変化
こ、この動画は…
「えっ、すごっ」
「ね、わたしもびっくりしてる。昨日初めてあげて、今日これだから」
「えっ?昨日?」
「うん」
…すごっ
紗奈さんは、カリスマ性があるのかもしれない。
「あ、それでね…このカツラと動画は、しばらく二人だけの秘密ってことでお願いしたいの。いい?」
「うん、わかった」
そう冷静に返事したものの、オレは内心めっちゃ嬉しかった。
こんなすごい人と、オレが秘密を…ってね。
そんなこんなで、次の日
やっぱりいつも通りの紗奈さんで少しホッとした。
というか、なんか安心した。
「昨日は、どうも」
と、小声で話しかけてくる紗奈さん。
「あー、うん。こちらこそ」
と、お礼を述べた。
紗奈さんは、いつも通りなんだけど…
でも、昨日のアップした動画が大バズりして、クラスの男女どちらも、この人めっちゃかわいくない?とか、変化すごすぎだよねーって、大盛り上がりだった。
メイク前も肌綺麗だし、普通にかわいいとオレは思う。
でも、アップした動画は今と髪型も違くて、動画内だとビフォーは、眼鏡もしていて、目の大きさもまた違うので、まさかあの動画の人がクラスメイトなんて、誰一人として気づかないみたいだった。
紗奈さんは、おとなしくとても優しい性格だ。
でも、動画内ではとても明るく活発な印象になる。
だから、なおさら誰も気づかないっぽい。
それにしても、すごい変化を遂げる人もいるもんだなぁと、感心するばかりだった。
そのおかげか、昨日別れたモカのことをオレは、完全に忘れていた。
そんなオレの中から完全に消えつつあったモカと今カレの佐久間くんが、偶然オレのクラスを通りかかり、オレたちをみてスクスク笑いながら、通り去った。
…感じ悪い人たちだ。
あの人がオレの元カノなんて…なんか自分にガッカリだ。
でも、いつまでもガッカリしていては前に進めない。
なので姿勢を正してきちんと授業に取り組んだ。
すると休み時間、紗奈さんが目を輝かせてオレに質問してきた。
「なんで、そんなに姿勢いいの?そして将来の夢は?」
と、一気に二個の質問をしてきた。
「姿勢は、肩凝り防止と内臓を潰さないためかな。で、将来は美容師か美容液開発者になりたいかなぁ」
って、ぼんやり未来を見据えつつ答えた。
「えっ、すごい!」
と、目を輝かせる紗奈さん。
いやいや、紗奈さんのカリスマ性の方がすごいよってなりますよね。
でも、そんなに目を輝かせてくれたのは、やっぱり喜ばしいことだ。
オレたちは、美について休み時間に色々語った。
そしてお互い使っている化粧水とかの情報交換などもして、今度美容のお買い物をしようってことになった。
待ち合わせの日、オレはドキドキして待った。
紗奈さんは、どちらの紗奈さんでくるのだろうか?
学校バージョンなのか、それとも…
「お待たせー」
と明るくやってきた紗奈さんの姿は、学校バージョンでも、配信バージョンでもなく、全く違う感じの清楚系知的美少女だった。
かわいい丸眼鏡が、とっても似合っていた。
てか、こんなにもいろんな感じに変身できるとかって…ある意味天才すぎる!
これなら、配信者だってこともバレなそうだ。
なので、安心して買い物ができそうだ。
というか、安心して買い物ができた。
オレたちは、今流行りの美容液をお試しで、手に塗り塗りして、伸び具合を確かめたり、白く粉っぽくならないのかなど試して、それぞれ気になった化粧品を購入して、品評会をすることとした。
パックもついでに購入したりもして。
オレは今まで、独自に一人品評会していたが…やっぱり仲間がいると、色々交換したりとかもできるので、二倍お試しができることに感激していた。
そんな化粧品仲間の紗奈さんは、大バズりしている動画をオレに相談してきた。
クラスのみんなが、もう一人のわたしのことをよく話していて、なんだか騙しているみたいで申し訳ないと。
なんなら、たまに肌キレイだけど化粧品なに使っているか、教えて?ってくる人まで出てきたんだとか…。
いつか、バレるんじゃないかって不安らしい。
だから、ここは思い切ってバラしてしまうのは、どうだろう?と提案してみた。
幸いうちのクラスの担任は、若くてとても良い先生なので、まず先生に相談してみようってなった。
先生は驚いていたが、学校的には配信は問題なく、公表しても大丈夫だろうとのことだった。
で、話がまとまると先生もやっぱり化粧品について聞いてきた。
なので二人で詳しく説明してあげたら、帰りに買って帰ろうかなぁって、ホクホクワクワク顔だった。
やっぱり、誰かが喜ぶ顔っていいよなーって思い、オレは改めて進路について深く考えるようになった。
だれかが笑顔になる仕事って素敵だな。
家に帰り、携帯片手にゴロンと転がると、なぜか紗奈さんの笑顔が思い浮かんだ。
やっぱり…
紗奈さんって…かわいいなぁと。
オレは…やっぱり紗奈さんのこと好きになっちゃったかも?
続く。