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1話

 出雲大社近くにある地球外生命体対策本部には総勢30前後の人が生活している。

 大きな本部の中は意外にも複雑ではなく、力に呼応した結い士と呼ばれる者達がストレスなく生活できるよう最大限の配慮がなされていた。

 そんな中を組織長の補佐である羽根川洋一が忙しそうに動き周り、時折もう1人の補佐である忍足あらきが書類を持って羽根川を探し回っていた。

 「朱子さーん。あの2人今度は何してるんですか?この間もバタついてませんでした?」

 それを見ているといつの間にか後ろに来ていた結い士の東雲四季に聞かれる。

 「あー、えっと。この間のは備蓄の管理で今回は確か……。」

 「…………。朱子さん覚えてないんだ。いちおー私らの指揮官で政府から配属されてるのに。」

 冷たい視線が突き刺さる。

 「うっ。俺はあくまで指揮官で君たちのメンタルケア役だから!外部との折衝とかまでは把握してないんだよ。」

 「ふーん。ま、いーけどね。」

 そう言いながら口にしてた棒キャンディが失くなったのかゴミ箱に近寄っていく。

 何となくそれを見ているとゴミ箱の前で立ち止まりゴミを捨てるでもなく固まる東雲四季に疑問を持ち近寄り思わず悲鳴を上げる。

 「うおぉぉっ!何でゴミ箱に犬が!!」

 「わんちゃんや、そこは汚いから出よーな。」

 「冷静だね?!」

 「いや、朱子さんが汚い悲鳴を上げるから冷静になった。」

 「ひどっ!」

 ギャーギャー騒いでるとそれに気づいた忍足あらきが近寄って来て目を見開く。

 「そないなとこにおったんか!さっきから羽根川さんが探しとったんよー。」

 「あー。バタついてたんそれなんか。」

 「そーそー。羽根川さーん!!犬っころ見つかったでー!!」

 ケータイを使えばいいものをいつの時代だ、と突っ込みたくなるような原始的な方法で羽根川洋一を呼ぶ忍足。

 「犬?!犬がいるの?!!」

 羽根川が来る前に結い士の小鳥遊玲が聞き付けやってきた。

 犬も逃げるでも吠えるでもなく大人しく結い士の2人に撫でられている。

 「はー、はーっ。忍足、さん。犬いるって?」

 「見事に息切れしてんなぁ。ほら、東雲君と小鳥遊ちゃんに撫でられとーよ。」

 「はぁーー、ようやっく見付かった。」

 「お疲れ様です。この犬どうしたんです?ゴミ箱の中にいましたけど。」

 「ゴミ箱の?!!政府のお偉いさんが来たときに連れてきたみたいでさ。急に走り出して見失って探してたんだよ。」

 「そうだったんですね。見付かって何よりです。」

 そんな会話をしつつ息切れも収まったのか結い士の2人から犬を預かり駆け足で去っていく。

 「あっ。ちょっ、羽根川さーん、この書類も持っててー!」

 ふと思いだしたのか慌てて追いかける忍足も見送り束の間の癒しを得ていた2人から犬が欲しい、猫でもいいぞ。というのを何とか宥めていると緊急放送が鳴り、話を切り上げ出動体制に入る。

 小鳥遊は何時もの如く緊張しながら、東雲はめんどくさそうにしながらも油断ならない目付きで向かう。

 




 『緊急放送、緊急放送。青森県恐山近くの博物館にて襲撃を確認。総員直ちにヘリポートへ集まってください。繰り返します。青森県恐山近くの博物館にて襲撃を確認。総員直ちにヘリポートへ集まってください。』

 昼過ぎの眠くなってくる時間にそんな放送が流れ近くにいた2人と共に走ってヘリポートに向かう。

 結い士は諏佐之男命に武器を、月読命に風水火木土の何れかの能力を与えられている。そして大抵の武具は三貴士から与えられている武器とは別にヘリポート近くの部屋に男女別で一式揃えられており、東雲と小鳥遊とはそこで準備するために別れて自分は先に状況を把握するためにヘリポートで情報共有を行う。

 

 たまたま地元に帰っていた隊員が2人おり、その報告によると敵は4足歩行型で甲殻で覆われた蜘蛛のような姿らしい。斬ろうにも固すぎて刃が通らず、何とか結い士の力を駆使して防衛に回っているようだ。

 赤原静音は風の力を得ているのでそれで道を一方通行にして民間人を避難させ、海中揺は水で敵を押し留めながら間接を狙って攻撃。あまり効果はないようだが。

 そうやって時間を稼いでいるらしいが力を無限に使えるわけでもなく2人の消耗も考え急ぐべきだろう。

 「指揮官お待たせ!」

 少し焦り始めるとタイミング良く5人の隊員が集まった。

 「今拠点にいるメンバーを考えると他は待機するか後続で来てもらったほーがいーと思うけどどーする?」

 「うん、そうだね。そもそも平日だから残ってる隊員も少ないし……直ぐに出撃しよう!」

 「了解!」

 言うや否やヘリに乗り込む隊員達に続き乗り込み目的地に急ぐ。

 忍足の操縦するヘリが浮上し安定した所で今回の敵について分かってる事を伝えたいく。

 「発見されてるのは4足歩行型の甲殻蜘蛛だ。ただ殻が固くて攻撃が通りにくいらしいから注意してくれ。」

 「あー、今現地にいるのって?」 

 「赤原さんと海中君だね。」

 「その2人なら確かに弓と短剣だから余計になのかな。」

 「恐らくそーだろーね。ちょいとめんどいな。」

 武具を支給されてるとはいえ通常の武器は効かない事が殆どのため特定の与えられた武器を使うが剣等の刃物類が一般的なため甲殻系の固い敵にはどうしても苦戦してしまう。

 「バランスを考えても玲は朱子さんと作戦基地に下がってた方がいいな。」

 「それがいいね。僕は姐御と一緒に行こうかな、薙刀だし役に立つと思いますよー。」

 「手綱君なら土だし行けるかな、お願いするよ。」

 「はーい。」

 「狐華さんは鉄扇だから私と一緒で下がってた方がいいと思いまーす。」

 少し拗ねたように小鳥遊が言うが分が悪いのも事実で本人も異論はないらしく了承する。

 「それなら流石に2人で突入は厳しいと思うので私も中に行きますね。」

 「よし。それじゃ東雲さん、手綱君、伊津さんは到着次第中に突入し赤原さんと海中君と合流してくれ。

 敵は固いらしいが手綱君と伊津さんと赤原さんで足止めしつつ東雲さんと海中君で叩いて。状況に応じて手綱君も攻撃をしてくれ。」

 「はいよ。……と、そろそろか。」

 外の風景が流れるのが緩やかになり目的地に近づいたことが分かる。

 「僕達は臨時基地で内部の状況を見つつ民間人の避難漏れがないか確認するから内部は少しの間任せるよ。状況が把握でき次第指示をする。」

 言い終えると同時に到着したようでハッチが開く。

 突入する3人が順に降下したのを見てから小鳥遊と浦田に補助してもらいながら自分も飛び降り臨時基地方面に向かう。

 忍足はこのまま本部のヘリポートに戻り待機予定だ。

 小鳥遊と浦田のサポートのお陰で無事地面に降り立った瞬間に2人に負けないように臨時基地に向かって走り出す。指揮官として訓練はしているし体力にもそれなりに自信はあるものの加護を受けている結い士とは根本が違うため単純な速さ等では勝てないのだ。

 「失礼します!地球外生命体対策課です。状況報告をお願いします。」

 天幕に入るや腕章を示して指揮権を移譲してもらう。

 「結い士の方達のお陰で多少の怪我はあれども粗方の避難はすんでいます。ただまだ中に取り残されている人が凡そ7人。場所までは分かっていません。」

 監視カメラで館内を見れるようにしている様だが幾つかは壊されており確認は難しいらしい。

 「中の様子はカメラを見てもらった通りです。」

 「どこから敵は侵入したんです?」

 「建物の裏側に移動機が確認されてます。そこから窓を壊しバラバラに侵入したのではないかと。」

 浦田の質問にカメラの一部を指して言うのを聞きながら画面を食い入る様に見る。

 敵の移動機はピラミッドのような形状をしているようだが細かくは分からない。とはいえそこまで重要では今の段階ではないので無視だ。

 

 ピピッ ピピッ


 耳に着けている無線機に連絡が入る。

 『こちら赤原です。指揮官、聞こえていたら応答願います。』

 「赤原さんか、無事かい?」

 『はい、揺君も無事です。四季さん達と合流し体勢も立て直せたので報告です。』

 「分かった。早速で悪いんだが中にまだ数人取り残されているみたいなんだ。監視カメラも壊されていてあまり中の様子が見えないんだが……。」

 『朱子さん。割ってすまないけどドローンはなしだ。蜘蛛型だからか縦横無尽に動いてるから破壊されるのがおちだ。』

 「……そうか。ならちょっと待ってくれ。カメラから見えない所を確認してそこに向かってもらいたい。」

 『はいよ。』

 改めてカメラを確認すると左端の1つに5人の姿が確認できた。

 他の場所を地図で確認しようと声をかけようとした所で既に浦田と小鳥遊が連携してカメラで見えない所をピックアップしてくれていた。頼もしい限りだ。

 マップとカメラを確認する限りではおおよそ10ヵ所程死角になっている場所があった。

 「朱子だけど聞こえるかい?」

 『はい、聞こえますよ。』

 「よし。確認したところ民間人が隠れてそうな場所は10ヵ所ほどある。君たちの近くから廻ってもらいたい。」

 『了解です。こっちも館内図発見したので言ってもらえれば直ぐに動けます。敵も足止めさえできたら四季さんが一掃してくれてるんで。』

 「君たちは今2階にいるね?まず近くの展示室を頼む。丁度手綱君の立ってる方だね。」

 『了解しました。この敵を掃討しだい向かいます。』

 目的が決まれば行動は早い。

 伊津が加護と武器を上手く組み合わせて縄に甲殻蜘蛛を絡め、東雲が斧で豪快に叩き割り、海中が割れた部分から止めをさす。

 そうして3体の敵を排除して伊津と手綱を殿に最初の部屋に進む。

 敵はいたが民間人はおらず早々に離脱して次のポイントに向かい敵を倒しつつ中衛が民間人を外に誘導、確認をした後次のポイントに向かうを数回繰り返す。

 残り2人で場所も3ヶ所となったところで中に入るとRPGでよく言われるモンスターハウスに当たった。

 部屋に入った瞬間にドアを閉められ此処彼処にいる甲殻蜘蛛に囲まれたようだ。

 『しゅーしーさん?蜘蛛キモすぎて気絶しそう。』

 「気絶しないで?!そのメンバーで重要な戦略なんだから気絶しないで頑張って?!」

 カメラで見れないのもあり通信を繋げたままにしていると東雲からの悲痛な声に必死になる。

 『そうだよ姐御!姐御がいなくなったら誰が倒すのさ!!』

 『テメーがやれよ!さっきから私殺りまくってるじゃん、晴も前出ろ!』

 『嫌です気持ち悪いです。逃げたいです。』

 『ざっけんな!!』

 「お、落ち着いて!とりあえず伊津さんが網をはってその隙間から東雲さん以外が攻撃。東雲さんは扉を何とか開けて外への通路を確保。」

 虫嫌いの2人が本気で喧嘩を始める前に何とか落ち着かせようと必死に頭を回し指示を出す。

 戦闘外ならまだしも戦闘中とあれば嫌いだのなんだの言いながらも指示には従ってくれるのだ。

 「外へ出れたら出てくるのも1体ずつになるから背後の奇襲に東雲さんが対応。出てくる敵は手綱君メインで海中君と赤原さんサポートして。伊津さんは連絡係を。」

 『うぅ、分かりました~。』

 よりにもよってメインとなる戦力の2人が虫嫌いであるために手こずるという問題も生じた訳だが10数分かかって何とか乗り越えることができた。

 『ようやく終わった……。今日出動することになったのを心底恨みたい。』

 『うるせーよ晴。むしろメインとなって動くのが私なんだからこれぐらいで文句言うな。』

 『2人とも落ち着いて?まだ民間人が中にいるからさ。』

 東雲と手綱の愚痴を海中が仲裁に入り納める。2人とも仕事はしっかりするがハッキリと物を言うのが少し怖くもある。

 「ええと、とりあえず敵はまだいるわけだからあと2ヶ所、頑張ってくれ。」

 『はいはい。』

 『はーい。』

 『了解です。』

 各々の返事を聞きながら近場を伝え移動してもらう。

 残りの2ヶ所は幸いにも敵は少なく捜索は直ぐにすんだが残念ながら民間人は見当たらなかった。

 他の場所に移動するにはカメラに映っているはずだしそれを見逃す体制でもない。おおよそと言っていたから人数違いだったのか……。

 そう思おうとしたが天幕に駆け込んできた人によってそれは砕かれた。

 「5人とも。移動する時に誰も見なかったか?」

 『はぁ?私達が見落としたと??』

 『四季さん落ち着いて。私が周辺を警戒してましたけど移動中も捜索した場所も1人としていませんでしたよ。』

 「そうか……。だが確実に後2人。見付かっていないんだ。」

 「考えたんですけどもしかして敵が減ってる様子がないことに関係したりしてますかね。」

 全員が黙りこんだ時にふと気づいたように浦田が言う。

 「敵が民間人を拐ったの?何で?」

 「んー、今までなかった?こういうの。古物だけでなく人間を拐うのって。」

 確かにあった。

 事例は少ないもののどういう目的か殺すのではなく人間を拐おうとしてたことがあり全力でそれを阻止したのだ。

 「けど人間を拐った所で何をしたいんだ?古物は今では再現が難しい物や貴重な物があるから分かるけど、人間を拐った所で……食糧?」

 「ひぇっ!やだやだ、怖い」

 パッと思いついたことを言うと小鳥遊を怖がらせてしまった。

 「冗談!冗談だからっ。引かないで??」

 「あーあ。玲を怖がらせて、四季さんに怒られても知りませんよ。」

 「ごめんってば!そんなつもりはなかったんだよ!」

 東雲が小鳥遊を特に可愛がっているのは周知の事実。浦田に言われて更に慌てながら小鳥遊に謝る。

 どうか東雲の逆鱗に触れてませんように、と祈っていると東雲の声が無線機から聞こえてきて思わず背筋を伸ばし直立不動になる。

 『朱子さん…………それ、一概に冗談とは言えないかも。』

 予想とは違う言葉に間抜けた声が出る。

 『こういう事態になる前に見た映画でさ、人間の子供を拐って補食することで繁殖する、とか、DNAを取り入れることで耐性をつけるとかあったんだよ。

 中には動物園の動物のように飼おうとするやつとかもあったし。……これ、博物館の中もだけど同時に奴らの移動機も調べて破壊するなりした方がいいかも。』

 あり得る展開にゾッとするも拐われている可能性が否定できない今、目的はともかく救出を急ぐべきだろう。

 しかし今いるメンバーは中と外含め7人。中は敵だらけで攻撃も通りにくいとなると応援を呼ぶしかないが着くまでに10数分はかかる。

 時間の猶予は殆どないだろう。どうするべきか、早く決断を下さなくてはどちらも最悪の結末になる。

 『……何でこんな人が指揮官なんだか。』

 東雲の呆れた声に反論もできずに俯く。

 『2手に別れたらいいだろ。7人いるんだ。私と浦田、残りのメンバーで組んでどちらかが博物館の中から敵を出さないように守りに専念。』

 「もう片方が移動機に向かう、ですか。それしかありませんね。」

 『賛成かな。倒すならともかく時間稼ぎのみなら少人数でも手はあるし……どうします?指揮官。』

 浦田と伊津の後押しで覚悟を決める。

 「分かった。東雲さんと浦田君は博物館を、残りの5人は移動機の方に行ってくれ。最優先は民間人の保護だ。」

 一斉に帰ってくる言葉に頼もしさを感じながらも指示を出すことしかできない自分に情けなくなる。

 とは言え結い士として適応しなかったのだからどうしようもないのだが。

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