亡き父と母の記憶
― レストラン ―
俺とスケベジジィはメイと一緒にレストランにいた。スケベジジィが奢ってやるから何でも食えと言っていたが、注文していない。嫌な予感がするから食欲が無い。
スケベジジィはメイに事情を話した。とは言っても全部嘘だけど。俺が事故で記憶喪失になって、たまたま森で見つけたと嘘をついた。俺は児童相談所にいて、ボランティア活動中のスケベジジィと一緒に過去を思い出す為にいろいろしている設定だ。
メイ「そうだったのね…。ご両親が殺害された後に連れ去られて事故に遭うなんて、大変だったでしょう。」
サイモリ「両親が、死んだのか?」
メイ「はい。夜にアサヒ君の自宅へ突然強盗団が来て、金目の物は奪われてご両親は殺害されていました。アサヒ君の遺体は無かったので、強盗団に連れ去られたと聞きました。」
死んだ、俺の父と母が…駄目だ、実感が湧かない。
サイモリ「そうか…アサヒは学校ではどんな子だった?」
メイ「学校ではアサヒ君は人気者でした。甘え上手で、よく人に懐いていましたし。あと顔が女の子みたいって事で女子にもモテてましたね。とても良い子でした。」
サイモリ「両親はどんな顔を顔をしていた?」
メイ「えっと…」
メイがスマホを出して操作をしている。
メイ「これはアサヒ君のご両親が強盗団に殺害された時のネット記事の写真です。」
メイがスマホをテーブルに置いて俺達に見せてくれた。ネット記事の写真を見る。そこには三枚の写真があった。俺の顔とポッチャリしているが清潔で黒髪な男性、そして茶髪だけど綺麗な女性だった。
サイモリ「雰囲気はありきたりな夫婦といった感じだな。どうだアサヒ、思い出せるか?」
スケベジジィが俺の方を見て聞いてきた。俺はジッとその写真と記事を見ていた。
その時、パパとママが殺される光景が一瞬フラッシュバックした。
アサヒ「うっ、おえええええええ!!」
俺は我慢しようとしたが吐いた。
スケベジジィは怒って俺の頭をげんこつしてメイは心配していたが声が聞こえなかったし、痛みも感じなかった。気が遠くなる…レストランは大騒ぎになったが、俺はそのまま意識を失った。
――――――――――――――――
記憶が蘇っていく
俺は幸せだった。家はマンションの一階で、パパとママは二人とも共働きをしていたから家にいる時間は少なかった。だけど不満は無かった。よく友達と遊んでいたから。そして何より愛してくれていた。沢山旅行へ行ったり、お手伝いをしたりテストで100点を取ったりすると褒めて好きな物やお菓子を買ってくれた。
幸せだった…俺の7歳の誕生日までは。
俺の誕生日の祝いが終わり、寝静まった夜に事件は起きた。俺とパパとママは畳の部屋に布団で寝ていた。
ガンッ
突然窓のガラスが割れたので慌ててパパとママが起きた。黒い覆面をした4人の男達が鍵を開けて入って来た。その男達はナイフを持っていた。一人の男がナイフを父へ刺してきた。それに対して父は枕を両手に持ってガードをして蹴り飛ばして、もう続いて来た二人には殴り飛ばしていた。ママは俺を連れて玄関へ逃げようと抱っこして走った。その時…
パーン
ママは頭を撃たれた。一人の男が拳銃を持っていた。血が俺の顔に付く。ママは倒れた。パパはママが撃たれた事に一瞬動転して、その隙に一人の男がパパの首を切った。パパは血を流しながら倒れた。
アサヒ「パパ?ママ?」
俺は放心状態だった。今まで幸せだったのに、何でこんな事に?分からない。何で?どうして?嫌だ嫌だ嫌だ怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
アサヒ「パパーーーー!!ママーーー!!」
俺は泣きながら動かなくなったママへ小さな右手を伸ばした。
???「アサヒ!!」
誰かが俺の名を呼ぶ。
――――――――――――――――
アサヒ「ハッ!!」
目を覚ましたら、俺は暗いどこかの和室の布団に横になっていた。おそらく今は深夜だろう。そして何故か目の前にトモエがいる。あと差し伸ばした右手が、トモエの胸を鷲掴みしていた。
アサヒ「うわぁああああ!ごめん!!」
俺はすぐにトモエの胸を離して急いで布団から飛び出た。
トモエ「アサヒ…大丈夫?辛い夢でも見てたの?」
トモエが心配そうな顔をしていた。
アサヒ「トモエ、どうしてお前が…俺は確かスケベジジィと一緒に…」
俺は頭を抱えてレストランでの出来事を思い出していた。
アサヒ「帰宅中にメイに会って、レストランで話す事になって、それで…」
パパとママが強盗団に殺された。
アサヒ「ウッ」
俺はパパとママの死体を思い出す。その瞬間また吐きそうになる。
トモエ「アサヒ、もう思い出さなくていいのよ。」
トモエが優しく話しかけて抱きしめてくれた。大きい胸が顔に当たる。普通な男なら大喜びだが、俺は精神が疲弊していたせいか気にならなかった。トモエの胸の中で情けないくらい号泣した。
トモエ「辛かったでしょう?ゆっくり休んで。」
10分後
アサヒ「はぁ〜男なのに情けねぇな俺…」
俺は泣き止んだが、今度はトモエに背中を向けて胡座をかいていじけていた。
トモエ「気にすることじゃないわ。大丈夫よ、誰にも言わないから。二人だけの秘密よ。」
俺は後ろを見たらトモエは正座をしてニコニコ笑っていた。俺はトモエの方に体の向きを変えて布団から飛び起きた時と同じ質問をトモエにした。
アサヒ「トモエ、どうしてお前がここに?」
今度は冷静に聞いた。トモエの表情が真剣な顔に変わった。
トモエ「アサヒ、あなたを強制的に私の屋敷に連れて行く事にしたわ。その為にサイモリの家まで尾行して来たの。」
アサヒ「もしかしてここってスケベジジィの家なのか?ていうか、お前尾行してたのかよ!」
トモエ「そうよ。実は今日数学の前の10分休みの時に小さい龍をアサヒの制服の袖中に仕込んどいたの。そのおかげでアサヒがどこにいるか分かったわ。
私はアキナちゃんと一緒に下校して屋敷に帰った後、すぐにあなたの方へ向かったわ。」
意味わからん事言いながら両手を掴んで来た時か!いつの間にそんな事してたのか。気付かなかった。
アサヒ「まさか、全部見てたのか?」
トモエ「ええ。透明になった時は焦ったけど、眼鏡をした女性が止めてくれたおかげで何とか見つけられたわ。
その後にレストランに行ってアサヒのご両親について話をしていたのも見たわ。その時にアサヒが気を失ってしまって、レストランが慌ただしくなって、定員さん達が頑張って何とか場を納めていたわね。」
定員さん達ごめんなさい、そしてありがとうございます。
トモエ「サイモリは眼鏡をした女性と連絡先を交換して別れていたわね。その後はサイモリは家に帰ってきたら、布団をひかせずにアサヒを畳へ放り投げて、自分は布団で寝ていたわ。あいつはクソよ。いつか一発殴ってやるわ。」
トモエは般若みたいな顔で怒りながら拳を握り締めていた。こいつって怒るとこんな顔するだ、怖え…
トモエ「サイモリは5時起きてどこかへ出かけたわ。その後に私はアサヒをサイモリが使っていた布団へ移動させたの。ずっとアサヒが悪夢で苦しんでいたのに、あのクソジジィ。許すまじ…」
アサヒ「もう尾行を超えてストーカーだろ!そんな事警察が許さねぇよ!」
俺は立ち上がってトモエに指を差してツッコミをした。
トモエ「あなたを守る為ならストーカーにでも私はなるわ!それに今回の件で分かったわ。
サイモリ…あいつはきっと、アサヒを不幸にするわ。現に今がそれよ。」
トモエは真剣な眼差しで俺を見た。
アサヒ「仕方がないだろ。記憶を思い出さないと神術士になれないんだから。」
俺はまた胡座をかいて、トモエに負けないぐらい鋭い眼差しでトモエを見た。
アサヒ「神術士になれるんだったら、どんな事だって耐えてみせる。」
トモエは呆れたような顔をしていた。
トモエ「アサヒがもし神術士になったとしても、その先は永遠に邪神と殺し合いをする地獄が待っているのよ。あなたはその地獄に何故行きたいの?」
アサヒ「そ、それは…」
俺は何も言えなかった。神術士になる事だけを考えていたからだ。それにスケベジジィは俺を新しい風と言っていたが、その新しい風が何を意味するのかも分からない。マカナとの決着をつける為に神術士になるという理由では弱い。
トモエ「あなたはただ神術士の戦いに巻き込まれただけの普通の子よ。このまま思い出さずに旭道を使う事をやめれば、あなたは地獄に行く事は無く、新しい幸せな生活が待ってるわ。私の所に行けば、それが出来る。」
トモエは立ち上がって、また優しい顔と声で俺を抱きしめた。俺の顔が大きい胸に沈む。
トモエ「逃げたり、諦めたりしてもいいの。だってあなたは…本来はここにいるべきでは無いのだから。」
アサヒ「どうして…そこまで俺に優しいんだ?」
俺もトモエを抱きしめた。パパとママが死ぬ夢を見たせいか、甘えたくなってしまった。
トモエ「それは…アサヒの事が…」
トモエが恥ずかしい声で何かを言おうとした。その時、
ガチャ
サイモリ「ファ〜。やっと帰って来れた…ん?」
スケベジジィが大きいビニール袋を持って帰って来た。
アサヒ・トモエ「あ」