不穏な勝利
― パトカー付近 ―
ドサッ
サイモリ「ん?」
わしは倒れた1人の女性警官を見る。どうやらぐっすり眠っているようじゃな。
サイモリ「何者からの攻撃か?」
いや、なら何故眠らせる必要がある?
女性警官B「お、おい!お前…」
???「ドゥーガ…」
ブォン
女性警官B「うっ!」
ドサッ
もう1人の女性警官も倒れて眠ってしまった。一瞬少女の声がして、女性警官の背後に光の陣のようなものが出て来たが…
わしは後ろを振り向くと1人のスクール水着を着ている少女がいた。青い瞳で足まで伸びた白い髪、そしてヘッドホンをしていた。
サイモリ「お前は…一体何者だ?」
この少女からは寿量と妖量は感じん。だが、別の何かを感じる。これは一体…
???「やっと見つけたよ白山サイモリ」
サイモリ「何故わしの名前を知っている?」
わしは謎の少女を睨みながら牛を呼び出し、牛に手錠を壊させた。皆、ビーチバレーに夢中で誰もこちらを見ていない。殺るなら今しかない。
???「そう警戒しないでよ。私は河武ヒサジロウの友人、ミア・レコット・スニーファー・ペレントネックだよ。よろしくね。実は君が来るのを待っていたんだ」
サイモリ「すまん、もう一回いいか?ミア…なんて?名前が長すぎて分からんのぉ〜」
わしは少女に耳を傾けた。
ミア「もうミアでいいよ」
ミアという少女は呆れていた。どうやら敵意は無いようだ。
サイモリ「それでミア、お前さんはヒサジロウの友人であり、わしを待っていたと言った。それはどういう事だ?」
わしは牛を退去させてミアに問う。
ミア「実はヒサジロウからもしサイモリとアサヒが親しい友になっていたら、サイモリに伝えて欲しい事があると伝言を頼まれていたんだ」
サイモリ「それは、何だ?」
わしは久しぶりに緊張感が走った。このミアとかいう少女、ただ者では無いな…
ミア「この世界の真実についてだよ」
サイモリ「この世界の真実?」
ミア「そうだよ。この事をアサヒ達に伝えるかどうかはサイモリに任せるけど、私としては誰にも伝えない方が良いかな。その方が無難だよ。それはじゃあ、テレパシーで送るね。パリシーラ」
サイモリ「待て待て。お前、さっきから何をしておる。うぬっ!」
突然わしの脳内からミアの声が聞こえてきた。そしてミアの言葉にわしは驚きを隠せなかった。
サイモリ「なん…だと…」
― ビーチバレーコート内 ―
トモエ「ふん」
試合が再開してトモエがサーブをするがサツキにレシーブで受け止められてしまう。
ミツがジャンプをしてショットを決めようとする。俺はボールでは無くミツの手を注目していた。ミツは指を丸め外側でボールを突くようにしていた。あれは確か…
アサヒ「コブラショット!!」
俺はダッシュでネットの近くまで行ってブロックした。ボールがミツのコートへ落ちて俺達に得点が入った。
ヒマリ「やったー!一点!!」
レイコ「やっとですわね〜」
シュン「まだまだ、ここからだよ」
ヒマリ達は大はしゃぎして喜んでいたが、レイコはホッと一息をついていて、シュンは余裕そうだった。ただアキナは不安そうだった。
サツキ「まさかコブラショットを読まれていたとはな」
ミツ「いや、軌道も読まれてたよ。どうやら10歳だった頃よりも強くなっているみたいだね。」
サツキとミツが不適な笑みで話し合っている。
サツキ「へぇ〜。で?どうするの?」
ミツ「このまま様子を見よう。どれほど成長したか見たいし」
試合が再開する。俺はサツキとミツの動きが予測出来るくらいになったし、トモエも俺とは逆の動きをしてくれるので、きちんとフォローしてくれる。そのおかげで段々とサツキとミツが使っていたポーキーショットとコブラショットを俺も使えるようになった。
30分後
男性E「な、なぁ…もう後半からあの少年1人で戦ってないか?」
男性F「あ、ああ…もう長髪の女の子なんて何もしてないぞ?」
男性G「それに女達が息切れしてるのにあの男だけ汗を少しかいているだけだぞ?化け物かよ…」
外野が騒然としていた。まるで俺を化け物かのように見ていたが俺は気にしなかった。何だか、自分が成長していく感覚が心地良い。もっともっと行けそうな気がする。この感情は止められない。
シュン「あいつ、完全にゾーンに入っているな。これは勝ったな」
アキナ「アサヒ君…」
トモエ「余りにも成長が早過ぎるわ…」
シュンは相変わらず余裕そうだがアキナとトモエは心配そうな顔をしていた。まだ不安なのかな?なら速く勝たなきゃな。
ミツ「降参」
一同「え?」
ミツが突然手を上げて降参をした。みんな驚いていてしばらく動かずにいた。あのサツキでさえも驚いていた。
ミツ「あれ?私、何か変な事言った?」
サツキ「いやいやおかしいだろ!?まだ3セット目があるだろ!!それにここでアサヒを諦めたらもう二度と手に入らないんだぞ!?」
サツキが猛抗議していたがミツは変わらず笑顔のままだった。
ミツ「そうだね。だけどアサヒとこうして戦ってみて分かったよ。今このタイミングでアサヒを手に入れるのは駄目かな」
サツキ「は?どういう意味だよそれ」
サツキが怪しむようにミツに問いかける。
ミツ「どんな風にアサヒが変わっていくのか見てみたいって事かな」
サツキ「は?意味分からん」
ミツ「それにアサヒは私達の動きを完全に見切っているし、技のコピーも出来てる。あのまま戦っても体力を無駄に消耗して負けるだけだよ」
サツキ「くっ!そうかよ!!」
ミツは何事も無かったかのようにベンチに戻るが、サツキは悔しそうだった。
トモエ「ごめんなさいアサヒ。私、何も出来なくて…」
トモエが謝りに俺に来たが、俺はミツをジッと見ていた。
トモエ「アサヒ?」
アサヒ「トモエ、あのミツって言う人。多分強い人だよ。引き際がいいし、今回のビーチバレーの本当の目的は俺の実力を測る為だったんだ」
ミツが降参した事でスケベジジィは解放された。たが、スケベジジィは上の空だった。捕まったのがそんなにショックだったのだろうか?だったらこれを気にもうナンパはやめて欲しいものだ。
しかし、さっきのビーチバレーもっとやりたかったな。あのまま行けばもっと強くなれた気がしたのに…
アキナ「ねぇアサヒ君」
アキナが不安そうに俺に話しかけてきた。
アサヒ「何だよアキナ、そんな暗い顔して。勝ったんだから喜べよ」
アキナ「喜べよって…アサヒ君はトモエさんと一緒に戦っていたんだよ?もっとチームワークを大切にしないと駄目だよ。1人で戦っている訳じゃないんだから」
アサヒ「そ、そうか…ごめん。次から気を付けるよ」
アキナ「単独行動は絶対駄目だからね!」
アサヒ「は、はい!!」
アキナに怒られてしまった。いつもはあんなに優しかったのに。そういえば今日の特訓も休憩中に怒られたな。スケベジジィとの模擬戦で無茶しすぎだとか、フォローに回ってとか言われたな…
シュン「アサヒ、ミツが来たぞ」
アサヒ「分かった。じゃあなアキナ!」
俺はミツの元へ走り出す。
アキナ「アサヒ君、心配だな…」