四十年以上生きてきた故の実感が籠もっていた。

 『言わないと伝わらない』

 ……全く、その通りだ。


 俺のこの気持ちも言わないと伝わらない。


 分かってる。


 なんて、言ったけど本当に分かってるのかは自分でも分かっていなかった。






「パパそれやめてよ!」

「ふはは、対戦ゲームとは相手が嫌がることをするものだ!」


 リビングの方から楽しそうな声が聞こえる中、ただ包丁を動かす。

 トントントン

 リズミカルな音ともに、目の前の野菜が切られていく。


「いい手つきじゃない」

「すごい速度で野菜切ってる人に言われたくないんだけど」


 母さんは俺の包丁捌きを褒めるが、そんな俺の横で母さんは凄まじい速度で野菜を切ってるのだ。

 効果音で言えばドドドドドドドドドッ!って感じ。

 もちろん、そんなつもりじゃないのは分かっているが、そんな人から褒められると皮肉なように感じてしまうのだった。


「なんでそんな早く切れるの?」

「ふふ、私があなたを何年育てたと思ってるの?」

「…………ん」


 コツでもないかと言えばそんな答えが返ってきた。

 それを言われてしまえば、もう納得するしかない。

 つまり年季ということなのだろう。


「追いつくのにあと二十年か……」

「期待してるわね」


 二十年後なんて全く想像つかない。俺のこの体が成人を超えてアラサーになるということなのだから。

 その頃には俺もだいぶ女性っぽくなっているのだろうか。

 ……なんにせよ、陽菜と一緒だといいなと思った。


「それにしても、嬉しいわ。私子供に料理を抑えるのが夢だったの」

「そんな夢あったの?」


 完全に初耳だ。


「言ってくれればよかったのに」

「違うわよ、あなた達が自分からそう言わないと駄目だもの」


 ふぅん、そんなものか。

 まあ、母さんとしても変に気を使われるのが嫌だったということなのだろう。

 あれ、でも


「でも、夕には無理やり教えてなかった?」

「……あの子、一人暮らしできるのかしらねぇ」


 つまり、強制的に教えないと不味いと思ったということか。

 ちなみに夕への料理教室は散々なものだったと言っておこう。

 母さんの憂いは本当にその通りであった。


「ねえ成月」

「やだ」

「まあ、そうよねぇ……何処かでいい男でも捕まえさせるしかないのかしら」


 母さんが言おうとしていることは言われなくても分かっていた。

 普通に嫌である。俺の家に住んでいいのは陽菜と俺だけだ。

 そんなわかりきったことを聞く母さんは、最後にボソッと呟いた。


 それを過保護と言い切れないのが、夕の凄いとこである。





 野菜の準備も終わって、唐揚げに入る。


「……案外普通というか」

「期待外れ?」

「そういうわけじゃないけど……」


 母さんの調理過程を見て思わず呟く。

 母さんの料理は美味い、それはもう俺とは比べ物にならないほどだ。

 故に俺は母さんの料理には味を良くするための工夫があると思っていたのだが、その調理過程は至って普通の唐揚げの作り方だった。

 もちろん細かい違いこそあるが正直、俺の作り方と大差はない。


「じゃあ、なんで味が違うんだろ」

「さてねぇ、料理なんてそんなものよ」


 鶏肉に衣をつけながら疑問を呟けば、油を用意している母さんからそんな返事が返ってきた。

 適当な言葉だが、事実味が違うため反論もできない。

 衣もつけ終わり、油の準備も終われば後は揚げるだけだ。

 母さんが菜箸を手に取る。


「そんなに近くだと火傷するわよ」

「あ、ごめん」


 ここまで対して違いがないのに、味が違うのだから、揚げ方に大きな違いがあるのかもしれない。

 そう思ってよく見ようと目を凝らしたら、母さんから注意された。

 本当にその通りなので、俺は頭を離す。


 母さんが鶏肉を油へ入れていく。

 弾けるような音ともに、油と衣の匂いが鼻腔をくすぐった。

 その音に少し心地よさと懐かしさを感じながらも、母さんの箸の動きをよく見る。


 しかし、結局あまり違いは分からなかった。


 菜箸で掬われた唐揚げ達が揚げ網へと置かれていく。

 とても綺麗に揚がっていて、美味しそうだった。


「見ててあげるから成月もやってみなさい」

「ん……」


 母さんから菜箸を受け取り、俺も鶏肉を油へと投入していく。

 できる限り母さんとおんなじになるように火加減もひっくり返すタイミングも調整して揚げていく。


「上手じゃない、あまり教えることもなさそうね」


 そんな俺を見て母さんは少し残念そうに言うが俺は納得ができない。

 揚げ上がった唐揚げ達を網に持っていき母さんの揚げたものの横に並べていく。

 う〜ん……


「駄目だ……」


 並べると分かりやすい。

 やっぱり何処かが違うのだ。菜箸の使い方か、それとも火加減か。

 一体なんなのだろうか?これも年季というやつなのか。


「そう?……美味しいじゃない」


 母さんは箸を取ると出来たものの中でも特に小さいのを選び、口に入れる。

 美味しいと言ってくれるが、やはり俺は納得出来ず、俺も続いて唐揚げを口に運んだ。


 確かに、美味しい……美味しいが、違う。

 続いて母さんの唐揚げを食べてみれば……ああ、これだ。


 そう、この味だ。よく覚えてる。

 昔から何度も食べてきた、懐かしい、俺を安心させてくれるような味。

 好きだった、この味を再現したいんだ。


「私はおんなじくらいの美味しさだと思うわ」

「違うよ!全然、違う……」

「どこらへんが?」

「……母さんのは、なんだか安心する味がする」


 母さんに教われば、母さんの味を再現できると思ったのに、しかし結果はこの通り。

 全く再現できなかった。

 果たして俺の何が足りなかったのか、わからない。わからなかった。

 せめた、原因がはっきりしていれば納得できたのに、その原因も全くわからない。

 再現したかったのに。

 思い描いていた結果にならず俺は項垂れる。


「なんで……」

「ねぇ、成月」


 そんな俺に母さんが声をかけた。


「私にはね、あなたのも美味しく感じるわ」

「でも、母さんの味じゃない」


 確かに、美味しくはあった。十分及第点はあるのだろう。

 だが、これじゃ満足はできない。

 俺が作りたいのは母さんの味なんだ。

 そんな俺に、母さんは首を横に振った。


「美味しいは一つじゃないでしょう?」

「…………」

「私が思うに、成月の中で私の唐揚げが理想になってるんじゃないかしら」

「理想……」


 言われてみれば、納得してしまった。

 俺の中で唐揚げといえば母さんの味になっていた。

 それは当然と言えば当然だ、だって俺は母さんに育てられてきたのだから。

 幼少期から食べ馴染んだ味が、理想になるのは当然だった。


「それは嬉しいけど。だからって私の味に囚われちゃ駄目」


 母さんの味に囚われている。

 母さんは俺のことをそう指摘した。


「成月の料理は成月の味よ」

「!」


 俺の料理は、俺の味。

 この唐揚げの味は、俺の味なのだろうか。


「成月は私の真似事じゃなくて、成月の味を目指しなさい」

「俺の……」

「成月の料理で満足させてあげなさい」


 誰を、とは母さんは言わなかった。

 でも、誰を満足させるのかは分かっていた。


「そうすれば、成月の味を理想としてくれる子ができるわよ」


 俺の味を理想にする、か。

 母さんは簡単に言うが、それはとても難しそうだ。

 でも、頑張る価値はあると思った。


「だって成月の料理は美味しいもの……ね?」

「……うん」


 俺が頷くと、母さんは満足そうに笑った。






「うううう!もう一回!」

「ははっ!挑戦は受け入れてやりたいが、時間切れみたいだぞ」

「え?あ、ほんとだ!」


 できた唐揚げを積み上げたお皿を運んでいると、遊んでいた二人がこちらに気がついた。

 陽菜はぷっくらと頬を膨らませ、とても悔しそうにしていて、何があったのか容易に想像できた。


「父さん大人げないよ」

「そう!なつきちゃん聞いて!パパ酷いんだよ!?」

「はははっ!勝負事は真剣にやるもんだろ?」


 怒る陽菜を父さんが笑いとばす、そういうことしてるから味方が減るんだぞ。

 とはいえ、そんな時間は陽菜と父さんの距離を詰めるのに十分だったらしい。

 さっきまでと比べて、陽菜はとても自然にパパと父さんのことを呼んでいた。


「う〜〜〜!ねえ、後で一緒にパパを倒そうよ!」

「はいはい、その前に夜ご飯な」


 怒りの収まらない陽菜を嗜めながら唐揚げをテーブルに置く。


「おお!美味しそう!」

「ならよかった」


 唐揚げを見た瞬間に機嫌取り戻す陽菜に少し笑う。

 結局、母さんの味は再現できなかったが、母さんの言葉を受けて考え方を変えることにした。

 母さんの真似をするのを辞めて、俺のやり方でやる。

 母さんにはちょっとしたアドバイス自体はもらうようにしつつもそれが俺の料理になるように作った。

 それが上手くいくかはわからないけど、それで陽菜が気に入ってくれたら、ちょっと嬉しい、それだけだ。


「運ぶの手伝ってくれ、結構量があるからな」


 今母さんは、キッチンでご飯をよそってる。

 お茶碗に、副菜のサラダに味噌汁まであるのだ。それを四人分となれば結構な量になる。そこは陽菜にも手伝ってもらおう。


「うん、分かった!」


 陽菜は頼まれたというのに嬉しそうだ。

 料理は俺の身勝手で断ってしまったから、手伝えるのが嬉しいのだろう。

 あとはもう一人……ゲームの前に立つ男。

 俺が視線を向けると陽菜も続いて視線を向け、ムッとした顔を浮かべた。


「パパも手伝ってよ!」

「ふっ、これは勝者の権利って──」

「あなた?」

「はい、手伝います」


 陽菜の言葉に戯言を吐く父さんであるが、母さんの一言で撃沈するのだった。


 だせぇ


 炊きたてのご飯と、サラダを三人で運びテーブルへと並べる。

 四人分、大皿である唐揚げを中心に沢山の料理が置かれたテーブルは、中々に壮観だった。

 俺が席に座り、その隣に陽菜が座る。父さんは俺の向かい側に座り、最後に母さんが父さんの隣へ座った。


「あなた、音頭をとって」

「ん、ああ」


 母さんが父さんに音頭をお願いし、父さんがコップを掲げる。


「じゃあ、この俺朝比奈裕二が──」

「あなた?」

「はい」


 調子に乗って長ったらしい挨拶をしようとする父さんを母さんが一言で黙らせる。

 陽菜はそれを見てくすっと笑った。


「こほん、では、新しい家族である陽菜のことを祝って……ま、お茶だけど、乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 四人の手のコップがぶつかり合い、金属音のような音が部屋中に響く。

 冷蔵庫でキンキンに冷やされたお茶は、苦さも少しマシに感じた。


「ぷはぁっ!あー、くそ、酒が飲みてぇ!」

「あなた?」

「分かってるよ!」


 麦茶をごくごくと豪快に一気飲みした父さんが叫ぶ。

 父さんは酒を控えるようドクターストップを食らってるのだ。


「これ、ママの唐揚げ?」

「ああ、母さんのは美味いぞ」


 箸で唐揚げをつまんだ陽菜がこれは母さんのかと聞いてくる。

 それは、母さんが揚げた方の唐揚げだ。

 母さんの唐揚げは本当に絶品なのでぜひとも食べてみて欲しい。

 陽菜が犬歯の見える口を開き唐揚げに噛みつく。

 サクッと衣の音がした。

 陽菜はもぐもぐと咀嚼して、飲み込み言った。


「美味しい!」

「ふふっ、ならよかった」


 あいも変わらず食レポが下手なやつである。

 それを聞いた母さんは思わずと言った感じに笑っていた。


「なつきちゃんが凄いって言ってた理由がよくわかったかも」

「あら、そんなこと言ってたの」

「……だって、そうじゃん」


 色々話して、母さんの料理を目指すのは辞めることにしたけど、だとしても母さんの料理の腕には敵わない。

 母さんの料理なんてものを抜きにして、母さんのことは尊敬してるのだ。


「陽菜、パパのことはなんか言ってなかったか?」

「あ、あはは」

「成月ぃ!」


 苦笑いされた父さんから首ごと視線をそらす。

 あんたは知らん。

 そんな中、陽菜がもう一つ新しく唐揚げを取る。

 ……それは、俺が揚げた方だ。

 陽菜は、どう反応するだろうか。

 俺は少し緊張しながら、陽菜の感想を待った。


「ん?」

「っ」


 一口、陽菜は口にした瞬間明確に反応した。

 やっぱり、違うのだろう。

 母さんの料理を目指すのはやめたが、その反応をされるのはやっぱり少し辛かった。

 

「これ、なつきちゃんが作ったでしょ?」

「……うん」


 陽菜が何故か得意げに聞いてきて頷く。

 俺の答えに陽菜は笑った。


「だよね!なつきちゃんの味がしたもん!」

「俺の……?」


 俺の味

 母さんにも言われたことだけど、そんな俺の味がするのだろうか。

 もし、そうだとして

 陽菜がそれに気づいてくたのなら、少し嬉しかった。


「なつきちゃんやっぱ料理上手だな〜」

「いや、俺なんてまだまだだよ」


 陽菜は褒めるが、俺はそれが認められない。

 まだまだ、そうまだまだなのだ俺は。

 俺は陽菜に料理を教えないといけない、それなのに中途半端な腕前なのは嫌なのだ。

 陽菜のためにはもっと上手くならないと。


 と、その時母さんが爆弾発言をした。


「……ねえ、陽菜。成月と私のどっちが好き?」

「え?」

「ちょっ!?母さん!?」


 流石に俺も焦る。

 な、なんてことを聞いているんだ。

 陽菜は少し呆気に囚われながらも悩み始める。

 こんな答えにくい質問、するべしじゃない。

 答えなくていい、陽菜にはそう言うべきなのだろう。


 ……しかし、俺もその答えを少し聞きたがっていた。


 自分が傷つく結果になることは察していても、それでも気になってしまった。


 陽菜は迷う。

 果たしてそれは味なのか、どちらに忖度するかなのか。

 そして、陽菜が口を開く。


「ん〜と、ね」


 ごくり、俺は唾を飲み込んだ。


「なつきちゃんのほう!」

「えっ」


 そして、陽菜の答えに滅茶苦茶驚いた。

 いやいやいやいや、そんなわけないだろうと俺は陽菜に詰め寄る。


「別に、忖度とかしなくていいんだぞ?正直に答えていいんだぞ」

「正直だよ!んー、なんかね、なんだろ?正直ね、味はママのだったんだけど……なつきちゃんのやつのほうが安心したから!」


 え、ええ、なにそれと俺は固まるも、陽菜が言った理由に俺は聞き覚えがあった。


 というか、俺が母さんの料理に対して言ったことだった。


「ふふ、良かったじゃない」


 母さんは呆然とする俺に笑う。

 まさか、ここまで読んでいたとでも言うのだろうか。

 もし、そうだというのならもはやホラーである。


「なつきちゃん、今度教えてよ?」

「……うん、うん!」


 頷く。

 ああ、ぜひとも教えてやろう。

 俺も陽菜の唐揚げを食べてみたい。

 そう頷く俺に、母さんと父さんは目を合わせ、くすっと笑った。





 その後は、陽菜と組んで父さんをボコボコにしたり


「そういえば陽菜はどこで寝るんだ?」

「俺と寝る」

「なつきちゃんと寝る」

「……そうか」

「あらあら」


 なんて、会話を挟んだりしつつ。

 もういい時間で、長い一日がついに終わりを迎えようとしていた。


「流石に狭いね」

「まあ、寝れんことはないだろ」


 昼漫画を読んでる時も思ったが、このベッドはいくら子供体型でも二人だと狭い。

 でもまあ陽菜なら別にいいし、それは陽菜も同じ気持ちらしい。

 電気が消え、部屋が真っ暗になる。

 でも獣人である俺達は夜目が効くのでそれでも目の前の陽菜の顔ははっきりと見えた。


「……今日はどうだった?」

「色んなとこ巡れたし、なつきちゃんの家族にもあえて楽しかったよ」


 今日一日、陽菜にとってどうだったのか聞いてみれば陽菜は笑みを浮かべ純粋な答えが返ってくる。

 なら、良かった。俺も釣られて笑みを浮かべる。


「母さんと父さんはどうだ?」

「んー……いい人達だね」


 陽菜は両親の事に言葉を少し迷いながら、結局いい人だと一言でまとめた。

 その迷いは多分、何か言おうとして纏めきれなかった迷いだ。

 いい人、なんて下手すれば皮肉なようにも聞こえてしまうが、陽菜の声からはそんな気持ちは一切感じずただ好意だけが感じられた。

 一言ながら、色んな感情が詰まってるのが察せられた。

 ただ、きっと色々ありすぎて、いい人という一言になってしまったのだろう。


「なんかね、なつきちゃんの両親なんだなぁって」

「母さんの時にも言ってたなそれ」

「うん、ちょっとしたことでさ、なつきちゃんの匂いを感じるんだ」


 つまり、俺は母さんにも父さんにも似ているということなのだろう。

 母さんは全然いいが父さんに似てると言われるのは何とも言えない気分になるな……


「あとさ、なつきちゃんなんやかんや言って家族のこと大好きでしょ?」

「えっ?」


 何とも言えない気分になっていると陽菜が突然変なことを言い出した。

 そりゃ嫌いではないが……


「なんで?」

「ふふ、家族の前のなつきちゃんいつもよりちょっとテンション高いよ?」

「え……」


 嘘だろ、と陽菜に目線を合わせれば陽菜は笑う。

 どうやら、本当にテンションが高いらしい。

 自覚なかったけど、陽菜がそういうならそうなのだろう。

 ちょっと恥ずかしい。

 そんな中陽菜が感慨深そうに言う。


「二人とも、なつきちゃんの家族なんだなって」


 きっと今陽菜は二人の顔を思い浮かべてるのだろう。

 けど、それは、それは違う。


「……それは、違う」

「えっ」


 陽菜が驚くのを無視して俺は言う。


()()()()()()()()()()


 陽菜がハッとした顔をする。

 陽菜はもう、朝比奈家の一員なのだ。

 だから、『なつきちゃんの両親』なんて遠回しな言い方しなくていい。

 もっと、直球に言っていいんだ。


「あはは、そうだったね。私の家族がいい人で私よかった」


 陽菜は笑ってそう言う。

 そうだ、それでいい。お前は朝比奈陽菜なんだから。


「……寝よっか」

「そうだな」


 陽菜に言われて目を瞑る。

 幼い体はそれだけで眠りの匂いを嗅ぎ取って脳へ眠気を送り込む。

 もう、数秒すれば落ちる、その時俺の体に抱きつくものがいた。


「家族ができて嬉しいんだ……でもね」


 陽菜がボソッと呟く。


「私にとって一番の家族はなつきちゃんだよ」

「……ふっ、俺もだよ」

「ん……」


 そっと、陽菜の体を抱きしめる。

 陽菜の返事はなかった。

 眠ってしまったのだろう、かく言う俺も、もう限界だ。


 明日は夕が帰って来る。

 果たしてどうなることや───



 部屋には小さな寝息が二つ、重なっていた。




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