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ケモミミ少女が救われる話  作者: 霜降り
ケモミミ少女は救われる
11/29

ケモミミ少女が家族になる話


「陽菜、俺の家来る?」

「行く!」


 そんなわけで、陽菜が俺の家に来た。

 あの時から既に一週間が経った。

 陽菜もあれだけ泣いて、吐き出してきっと自身の中で両親の死について向き合えたのだと思う。彼女が起きたとき、彼女の顔には太陽のような笑みが浮かんでいた。

 俺も小柳さんも一安心である。

 陽菜はそのことについては俺に一言『ありがとう』とだけ伝え、それ以外は何も言わなかった。

 ただ、俺達からすればその一言で十分だった。


「なつきちゃんの家、やっぱり何もないね」

「お前に言われたくない」


 俺の家をみて開幕早々陽菜がそう言うが、それを言うなら陽菜の病室のほうがよっぽどである。

 全く何も置いていない、生活感すらない部屋。

 あれは陽菜がそれだけ心に余裕がなかったということなのだろう。

 それを突っ込めば陽菜は不満げにこちらを見る。


「む、私の家には色々置いてあるんだよ!?」

「本当か?」

「本当だもん!ぬいぐるみとか一杯置いてあるんだよ!可愛いんだよ!?」


 ぬいぐるみねぇ……

 元男なもんで、ぬいぐるみみたいなものに触れ合った経験は俺にはほとんどない。

 そういえばこいつのメッセージアプリのアイコン、ぬいぐるみだったな。


「ふぅん……」

「なつきちゃん興味ないでしょ」

「……そんなことない」


 陽菜の部屋には興味あるが、ぬいぐるみに関しては正直、ない。

 そのことを一瞬で見破ってきた陽菜から視線をそらす。

 そんな俺を見て陽菜は笑い、今度見せてあげると言った。

 ……ま、陽菜が言うなら見てやってもいい。


「それで、今日は何する!?何やろう!?」

「そうだな……最近はもう色々やったしな」


 ここ一週間は毎日陽菜に会いに行くようにしていた。

 あんな事があったから、とかそういうのではなく単純に陽菜と毎日過ごしたからである。

 我ながら小柳さんに非常に迷惑な話だと思うが、小柳さんは笑顔でそれを手伝ってくれた。

 あの人には足を向けて寝られない。


 まあ、そんなのなので、小柳さんには気持ちと言ってはなんだが撫でてもらうことにした。

 あの人、頭以外も撫でてみたかったらしく、耳と尻尾も撫でたそうだったのでそっちも撫でさせてあげた。

 その時小柳さんがとても嬉しそうだったのを覚えている。

 それを見ていた陽菜が私も!と混ざってきてさらに嬉しそうだった。

 あの人の子供好きは筋金入りである。

 俺は子供じゃないけど。


 さて、今日は何をやるか、か。

 実を言えば今日は最初からやりたいゲームがあった。


「……久々にあれをやらないか?」

「?あれって何?」


 俺の言葉にこくんと首を傾げる陽菜。

 彼女の頭にクエスチョンマークが浮かんでるように見える。

 その動作が凄くアホっぽくて思わず笑いそうになる。

 別に、頭が悪いわけじゃないんだが、何故こうも一つひとつの動作がアホっぽいのだろうか。


「一番最初に一緒にやったゲーム、あれをやろう」

「……!あの料理のやつ!」


 俺が言えば陽菜もピンときたようで耳が立ち上がり、彼女の真上のクエスチョンマークがエクスコーテーション(俗に言うビックリマーク)に変わる。

 あの料理のゲーム、あれは俺達の距離が縮むきっかけとも言えるゲームだ。

 つまり、始まりのゲームと言える。

 原点回帰として俺は今日あのゲームをやりたいと思っていた。


 だって、今日は新たな始まりになるのかも知れないから。







 久々とはいえわざわざ買ったゲームを全くやらないなんて勿体ないことをするわけがない。

 ちょくちょく進めていたこのゲームも気がつけばもう終盤だった。


「よし、じゃあいつも通りのやり方で行こう!」

「ああ」


 ゲームが始まる。

 最初の頃は連携らしい連携はできず、二人で責任の押し付け合いをする始末だった。

 それからクリアのために役割分担をし、二人で声を掛け合って協力してクリアした。

 そのときの達成感はよく覚えている。

 それが、今は、


「…………」

「…………」


 声掛けもなく静かだった。

 カチャカチャカチャというコントローラーの音とゲームの音だけが頭の上の耳に入り込む。


 けれど、それは仲が悪くなったわけではなく、仲が良くなった証拠だ。

 何も言わなくても、相手が何をしてほしいのか伝わる。

 以心伝心というやつだ。俺たちの合間にはもう言葉なんて必要なくなっていた。

 この距離感が心地よい。

 まるで隣りにいるのが自然のような距離感。

 積み重ねた関係が明確に形として出てきているのが嬉しかった。


 昔の俺にこんな関係の相手ができるなんて言っても信じられなかっただろうな。

 そんなとき陽菜が軽いミスをした。


「……なつきちゃん!」

「ああ」


 ほんのちょっとの声掛けだけで十分だ。

 陽菜のミスをリカバーする。

 わざわざ文句は言わない。

 もし俺がミスをしたら陽菜がリカバーする。

 そんなリカバーをしあう関係なのだ。文句なんて言うわけがない。

 そして、最後の料理が完成する。

 

「…………よし」

「いえーい!」


 陽菜がこちらに手を伸ばしてきて、俺もそれに応える。

 パンッとハイタッチの音が周りに響いた。


「余裕だったね!」

「陽菜とだから当然」

「にひひっ、そうだね!」


 陽菜が笑い、つられて俺も笑う。

 いつものパターンだ。こんなのが、毎日続けばきっと楽しいだろう。

 そう、毎日。

 そのために、今日の準備をしたんだ。


「なつきちゃん!次ボスだって!」

「お……集中するか」


 まあ、今はゲームに集中しよう。







「……あ、もう時間だ」


 楽しいものに熱中していると時間間隔というのはぶっ飛んでしまうもので。

 気がつけば、もう陽菜は病院に帰らなければまずい時間になっていた。

 時計を見て陽菜が悲しそうに呟く。


「そろそろ帰らなきゃ」


 陽菜はコントローラーを置いて立ち上がり、帰る用意を始める。

 尻尾は垂れて明らかに身が入っておらず、この家から帰りたくない、そんな言葉が彼女の背中から聞こえた気がした。

 そんな彼女に声をかける。


「陽菜」

「なぁに?」


 陽菜がこちらを振り返る。

 ちょっと嬉しそうだ。多分、俺が話しかけたことでこの家にいれる時間が長くなったからだと思う。

 そんな可愛らしい彼女に俺はお願いする。


「少し、待ってくれないか」

「えっ!?……だ、駄目だよ小柳さんに迷惑かかっちゃうもん……」


 陽菜は俺のお願いに驚き、少し後ろ髪を引かれつつも断った。

 真面目なやつだ。少しくらいなら小柳さんも怒らないだろうに。

 ここで小柳さんに迷惑がかかるからという理由で断れるのが陽菜らしい。

 でも、今日は問題ない。


「今日は大丈夫だ」

「え?それって──」


 ピンポーン


 陽菜が疑問の声を甲高い音が遮った。

 その音の正体は、玄関のチャイムの音だった。

 ……やっと来たか、本当はもっと早く来る予定で、中々来ないもんだからちょっと焦ってたのだけど。


「なつきちゃん?チャイムなってるよ?宅配便?」

「……うん、まあそんなとこ。陽菜、ついてきて」

「え?わ、わかった」


 物を運んでくれた、という意味では宅配というのも近いだろう。

 俺は陽菜を連れて玄関へ向かう。

 陽菜は不思議そうにしながらもどこかワクワクとしているようだった。

 そりゃあ突然こんなこと不自然なことをされたら何かしらサプライズは疑うだろう。

 そして、今からするのは


 ……とびきりのサプライズだ。


 玄関の扉を開ける。

 そこにいたのは


「すみません。遅れました」

「え、え!?小柳さん!?」


 たくさんの荷物を抱えた少し疲れた様子の小柳さんだった。

 ……なんか知らない荷物ある。





 もちろん、玄関なんかで何かを話すわけにもいかないので、場所をリビングへと移動する。

 小柳さんはどうもあまり人の家に行ったことがなかったらしく俺の家を見て新鮮な気持ちだと言っていた。

 三人でテーブルを囲って向かい合う。


「小柳さん、どうしてここに来たの?」

「俺が呼んだ」


 俺の答えに陽菜は微妙な顔をする。そんなことは分かってるといいたげであった。


「それは分かってるよー」


 言った。

 小柳さんも苦笑いである。

 まあ、冗談はここらへんにして真面目に説明をしよう。


「小柳さんには頼みごとをしてたんだ」

「頼みごと?」

「ええ……なかなか骨の折れるものでしたよ」


 小柳さんは冗談めかしてそういう。

 しかし、俺が彼女に頼んだことは本当に大変なことだったと思うので本当に本当に小柳さんには頭が上がらない。

 そのことに礼を伝えると、小柳さんはいえいえと謙遜した。


「お二人のためですから」


 小柳さんはそう言うとニコリと笑う。

 改めて、この人が俺達の担当をしてくれる人で助かった。

 本当に半年の合間ずっと、お世話になったから。

 この人にはいずれ、撫でてもらう以上のお礼はしなきゃいけないだろうな。


「頼みごとって、なんの?」

「……お前のためのことさ」


 俺の答えを聞くと陽菜が目を見開いてソワソワとし始める、尻尾を振り始め期待が体に表れていた。


「も、もしかして……サプライズ的な?」

「ああ……とっておきのサプライズだ」


 陽菜はそれを聞いて、さらにぶんぶんと大きく尻尾を振る。

 陽菜が、こちらを見て早くしてほしいと訴えかけてくる。

 そんな彼女に少し笑いそうになりつつ、俺は小柳さんにアイコンタクトでお願いしたブツを出してもらうようお願いした。

 小柳さんがバッグを漁る。

 そうして、出てきたのは──


「……紙?」


 陽菜がそれを見て困惑したように呟いた。

 そう、小柳さんが取り出したそれは一枚の紙、そしてボールペンだ。

 もちろん、これはただの紙なんかじゃない。


 とってもとっても大事な、一枚の()()だ。


「え、えっと……どういうこと?」


 陽菜が、俺たちに問いかける。


 その答えを俺はとても端的に答えた。


「これは、()()()()()だ」

「へ?」


 答えを聞いて、なお陽菜は困惑していた。

 陽菜はさらに俺たちへ問いかける。


「養子……って、誰が?」

「陽菜が」


 言葉を未だ飲み込めてない陽菜。

 そりゃそうか、突然養子がどうとか言われてもわからないだろう。

 そんな陽菜に、俺はとってもわかりやすく説明する。


「本当に家族にならないか、陽菜」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()







「なつきちゃんと、家族……」

「陽菜、お前はまだ十六歳で、未成年だ。だから、俺の家の養子になれる」


 言葉を咀嚼していく陽菜に、説明する。

 陽菜の年齢は十六歳、未成年。

 そして、養子になるのに必要な条件は未成年であること。

 つまり、陽菜は養子になるための条件は完璧に満たしていた。


 問題があるとすれば、陽菜が異世界症候群という特殊な立場にあること。

 だから、俺は大人として繋がり……つまりコネを持っている小柳さんにこの書類の用意を手伝ってもらった。

 小柳さんがこの書類を持ってきたのもそれが理由だ。

 そして、そこの問題もなんとかクリア。

 だから、あとはこちら側、養親側の問題になる。


「母さんに頼み込んだんだ。陽菜を養子にしてほしいって」

「わ、わざわざ?何か言われなかったの?」

「あー……」


 俺の言葉に陽菜は驚愕し、心配したように聞いてくる。

 そこに関してなのだが……


 あの日の電話のことを思い出す。


 俺も最初は何か言われると思っていた。

 なにせ、家族が増えるということだ、そう簡単に決断できるようなものではない。

 お金の問題は異世界症候群の補助金があるにしても、養子入りするということは遺産の存続などの問題も起きうるセンシティブな話になる。

 故に、俺は拒否されるのを覚悟で頼み込もうとしていた。

 しかし、母さんに事情を説明してお願いしたら──


「……同じ異世界症候群で家族にしたい子がいるんだ。その子を養子に取ってほしい」

『いいわよ』

「そう、だよな……え、いいの?」


 こんな感じで簡単に頷かれた。

 あまりにもあっさりと頷いたものだから自分の自慢の耳を疑ったものである。


「いや、ちょ、ちょっと考えてよ」


 むしろこちらから考え直すように言ってしまったほどだ。

 正直、大事なことをそんな二つ返事で頷かれると不安になる。

 けれど母さんはそんなこと必要ないと俺の意見を一蹴した。

 そして、母さんは当たり前のように言った。


『本気になってる子供を手伝わなくて何が親だというの?』


 その言葉を聞いて、少し涙が出そうになったのは秘密だ。


「……いいの?」

『あなたが何歳だろうと私にとっては子供なの。昔から言ってるでしょう?子供は親に甘えるものよ』


 母さんは成人してる俺のことを当たり前のように子供と言い放つ。

 我が親ながらとんでもない人だと思っていると母さんはふっと笑った。


『あなた、昔から全然おねだりも何もしなかったじゃない』

「……まあ、確かに」


 俺は昔から親にねだるということをほとんどしてこなかった。

 単純に欲しいものがあまりなかったからだ。今思えばそれはそれで一種の親不孝ではあったのだと思う。

 異世界症候群のせいで実家にお金を入れることもできていないというのに。

 我ながら、本当に親不孝な人間だった。


『そんなあなたがわざわざ頼み込む程なんでしょう?なら、突き進みなさいよ』

「母さんっ……あ、ありがとう」


 親の愛情をここまで感じたのは初めてで、ただ感極まって泣きそうだったのをよく覚えている。

 そんなわけで、

 陽菜に大人は甘えられるのが仕事だとか言っておきながらその日に俺は親に甘えさせてもらうことになった。


 とはいえ家のことだ、母さんだけに話を通すだけじゃ駄目だ。


「父さんにも話したいんだけど、いる?」


 父さんにも話は通さなければならない。

 しかし、母さんはそんな俺の意見をふんっと鼻で笑って必要ないと断じた。


『あの人なら頷くわよ』


 その発言には夫婦として長年育んだであろう信頼関係を感じた。

 なら、いいか、そう俺に思わせるほどのものだ。

 まあ、その後、


『頷かなくても私が頷かせるわ』


 なんて言ってたけど。

 母、強し

 昔からなんというか女傑というか、見た目に反して強い人なのは知っていたけど、なんかもう、尊敬の一言である。


 うちの家、元々は男女比が二対二だったのだが、俺が女になったことにより三対一になってしまった。

 その際『俺の立場が……』と嘆いていた父さんを思い出した。

 俺は父さんの立場が不安です。


 まあ、そんなわけで養親としての問題点もクリアし

 母さんと父さん、そして小柳さんの協力のもとほとんどの場所が既に埋まっているのが目の前の書類だった。

 そのことを一部、特に家族のことは恥ずかしかったのでぼかして陽菜に伝える。


 そして、最後に俺達では書けない場所が一つ。


「ここに陽菜が、お前の名前を書けば……俺とお前は家族になれる」


 最後、そう、養子側の署名。

 これだけは陽菜が、本人の意思で書かなければならなかった。

 そして、ここに陽菜の名前が書かれれば、俺達は本当の家族となる。


「なつきちゃんと……家族、本当の家族」


 陽菜は呆然としながら、俺に言われた事実を飲み込んでいた。

 少し口角が上がってるように見えて、喜んでくれているのだろう、嬉しいことだ。


 ……けど、


 絶対に言わなくちゃいけないことがある。


「ごめん、陽菜一つだけ言わなきゃいけないことがあるんだ」

「言わなきゃいけないこと?」

「その……()()()()()()()()()()()()

「っ!」


 それを聞いた途端陽菜は目を見開いた。

 そして、陽菜の顔から笑みが消えた。


「……そっか、養子だから」

「ごめん……これはルールだから、どうしようもないんだ」


 養子というのは戸籍上の家族になるもの。

 故に、苗字が変わってしまうのは避けられない。

 これは、俺と小柳さんがこの計画をするにあたって一番の問題点だった。

 なにせ、陽菜からすれば苗字というのは亡き家族の数少ない繋がりなのだ。

 家族の繋がりを大切にする彼女にとって苗字というのはとても大切だろう。

 それを陽菜に捨てろというのは酷な話なのかもしれなかった。

 だから、


「陽菜、断っていい。その……俺達は陽菜に幸せになってほしいんだ。だから、陽菜が望まないことをしないで欲しい」

「はい、私達のことなんて気にせず、自分のことだけを考えてください」


 小柳さんも俺の言葉に同意する。

 俺達が望むのは、陽菜の幸せだ。

 それに陽菜の意思が介入してないなんてことあってはならない。

 だから、嫌なら素直に断って欲しいのだ。

 

「そのうえで……いいというのなら、俺と家族になって欲しい」

「…………」


 陽菜は俺の言葉を聞いて体を止め考え込み始める。

 陽菜からすれば、これは大きな人生の転機となりうる選択だ。

 迷って当然、むしろ迷いすらせずに断られる可能性を考えれば迷ってくれだけでも嬉しかった。


「今すぐ決めなくてもいい……別に、考えたいならそれでも良い」

「…………」


 陽菜は何も言わず、悩み続ける。

 静かな時間、俺の手に汗が流れる。

 ドクン、ドクン、俺の心臓が大きく鼓動する。


 陽菜が小夜という苗字に対してどれほどの思いを抱いているのかは、俺にはわからない。

 これで断られてもそれは致し方ないことなのだろう。

 だから、そうだったらももう仕方ない。俺は諦めるしかない。

 それは陽菜の意思で、それをねじ曲げるのは俺が望んだことじゃない。


 そう、仕方ない。




 ……でも、俺は



 ……嫌だ



「……ごめん、陽菜、()、ついた」

「え?」


 それはほぼ無意識だった。

 俺の口から、嘘という言葉が漏れた。

 陽菜がその真意を求めてこちらへ、その綺麗な瞳を向ける。

 小柳さんも分かりにくいが驚いてるようだった。

 そして、かく言う俺も自分の発言に驚いていた。


 けれど、同時に何故それを言ってしまったのかは理解していた。


 ……なら、もう勢いに身を任せよう。

 この身に走る正直な言葉をそのまま陽菜へ伝えよう。

 陽菜の方へよった俺は陽菜の肩を掴む。

 俺と陽菜の顔が至近距離で向かい合う。


「陽菜、俺はお前が好きだ」

「な、なつきちゃん!?」


 俺の突然の宣言に陽菜は驚愕の声を上げる。

 けれど俺は無視して、自分の、俺の気持ちを陽菜へ伝えた。


「お前の笑顔が、お前の性格が、お前のことが好きだ」


 顔が熱い、我ながらとんでもないことを言っている。

 けどそれは間違いなく俺の本心だった。

 だから、俺が本気であることを陽菜に目を合わせて伝える。

 いつもなら、こんなこと言ったら恥ずかしさに目を逸らしてしまう。

 けど、今は逸らさない、陽菜の綺麗な瞳をしっかり見つめるんだ。

 陽菜は呆然と俺の言葉を聞いていた。


「お前がいいなら、なんて嘘なんだ」


 お前がいいなら、なんて言った。

 陽菜の方への幸せのためなら断っていいって言った。


 それは、嘘だ。


()()()()()()()()


 陽菜に頷いて欲しい。

 陽菜が断らないで欲しい。


 嫌なんだ、陽菜と家族になれないのは


 俺は、


 俺は、俺は


()()()()()()()()()()()()()!」


 俺は、陽菜の幸せを望む。

 けど、それは自分の本音を隠したうえでの望みだった。


 俺は陽菜と家族になりたい!


 それが俺の、本当の望み。

 陽菜がどうとかじゃない、俺がそうしたい。

 だから、断られたくない。


「陽菜と、ずっと一緒にいたい!」


 なんやかんや、語ったけど。

 結局のとこ、本当は俺が陽菜とずっと一緒にいたいだけだ。

 俺が、陽菜と家族になりたいだけなんだ。

 俺は、彼女の前に手を伸ばす。



「俺と、家族になろう……陽菜!」



 これが、俺の正直な気持ち。

 俺はそれを陽菜に告白した。

 陽菜を、陽菜の瞳を見つめる、まっすぐに。

 陽菜はなんて答えるだろうか、俺の本心の吐露になんて思うだろうか。

 今更、少し後悔する。

 我ながらとんでもない、気持ち悪いことを言った気がする。


 けど、それが俺の本心で、それを誤魔化して後悔したくなかった。

 陽菜と家族になりたかったんだ。

 陽菜が、俺を見る。

 その綺麗な瞳が、俺の瞳を射抜く。



 そして、笑った。



 にっこりと、子供のような




 太陽のような、笑みだった。




「あっはははははは!!」

「……笑うな」


 人の一世一代の告白を……

 睨む俺に陽菜は笑みを抑えようとしながら言う。


「だ、だって、なつきちゃんらしくなかったから」


 ……まあ、今みたいな熱血みたいなものが俺らしくないのは、本当にその通りで。

 指摘されると改めて俺の発言が脳裏に蘇って、顔が熱くなる。

 ぷしゅ〜と俺の頭から煙がでてるような気がした。

 ふと、陽菜が小さく笑う。


「ねぇ、なつきちゃん」

「……なんだ?」

()()()()


 陽菜そう軽く言ってペンを手に持つと、すらすらと書き慣れた手つきで『小夜 陽菜』と


 その書類に名前を書いた。


「なつきちゃんと、家族になりたい」

「い、いいのか?」


 あまりに、軽い手つきで書くものだからその光景が信じられず、けれども陽菜と家族になれたという喜びが身を襲い、俺は声を震わせる。

 そんな俺の顔には変な気持ち悪い笑みが浮かんでいた。


「もう、あんだけ言っておいて今更そんなこと言うの?」

「だ、だって……」


 陽菜の言う通りあんなこと言っておいて言うことではないが……

 陽菜にとって小夜という苗字はとって、家族のつながりで、とても大切なはずなのに。

 こんな、こんな簡単に書くとは思っていなかった。

 きっともっと悩むだろう、そう思っていた。

 そのことを陽菜に伝えれば、陽菜は呆れたような表情を浮かべた。


「あのね、なつきちゃんのおかげなんだよ」

「俺の……?」

「うん、あの日たっくさん泣いて、ようやくお母さんとお父さんに向き合えたの」


 陽菜が自身の苗字について語る。

 どこかすっきりとしたような、そんな雰囲気だった。

 陽菜は、あの日沢山泣いて、溜め込んでいたものを吐き出した。

 そうして、ようやく両親の死ということに対して自然な目線で向き合えたと語る。


「正直ね、まだ悲しいんだ、お母さんとお父さんがいないってことを信じたくない私もいるの」

「…………」


 両親のことを思い出してるのか、少し目を閉じて陽菜はそういう。

 陽菜は両親の死に対して向き合えた。

 しかし、同時に陽菜はまだ向き合っただけなのだと思う。

 やはり、子供に両親との死別という出来事は重すぎる。

 そう簡単に、割り切れることじゃないんだ。

 彼女はまだ両親の死を乗り越えることはできていない。

 けれど、陽菜は言った。


「でもさ、()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 陽菜はくすりと笑う。

 その言葉に俺はただ、圧倒された。


「そんなことしたらさ、私進めなくなっちゃうじゃん。私は、今のなつきちゃん(家族)と進みたいって、思ってるのに」


 その陽菜の言葉に俺の口角が少しずつ上がっていく。

 陽菜が、そんな決断をしてくれたことが嬉しくて、涙が溢れそうだった。


「止まってる私を見たらお母さんもお父さんも私のこと心配しちゃうしね」

「陽菜……」

「だからね、いいの。私は過去より未来を見たい」


 陽菜はそこで一息吸うと、俺としっかりと目線を合わせる。

 そして、さっきの俺を真似をするようにこっちに手を伸ばす。


「《《なつきちゃんとの未来を見たいんだ》》」


 陽菜は、いつもの太陽のような笑みを俺に向けてそう言った。


「これで家族だね、なつきちゃん」

「陽菜ぁ!」


 そんな彼女の手を彼女取る程度じゃ満足できなくて、俺は笑う陽菜の元に、思いっきり飛び込んだ。

 初めて、俺の方から陽菜へ飛び込んだ瞬間だった。


「もー、近いよなつきちゃん」

「うるさい!いつもお前がやってることだろ!」


 飛び込むのはいつも陽菜がやってること、なら俺がやってもいいだろう。

 陽菜を抱きしめ、彼女に体を擦り付けると、陽菜は笑みを浮かべながら俺のことを抱き返した。


「これからは朝比奈陽菜(あさひなひな)かぁ……ひなって二回もついてるね?」


 陽菜の言葉にぷっと吹き出してしまう。

 そうか、確かに苗字が変わったから陽菜のフルネームは『あさひなひな』になるわけで、二回もひなという文字が入ってることになってしまう。

 それは、ちょっと面白い。

 当事者ながら陽菜も同じようで二人して笑う。

 そして、


「ねぇ、なつきちゃん」

「なんだ?……陽菜」

「ずっと一緒だよ?」

「ああ、ずっと一緒だ」


 抱き合って、そんな当たり前のことを確認しあう。

 こうして、俺達は本当の家族となったのだ。







 そのまま、しばらく抱き合っているとずっと静かに、俺たちの邪魔をしないように横から見ていた小柳さんが口を開いた。


「せっかくの門出ですから、こんな物を買ってきたんですよ」


 そう言って小柳さんは持っていた荷物からあるものを取り出した。

 俺も知らないその荷物、果たして一体なんなのか。

 それは……


「ケーキだ!」


 白いホールケーキ。

 イチゴのショートケーキだ、しかもこれ、見覚えがある。

 これって、確か……


「あ、あの人気店の?」

「ええ、折角ですので」


 あの日陽菜と話したあのケーキ屋のやつだ。

 いつか一緒に食べようって約束したあのケーキ。

 結構高いやつ、これをわざわざ俺達のために?

 というか、もしかしてあの時の話聞いてた?


「ふふ、めでたい日は美味しものを食べるんですよ」


 まさかと小柳さんに視線を向ければ小柳さんはイタズラが成功したように笑いながらそういう。

 本当にこの人は……

 そうだな、よし決めた。


「陽菜」

「どうしたのなつきちゃん?」

「小柳さんにごちそうするぞ」

「え?」

「わかった!」


 小柳さんが驚いているのを無視して俺達は小柳さんをおもてなしする計画を立てる。

 色々世話になったからな、今日ほど小柳さんの時間を取れることはないし、恩返しをするなら今しかない。


「え、あの、別にいいんですよ……?プレゼントですから」

「ねえ、小柳さん」


 遠慮しようとする小柳さんに陽菜が話しかける。

 少し呆れた顔で、彼女も俺と同じ気持ちなのがわかった。


「私さ、小柳さんがいたからここまで来れたんだよ……あなたにも救われたんだよ。だから、お礼させてよ」

「俺も、あなたには救われた。だから受取っぱなしは、いや」


 俺も陽菜も、小柳さんにはずっとお世話になってきた。

 彼女抜きでは、今の光景は絶対にあり得なかった。

 そんな、彼女を労りたいのは当然のことなのだ。

 だから、あなたには素直に受け取ってほしい。

 俺達の気持ちを受け取って欲しいんだ。


「……陽菜さん、成月さん」


 小柳さんはその言葉に少し呆然とした様子で俺達の名前を呼んだ。

 彼女は少し目元を抑える。

 なニカを思い返してるようだった。


 小柳さんもきっと色々あったのだと思う。

 ずっと彼女は医者として俺達を救うために奔走してくれていた。

 その裏にどれだけの苦労があったのだろうか?

 俺は知り得ない、しかしその苦労がとてつもないことであることくらいは分かっていた。

 だから、俺達は彼女を労りたいのだ


「じゃあ、よろしくお願いしますね」

「あ、小柳さん苦手なものある?」

「……ふふ、ないですよ」


 そんな思いが伝わったのか、彼女はしょうがなさそうに笑った。

 陽菜と二人でキッチンへ向かう。


「何にしよっか?」

「そうだな……」


 二人で楽しく何を作り合うか話し合う。


 それはきっと、家族のように



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