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10商人の訪問

ジーンたちは意気揚々とタニアの元に帰ってきた。


「なんだい、あんたたち今日は泊まりじゃなかったのかい?」


ジーンとガイスンが意気揚々と王宮に招かれた武勇譚を語った。


金千は、どっしりした木箱に納められていることもあり、下ろすのも大変だった。


「銅の勲章ねぇ。

王都に住む以上、王に褒められるのは悪いことじゃないが、覚えられると厄介事を押し付けられるからね。

大概にしといたほうがいいよ」


タニアは語り、逆にテールスープとビーフシチューは褒めてくれた。


「こりゃ良いや。

捨てるところから、こんな旨いもんを作っちまうなんて、あんたの先祖も大したもんだね」


と、相変わらずの和やかな時間が過ぎていたのだが……。


「えー、申し訳ない。

先程の商人ですが銅の勇者様はこちらですかな」


僕は決して勇者じゃないし、まして銅の、ってなによ、と言う感じだが、たぶん商人さんもドアが毛布一枚、というのに面食らっているんだろう。


「えっと、もしかして僕のことですか?」


と、顔を出すと、大喜びで部屋に入ってきた。


「いやいや、実はあなたがたに護衛をお願いしたいと思いましてな」


仕事の話はジーンが受ける。

なんせ僕は、自分の住んでるところの地理も、まだ分からないからだ。


「ふーん、あんたフェミローズの商人なのかい?」


足元から頭の先まで訝しげに商人を見回しながら、ジーンは用心深く聞いた。


「いやいや。

わたしは流浪と申しますか、馬車で回れる範囲を巡りながら、依頼の品を届けては、また依頼される、という人生でしてな。


生まれは西のカダスなんですが、もうあっちには肉親はおろか、知人もいない孤独の身なんですよ」


と、かなり悲惨そうな話を明るく話す商人さん。


「店とか、出さないのかい?」


タニアも不審がる。


「普通は地元があって、そこの商品を他の街に卸すのが商人ですからな。

わたしは、この年でも、まだ使い走りのような商売をしてるんです」


まあ、野菜を卸せば八百屋さん、肉を卸せば肉屋さんなのだろうが、この人は龍の革とかを王様に売ってたからなぁ。


「しかし、ずいぶん大きな商売をしているようじゃないか」


疑うタニア。


「ええ。

元々、ここの貴族タール様に縁あったおかげで、流浪の身なれど、そこそこの商売をしております」


「しかし、白龍の革なんて扱っていて、護衛もいないなんて、どういう事だい?」


「いや、いたのですが逃げられてしまいましてな。

それもこれも、今日、銅の勇者様がお捕まえになられた魔法使いに襲われ、負けて逃げ去った次第で」


で、僕らの腕を見込んで、という話のようだ。


「それにしても、よくここが分かったね」


ジーンも疑う。


あははと商人は笑い、


「美味そうな匂いを追って歩いたら、すぐ分かりましたよ」


食べ物の運搬には気をつけたほうが良いようだ。


「しかし、そういう話はギルドを通してくれないと、あたしらも困るんだけどね」


「ええ、まあ、もちろんですとも。

ただ、最初にあなた達の了解を得ておきたかったんですよ。

わたしも何組も冒険者は見ましたが、あれほど鮮やかな手際の冒険者は初めてで感激しましたよ!」


ただ、まあ僕らの問題は最年長のジーンでも、この世界では成人だけど、僕から見たら高校生って事だ。


まあ、ここにはタニアさんがいるから足元も見られないだろうけど、旅に出てしまえば相談も出来ない。


フェミローズの街にある叡智の書を買って、トーマス王に卸す商談らしいが、聞くとフェミローズは廃都のはるか向こう側、海沿いの街らしかった。


僕らはタニアを見ていた。

タニアは話を吟味していたが、


「ま、銅の勇者様は本物だ。

一度、行ってみたらいいよ。

経験は買ってでもしないとね」


そこで僕らはギルドに行って、商人と正式に契約した。


明日から旅立ち、と決まって、僕らは二日続けての牛パーティーで長屋の人たちをもてなした。


(おい、シンタロー、ちょっと来い)


パーティーのさなか、僕は緑に呼ばれた。


(いいか、シンタロー。

街の周りをウロチョロする分にはタニアもいたから何も言わなかったが、一月規模の旅をするとなると、はっきり行ってお前らはガキだ)


(うーん、そうだよね。

年上のジーンでも、大人と対等にやれるか心配だよ)


(だからな。

ホントはもうちょっと後にするつもりだったが、知恵ある蛇を紹介するぜ)


(え、三首蛇さん?)


(チゲーよ。

もっと偉い人だ)


というと、おーい、と偉い割に簡単に呼んだ。


岩陰から出てきたそれを、いやその方を、僕は唖然と見下ろした。


なんとお爺さんの顔が乗った、体は白い蛇なのだ。


(ま、まさか宇賀神様とか言いませんよね?)


お爺さんはホホホと笑い、


(坊主、物知りだな。

さよう、わたしは蛇の神、宇賀神じゃ)


僕は鎌倉の銭洗い弁天様に行ったことがあったので、この神様を知っていた。


(神様、僕の世界の神様ですよね?)


世界違うじゃん、と僕は聞いた。


(神はな。

人間より世界が広いんじゃ。

だいたいがメデューサだってそうじゃろうが)


(でも、姿と設定はだいぶ違いましたよ?)


僕の世界のメデューサは蜘蛛じゃないし。


(ま、神は人々の伝承次第で、その姿を変えるものじゃ。

世界を旅すれば、お前も知ることになるじゃろう)


(なるほど……)


僕が頷くと、OKと取ったのか、宇賀神は煙となって僕のおヘソに入れ墨を入れた。


(宇賀神がいれば、騙されたりしないから大丈夫だシンタロー)


緑に保証され、僕も安心した。


タライのお風呂に入って、藁に包まると、すぐに目覚めの朝が来た。


僕らは、今度は商人さんの馬車に乗って旅をする事になる。


荷馬車には、乾燥した魚だとか、壺に入った酢の匂いのするものだとか、樽なんかがたっぷりのっていた。


「これも商品ですか?」


僕が聞くと、


「いやいや、皆様方に逃げられないよう、できる限りの食料ですよ」


あー、リアの存在を商人さんは知らないのだった。

リアに話していいか聞いてから、リアが傀儡師だと教えた。


「な、なんですと!

いや、世の中にはそんな魔法使いもいるようだ、とは聞いてはいましたが、まさかこの可憐な少女が!」


旅は、こんな風に呑気に始まったのだった。

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