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5新しい鎧

この国では、貴族でもない限り毎日風呂には入れないらしい。


仕方なくタオルで体を拭いていると、嫌が上にも毛唐になった自分に気がつく。


体毛は、あるにはあるが、頭と同じ金髪なのでほとんど判らない。


体を拭いて、貫頭衣を着ると、そのまま藁布団に沈んだ。


泥のように眠った慎太郎は、夢うつつの中、不思議に美しい女性が訪れるのを見た。


(あなたが唯一の希望なのです……)


的なことを言った気がした。


そして枕元に、何かを置いて、去っていった。




「ふーん、夢でかい?」


タニアが見下ろすのは、銀色の鎧と、不思議な革のマント、黒い兜と剣だった。


鎧にはヨーヨー入れも付いているし、兜は頭頂部以外は太めの棒で作られており、第三の目の開閉にも支障なく作られている。


タニアは、


「ちょっと教会に寄るよ」


とリアと慎太郎を連れて町外れの貧相な教会に向かった。


僧のような黒衣の男に頼んで出してもらったのは、相当に年季の入った本だった。


女神の絵と特徴が書いてある。


一枚づつ見ていくと。


「あ、この人だ」


金に光る髪に見覚えがあった。


「女神エウリュアレですな。

メデューサの姉妹と言われますが、敵対しているとも伝えられています」


黒衣の僧は語った。


「仲が悪いんですか?」


慎太郎が聞くと、


「エウリュアレは美の女神。

対するメデューサは醜い魔物の神なのです。

肉親であるが故に、互いに憎み合っていると伝えられています」


神様も複雑らしい。


「まあ、ちゃんとした神の贈り物なら、有り難く使えばいいよ。

見たところ、聖なる力があるからお前の妖力を消すのに役立つだろう」


タニアは言った。


長屋に帰るとガイスンたちが待っていて、慎太郎はギルドに向かった。


貧しい地区にあるにしては、煉瓦造りの頑丈そうな建物だ。


そこで慎太郎は遠国日本の魔法戦士として登録された。


ギルドでは仕事は依頼者が立って候補を募る。


識字率が低いので、そうでないと助けが得られないからだ。


まるで市場のように、◯◯の村の大蛇退治、とか毒虫草原の草むしり、とか依頼者が声を張り上げる。


「ダンジョンとか無いんだね」


やや期待していた慎太郎が言うと、


「あるよ」


とジーン。


「ただ、行かなきゃ誰も困らない場所は、仕事にあぶれた冒険者が金目の物を目当てに行くとか、そんなところなのさ」


まー、確かに、隣にダンジョンがあったとして、入らなければ何も困らないなら、それで良いわけだ。


慎太郎たちがワーワー大声を張り上げる男女の間を歩いていくと、一人無言で俯いている痩せた人物の前に出た。


なんだろう?


慎太郎が見上げると。


「ラクジュ沼の三本首の蛇……」


呟くように言うと、先頭を歩いていたジーンの手に、一袋の金を落とした。


「お、おい、まだ受けるなんて……」


驚いたジーンが男を振り返ったときには、男の姿は消えていた。




「全くなんだい、あの男は!」


ジーンはプンプン怒っているが、ガイスンは。


「まーラクジュ沼って、山向こうだろ?

近い上に前金なんて良い話じゃんか。

いくら貰ったんだ?」


「こんなの小銭に決まって……」


怒りに任せて袋の紐を解いたジーンが黙り込む。


それは見事な金貨だった。


「うわ!

金貨だぜ!」


叫ぶガイスンの口を、ジーンは慌てて塞いだ。


ギルド近くで大金を持ってる、などと知らせるのは命に関わるのだ。


どんなに腕に自慢がある冒険者でも、殺すすべは幾らでもある。

毒を盛るとか、大勢で矢を射掛けるとか、だ。


戦場で最も人が死ぬのは遠矢だったし、油断している人間や、酔っている人間を背後から刺すなど、冒険者なら容易いことだった。


四人は足早に城を出て、城の裏手の山を迂回する。


山は城防衛の砦が幾つも作られ、うっかり素人が近づくと、問答無用で矢を打たれた。


山の奥にラクジュ沼がある。

それほど危険とは言えないが、毒虫、蛇の類は唸るほどいる。


この沼も、城の防衛の一端なのだ。


冒険者少数なら問題ないが、軍が動ける場所ではなかった。


毒虫や蛇も、あえて放しているものだ。


とはいえ、冒険者が一、二匹取っても怒られはしない。


沼という地形に意味があるからだ。


半刻も歩くと、ラクジュ沼が見えてきた。


湿地の木が茂っているが、メデューサの森のような暗さは無い。


鳥は歌い、虫は遊ぶような長閑さだ。


「三本首の蛇って何だろう?」


慎太郎が聞くと、リアが。


「この沼の主と言われている、大蛇です。

まあ、慎太郎の敵じゃ無いと思いますが」


みんなに余裕があるのは、昨日の慎太郎の活躍ゆえだった。


そうでなければ、なかなかレベル三で大蛇と戦うという決断はし難い。


沼は、それ自体が城の防衛と言うのも判るほど、長く広い。


魚も多くいるようで、時折、ピシャリと水面からジャンプした。


水鳥ものどかに泳いでいる。


「この先に滝があってさ、そこに三本首の蛇は住んでると言われている」


とガイスン。


明るい森を、散歩のように歩いていくと、滝の音が聞こえてきた。


やがて森が深くなり、少し登ると、滝があった。


山が崖になっていて、そこに幾つもの滝が連なっている。


もう少しこじんまりとした滝を想像していた慎太郎は、滝の規模に驚いた。


全てが繋がっているわけではないが、端から端までは百メートル近い。


当然、滝壺も広かった。


「どうするの?

三本首を倒すったって……」


慎太郎は戸惑うが、ジーンは、


「それなんだが」


顎を擦りながら。


「あの男、別に三本首をどうするとも言って無かったよな」


へ、と慎太郎は驚いた。


初めての事でもあったし、どうだったか、記憶は確かではない。


ただ、殺せばお金をくれる、というのではなく、既に賞金はもらっているのだ。


「三本首って、別に人を襲うわけでも無いんだよ」


ガイスンも言った。


と、慎太郎の目の前の水面が盛り上がり、巨大な蛇が、その姿を現した。


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