観光客の行方
― 火山地区 ―
マカナ「何だ、これは…」
私は溶岩付近にて石で作られた複数のトロッコを見ていた。そのトロッコの中には多くの異形の死体が詰め込まれている。辺りには注射器や邪神の臓器が沢山転がっている。
カードキーを回収して飛んで戻っていた時、たまたま目に入ってしまった。
マカナ(死体からは僅かに妖量を感じる。この感じはまだ新しい。
誰かが邪神を倒してここに詰め込んだのだろうか?いや、死体の損傷から見て内側からの損傷が目立つ)
他に怪しいところがあるが周りを見渡していたら、死体の山の中にはバックやスマホ、腕時計などの明らかに邪神が持っていない私物が沢山あった。私は近くにあった腕時計を取ってじっくりと観察する。
マカナ「妖量は感じないし、手触りからは邪神が作った物では無いと分かる。これは普通の腕時計だ。という事はこの死体の山は遺跡巡りに来ていた観光客なのか?」
人間が異形の死体となって妖量を僅かに感じさせている。
マカナ「それに全ての死体の傷が内側から引き裂かれたかのようになっている」
内側から引き裂かれたかのような大きな傷、私も神仏合体の実験の時にその痛みを味わった事がある。
勾玉を天狗に与えて無理矢理強化し、私には旭ワクチンの注射と邪神の臓器を食べさせられた。
マカナ(まさかここで神仏合体の実験を?いや、それは神術士でなければ出来ない。ヒサジロウのように少年だけを狙ったわけではなく無差別に実験されている。ならこれはなんだ?これではただ邪神化にするだけだ。もしかしてそれが目的なのか?)
死体が新しく、注射器が沢山転がっているという事はもしかしてミツキ達はここで観光客を邪神化させて失敗したのだろうか?
マカナ「邪神化に成功した者が各地区に待ち構えているかもしれない。それならプランaからプランbへ移行しなければ。しかし…」
私は死体の山を見て胸が苦しくなった。死体の中には学生や幼い子供だったものがあったのだ。
彼らにとっては楽しい観光が突然地獄に変わった。深く絶望して苦しかっただろう。
私は死体の中に向けて目を瞑り、手を合わせて静かに祈る。
マカナ(本来なら私達大巫女が守らなければならないのに、何も出来なかった。私に出来る事は彼らが安らかに眠れるように祈る事、そしてこれ以上犠牲者を出さない為にダイダラボッチの復活を阻止する事だけだ)
ドォバァンッ!!
マカナ「何だ!?」
マグマの中から何かが飛んで出てきた。私は見上げて薙刀を構える。
見上げた先には瞼と唇が無い黒い革鎧を纏う蝙蝠男が飛んでいる。
蝙蝠男「キィキィキィキィ!!」
マカナ「邪神か!」
おそらく観光客の内1人が邪神化に成功したのだろう。
マカナ(マグマの中にいても平気なところを見ると強力な邪神である事は確かだ。こちらには時間が無い。追撃されると厄介だな)
― 火山地区 出入口―
マカナ「待たせたな。カードキーだ」
マカナが帰って来て俺に火山地区のカードキーを渡す。カードキーを受け取った後ズボンのポケットに入しまった。
シュン「よし、次は鉱山地区へ行くぞ」
ミカ「りょうかーい!」
ミカが元気良く返事をするがマカナからは動く気配が無かった。
マカナ「すまないが、私は共には行けない。」
俺とミカは走り出そうとした時にマカナが残念そうに謝ってきた。
シュン「何故だ?」
マカナ「実は今の私は分身体なんだ。本体の方は分身を出して邪神と戦っているが倒すのに時間がかかりそうだ」
シュン「大天狗のお前が分身体を使っても苦戦するとはな。それ程強い敵なのか?」
マカナ(分身体)「ああ。奴はマグマの神術を使っている。おそらく火山地区で邪神化した影響だろう。だが倒せない敵ではない。だから私の事は心配せずに先へ行ってくれ。必ず追い付く」
シュン「邪神化だと?」
マカナ(分身体)「実はこの火山地区で観光客を全員邪神化していたようだ。確証は無いが、おそらくはミツキ達の仕業だろう」
ミカ「そんな事やってたんだ…知らなかった」
ミカは驚きを隠せずにいた。ミカ達はミツキ達と手を組んでいたという事は聞いたが、ミカの様子を見るにどうやらお互いの動向は聞いていないようだ。
シュン「分かった。邪神が出たという事は他の地区もいる可能性があるな」
マカナ(分身体)「そうだ。だから作戦をプランaからプランbへ移行してくれ」
シュン「了解。レイコに託す形となったが、まぁあの人は次期当主に選ばれる程の実力があるし大丈夫だろう。それじゃあ頼んだぞマカナ」
マカナ(分身体)「任せてくれ」
マカナ(分身体)の強い決心を信じて俺とミカは鉱山地区へ先に行く事にした。
シュン「行くぞ、ミカ」
ミカ「りょうかーい!」
マカナ(分身体)は火山地区へと向かい、俺とマカナは別れた。
― 砂漠地区 ―
アカリ「嫌ーーーーーー!!!」
私は絶叫してうずくまった。
ミツ「でもこれに乗らないと砂漠を速く越える事は出来ないよ?」
ミツは屈んで優しく語りかける。
アカリ「分かってるわよ!!だけど絶対乗りたくない!!だってあのデカいの…」
私は立ちあがって黒くてデカいのに指を指した。
アカリ「人間サイズのゴキブリじゃない!!」
ミツ「違うよ。あれはエジプトサバクゴキブリっていうんだよ?」
アカリ「結局ゴキブリじゃない!!嫌だ乗りたくない!!気持ち悪い!!」
私は泣きながら駄々をこねて転がった。
ミツ「ヒマリは平気そうに乗っているけど?」
アカリ「ヒマリが?」
ヒマリの方を見たらなんかサーファーのようにゴキブリの上に楽しそうに乗っていた。
ヒマリ「砂漠の波を越えてやるぜー!!」
アカリ「ギャーーーー!!何ノリノリで乗ってんのよヒマリ!!」
ヒマリがドヤ顔で私に見せるが私は悲鳴を上げてヒマリの精神を疑った。
アカリ「ゴキブリの上に乗るなんて絶対嫌!!そんなの人間が出来るわけないじゃない!!」
ヒマリ「私は人間じゃないのか~」
ヒマリが軽くショックを受けていたが私は気にしなかった。というか気にする気持ちの余裕が無い。
ミカ「だからといってここで歩かせるわけに行かないし、この砂漠では灰狼は走りにくいだろうし…そうだ」
ミカが何か良いアイデアを思い浮かんだのか、新しく何かを召喚した。
ミカ「エジプトサバクゴキブリのメスよ。これならルンバみたいで気持ち悪くないでしょ?いや、寧ろ可愛いな?」
ミカは微笑みながらまた人間サイズのデカいゴキブリを出してきた。今度は丸い亀みたいで通常の奴よりもマシだが…
アカリ「やっぱきめぇよ」
ミカ「ご、ごめんなさい…」
私は真顔でブチ切れたらミカが申し訳なさそうに謝った。
アカリ「ヒマリ!!何か他に良い方法無いの?私嫌よ!あんな黒いのに乗るなんて!!」
ヒマリ「見て!!この触覚を引っ張るとブレーキみたいに止まるよ!!」
アカリ「えー…」
ヒマリは黒い奴を走らせて使いこなしていた。目を輝かせて黒い奴の触覚を引っ張りながら私に笑顔を向ける彼女を見て、私は何も考えられずただ呆然と眺めていた。
ドドドドド…
ヒマリ「あれ?何かがこっちに走って来てる?」
アカリ「ホントね。何かしら?」
私とヒマリとミカは何かが走る音の方向を見る。遠い砂の山から何かが出て来た。
ガッ!
ミツ「わっ、危ない危ない。ゴキブリの反射神経が無かったら死んでた」
突然矢がミツの顔へ飛んできたが、ミツはギリギリでキャッチした。
アカリ「え!?矢が飛んできた!?」
ヒマリ「方向的にはこっちに走って来てる奴が飛ばしたのかな?」
ミツ「邪神の可能性があるね。妖量の探知外から狙うなんてやり手だね」
アカリ「関心してる場合!?私が壁を作るからそこに隠れるわよ!灰狼!!」
私は灰狼を召喚する。
アカリ「灰狼!岩石壁!!」
灰狼「バウッ!アオーーーーン!!」
ドゴゴゴゴゴゴゴ…
灰狼は私の指示を聞いた後、頷いて遠吠えをした。それに応えるかのように地面から岩石の壁が私達の前に出て来る。私達は岩石壁が貫通した事を考えて壁の前で伏せた。
ミツ「ここは私があいつの相手をする。アカリとヒマリはカードキーを回収した後プランbへ移行して」
アカリ「あんた1人でなんて無茶よ!あいつ、飛んでもない距離で攻撃して来たのよ?陽動役としてもう1人必要よ」
ミツ「それならアカリとヒマリは飛んできた矢に反応出来た?」
アカリ「そ、れは…」
私は何も言い返せなかった。だって私と、多分ヒマリも反応出来なかったから。それにヒマリはミツと出会って間もないからまだミツの神使の変化は出来ない。
ミツが笑顔で私の頭を撫でた。
ミツ「私の事心配してくれるなんて、優しいのね。ありがとう。でも大丈夫よ。ミドリの血を飲んだおかげで寿量と体力は全回復しているから」
アカリ「ち、違うわよ!!誰が友達と自分を殺そうとした奴を心配するもんか!!ただあんたに死なれたらアサヒが悲しむから困るだけよ!!」
私は照れ隠しをするかのようにそっぽを向いた。
ミツ「私が死んだらご主人様が悲しむのか…それが本当なら嬉しいけど、でも尚更死ねないかな」
ヒマリ「ミツ」
ヒマリが真剣な眼差しでミツを見つめる。
ミツ「何かな」
ヒマリ「私はアサヒを苦しめて、そして暗殺者として多くの人を殺めて来た貴女は許されてはいけないと思ってる。だけどアサヒは、許さないと未来に進む事が出来ない時はあるって言っていた。正直、私はアサヒの言葉を信じていない。でも心の片隅では信じたいと願ってる。だから…生きて帰って来て。そしてきちんと自分の罪と向き合って、私を許させて、アサヒの言葉を信じさせて」
ミツは目をまん丸にして驚いていた。
ミツ「…まさかヒマリに生きて欲しいと言われるなんてね。何だか嬉しいよ。分かった。」
ミツがヒマリに微笑む。
ヒマリ「よし!言いたい事は言ったし、さっさと行こうかアカリ!」
アカリ「ええそうね。任せたわよミツ」
ミツ「うん、任せて」
私達は互いに笑顔を見せて別れ…ようとしたのだが
ヒマリ「よし!砂漠の波に乗りに行くよん!アカリ!!」
ヒマリが元気良く黒い奴の上に伏せて乗っていた。
アカリ「まさか…乗っていくの?」
私は動揺しながら黒い奴に指を指して青ざめる。
ミツ「這った方が邪神に狙撃されにくいからね。ああ、大丈夫だよ?エジプトサバクゴキブリには研究所へ行くように伝えてあるから道のりは心配しなくていいよ」
アカリ「そっちの問題じゃないわよ!!もう嫌ぁああああああああああ!!」
私の悲鳴が再び砂漠に響き渡る。




