3眷属
「これ、本当に鏡なんですか?
鏡型のタブレットなんじゃないの?
変な金髪のガキが映ってるじゃない?」
慎太郎が疑念を述べるがガイスンは鼻で笑う。
「バーカ、そりゃお前の顔だ」
へっ、と田中慎太郎は己の顔を両手で探り、アカンベーをしたり、しまいに自分の髪を引っこ抜いた。
それは、染めたものではない、毛根までシッカリ金色の髪の毛だった。
「ななな、どういうこと!
僕ら日本国民はみな、黒髪黒目、あ、たまに茶色い目の人もいるけど単一人種の国家なんだよー!」
パニくる慎太郎に、リアは優しく、
「ここの国の魔術師が召喚したので、ここの人っぽくなったのね。
たぶんホクロとかは、同じ位置にあるんじゃないかしら?」
え、と慎太郎は左足を持ち上げて足の裏をみるべく、よろけながらブーツを脱いだ。
「ああ、ある!」
さらに右の脇の下を見ると、
「あー、傷跡まであるぞ!
毛唐なのに、僕は、僕だ!」
驚愕の叫びを上げた。
「かわいそーになぁー。
この世界には無い、日本とか言う国から召喚されて、素っ裸のレベル1。
このまま森にいたら、たぶんメデューサの目を持っていたとしても森から出られないか、出られたとしても一人じゃリサドリアにも入れないだろーなー」
歌うようにガイスンは哀れむ。
「ただし、ここにレベル3の冒険者パーティーがいて、お前が協力するなら、我が家に連れ帰ってやるんだがな」
ジーンも言った。
リアは二人のやり口にクスクス笑い。
「苛めちゃ駄目ですよ。
慎太郎は、ちゃんとリサドリアに連れていきます。
しばらくは私達とパーティーを組んで冒険者ギルドで働きましょう。
きっと魔法の解き方も判ると思います」
「ほんとですか?
騙してません?
あんまり転生ファンタジーで元の世界に帰るなんて、聞かないけど……?」
「リアのお婆ちゃんタニアさんは、リアの師匠なんだ。
タニアさんなら顔も広いし、きっと手がかりぐらいは掴めるさ」
世話焼き姉貴のジーンが暖かく言った。
おお、と慎太郎は感激し。
「なんか魔法使いは年取ってたほうが頼り甲斐ありそうだよね!
早く会いたいな、タニア婆ちゃん!」
両手を擦り付けながら頬に付け、慎太郎は歌うように言った。
「まあ、そうと決まれば、とっとと帰ろうぜ。
ここはヤバい」
ほんの数刻前まで、シャール士大夫とメデューサが血みどろの戦いを繰り広げた場所だ。
言われてみれば生臭い死体の臭いが、妖魔どもの腐臭と共に漂う、暗い森だった。
「でもさー。
リアさんたちは、なんでこんな所に来たんです?」
鼻のいいガイスンを先頭に、進む四人は、ド素人の慎太郎を挟んで、リアが後衛を務めていた。
「ほら、王国の重装歩兵が森に入ったんなら、いい鎧や剣や槍が落ちてるんじゃないかと思ってね」
答えるのはジーンだ。
「あたしら、しがない一般冒険者は、高い装備なんて買えないからさ」
「ほうほう。
戦国時代の農民も同じような事をしたらしいね。
どこの国でも同じなんだな」
慎太郎は深く頷く。
「それでめぼしい戦利品はあったの?」
「それが、みーんな石化しちゃってるんだよ。
収穫ゼロ」
そういえば石像みたいなのが、いっぱい立ってたよな、と田中慎太郎は思い起こす。
「まあ、でも慎太郎さんを拾ったのだから有意義な旅でしたわ」
リアは言うが、先頭のガイスンが、
「しっ、どうも狼の臭がするぜ……」
囁いた。
下生えに痩せた棘草の生えた、密生した森林だ。
人の歩ける場所は獣道と変わらないような岩と土、雑草と苔の混じった慎太郎たちでさえ並んでは歩けないような暗い森だったが、濃密な木の匂い臭いと共に、遠く獣が棘草を突き破るカサという音が、微かに聞こえた。
「円陣を組むぜ!」
ジーンの掛け声で、三人は素早く慎太郎の周りに集まった。
すぐにカサ、カサ、と下生えを抜ける狼の群れの素早い音が、冒険者の円陣の周りで渦巻いた。
「結構な群れだぜ。
五匹、いや六匹いるな」
ガイスンは狼の個の臭いも嗅ぎ分けるらしい。
「な、なんでこの子たち、回ってるのかなぁ?」
冷や汗をかきながら慎太郎は囁いた。
「奴らはこうやって獲物を取り囲み、攻撃機会をうかがうのさ。
弱いところを見つけたら、一瞬で飛びかかる……」
ガイスンは短剣を構えながら、教えた。
「もしや、弱いところって……」
震える声で慎太郎が囁いたとき、巨大な獣が宙を舞った。
……シベリアンハスキー……?、と慎太郎の頭に過る巨大さと、獰猛さの獣だ。
それはリアとガイスンの間を縫って、真っすぐ正面から慎太郎に向かっていた。
死ぬ!
頭の中で慎太郎は叫んだ。
がーー。
キン!
慎太郎の肩で硬い金属音が響き、シベリアンハスキーを一回り大きくしたような獣が、跳ね飛んだ。
「どうした!」
ジーンが叫ぶ。
慎太郎は慌てて己の肩を探った。
腕が千切れたのかと思ったが……。
慎太郎の貫頭衣の肩に、拳大の丸い金属がついていた。
誰かが付けてくれたのか?
だけど、それなら僕も気づくはず?
思いながら金属を握ると、言葉が慎太郎の頭に流れ込んできた。
(我はメデューサの眷属である。
故有ってお前に味方する)
この金属、生きている!
驚いた慎太郎だが、
(我の動きに合わせよ)
金属は言う。
頭に、動きが滝のように流れ込む。
慎太郎は貫頭衣の肩から金属を外し、狼に投げていた。
暗い森の中、暴走族のような速度で疾走する六匹の獣だ。
慎太郎は無論だが、おそらくジーンにもガイスンにも目で追うなど不可能なはずだった。
だが、金属を手にしたときから、慎太郎には見えていた。
慎太郎が投げた金属は、唸りながら一匹の狼の側頭部を撃ち抜き、吹き飛ばす。
慎太郎の手と、金属は糸でつながっていた。
ヨーヨーか!
それは慎太郎も得意だった。
手首をひねり、金属を手に戻すと、次の狼の頭に投げる。
が、その攻撃が隙になった。
脇の狼が飛びかかる。
と、慎太郎の左手に、新たな金属が触れた。
慎太郎は狼の眉間に金属を撃ち込んだ。
ギャン、と叫んで狼が落ちる。
ジーンが、狼の腹に剣を突き刺す。
「目、使います!」
慎太郎が言ったのか、金属が言わせたのか?
慎太郎の額の、第三の目が、長い睫毛を持ち上げる。
それは劇場のカーテンのように慎太郎の前髪を持ち上げ。
ピカリ、と青い光が森を一瞬、照らした。
ドタドタと、狼の群れが石化し、倒れていた。




