7怪物魚
まーそうだよね。
と慎太郎は思った。
あの三首蛇が勝てないからギルドに来たのだ。
慎太郎はテレビの、迷惑外来種程度の奴を想定していたが、これは流石にモンスターだった。
石化することは可能かもしれないが、あのスピードでは、とても追いつけない。
「おいおい、船の上じゃ戦えないぜ!」
ガイスンは言うが、水中では、慎太郎たちは釣り餌のゴカイと何ら変わらなかった。
「動きが速すぎるんだよ。
何とか網をかけて動きを止めなきゃ!」
「網は出せるけど……」
リアは戸惑った。
同じ大きさの船と魚では、おそらく魚のほうが強いだろう。
傀儡師は何でも出せるが、その物を大きくしたり小さくしたりは出来ない。
先程、船が大きくなったのは傀儡の穴と呼ばれる穴を通す時に、物は穴の大きさに縮小される、というだけで、ボートが外洋船にはならないのだ。
第一、船の構造そのものが違う。
「じゃあリア、ロープは出せる?」
慎太郎は岸部の木を見あげながら聞いた。
「ええ。
ロープやポーション、替え矢や魔法石なんかは幾らでも引き出せるわよ」
慎太郎は仲間に言った。
「船をロープで木に固定して動かなくするんだ。僕は網で魚を捕まえる!」
ガイスンは頭を抱え、
「おいおい、投網で怪物が捕まるもんかよ!」
「捕まるよ!
奴は僕らを倒したいんだ。
自分に自信を持ってる。
だから、自分から捕まりに来る!」
僕は断言した。
「だからガイスンとジーンは、とにかく頑丈に木の根元にロープを渡して、ボートが沈まないようにしてくれ!」
そしてもう一つ、肝心なことがある。
「リア、滑車って知ってる?」
リアは滑車自体は知っていた。
ただし滑車を使うことで重いものが持ち上がる、事までは知らなかった。
僕は四つ滑車を出してもらう。
さて。
僕は魔法の本は読めたのだが、だから使えるとは限らない、とタニアは言った。
だから、これは賭けだった。
僕は風の魔法を唱えた。
フワリ、と風が僕を包み、僕は滑車を持って浮き上がった。頑丈な木の枝に滑車を取り付けると、ロープを通し、船に下りた。
その間、ジーンとガイスンはせっせと船を固定している。
僕は投網とロープを繋ぐと、ボートの周りで威嚇する巨大魚に投網を、投げた。
網は巨大魚の頭にかかり、ボートがぐわんと揺れた。
「もっと固定して!」
僕は叫びながら、滑車で吊るした網を、キリ、キリと引っ張った。
思わぬ力に、巨大魚は慌てたようだ。
「ジーン、魚にはエラがあるはずだ。
そこは多分、剣が通る!」
ジーンは木の幹とボートの輪を繋いでいたが、
「おう!」
と叫ぶと大剣を抜き、持ち上がった巨大魚の頭の下にある、バカでかいエラに剣を差し込んだ。
巨大魚が痛みで暴れる。
その瞬間、水上に浮かんだ魚の頭に、僕はメデューサの目の力を使った。
魚の、ワニのような顔が石化した。
数秒、魚は暴れたが、すぐに動きを止めた。
ボートは魚の重みで傾いていたが……。
「やったな、シンタロー!
お前は凄いぞ!」
ジーンが僕を抱きしめた。
今まで意識はしなかったが、女子の匂いに、慎太郎はクラっとした。
と……。
水の中から、あの三首蛇が現れた。
「うむ。
見事なものだ。
期待した以上だぞ!」
と真ん中の首が僕たちを褒めた。
お前には、我が力を授けてやる」
僕の体に三つの首から三色の煙が僕を取り巻く。
緑と、青と、赤の煙だ。
「それでは達者に暮らせ!」
と蛇が去った後、ガイスンが。
「おい、シンタロー、お前……」
何か言葉を濁すので、何かと思ったら、なんと僕の右手には緑の、左手には青の色で蛇のウロコのような入れ墨が入っていた。
「なーシンタロー。
お前って力持ちだな」
ガイスンが驚く。
滑車の原理を知ってるだけだが、まあ、ガイスンはなんとなく僕を苛めてくるので、
「ま、僕は、異世界からの召喚者だからね。
子供に見えても違うのさ」
と牽制した。
「そしてロープを引くと……。
なんと簡単に巨大魚は浮き上がった。
「よーしシンタローは魚を持っててくれ。
俺たちが切り身にする!」
ジーンとガイスンは食べることしか考えてないみたいだ……。
張り切ったジーンとガイスンにより巨大魚はあっという間に切り身になった。
リアは荷車を取り出した。
魚を荷車に山と積んで……。
「じゃあ怪力シンタローは荷車引く役な」
不当だ!
と、思ったが、ジーンもリアも期待の眼差しで僕を見ている。
「ま、任せてよ!」
沼の道は車が沈むし、狭い道は枝が絡むし大変だったが、僕は何故か力持ちになっていたので、なんとか街まで戻った。
門番は相変わらず冷淡だったが、僕らはタニアの家まで帰ってきた。
「ちょっと見せてご覧」
何か呪文を唱えると、魚の切り身が白く光り。
「うん、食べられる、大丈夫だ」
その日は近隣の長屋の人々も招いて、魚パーティーになってしまった。
リアやジーンが魚をせっせと焼いている中。
「慎太郎、見せてご覧。
僕はタニアに入れ墨を見せていた。
「三首蛇の加護がついたね。
右手は緑、つまり木の魔法が使え、左手は青、風の魔法が使える。
ちょっと服を脱いでみな」
背中には赤い入れ墨が入っていた。
「赤は火の魔法だ。
ステータスも上がってるね」
僕のステータスはタニアが作った偽物なので、本物のステータスを見て。
「うん、レベル五、体の力だけならレベル七相当だ。
魔力も伸びてるから、特に木、風、火の魔法は覚えておきな」
偽のステータスを書き直し、僕とタニアは遅れてパーティー会場に着いた。
「ほら、こいつが怪物魚を倒した魔法戦士シンタローだ!」
既に結構酔っていたジーンが、慎太郎と肩を組む。
慎太郎は困惑の愛想笑いだが、なんとなくリアが白い視線を向けているようで気になった。
「リア?」
と読んでも、すーと去っていく。
えっ! えっ! 僕、嫌われてる?
シンタローは焦った。
そうしている内にパーティーも終わり、タニアの内に帰る。
慎太郎はタニアに本を読まされる。
急遽慎太郎の部屋になったのははしごで上がった屋根裏部屋だった。
腕力が付いたので本を抱えて登り、箱を重ねた机の上で、本を読む。
「風の刃」
風が一部刃物になる、いわばカマイタチ現象を作る魔法だ。
「蔓草!」
地面から蔓草が伸びて、敵に巻き付く。
練習していると、窓がバタンと開いて、リアが入ってくる。
「慎太郎……」
「あ、リア。
僕、君を怒らせちゃった?」
あまり前世の記憶は無いのだが、女の子は複雑なので、少し靴が汚れているだけでも嫌われる、というのは何故か覚えていた。
リアはだが、クスリと笑い。
「怒ってなんていないわよ。
ただ、あんまり大騒ぎするジーンたちに腹が立っただけ」
「え、僕は褒められてうれしかったけど……」
「いい慎太郎。
あなたは多分、ハッカのシャール士大夫の魔法使いが召喚した魔人なのよ。
あまり活躍が目立つと、彼らに見つかるとマズイわ」
「え、確かこの国の人じゃ無いんでしょ?」
「隣の街だし、何より街の有力者なのよ。
貴族と同格と言われてるわ」
「見つかったら、何かマズイのかな?」
「あたしたち一般人では、士大夫に逆らえないのよ。
目をつけられたらどうなるか分からないわ」
正直、こっちの世界の身分制度なんかは、あんまりピンと来ないけど、ただリアに嫌われていない、と聞いたので、僕は一気に心安らかになった。
「ねぇリア。
火の魔法は練習出来ないよね?」
リアは少し考えたが、
「廃墟なら大丈夫と思うわ。
案内してあげる」
リアは笑うと、美少女が不意に子供っぽくなる。
ドキン、と僕の心臓は暴れた。
そのままリアは僕の手を引いて、家の屋根から共同トイレの横、塀との幅が1メートルぐらいの所に歩いた。
ここなら塀に登って、屋根に上がれば僕の部屋な訳だ。
長屋の続く道を登っていくと、石の街が現れた。
だが、全て崩れかけた、まさに廃墟だった。
「昔戦争があったのよ。
その時にここから下は壊されたの。
下は賤民街だからそのままだけど、ここら辺は放置されたままなの」
石の壁は、練習にもってこいだった。
「火の玉!」
ファイヤーボルト!」
「ライト」
「火の壁」
「炎の蛇!」
僕が唱えると、人間を飲み込むほどの燃えた大蛇が、生きている蛇のようにうねりながら街を進み、僕は蛇を自由に操った。
「驚いた!
炎の蛇は初めて見たわ!
あの本に載っていたの?」
「うん、最初は空白だったけど入れ墨が入ったら読めるようになったんだ」
他にもメルトダウンとか火砕流などの魔法も現れたが、流石に威力が強すぎるような気がする。
1時間ほど練習すると、僕とリアは家に戻った。