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16逃亡

背後でオーガの叫び声が聞こえた。


術者が離れれば魔法効果は消えるが、サイレントの方が早く切れるものらしい。


周りは一面の枯野だ。

まだカルシンバさんの馬車のある道も見えない。


枯野のあちこちから、オーガのものらしい声が上がった。


それは一匹二匹では無い。


僕は、オーガを殺すと、逆に恨まれて追われるかと思ったたのだが、どのみち同じだったようだ。


僕は、影の狼を五匹、周りに走らせた。


多少は攻撃の緩衝材になるかもしれない。


周りから、どんどんオーガや、オーガと同じ憎しみを抱いた人間やゴーストが集まって来るのが判る。


大抵の魔法は、術者と距離が離れると消えてしまうので使えない。


ただ、落とし穴、や、仕込み矢、などの土魔法は一度作れば残るので、適当に背後に作り置いていく。


悪意ある者たちは、どんどん集まって来ていた。

おそらく二十はくだらないと思う。


たぶん、その半数以上は、あの巨大なオーガだ。

ヴォグリでも、武器を持ったオーガとやり合うのはかなり危険たった。


だから接近戦は、その形になった時点でほぼ敗北だ。


敵と距離のある内に、魔法で片付けないと、ヴォグリが倒れた瞬間、僕もガイスンも命が尽きるだろう。


ヴォグリは風のように走っていたが、悪意は同じようについてきた。

おそらく、全てオーガなのだろう。


捕まったら終わりだが、捕まらなくても止まったら、先行する二十の背後に、その倍以上の敵が集まって来ているようだ。


これは、逃げるのもそうだが、カルシンバさんの馬車に連れていく訳にもいかない数だった。


少しヴォグリの速度を遅めれば敵との差が縮まり、火炎魔法で仕留められるのだが、そうすると後ろが近づいてきてしまう。


どんどんピンチが拡大するのだ。


「水の魔法、堀を使えよ!

だいぶ足止めができるぜ」


緑が言った。


「堀!」


青い入れ墨の手で魔法を発射する。


地面が破裂し、水が噴き上がり、広い堀が僕らの背後に作られた。


「オーガは水が苦手なんだ」


アトラクが教える。


確かに堀にぶつかったオーガは憤慨の叫びを上げるが、端のオーガは回り込んで追ってくる。


僕は、あえてヴォグリの速度を落とし、後ろを向いた。


火の魔法にはロングレンジに撃てる魔法もある。

火矢という。


僕の目が、遠くに動くオーガを捉えた。


堀を回り込んだ時点で、敵の位置は分かっていた。


「火矢!」


手から連続で発射される炎の矢が、着実に三匹のオーガを倒した。


背後のオーガは足を止めた。


五十メートル以上も離れて、一撃で射殺されては、息巻いて追うことも出来ない。


僕は反対側のオーガ五匹も火矢の餌食にし、ヴォグリの速度を上げた。


「空に気をつけろ!」


アトラクが叫ぶ。


ゴーストたちが飛んで僕らに迫っていた。


「光魔法、浄化!」


僕の両腕と背中が光り、光魔法を発動させた。


先頭三匹のゴーストが、ギャアと叫んで灰になる。


ゴーストの動きが止まった。


と、後ろを向いた僕に、ガイスンがまたナイフを突きつけた。


「止めろ!

俺は剣を手に入れるんだ!」


はぁ、と僕はため息をつき。


「捕縛!」


闇魔法、捕縛でガイスンを縛った。


「離せっ!」


叫ぶガイスンを連れ、僕らはやっとカルシンバさんの場所に戻った。


「さあ、早く出しましょう!」


「だが、夜間は進ませたくないんだ……」


そうだ、落とし穴や数々の罠が道にも作られていた。


「影の狼が道の罠を探してくれる!

狼の後に続け!」


と緑。


ヴォグリの緩衝材としての狼さんたちが馬車の前に回り、道を探った。


狼に続いて、僕らは進んだ。


ガイスンは、離せっ! と叫んでいたが、サイレントの魔法をかけて、僕らは進んだ。


やがて夜が明ける頃、僕らは廃都を真横に見ていた。


ところどころ崩れた城壁。


傾いた塔。


屋根の落ちた聖堂。


それはまさに崩壊した都市の姿だ。


カルシンバさんは徹夜で馬車を操ったので、ジーンが変わった。


影の狼に先導されて、僕らはゆっくり廃都の横を過ぎていく。


お昼に近づく頃、リアが馬車の御者になり、僕らはパンとニシンを齧りながら、廃都を越えた。


夕方、馬車は、廃都の先の村、イヅグに入った。


廃都との距離が一番近い村だ。

そのため、村だが大きな聖堂が建てられ、高い石の壁に覆われていた。


僕らは皆、ヘトヘトになって村に入り、カルシンバさんの行きつけの宿に転がり込んだ。


部屋はシングルを取ってもらい、僕は倒れるように眠った。


やがてリアに起こされて宿の食堂で数日ぶりのちゃんとしたご飯を食べた。


ゆで卵のサラダとか、アスパラのスープとかハムステーキとかだったが、メチャクチャ美味しかった。


食べ終わると、僕はタライを借りて体を洗い、また眠った。


朝日に起きると、もう太陽はだいぶ昇っている時間だった。


目玉焼き、パンとチーズ、魚のフライなどを食べて、一息つく。


「ジーン、ガイスンの様子は?」


ジーンはガイスンとダブルの部屋に入っていたが、疲れた様子で、


「まだ廃都に行くとか言ってるぜ……」


「おそらくゴーストの呪いにかかってしまったんでしょうな」


カルシンバさんは、欠伸を噛み殺す。


「急ぎたいところですが、今日は聖堂に行ってガイスン君の呪いを解きましょう」


「確かにこのまま進んでも、危ないですよね」


僕も賛成する。


僕達四人はガイスンを縛って聖堂に向かった。


レンガ作りの立派な建物だ。


精悍な戦士のような僧侶さんに、ガイスンの呪いを解いてもらう。


お経のような解らない詠唱を三十分も続けてもらい、やっとガイスンは、


「あれ、俺、なんか変だったか?」


ポカンとしていた。

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