甘えモード
「ふわぁ……」
光、日差し、つまり朝?
カーテンの隙間を縫って差し込む光が瞼を貫いて鬱陶しい。
「うぅ……」
目を擦り、体を引きずりながら布団から抜け出す。
自分から起きたのは久々だ。
いつもは先に起きて朝ごはんを作っているなつきちゃんが起こしてくれるんだけど。
なつきちゃんと一緒に家に住むようになってから早二週間、この新しい家での生活も慣れてきた。
そんな中私がなつきちゃんより早く起きれたことは一度もない。
なつきちゃん、いつもかなり早く起きるんだよね。
朝に強いのかなって思ったけど、別にそういうわけじゃないみたい。
単純に私がなつきちゃん以上に朝に弱いだけだった。
私も早く起きて一緒にご飯作りたいんだけど、なかなかうまくいかない。
でも、今日はなつきちゃんに起こされなかったってことは、なつきちゃんは起きてない!
今日は先に起きてなつきちゃんを驚かせられるかも!
そう思って近くにあるスマホを手にとって時間を確認す、れ……ば……
お昼だった。
「あ、あれ……?」
パチパチと瞬きして、再度見てもスマホに表示されるのは12:15という数列。
寝ぼけてるのかと目をこすって見ても変わらない。
どうやら、私は別に朝に起きれたわけじゃなかったらしい。
じゃあ、なつきちゃんはどうしたのだろうか?
こんな時間いつもなら絶対起きてるのに……
とりあえず起きようかな、そう思ってようやく自分の体に抱きついている存在に気がついた。
「陽菜ぁ……」
「なつき、ちゃん?」
それは、なつきちゃんだった。
目を瞑ったまま私に抱きついて頬を緩ませるなつきちゃんは、なんだかいつもよりもさらに幼く見えた
「なつきちゃん、その、どうしたの?」
「別に」
ソファに座り、テレビを見ている私がなつきちゃんに問いかけるといつも通り素っ気ない返事が返ってくる。
けど、素っ気ない返事をしたからってなつきちゃんが私に興味がないわけじゃない。
むしろ、いつも興味しんしんって感じなことが多い。
なつきちゃんは素直じゃないからね。
それは、それとして、今日はそれが凄くわかりやすい。
「…………」
「なつきちゃん……?」
何故なら、なつきちゃんが凄い近いから。
いつもなら少し距離を離しながらも若干近づきたそうにしながらもそれを理性で抑えてるっぽいなつきちゃんが今日は異常なほど密着してくる。
肩と肩が触れ合うくらい近いどころか、猫が縄張りを主張するように体をスリスリと擦り付けてくる。
「な、なんか、今日はいつもと違うね」
「そう?」
なつきちゃんの尻尾が私の太ももにまとわりつく。
へ、返事はいつも通りなのに行動がぜんぜん違う……
最近はかなりスキンシップを受け入れてくれるようになったなつきちゃんだけど、自分からスキンシップを求めることはまずない。
それは別にしたくないんじゃなくて、なつきちゃんはそういうのを抑えるようにしているから。
だから私からすると喜ぶし、したそうなときは凄く尻尾に出てる。
けど、こんなふうに自分からスキンシップしてくるのは珍しいというか、ここまでなのは初めてだ。
いったいどうしたというのか、ここまで来ると少し不安になる。
まさか熱でも出してるんじゃって思ったけどなつきちゃんの顔色は大丈夫そう。
一応なつきちゃんのおでこに手を乗せてみる。
「なに?」
「う〜ん、熱があるわけじゃないのか」
しかし、熱があるようには感じなかった。
私の突然の行動になつきちゃんは不思議そうに見てくるけど、その目をしたいのはこっちだよ?
本当、一体どうしちゃったんだろう?
「さっきからどうした?陽菜」
「な、なんでもないよ」
その台詞はこっちの台詞かも。
あいも変わらず体を擦り付けてくるなつきちゃんに内心喜びながら私はなつきちゃんがこうなっている原因を考える。
う〜ん、なつきちゃんが吹っ切れたにしては、なんかなつきちゃんがいつもと違うことに自覚がなさそうだし……
かといって異常らしい異常もひっついてくる以外に見つからない。
まさか、ドッキリ!?なんて考えたけどなつきちゃんはあまりそういうことしないし、するにしてもこんなやり方はしないと思う。
そこまで考えた、私は一つの可能性に気がついた。
もしかしてだけど──
甘えモードってやつなんじゃない!?
甘えモード
それは猫がときたまなるモードである。
いつもは素っ気ない猫ちゃんが飼い主にやけに甘えてくる状態。
もしかしたら、なつきちゃんはそれなのかもしれない。
実際のとこわからないけど、おかしくはない。
獣人の本能はなんというかそれあってる?みたいな要素も結構あるから、なつきちゃんに甘えモードが搭載されててもおかしくはないと思う。
と、なったらさ
と、なったらだよ
甘やかすしかないよね
甘やかすしかなくない?
お姉ちゃんとして妹を甘やかすしかないよね!
ふっふ〜ん、普段はなつきちゃんのお世話になってばかりだからこういう時に積極的に世話を焼いていかないと駄目だよね!
ずっと貰いっぱなしは嫌だもん。
「ね、ね、なつきちゃん、何かしてほしいことある?」
「なにも……」
なつきちゃんに何をしてほしいか聞くけど、なつきちゃんは遠慮してるのか何も要求してこない。
その割にはすごくひっついてくるけど、本当に言動が一致してない。
とはいえ、こんなところで引き下がれない、私は再度問いかける。
「今ならお姉ちゃんが何でもやってあげるよ?」
「……近くにいるだけで嬉しいもん」
「っ!!」
あーもう、なつきちゃんって本当に可愛いんだからっ!?
どうやら行動だけじゃなくて発言も完全にいつも通りってわけじゃないみたい。
いつもよりかは素直だし、いつもならなつきちゃんは妹扱いを嫌う(多分本心ではそんな嫌がってないけど)、もんって言うあたりもそう。いつもより凄く子供っぽい。
でもこのなつきちゃんすっごく可愛い。
思わず抱きしめるとなつきちゃんは全く抵抗せず尻尾を揺らした。
これだけでも大満足である。
しかし、やはり私としてはこのチャンスに姉らしいことをしたい。
「何でもいいんだよ?本当にしてほしいことないの?」
「……いいの?」
「もちろん!お姉ちゃんだからね!」
お姉ちゃんとして、妹の頼みは全て叶えなければならない。
するとなつきちゃんは少し迷った素振りを見せたあとこっちを見あげて頭を差し出して言った。
「……撫でて」
「っ!!わかった!」
ちょっと恥ずかしいそうにおねだりしてくるなつきちゃん。
その可愛さに私はキュン死しそうだった。
なつきちゃん、認めないけど撫でられるの大好きなんだよね。小柳さんにお礼だとか言って撫でてもらってる時あるけど、実際はなつきちゃんが撫でられたいだけだと思う。
普段も時たま撫でられなさそうにしてるけど、いっつも隠してるからなー
なつきちゃんの頭に手を乗せて優しく撫でてあげる。
なつきちゃんの髪の毛は猫のように凄く柔らかくてとても良い触り心地だ。
「…………」
なつきちゃんは何も言わないけど喉が凄いゴロゴロなってる。
目を細めて凄く心地よさそうで上機嫌だ、何この可愛い生物。
普段のなつきちゃんがここまで甘えてくることはないから凄く新鮮な気持ちだ。
そうやってなつきちゃんの頭を撫でていると、突如なつきちゃんが、私の膝に倒れ込んできた。
ふえ?
これ、もしかして膝枕ってやつ──
「な、なつきちゃん?」
今日のなつきちゃんはなんか凄いけどここまでとは思ってなかった私は思わず困惑した声を上げる。
そんな私を膝の上から見あげてなつきちゃんは少し首を傾げながら私に問いかける。
「……駄目?」
「駄目なわけ無いじゃんいくらでもやっていいよ!!」
そんなことされたら断れるわけなくない?元から断る気なんてないけどね!
なんかもう今日のなつきちゃんは可愛さ数倍増しだ。普段から可愛いけど!
何ていうのかな、今日のなつきちゃんは凄い庇護欲をそそられる感じだ。
普段のなつきちゃんは可愛いと同時に、どこか頼れる雰囲気があるんだけど、今のなつきちゃんはむしろこっちに頼って欲しくなる。
そんな可愛いなつきちゃんを膝に乗せて、頭を撫でる。
なにこれ?滅茶苦茶幸せかも。
──もしかして、今なら行けるんじゃない?
ふと、私は思った。
前々からずっとやってほしかったこと。
私が隠していたあの欲望をなつきちゃんにやらせることができるのでは
そう、今ならなつきちゃんに──
お姉ちゃんって呼んでもらえるのでは!?
なつきちゃんはあの夜に一度私をお姉ちゃんと呼んでくれてから一度もお姉ちゃんと呼んでくれない。
何度かお願いしてるんだけど、全部断られちゃってる。
けど、今の、今のなつきちゃんならいけるかも知れない。
「ね、ねぇ、なつきちゃん」
「にゃー……にゃ?」
私の膝の上でナデナデを味わっていたなつきちゃんが猫らしい声とともに首を傾げ、こちらに顔を向ける。
たまになつきちゃん無意識でにゃって言うんだけどこれ凄く可愛いよね。
なつきちゃんはあまり気づいてないみたいだけど。
それはともかく、今が最大のチャンス、逃すわけには行かないよね!
「私のこと、お姉ちゃんって呼んでみて?」
私の言葉になつきちゃんは少し不思議そうな顔をした。
質問の意味がわかってないと言うより、質問の意図がわからないようだ。
そして──
「……お姉ちゃん?」
言ったああああああ!!!!
やったああああああああああああああああ!!!!
思わず心のなかでガッツポーズ。
なつきちゃんから久々にお姉ちゃんって言ってもらえた!
「そうだよ〜お姉ちゃんだよ〜!」
私は興奮のままになつきちゃんの頭を撫で回す。
そんな私を見て、なつきちゃんはまた不思議そうな顔で首を傾げた。
なつきちゃんを全力全開で甘やかしてたら、気がつけば夜になっていた。
「できたよ」
「おお〜」
なつきちゃんがキッチンに置いたお皿を私が机に運ぶ。
今日の夜ご飯はクリームシチュー
最近なつきちゃんは料理を始めた。
いや、もともとやってたから正確には料理を本格的にやり始めたというべしなのかな?
今までは簡単なものしか作ってなかったみたいだけど、最近は料理の勉強も始めてる。
理由を聞けば、恥ずかしそうにしながら『陽菜にはいいもの食べて欲しいから』って言っていた。
それに、私にちゃんとした料理を教えたいからって。
そうやってなつきちゃんが頑張ってるから、私も頑張ってお手伝いしてる。
まあ、まだ何かを切ることくらいしか手伝わせてくれないけど。
なつきちゃんは、自分がちゃんとできるようになってから私に教えたいみたい。
私としては一緒に作ってくのもいいと思うんだけどな〜
ともかく、今日のなつきちゃん、正直料理ができるのか不安だったけど、言動がおかしいだけでそこらへんは平気みたい。
「「いただきます」」
両手を合わせてちゃんといただきますと言ってからシチューに口をつける。
流石というべきか、なつきちゃんが作るクリームシチューはとても美味しかった。
そうやってクリームシチューを味わっていると、ふとなつきちゃんがシチューに口をつけずにこちらをじーっと見つめてるのに気がついた。
あ、なるほど
「とっても美味しいよ、なつきちゃん」
「……ん」
とっても美味しかったから、味に夢中になっちゃって逆に何も感想を言えてなかった。
私が味の感想を伝えればなつきちゃんは満足そうに笑みを浮かべた。
ふふ、可愛い。そんなに感想が欲しかったのかな?
なつきちゃんはスプーンでシチューを掬うと、ふぅーふぅーと息を吹きかける。
小さなお口で頑張って熱を冷まそうするその姿は可愛らしかった。
「……なに?」
「んーんー、なんでもないよ?」
なつきちゃんが猫舌なのってやっぱり猫だからなのかなぁ
口に運ぶがやはりまだ熱かったのか、一瞬固まるなつきちゃんに少し笑う。
「……お姉ちゃん?」
「っ!?な、なんでもないよー」
なんてなつきちゃんを眺めてたら突然の、予想外の一撃に私は驚きながらなんとか誤魔化す。
てっきり、あの時だけかと思ってたのにまさか効果が続いてたなんて!
お姉ちゃん、そう呼ばれて私のお姉ちゃんしたい欲が昂る。
なにをしよう……あ、そうだ!
私はスプーンでクリームシチューを掬い、さっきのなつきちゃんみたいに息を吹きかけて熱を冷ます。
そして、なつきちゃんの前に差し出した。
「なつきちゃん、あ〜ん」
「えっ、あ、あ〜ん?」
突然のあ〜んになつきちゃんは困惑しながらも、なんと乗っかってくれた。
というか、多分困惑したせいで乗っかっちゃったんだと思う。
なつきちゃんが、スープを口に運び、ごくんっと飲み込む。
「どう?」
「う、美味いけど……」
なつきちゃんの顔が不思議と赤い。
照れてるのかな?それとも、もしかして冷ますのが足りなかったかな?
そう思った私の予想は外れていた。
「お、お姉ちゃん……こ、これ、間接……キ……」
「あ、確かにね」
言われてみればその通りでこのスプーンさっき私が口をつけたから、これじゃ間接キスだ。
なつきちゃんが恥ずかしがってるのはこれが理由か!
でもまあ
「家族だから気にしてないよ!」
「え、ええ……」
なつきちゃんは家族だから別に気にしてないけどね。
それを言うとなつきちゃんはなんだかとても複雑そうな顔をした。
あれ?なにか間違えたかな
うーん、じゃあこう言い換えよう
「なつきちゃんなら気にしないよ?」
「お、お姉ちゃん!」
もっと顔が赤くなった。
なんでぇ?
今ならお風呂もいけるのではって思ったけど、駄目だった。
一生のお願いを使い切っちゃったのは今のなつきちゃんでも同じらしい。
残念だけど、まあ今日はいっぱい可愛いなつきちゃんを堪能できたからいいかなって思ってる。
気がつけば、もういい時間。
なつきちゃんは時たま夜更かしして何かしてることもあるんだけど、今日はいつもより眠いのかウトウトしながら私にくっついていた。
「ふわぁ……」
「はいはい、こっちだよ〜」
私に体重を預けるなつきちゃんはなんだか本当に幼い子供のようだ。
これで成人済の男の人だったていうんだから驚きだよね。
でも不思議だったのは、なつきちゃんの昔の姿、見せてもらったときちゃんとなつきちゃんだって思えたことかな。
全然見た目も違うのに何故かなつきちゃんって分かったんだよね。
私の昔の写真をなつきちゃんに見せた時も一発で分かってたし、異世界症候群になっても元の姿の面影って案外あるのかな?
う〜ん、でも、そんな理由じゃないほうがいいな。
なつきちゃんと私は心が通じ合ってたから分かったんだってそう思ったほうが嬉しいもんね。
なつきちゃんをベッドに運んで、二人で布団の中に入る。
夏用の布団だから、結構ひんやりしていて心地よい。
「消すよ〜?」
「うん……」
遠隔で電気を消せば、部屋は真っ暗になった。
でも、私は獣人だからか結構夜目が利く、なつきちゃんの顔はすぐ近くに見える。
ほんとうに顔だけ見たら幼子にしかみえないなぁ……
これで、あれだけ頼りがいがあるんだから不思議なものだ。
「おやすみ……」
「うん、おやすみ」
返事は小さな寝息だけだった。
どうやら、もう眠ちゃったらしい。本当に今日のなつきちゃんは子供みたい。
起きるのが遅かったせいか、私はまだ起きてられそうだったから少しだけ考える。
今日はなんだか、不思議な日だったな。
なつきちゃんは普段と全然違うし、私はお姉ちゃんだったし。
中々新鮮で楽しかった。あんなふうになつきちゃんを甘やかせたのは初めてだから嬉しかった。
普段のなつきちゃんは、やっぱり照れてここまで甘えてくれないしね。
もっと普段から甘えてくれてもいいのにな。
目の前で眠るなつきちゃんの頭を撫でる。
なつきちゃんは普段から我慢してる。
それはきっと大人だからなんだと思う。
なつきちゃんは大人は甘えられるのが仕事だって言ってた。
だから、甘えないようにしてるんだと思う。
そうやって我慢できるなつきちゃんはかっこいい、私にはできなかった。
けど、それはちょっと……寂しい。
なつきちゃんも私に甘えていいのに。
だってさ、なつきちゃんと私は大人と子供以前に家族なんだから。
なつきちゃんだって甘えていいんだよ?
なんて……言ってもなつきちゃんは多分甘えてくれないんだろうな〜
正直大人だからを抜きにしても、恥ずかしいからが一番な理由な気がするし。
まあ、恥ずかしがってるのはそれはそれで可愛いけどね。
さて、明日は何しようかな、なつきちゃんをもっと甘やかす?
「…………」
……うーん
でも、なんか、やっぱり違うかもなぁ
ふと、そう思った。
何が違うのかは分からない。
今日は楽しかったし、お姉ちゃんになれて嬉しかった。
甘えてくるなつきちゃんは、可愛かった。
でも、何か、何かが違う気がする。
なんだろう?分からない、けどとっても大事なにかが足りなかった気がする。
「……う〜ん」
なんだろう?
とっても楽しかった。
とっても楽しかったけど、なんか嫌だ。
明日ももしこれだった、何かが嫌だった。
何が嫌なのかは分からない。
多分、私じゃ言語化ができない。そういうのは苦手だから。
なつきちゃんなら、わかるのかな?
そう思った。
大人ななつきちゃんなら私の言い表せないこの気持ちもわかるのかな?
なつきちゃんを見る。
幸せそうな寝顔だ。
…………うーん?本当に、なんなんだろうこれ?
気になってしまうと寝れなくなってしまいそう。
そんな時だった。
「陽菜……」
眠っているなつきちゃんが小さく寝言をつぶやいて私に抱きついた。
それを聞いて、なんとなくまあ大丈夫かなって思った。
なんでだろう?わかんない、けど、なんだかとっても安心した。
……今日はもう寝よう。
おやすみなさい。
「にゃああああああああああああああああ!!!!!!!!」
「わあっ!?」
今日の目覚ましはなつきちゃんの鳴き声だった。
今までで一番大きな声かもしれない。
そんな起こされ方をしたもんで、頭はすぐさま覚醒した。
そして、なつきちゃんがベッドで頭を抱えてる理由も察した。
どうやら、なつきちゃんもとに戻ったみたい。
「ひ、陽菜、俺昨日、その」
「とっても可愛かったよ」
「にゃああああっ!?」
私の言葉に全身を真っ赤にしてなつきちゃんは悶える。
そんななつきちゃんにふふっと私は笑い、安堵した。
良かった、戻ったんだ。
……あ、そっか、そういうことか
そこまで思って、昨日何が違ったのかようやく私は気がついた。
「うぅ、陽菜、昨日のこと絶対誰にも話すなよ」
「ねぇ、なつきちゃん」
それに気がついたら、行動は早かった。
まだ顔の赤いなつきちゃんは会話を遮って私に呼ばれてきょとんとする。
そんななつきちゃんに私は、甘えることにした。
「頭、撫でて?」
「え?あ、ああ、いいけど……」
なつきちゃんは困惑しながらも、私の頭を撫でてくれる。
その手はちっちゃいのに、とっても大きな手。
ふと、お父さんが撫でてくれたある日のことを思い出した。
私のお父さんは結構筋肉質で、凄いおっきな手を持っていた。
そんな手で頭を力強く撫でられた思い出だ。
手つきは優しかったのに、お父さんの性格力強さを感じられて、凄く安心したのを覚えてる。
そう、覚えてる。今も、今でも
懐かしいなぁ……
『……陽菜?』
撫でてるとき私が反応しないものだから、ちょっと不安そうな顔をしたお父さん。
よく、覚えてる。
……なるほどなぁ
「……陽菜?」
違うって、なるわけだ。
「なつきちゃんって大人だよね」
「え?そりゃ当然だろ」
不思議そうな顔しながらも当然と頷くなつきちゃん。
「朝ごはん食べよ?」
「……そうだな」
それを見てやっぱり、こっちのほうがいいなって私は思った。
でも、たまには甘えてくれていいんだよ?