15枯野
僕らはガイスンを探して馬車を出た。
「いつ消えたのか分からないの?」
ジーンに聞くが。
「あいつ、自分も番をするっていうんだよ。
病気だから寝てろって言ったんだけど、一日中寝てたから頭が冴えてる、って言うんでさ、任せちまったんだよ!」
ジーンの声は悲痛な叫びのようだ。
「ふと、音がしてさ、今の音は何か、ってガイスンに聞いたんだが、もう馬車にいなかったんだ!」
「もしジーンが聞いた音が、ガイスンが外に出た音なら、そう遠くへは行ってないわ」
リアは推測する。
とはいえ、辺りは真っ暗だ。
空は夕日が見える程度には晴れていたのだが、いつの間にか厚いカーテンのような雲が空を覆っていた。
カンテラで周りを見回すが、その光の届く範囲には人はいなさそうだ。
僕の目は、普通の人よりは暗闇が見えると思うが、それでもガイスンの姿は無い。
「ヴォグリ、ガイスンを見なかった」
妖精魔法で聞くと、ヴォグリは、
「ついさっきだ。
飛び降りるように馬車を出て、枯野へ走って行った」
「やっぱりジーンの聞いた音がガイスンが出た音らしいよ。
そのまま枯野に走って行ったって!」
「なんだと!」
カルシンバさん。
「道を出たら、どんな妖魔、野獣がいるか分からないぞ!」
僕は、
「ヴォグリ、ガイスンを追える?」
「ああ。
俺なら簡単なことだ!」
「ジーンとリアはカルシンバさんの護衛について。
僕はヴォグリとガイスンを追うよ!」
一瞬、皆が考えを巡らせたが。
「刻限を決めよう。
太陽が真上に上るまでだ。
それまでに捕まえられなければ、可愛そうだが、たぶん救う手立てはない」
カルシンバさんが言い、僕は頷いた。
「わかりました。
必ず、その頃までには帰ります!」
僕はヴォグリに飛び乗ると、枯野に飛び出した。
土がずぶりと沈む。
枯野は、ほとんど誰も歩かない場所なので、土がフワフワのようだ。
僕は闇魔法の暗視の魔法を自分に使った。
漆黒の平野が、灰色の空と黒い大地に分けられる。
ほんの微妙にだが、空には星明かりの残骸が厚い雲越しにあるようだ。
かなり遠くまで見えるがガイスンはいない。
「ヴォグリ、ガイスンは遠いの?」
「遠くはない。
だがオーガに抱えられ、かなりの速度で廃都へ向かっている」
「ヤバイよ!
廃都に入ったら、敵の数が桁違いになるはずだ。
その前に捕まえないと!」
さすがに僕一人で廃都に入ったら、生きて帰るのは難しいだろう。
その前にガイスンを取り戻さなければならない。
ヴォグリは窪地を飛び越えるように枯野を進むが、僕の目にはオーガもガイスンも見えない。
が、ヴォグリは風のように枯野を走っていく。
幾つかの谷を飛び越え、枯れ木を横切ると、僕の目にも凄い速度で走るオーガらしき姿が見えてきた。
人間より一回り大きい。
身長は三メートル近くあるんじゃないか。
体は筋肉の塊のような、全体を見るとズングリ体型だ。
片手で小柄なガイスンを抱えていて、ガイスンは寝ているのかオーガが走る揺れで手足をブラブラ動かしていた。
風の矢をオーガに撃ち込むが、オーガは無反応だ。
効いていないのか、その程度では痛くないのかもしれない。
火炎や稲妻などの光る魔法は目立ちそうだったので、森魔法の捕縛する蔦を使った。
オーガの体に巻き付き、オーガはコケる。
周りに敵がいないのを確認してから、僕はヴォグリを降りて、オーガに近づく。
オーガは威嚇か凄い唸りを上げるので、仲間を呼ばないよう青魔法のサイレントを使った。
巨大だ。
人より1メートル大きいと、ここまで恐ろしく見えるものだろうか?
顔は、ゴツゴツしていて、額や側頭部に数本の角が生えている。
牛のような、アイスクリームのコーンみたいな角だ。
手は野球のグローブより大きく、足はみかん箱のような大きさだ。
手にはガイスンしか持っていないが、腰のベルトには人には剣ぐらいの大きさの、彼らにとってはナイフのようなものを持っている。
そのオーガは、蔦に体中を縛られて動けないが、サイレントの魔法がかかっていても、激怒しているのが分かった。
通じるか判らなかったが、妖精語で、ガイスンを話すよう言った。
「この肉は俺のものだ」
「彼は僕らの仲間だ。
返せば、お前を解放する」
オーガはとてつもなく怒ったが、体は動かない。
と、ヴォグリが唸った。
右から二匹のオーガが背を丸め、忍ぶように迫っていた。
手には棍棒と槍をそれぞれ手にしている。
「地割れ!」
初めて使う土の魔法だ。
だが、見事に大地が口を開き、オーガ二匹を飲み込んで、口を閉じた。
怒っていたオーガが、不意に静まる。
口が、ガイスンを解放する、と言っていた。
仲間の死に、戦意が失われたらしい。オーガの左手の蔦を緩め、ガイスンを救出した。
だが……。
ガイスンは素早く僕に飛びつくと喉にナイフをかざした。
「俺は剣を手に入れるんだ!
邪魔をするな!」
目が熱っぽい。
正気ではなかった。
僕は失神、青の魔法でガイスンを気絶させ、すぐヴォグリに乗せた。
後ろに乗って、走り出す。
放っておいても、蔦の魔法は術者が離れれば解ける。
ヴォグリは、僕ら二人を乗せて疾走した。




