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9ピクニック

僕は慌てて自分の手を見たが、既に僕の手は緑のウロコの入れ墨のある、普通の手になっていた。


ただし牛は、あらぬ方向に首が折れ、四本の足が天を向いてヒクヒクと動いていた。


皆、息を呑んだが。


「シンタロー、ありがとう!」


リアが僕に抱きついてきた。


僕はドギマギして、両手をわやわや動かすのみだ。


「やったな!」


ジーンは長刀を担いでニタリと笑う。


ガイスンはジェラシーな視線を僕に突き刺していた。


(緑、今のはなんなの?)


僕は囁く。


(お前は三つの蛇の力を手に入れたんだよ。

一つは今のグリーンスネーク。

後二つは判るだろ、赤と青だ。

それぞれ、いずれどう使うかは判るだろう)


入れ墨は、魔法の力を僕に与えてくれるだけじゃなくて、一匹の蛇としても僕に力を貸してくれるわけか。


まあ、強くなる分には良いんだけど……。


ジーンとガイスンは、すぐに牛の解体に入っていた。


罪のない牛さんを殺めるのは心痛むが、しかしビーフである。


煮ても焼いても、ジャーキーにしても抜群な味のお肉様だった。


僕もすぐに解体に加わった。


山のような肉が採れたのだが……。


「あれ、尻尾とか舌とか脛とか捨てちゃうの?」


僕の質問に、ガイスンは。


「ばーか、固くて食えないだろうがよ」


そんなはずはないよなぁ、と緑に調べてもらうと、テールや脛肉は長時間の煮込みが必要のようだ。


煮込むのは、鍋に火の魔法を付加させれば可能なはずだ。


僕はリアにリアカーを出してもらい、寸胴三つにテールと脛とタンを入れ、下茹でをした。


お肉様と共にリアカーを押してゴロゴロと進んでいく。


お昼頃、僕らはタニアの言っていた川に着いた。


対岸ははるかに遠い。


「えー、皆、ここをどう渡るつもりだったの?」


びっくりして聞くが、


「バッカだな、道まで行けば橋があるし、三首蛇の時みたいに泳いだっていいだろ」


またガイスンに馬鹿にされちゃった。


クソー義務教育も受けてないくせに!


ま、背は同じぐらいだけどガイスンはチビなんだそうだから、年上なんだろう。

お兄さんと思えば、そう腹も立たない。


「ねぇ、ね、お肉食べようよ!」


僕はリヤカーを川辺に降ろして、おねだりした。


「んー、じゃ、少しだけ食べるか」


焚き火を始めるジーンたち。

僕はゆっくり茹でてたテールの下処理をして、ネギ生姜ワインをリアに出してもらって煮込んだ。


一方の脛肉も洗ってからビーフシチューに仕上げる。


ジーンたちは豪快に骨付き肉を塩コショウで焼いていた。


出来上がって食べると。


「シンタロー、お前、凄げー上手いぞ!」


あのガイスンも、テールスープとビーフシチューには驚愕のようだ。


茹でたタンも切り身にして、焼肉風に焼いて食べると、たっぷり脂ものってて、上手い。


「ちょっと硬いけど、食べられるもんだね」


文句を言いながらモリモリ食べるジーン。


「僕の母国の料理だよ」


嘘じゃないけど元は外国の料理か。

まぁ、ここに召喚されちゃったら日本も外国も無いから、皆まとめて母国で間違いはない。


と。


右の空に黒い鳥が群れをなして飛んで、誰かが助けてくれ、と叫んでいた。


「ん、モンスターが出たね!」


ジーンが立ち上がる。


だが橋までは距離がありそうだ。


「来たれ!

影の馬!」


4頭の馬を出すと、僕らは乗って、現場へ向かう。


草原を走ること十分。


石の道路に馬車が倒れ、巨大な鳥が馬車の荷を奪おうとしていた。


ガイスンが素早く矢を放つ。


が、この鳥は、なんと羽根が硬いのか、矢を弾いてしまう。


僕は空気の魔法、稲妻を放った。


鳥の首が、パンチを受けたように弾かれる。


ジーンが大刀を掲げて、鳥に振り下ろした。


羽根が硬いため、切ることは出来なかったが、鳥の羽根がボコッとへこみ、ダメージはある。


僕は火炎魔法、炎のブリザードを放った。


荷馬車の鳥だけでなく、空中の鳥にもダメージを与えるためだ。


荷馬車の鳥がひっくり返る。

そして、上空の鳥たちは炎に焼かれて、燃えながら落ちてきた。


ジーンが、横倒しの鳥の首に、剣を突き刺した。


「それはグラントヲールの鳥、魔術で召喚したものよ!」


リアが教えた。


「近くに術者がいるわ!」


僕は辺りを見回すが、人は見えない。

ガイスンも臭いを探すが分からなそうだ。


(わしを使え!)


青い蛇が現れた。


「ブルースネーク、カモン!」


なんと青い稲妻が空中を走り、草むらを焼いた。


ギャ、と黒い頭巾の男が飛び出し、燃えた頭巾を慌てて脱いだ。


僕は森の魔法、蔓の捕縛、を使った。


髭面の男が、ドサリと倒れた。


僕らは男に走り寄るが、


「気をつけて!

相手は魔法使いよ!」


聞いたガイスンは、膝を落として、弓を放つ!


矢が男の肩を貫き、


「や、やめてくれ!

魔法は使わないよ!」


緑が、


(魔法を封じる白魔法、封印を使え)


僕は、


天に輝く美の女神、エウリュアレに願う!

封印!)


髭面の男が悲鳴を上げ、気を失った。


僕らは男をふん縛った。


倒れた馬車を起こすと、商人のふくよかなおじさんは大喜びして、


「トーマス王様じきじきに依頼された白龍の革を奪われるところでした。

お礼をしたいのですが、王に革をお納めしなくてはお礼もままなりません。

どうぞ、私の護衛としてリサドリアまでおいでください!」


この縦割り社会の王政国家の中で、ジーンたち下々の者が王の謁見を賜るなど、奇跡に近い。


僕らは一も二もなく、荷馬車についていった。


僕のビーフたっぷりリアカーは、影の馬に取ってきてもらった。


商人さんと門に来ると門番の態度が違う。


ささ、どうぞお通りください、と低い物腰で王宮に案内された。


学校の体育館より広い謁見の間は、金箔の柱に優雅な壁紙、見事なタペストリーの飾られた豪快な場所で、王はまず商人と白龍の革のやりとりをし、ついで悪い魔法使いを突き出し、そして僕らにも謁見してくれた。


「あの者は、黒い鳥を操り、今まで何度もわが国の荷を襲っておったのだ」


語るのは近衛兵団の団長プリックル様。


「賞金の金五百をそなたらに授けよう」


金五百は、流石のジーンでも持てないので、影の馬を呼んだ。


自動的に僕のリアカーも運ばれた。


「なんだ、この美味そうな匂いは!」


「はい、僕の祖国日本の、テールスープ、ビーフシチューです」


まずお毒見役が食べ、プリックル様も食べて絶賛し、王様もテールスープとビーフシチューを食べて大いに喜んでくれた。


「そなたに金五百と、更に銅勲章を授け、B級冒険者へ昇格させよう。

今後も励むように」


僕達はホクホクと王宮を出て、タニアの家に帰った。






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