12廃都
僕は、ヴォグリに乗って爽やかな草原の風を体に受けていた。
やがてお昼にしよう、という話になり、カルシンバさんはパンとニシンの酢漬けを振る舞ってくれた。
早々に馬車は動き、
「この先、廃都に近づくから、今夜は早く終わるよ。
あの森の手前で野営しよう」
とカルシンバさん。
「廃都にはモンスターが出るんだっけ?」
僕はリアに聞くが。
「人食い鬼オーグの群が住みつき、呪いを振りまくゴーストも多い。
だが一番ヤバいのは、赤帽子と呼ばれる怪物で、殺しても死なない、とか、空を飛ぶ、とか、手に持った三日月型の刀が、どんなに逃げても飛んで追いかけてくる、とか言われている」
ジーンが話した。
「え、そこに遠征しよう、って言ってたの」
幽霊ホテルで肝試し、どころじゃない生死をかけた、というより、死ぬ確率十連ガチャな禁断の地だ。
「いい武器が落ちているんだよ」
気だるげにガイスンが言う。
あーこの兄弟、お金ないんだっけ。
「武器が欲しかったら王様にもらった賞金があったのに」
「違うのさ。
ここで手に入る武器は、持った者を英雄、勇者に変える魔法の武器なんだ」
ジーンは語る。
おー、誰が持っても強い剣とか、そりゃ欲しいよね。
「しかし、あそこで手にした武器を持ったものは、高名な武勇を誇るが、最後は悲劇的な死を迎える、と言うよ」
とカルシンバさん。
あーギリシャ神話の英雄とか、最後はお星さま、って話だよね。
ああ、とジーン。
「カロリンナ王は部下に裏切られ、非業の死だとか、イオニテの八本槍も手の腱を切られて憤死とかね」
だがガイスンは、
「それでも俺は欲しいんだ。
勝てる剣が!」
リアの心を掴みたいんだろうなー。
「呪いとかはどうなんでしょうね。
英雄英傑も、年を取れば衰える、みたいな部分も多そうな気もしますが」
言うと、ガイスンも、
「そうさ。
俺だって、いつまでもくすぶってられないんだ!」
まー、そうは言っても廃都はやっぱり怖いので、森のかなり手前で野営をした。
ソーセージを刻んで玉ねぎと炒めたり、カルシンバさんは料理も手慣れていた。
ここは、一人づつ順番に起きて番をする。
僕は爆睡する質なので最初に番にしてもらった。
真っ暗な夜は、やはり怖い。
だが満天の星空は凄かった。
星が多すぎて、星座とか分からない。
何しろ天の川が地平線の端から端まで見えているのだ。
プラネタリウムより凄い星空って、さすがに驚く。
あの星のどこかに地球もあるんだろうか?
過去に来たのか未来に来たのか、そして自分がどんな高校生活を送っていたのかも、自分のはっきりした顔すら判らなかったのだが。
名前とか学校名は覚えてるのにな?
よくあるアニメみたいに、実は死んで転生したのだろうか?
ま、結果、神様には会ったけどさ。
緑によると、僕はこの世界に魔人として召喚されていたから普通の人より夜目は効くみたいで、星明かりで夜の世界がしっかり見渡せた。
と、森の奥から、何かか近づく。
「ねぇ緑?」
「ああ。
ありゃ廃都のゴーストだ。
だが敵意は感じないな。
お前には宇賀神様の加護もあるとは言え、気を抜くなよ」
ゴーストは、立派な僧侶風の服を着た骸骨だった。
「お主、強い妖力を持ってるのう」
「そうだよ。
魔力も強いよ。
光の魔法であんたを祓うことも出来るんだよ」
付け込まれないよう、塩対応で応じる。
「祓わんでくれ。
それより剣が欲しくないか。
案内するぞ」
ああは言ったが、栄光と共に悲惨な末路を約束する剣なんて願い下げだった。
「いらないよ、剣なら持ってる」
「財宝もあるぞ」
「この前、王様から金を千も貰ったところだ」
「では赤帽子の秘密はどうじゃ?」
緑が出てきて、聞いておけ、と言う。
「一応、聞こうか」
ゴーストはカカカと笑い。
「赤帽子はの、授けた剣から英雄のエキスを集める。
集めれば集めるほど、赤帽子は強くなる。
それは廃都の、地下ダンジョンの最深部に貯められている」
語ると、ゴーストは消えた。
僕はゴーストが入らないよう結界を張ってから、ガイスンを起こした。
やがて朝になり、太陽の輝きで僕はいつもより早く目覚めた。
カルシンバさんとジーンは起きて朝食を作っていたがガイスンは毛布を頭から被って寝ていた。
リアはいない。
「おはよう、リアちゃんは川に顔を洗いに行ったよ」
とカルシンバさんが言うので、僕も川に向かった。
前に遠征で来た川ははるか遠くだが、廃都の近くにも小川がある。
リアはその川の畔に座って、花を摘んでいた。
なんか似合いすぎてて映画のシーンのようだ。
「おはようリア」
「ああ、おはようシンタロー」
「どうしたの、花なんて摘んで。
すぐ旅立つのに?」
「馬車に飾ってもいいでしょ?」
確かに馬車の中は倉庫のようなもんだから殺風景だが。
「この花は魔除けの効果があるの。
廃都の横を通るのに、少しでも役に立てば、と思って」
「そういう現実的な意味があるなら大賛成だよ」
昨日の夜の話をしようか、と思ったが、リアを怖がらせるのもどうかと思った。
「ヴォグリはどこ言ったかな」
ヴォグリー、と呼ぶと叫びが聞こえ、やがて森から走ってきた。
口には、大きなイノシシを咥えている。
ヴォグリは既に朝飯分は食べていて、僕らに持ってきてくれたのだ。
ジーンとせっせと解体し、僕はその後の骨で豚骨スープを煮出すことにした。




